2024年6月

時田 昌瑞『たぶん一生使わない?異国のことわざ111』イースト新書

世の中には知っていたからといって役に立つ知識ばかりとは限りません。知っていたからといって別に褒められもしない知識も数多くあることでしょう。でも、実用一点張りでは人生がつまらないものになっちゃいますよね。知っていれば飲み屋での会話のネタになるかもしないことわざの無駄知識。ま、これで人生、少しは面白くなるかもしれませんねえ。

そんな例が「縁の下の力持ち」。現在ではよい意味で使われますが、明治時代までは無駄なことするって意味だったらしいですよ。知らなかった……。

 

 

Sindy Sheldon The Other Side of MeWarner Books

 

 

真夜中は別の顔』、『ゲームの達人』、『明日があるなら』といったベストラーで知られるシェルダンさんの自伝です。シェルダンさんは「18冊の小説は51言語で翻訳され、3億冊以上の売上げを記録し、世界で最も翻訳された作家としてギネスブックでも賞賛」されているそうですよ。とは言え、シェルダンさんの人生が順風満帆そのもので何の曇りもなかったかというとそうでもなかったみたいです。邦題は『僕はいかに逆境をのり越え世界一翻訳された作家になったのか』となっていますから、内容的にはその方が分かり易いといえば分かり易いかもしれませんね。

稀代のストーリテラーと言われるシェルダンさん、読者を飽きさせない手練手管を知り抜いておられます。シェルダンさんの小説を私はよく通勤電車の中で読んでました。その短い時間の中でも飽きさせないようにちゃんと面白い山場を用意してくれているんです。そんなシェルダンさんの自伝ですから読む前から面白くないはずがないではありませんか。期待を裏切らない一冊でしたよ。

シェルダンさんはハリウッドやブロードウェイ、さらにテレビでも脚本家としても活躍された方(MGMでは監督・プロデューサーまで務めていそうですよ)ですので、往年のハリウッド映画がお好きな方には懐かしい銀幕のスターたちの名前がシェルダンさんの個人的・直接的なエピソードとともに登場しているのも本書の読み処のひとつでしょう。

 

 

ラーフル・ライナ 武藤陽性訳『ガラム・マサラ!』文藝春秋

ガラム・マサラ! [ ラーフル・ライナ ]

本書の題名はガラム・マサラ(ガラム・マサラとは主にインド料理で使われているミックススパイス。-Wikipedia)、著者名もラーフル・ライナさんと何やらインド的。ってことはインド・カレーのレシピ本かなんかなと思うとさにあらず。「手段を選ばず、お子さんを志望校に入れる。それが僕の仕事です」なんてことを言っちゃう教育コンサルタントの「僕」が主人公のドタバタ・ミステリ小説です。ライナさんにとって本書は作家デビューとなる作品だそうですが、インドでベスト・サラーになったみたいです。

本書は荒唐無稽な小説ではありますが、本筋のドタバタ・ミステリを楽しみながら、そこここに描かれている日本人にはなかなか窺い知ることのできない、人口で中国を追い抜いて世界一になった現在のリアルなインドをうかがい知ることができるのも本書の魅力でしょうか。間違っても感動的ではありませんが、なかなか面白かったですよ。

 

 

谷崎潤一郎ほか『あまカラ食い道楽』川出書房新社

本書の題名になっている「あまカラ」というのは、「西の「あまカラ」東の「銀座百点」、と並び称された伝説の食通雑誌」なのだそうです。で、その「「あまカラ」より東西の食いしん坊自慢による舌鼓垂涎のベストエッセイ三十一皿」を再集録したもののようです。「あまカラ」の刊行は1951年から1968年だそうですから、戦後の混乱からようやく抜け出し、高度成長へ向かう、なんて頃でしょう。執筆陣も当時第一級の文化人ばかりです。で、その皆さんが味とか料理についてあーだこーだ書いてます。興味のない方には読むのも苦痛でしょうが、私は結構面白く読みましたよ。

2024月5月

 

2024年5月

立川 談慶 的場昭弘監修『落語で資本論 世知辛い資本主義社会のいなし方』日本実業出版社

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

落語で資本論 世知辛い資本主義社会のいなし方 [ 立川 談慶 ]
価格:1,980円(税込、送料無料) (2024/3/24時点)

慶応大学でマルクス経済学を専攻された落語・立川談慶さんが、古典落語の知と芸を以て『資本論』を読み解きます。「「人間の愚かさ」を経済方面で理論化したものが『資本論』ならば、同じものを生活哲学にまで極めたのが「落語」ではないでしょうか」ということらしいです。

まあ、談慶さんの師匠の談志さんも面倒くさい人だったらしいですが、マルクスも負けてないらしいです。『資本論』って本は有名ですが、難解なことでも有名で、結局誰も読んだことがないんで有名な本になっちゃいました。そんな『資本論』を読み解いてくれるのが談慶さん。談慶さんは落語家ですから、お話が上手なのは当たり前。面白おかしく読み進めるうちに『資本論』のあれこれが分かっちゃう、という仕掛けです。

談慶さんのお話、全部が全部腑に落ちる、という訳ではないでしょうが、私でも読んでいる最中、その通り、と思わず膝を打っちゃうようなお話がいくつもありましたよ。

 

 

長沼 伸一郎世界史の構造的理解 現代の「見えない皇帝」と日本の武器【電子書籍】』講談社

本書は、「完全な初歩向けに易しい用語から始める入門書と、専門用語で埋め尽くされた高度な専門書」の中間レベルを狙った本なのだそうです。これ一冊をマスターすれば経済学とはどんなものなのかの全体像が分かり、さらにその細部を知りたい場合には当該分野の専門書をお読みください、ということのようです。で、本書はその壮大ない意図にかなっているのか、というと、本書は2020年のビジネス書大賞に選ばれているそうですので、目標達成!!ということのようです。でも、2020年のビジネス書大賞って、4年も出遅れちゃってるよー。私もアップデートしなくちゃね、ということで、遅ればせながら読んでみました。

長沼さんは在野の学者、という位置付けになる方のようですが、まあ、とんでもなく頭の良い方であるようです。経済学は一応専門外ではあるようですが、その分析は途轍もなく鋭いものがあるようです。日本と米国の似て非なる資本主義の本質は、「米国の資本主義は夢によって駆動され、日本の資本主義は心配によって駆動される」にあると長沼さんは喝破されていますが、私には大変納得させられるものがありました。より詳しくお知りになりたい方は本書をご参照くださいね。

なるほどビジネス書大賞受賞も当然と思わせる本書、お読みでない方も今からでも遅くはない、と私は思います。それほど鋭い経済学(及び経済それ自体)への分析でした。

 

 

松田悦佐『生成AIは電気羊の夢を見るか?』ビジネス社

生成AIは間違いなく昨今の世界的株高の要因のひとつです。では、生成AIの未来はバラ色であるか、と言えば、そうでもないんではないの、というのが松田さんの懸念であるようです。

著者の松田さんは米ジョンズ・ホプキンス大学大学院で歴史学、経済学の博士課程を修了されているそうです。米国では博士号を二つ持っている方をたまに気かけますが、日本人では珍しいような気がします。いずれにせよ、折り紙付きの頭脳の持ち主、ということでしょう。

現在市場に出回る工業製品は、基本的には完成された商品として世に出ます。ですが、DARPA(米国連邦政府国防総省国防高等研究計画局)の落とし子である「インターネット」の成功以来、「「いろいろややこしい問題はあるが、それは噴出したあとでゆっくり直せばいい」というスタンスで次々に基本的欠陥を抱えた科学技術が、その欠陥を根本から修正することなく実用化されてきた」と指摘しています。自動車で言えば、故障続出でリコール頻発のほとんど欠陥車が大手を振って道路を走ってるよ、ということでしょう。で、生成AIについて言えばと言うと、「自分では一生懸命誠実に人間に協力しているつもりなのに、ときどき錯乱状態に陥る」状態の製品が流通している、と指摘しています。なんでこんな未完成の技術が流通しているの、という当然の疑問に対しては、「2021年に機関投資家だけでこっそり盛り上がっていたバブルが弾けて出た莫大評価損をなんとか少ない実現損、できれば実現益にしてしまおうという救済活動である」という何とも説得力のある裏事情を明らかにしています。バブルの損失は新たなバブルを起こす以外、埋めることはできない、という古今東西を通して証明されてきた法則がここでも証明されてしまったようです。

そう言えば、20242月に時価総額が2兆ドルを突破(Bloomberg エヌビディアの時価総額、一時2兆ドル突破−AIブームで急速に拡大)、時価総額ベースで世界4位になったエヌビディアについても言及されています。何て書かれているかご興味のある方は本書をご参照くださいね。

そう言えば、アップルも10年もかけてきたEV開発計画を白紙撤回するそうです(Bloomberg アップル、EV開発計画を白紙に−10年がかりのプロジェクト断念)。

はてさて、AIバブルはいつ崩壊するのでしょうか。それとも崩壊しないのでしょうか。私は前者であると思うのですが……。

あ、本書で興味深い特許戦略を見つけました。「中国が出てきた研究分野からは引っ込む」という作戦だそうです。いやあ、とんでもなくうがった見方ですねえ。ではありますが、なかなか正しそうだ、なんて思うのは私だけでしょうか。

ところで、本書の題名はどっかで見たことがあるなあ、と思ったら、映画『ブレードランナー』の原作『アンドロイドは電気羊の夢を見るか』のパロディーのようです。なかなかおしゃれな題名を付けますね。

 

 

森永 卓郎書いてはいけない――日本経済墜落の真相』三五館シンシャ

昨年ステージ4の膵臓がんであることを公表した、森永さん渾身の一冊です。

本書まえがきの冒頭に、日本のメディアには決して触れてはいけないタブーが3つある、としています。その3つとは、

1)ジャニーズの性加害

2)財務省のカルト的財政緊縮主義

3)日本航空123便の墜落事件

なのだそうです。1番目は大っぴらになっちゃいましたね。で、本書では2番目と3番目のタブーも大っぴらにしちゃてます。詳しくは本書をご参照下さい。

本書の内容に関連するのでしょうが、最近発表された日銀のゼロ金利解除についても大批判しています(スポニチアネックス 森永卓郎氏 ゼロ金利解除をバッサリ「5年や10年先にやらなきゃいけないことは今、やっちまった」)。はてさて、どちらに軍配が上がりますか。私は森永さんだと……。

 

 

2024年4月

ウェルナー・ヒンク 語り 小宮 政安 構成・訳『ウィーン・フィル コンサートマスターの楽屋からARTES

元ウィーン・フィルハーモニーのコンサート・マスタ−を務めた著者が、クライバー、ベーム、カラヤン、小澤征爾といった名指揮者たちとのエピソードや、オーケストラにまつわる思い出などをまとめたものです。

その中でも私が最も興味深いと思ったのはカラヤンとのエピソードです。ヒンクさんは、カラヤンは「カリスマ」であったとし、「その存在はオーケストラの多種多様なメンバーを魅了し、彼と一緒に演奏したいと強く願わせるような力を、強く放っていた」と最大限の称賛を送っています。日本にはアンチ・カラヤンも多いようですが、カラヤンって良きにつけ悪しきにつけ強烈な人だったみたいですね。

で、その「カリスマ」に関しては、「ちなみにこの「カリスマ」というものは、人に教わって身に付くといった類のものではなく、いわば天性の賜物です」としています。ヒンクさんは指揮者コンクールの審査員などをすることもあるのだそうですが、「カリスマの有無は、コンクールの受験者が指揮台に立った瞬間にわかってしまう」と身も蓋もないことを言っています。まあ、言っていることが分からないでもないのですが、微塵もカリスマ性のないこちとらとしては、なんとも口惜しいというか、割り切れないものがありますね。

 

 

野田 浩資音楽家の食卓 バッハ、ベートーヴェン、ブラームス… 11人のクラシック作曲家ゆかりのレシピとエピソード』誠文堂新光社

野田さんはドイツ料理のレストランのシェフ。でもって「音楽家の足跡を十数年かけて訪ねる旅をしてきました」という方です。趣味はクラシック音楽鑑賞。料理を通して音楽家の人生を語らせるにはもってこいの方でしょう。

一般的に(なんて大風呂敷を広げて大丈夫かいな)音楽家には健啖家が多く、いわゆる芸術家(画家とか)は食にはあまり関心がない、なんて言われてるみたいです。ロッシーニのように美食家として有名な音楽家がいる一方で、ピカソなんてバ〇の一つ覚えみたいに舌平目のムニエルばかり食べていた、なんて言われています。

音楽家のイメージって、華やかなパーティーや音楽会での演奏、ってイメージなのに対して(それでも、パーティーの出席者ではないですねえ)、画家のイメージってのは、食うに困った画家が、最後のお金でやっぱり絵具を買っちゃう、なんてイメージがありますからね。本当かどうか知りませんが。

本書に登場する音楽家(作曲家)は、野田さんの本職の影響なのか音楽の趣味の影響なのか分かりませんがドイツ、オーストリアといった諸国の出身者ばかり11人。ドイツ語圏はフランスみたいな美食の都というイメージはありませんが、充分おいしそうな料理(や飲み物も)の数々が面白いエピソードや美しい写真、そしてさすが専門家、実際の料理(おそらく野田さんが調理されたのでしょう)の調理例やレシピとともに紹介されています。

 

 

原田マハアノニム』角川文庫

私のお気に入り原田マハさんが今回は現代アートの巨匠、ジャクソン・ポロックの作品を巡って物語が展開されます。

もう一つのテーマが美術品の盗難。著名な美術品なんて、換金が難しいため普通は盗みの対象になりにくいと思うのですが、それにしては盗難が多い。その裏には……と、原田マハワールドが展開されます。

物語には原田さんのキュレーターとしての知識、経験が彩を添えます。

ちょっとネタ晴らしをしてしまうと、本書の中でポロックのある作品が2億3千万ドル(手数料を入れると2億7千万ドル余り)で落札される場面が出てきます。本書発表の20176月時点では最高額であったのでしょうが(例えフィクションだとしても)、同年11月、レオナルド・ダ・ヴィンチのサルバトーレ・ムンディが4億5千万ドル余りで落札されたことがニュースになりした。現実がフィクションを越えちゃったんですね。

ともあれ、面白いこと間違いなしの原田マハ作品でした。

 

 

山上 やすお死ぬまでに観に行きたい世界の有名美術を1冊でめぐる旅』ダイヤモンド社

著者の山上さんは大学では美術を学ばれたそうですが、現在は「海外をメインとした旅行の添乗員として1年の半分以上は世界を飛び回」っている方だそうです。博物館学芸員としての資格も持ち、「美術館などアート関連の添乗で高評価を得」ている方だそうです。日本語のできるプロの学芸員が案内してくれる海外美術館巡りなんて、私でも行きたいと思いますからねえ。ググってみるか。

で、ルーブルなんかは行ったことがありますので、本書に紹介されている作品も確かに見ました。確かに見たんですが、学芸員が間近で説明してくれたわけではありませんからね、私のような素人はただ見た、って感じですね。解説付きで見たかったですよ。ということで、見る前に読んでおくのもよろしいでしょうが、見た後に読んでも面白かったですよ。

 

 

パピヨン本田常識やぶりの天才たちが作った美術道KADOKAWA

著者のパピヨン本田さんは2021年に現代の美術事情に関するあれこれを発信するブログをツイッター上で発表、人気となった方です。1995年生まれですので、私の娘と同年代です。あら、出身大学も娘と同じだわ。

本書では、とかく「分かり難い」「何を描いてるんだ」「難解」、……で、結局「何が良いんだ」「こんなもの要らない」なんて評価を受けがちな現代美術を、パピヨン本田さんが作家本人を作品とともに時系列で紹介、どういう発想からそのような作品を作るに至ったのか、なんてことをゆるいイラストと共に紹介して行きます。

芸術作品の良し悪し、というか、自分が本当に好きかどうかなんてのは美術館で鑑賞するだけでは分かり難いものだと思います。究極、自分でお金を出して買って所有、時間をかけないと分からないんではないでしょうか。オールド・マスターズの作品なんてのは私たちが買えるような値段でありませんが、現代作家、今はまだ有名ではない方の作品であれば、サラリーマンでも手の届く金額で手に入ります。どうです、あなたもコレクター・デビューしてみませんか。

 

 

2024年3月

フレデリック・ラルー 鈴木立哉訳『ティール組織.』英治出版

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

ティール組織 [ フレデリック・ラルー ]
価格:2,750円(税込、送料無料) (2024/1/25時点)

著者のラルーさんは「マッキンゼーで10年以上にわたり組織変革プロジェクトに携わったのち、エグゼクティブ・アドバイザー/コーチ/ファシリテーターとして独立」したという経歴の方だそうです。そのラルーさんが次世代型組織はどうなるのか、どうあるべきなのか、を考察したのが本書になります。で、どんな組織を考えたのか、は本書の英文タイトルとサブタイトル("Reinventing Organizations    A Guide to Creating Organizations Inspired by Next Stage of Human Consciousness")を見た方がわかり易いようです。

次のレベルの人類の気づき、なんてアセンションですねえ。

本書の最初の方に人類の歴史と組織の変化について簡単にまとめてありますが、その構成員である人類の変化・進歩と独立して組織が変わるなんてことはあり得ないことが分かります。

現在の社会組織を鑑みると、いろいろと粗が目立ちます。それとは別に、テクノロジーの進歩が今まで不可能だったことを可能にしています。コロナ禍で俄かに脚光を浴びたテレワークなどはその例でしょう。

私も拙論(コンプライアンスとリーダーシップ)で年齢人口構成(人口ピラミッド)の変化がもたらす組織の形態の変化、あるいは社内メールの普及がもたらす稟議手続きの変化などを取り上げたことがあります。

組織というものは、正面切って改革しようとしても大変な抵抗にあいますが、では絶対に変わらないのかというと、意外とそうでもないようです。

本書の帯に元サッカー日本代表監督の岡田武史さんが推薦の言葉を寄せていますが、人類の進歩もサッカーとのアナロジーで考えると分かりやすいかもしれません。チームが強くなるためには、個々の選手のフィジカルの強化は欠かせません。しかし個々の選手がプロテインを飲んで筋トレをすればサッカー選手としてレベルアップできるかと言われれば、そんなことはなく、サッカー選手としてのスキルアップも不可欠でしょう。で、個々人の選手が強くなればチームが強くなるかと言えば、そうではなく、チームとして個々人の力をチームとして統合する必要があります。ここまでできれば終わり、『新版 歴史の終わり』になるのかと言えばそうではなく、その他のチームも同じようにレベルアップしてくるのですから、個人としてもチームとしても不断のアップデートが求められるのでしょう。人類の進歩、私たちの組織形態も同じことでしょう。

本書では実際にティール組織を立ち上げるにはどうすれば良いのか、のノウハウが実際にそのような組織を運営している企業(営利企業も非営利団体もありますし、上場企業もあります)などを研究した成果として大変具体的に語られています。

それを読んでいて感じたのは、サッカーのアナロジーではありませんが、経営トップ(サッカーであれば監督)が変われば下々のものは勝手に付いてくるのではなく、社員一人一人に意識的にティール組織の一員として行動してもらう必要があります。

著者のラルーさんも本書に引用されている文献著者も、現在の社会は多くの問題を抱えていると同時に、大きなブレークスルーの萌芽が認められると認識しているようです。

しかしですね、最近の日本ばかりでなく諸外国の政治的混乱を鑑みるに、果たして私たちには次のステップに進む準備ができているのだろうかという疑問が湧いてくるのは私だけなのでしょうか。

 

 

トーマス・グリダ、テッド・マン 御立 英史訳『GE帝国盛衰史 「最強企業」だった組織はどこで間違えたのか』ダイヤモンド社

本書は2017年8月にジェフ・イメルトの後任としてGEの新CEOにジョン・フラナリーが就任する時期の情景から始まります。実は、フラナリー新CEOはその後1年余りで解任されてしまうのでした。あれま。

GEと言えば、フラナリーの前々任者になるジャック・ウェルチが『ジャック・ウェルチわが経営思いっきり自分とGEの経営手法を自慢したので経営の成功例として有名になりました。が、フラナリー新CEOの就任のころにはメッキがはがれちゃってたみたいです。だもんで、フラナリー新CEOのモットーは「見せかけの成功を追うな」(No more success theater)だったんだそうです。で、あっという間にクビになっちゃった。良薬は口に苦し。今回は苦すぎちゃったみたいですね。

GEの好業績が紙の上の操作に過ぎないのではないか、なんて不都合な真実に気が付いたのはフラナリーが最初だった訳ではないようです。前任のイメルト(2001年から2017年までCEO)だって気が付いていたみたいです。おまけに時代がジャック・ウェルチ時代のような会計操作を許さなくなっていました。エンロンを始めとする会計不祥事をきっかけとして会計基準が厳格化され、2002年には米国企業改革法(サーベンス・オクスリー・アクト)が成立、「企業統治と内部統制のあり方が大きく変わった」のです。で、GEの株価は低迷、ダウ式平均株価(ダウ 工業株30種)の構成銘柄からも外されちゃうことになりました。

配下の部門、部下に無謀な目標を設定、いかなる手段を用いても目標の達成を強制。目標が達成されれば自分の経営手法が優れていることの証左であると喧伝。日本でもチャレンジとか言って社員には目標必達を課す……なんて会社がありましたねえ。どことは言いませんが。破綻しましたけど。こういった無理筋の経営手法ってのは洋の東西を問わないみたいですね。

たった1年でクビになっちゃったフラナリーにしても、無能という訳ではないのでしょう。人生ってやつはままならないものなんですね。いやあ、諸行無常……でしょうか、を感じる一冊でした。

 

 

Ray Dalio Principles for Dealing with the Changing World Order: Why Nations Succeed and Fail AVID READER PRESS

 

レイ・ダリオさんは運用資産1500億ドル(たぶん21兆円。金額が大きすぎて位取りがあやしいぜ)という世界最大の資産運用会社ブリッジウォーター・アソシエイツの創業者です。ま、今更金儲けでもないだろう、ってくらいのお金持ちでしょう、きっと。功成り名を遂げた方にありがちなことですが、学問、中でも哲学、なんて方面に興味を持たれたようです。「我々はどこから来たのか 我々は何者か 我々はどこへ行くのか」なんてことを考えちゃったんでしょうね、たぶん。そういやジョージ・ソロスさんもオープン・ソサエティ財団なんて慈善団体を大々的に立ち上げてましたよね。人間、物欲・金銭欲が満たされると。その次が欲しくなるんですねえ。私もそんなことが考えられるご身分になってみたいものですなあ。

本書の題名を全部記すと『Principles for Dealing with THE CHANGING WORLD ORDER  Why Nations Succeed and Fail』というものです。訳すと、『変化する世界秩序のもとで投資をするための原則 なぜ国家は成功したり失敗したりするのか』なんて感じでしょうか。

本書の中でダリオさんが重視しているのが、歴史のアナロジーです。単純に歴史が繰り返されるわけではありませんが、よくよく観察してみると、類似点がみつかるのだそうです。日本のことわざに売り家と唐様で書く三代目、なんて言いますが、どんな国でも同様であるようですし、個人ではなく国家においても同じようなことが起きるみたいです。

人間なんて、話している言葉とか、着ている服とか、時代々々のテクノロジーとかは異なっているにせよ、歴史的に見ると因果律ってのは結構一般的に適用されうるもののようですので、人々は似たような状況の下では似たような発想や行動をするものなんだそうですよ。で、似たようなことが起きる。現在の状況と似ているとダリオさんが感じるのが19301945年ごろ。うーん、きな臭い。どのように類似しているのか、現在その期間中のどこらへんにいるのか、次は何が起きそうか、などは本書をお読みください。

ダリオさんは個人的にもビジネスの上でも非常に深く中国に関わっているようです(息子さんを早くから中国に留学させているみたいですよ)。それにしては、現在の中国の政治状況に関しては専門ではない、として慎重に言及を避けています。言及しない、ということも何か重要なことを意味しているのでしょうか。私にはそう読めました。ダリオさんも中国人の思考方法について詳しく分析しています。

ハードカバーで500ページを越える大部の本書ですが、ダリオさんは全部を読む暇はない、なんて方のために、重要なところは太字にしたり、見印を付けてくれたりしています。拾い読みしても良いんですって。私は一応全部に目を通してみました。ま、だからって投資で大成功する、ってこともないでしょうが、なかなか面白かったですよ。特に日本の明治維新についての記述が目新しかったですね。別に知らなかった史実が明かされる、なんてことはありませんが、明治維新を諸外国の動乱・改革・革命と同列に並べて評価する、というのは日本の歴史家には望めない視点であり、新鮮でした。

各国がポスト・コロナへ向けた政策(各国の対コロナ政策ってのはQuasi-MMTMMT理論の応用であるとは表立って主張してはいませんが、実際に採用された政策は極めて近似性が強い)だったと私は思っています)を採用し、コロナ政策の後始末を始めた現在、それらの政策は経済、さらには各国の国際的パワーバランスにどのような影響を与えるのでしょうか。

ダリオさんは投資活動におけるキモとなるポイントを明かす一方で、自分が結果的に間違った判断をした場合でも自分(と家族)を守れるようにしておくことの重要性も強調しています。のめり込むと危険、ということでしょうかね。

私は極めて示唆に富む面白い本だと思いました。あなたはどのように思われまするでしょうか。

 

 

トマ・ピケティ 村井章子訳『自然、文化、そして不平等 -- 国際比較と歴史の視点から』文藝春秋

2013年に刊行された21世紀の資本が世界的ベストセラーになったピケティさんの新刊です。本書は2022年に行われた公講演の原稿に加筆訂正を加えたもののようですので、ピケティさんの最近の興味、問題意識がコンパクトにまとまっています。

ピケティさんは『21世紀の資本』において、富は富める者の手に集中する、という何とも不公平な原理を明らかにしたピケティさんですが、現在「国内および国家間における世界の所得と富の分布の歴史的推移に関する最も広範な利用可能なデータベースへのオープンで便利なアクセスを提供することを目的」とする世界不平等データベース(WID.world) というものを公開されています。ここで、所得、資産などの格差、さらにジェンダー格差に関するデータを公開しています。

各国の歴史的データを基に分析すると興味深い事実が明らかになります。現在、スウェーデンは世界で最も平等な国と思われています。日本でもスウェーデン・モデルなんて言ってお手本にしようとしています。でも、データによれば、別にスウェーデン国民が人間的に優れているから、とか、スウェーデンの自然環境のしからしむところによる、なんてことは全然ないことが分かるのだそうです。「スウェーデンは長い間ヨーロッパで最も不平等な国の一つだった」のだそうです。そうではなく、1930年代から政権を取った社会民主系の政権による社会運営が背景にあることが明らかにされています。つまり、人々の政権選択が現在のスウェーデンを実現させているのです。政権選択の重要性が分かります。ぜひ投票所に行かなくっちゃ。

世界の不都合な真実の一端を明らかにする本書。皆様もぜひご一読を。

 

 

ボストン コンサルティング グループ編BCGが読む経営の論点2024』日本経済新聞出版

私も経営学の学位を持っていたりしますので、最近の経営学における問題意識とその標準的なソリューションなんてものを知っておくのも悪くないのではないの、なんてことで本書を読んでみることにしました。

ボストン・コンサルティング・グループ(以下BCG)は世界50ヶ国90以上の都市に拠点を展開し、約30,000人のスタッフを擁する、グローバルな戦略系コンサルティングファームとして知られるており、2023年には米国の就職情報サイトVault社による「世界で最も権威あるコンサルティングファーム」にも選ばれているそうです。トップ・ビジネス・スクールを出たピカピカのMBAたちがしのぎを削るトップ・コンサルタント会社ってことでしょう。私には縁遠いなあ。

でも。コンサルタント会社が何をしてくれるところなのかは今一つはっきりしません。新興宗教や詐欺と紙一重なコンサルタントもいますしね。で、トップ・コンサルタント会社BCGが意地を懸けて現時点における経営に関する今後取り組むべき論点をまとめたものです。具体的には、現代社会に関するマクロな論点4つ、「日本企業が今後勝ち抜いていくうえで獲得が必要となる4つのケイパビリティ」の合計8つの論点をBCGの誇るトップ・コンサルタントの面々が解説、ソリューションを提示して行きます。

どうですそこの社長さん、BCGにコンサルを依頼する気になりました

 

 

20242

本郷 和人「合戦」の日本史 城攻め、奇襲、兵站、陣形のリアル』中公新書クラレ

本書の取り扱うテーマは「合戦」です。

戦後長らく軍事研究に属する「合戦」とか「乱」(応仁の乱とか)「変」(本能寺の変とか)「役」(前九年の役とか)などの研究は日本の学界において一種のタブーであったそうです(戦後はもちろん、皇国史観が幅を利かせていた戦前も)。ですからきちんとした学問的、学術的研究は行われず、小説や講談などで語られた勇ましい与太話が広く信じられてしまう事態になっているようです。

え、昔の戦役なんて学問の対象になるのか、と思われるかもしれませんが、世界の学問の世界では、昔の戦役(古代の戦役を含め)は立派に研究の対象になっています(『人はなぜ戦争を選ぶのか 最古の戦争史に学ぶ人が戦争に向かう原理 / トゥキュディデス』なんて本もご紹介して通りです)。今とは使える武器、技術は異なっているかもしれませんが、その時代の軍人、政治家たちはその当時としての知力の限りを尽くして戦ったのです。ですから合理的、理屈に合ったことをしています。「勝ちに不思議の勝ちあり、負けに不思議の負けなし」って言うではありませんか。おまけに大きな戦役についてはその記録も大体の場合あります。奇想天外な敵の意表を突く作戦、なんてのは、まあ、小説や講談の世界の出来事なのです。ですから学問的研究の対象に適しているはずです。それなのに日本では。まあ、ちょっと前まで神国日本には神風が、なんてことを一般人だけでなく軍人まで信じてた、んだか信じたふりをしてたんですからしょうがないのかもしれませんが。

本書では兵站の重要性、なんてことにも触れられています。兵站なんてことをよく理解していた例として取り上げられているのが豊臣秀吉。兵站なんぞを無視して惨敗を喫した例として取り上げられているのがインパール作戦の牟田口廉也。歴史なんぞには何も学ばなかったんですかね。嗚呼。

防衛費増額だ、そのために増税だ、などの声が聞こえますが、その手前の「軍事のリアル」に関する議論が忘れられている気がします。「軍事のリアル」を知るために日本の合戦物語の虚実に挑んだ本書、なかなか面白かったですよ。ぜひご一読を。

 

 

津田左右吉古代史の研究 毎日ワンズ

津田さんは戦前の歴史研究家。文献批判による科学的な歴史研究を行っていたのだそうです。で、その研究の結果として「天照大神は男」、「神武東遷は別人」「憲法十七条は贋作」なんてことを本書で主張したもんだから、昭和15年に発禁になっちゃったらしいです。このたび復刻されましたので読んでみました。

内容的には厳密な文献の比較分析による極めて明快な論理が展開されています。別にエキセントリックで新奇・珍奇な説が説かれている訳ではありません。むしろ、現代的な視点から見れば常識的・普通のことが説かれているように感じます。が、それも発禁。恐ろしい時代だったことが改めて思い知らされます。

ただ、本書は津田左右吉の発禁となった著作を、漢字や仮名遣いを現代風にする、最小限の注釈を加えるなどしたほかは、ほぼ当時のまま復刻したものです。津田さんの文章は、読点だけで文章が続き、句点があまりないという、現在では裁判の判決文ぐらいしか思い当たらないような書き方で書かれています。私には極めて読みにくい文章でありました。留意の上お求めください。

 

 

河島思朗 『古代ローマ ごくふつうの50人の歴史 無名の人々の暮らしの物語』さくら舎

古代ローマの歴史といってすぐに思いつくのは、カエサルとか歴代の皇帝、諸外国との戦争で名を上げた将軍たち、ま、そんなところでしょうか。でも、多くの庶民たちもそれらのセレブたちと同じ時代を生きていたのです。庶民たちの記録なんてわざわざ残さないから残ってない、というのはある一面の一般的真実を表してはいますが、ローマ人というのは無類の記録好き、碑文好であったため、意外にも多くの記録(墓碑とか)が残されています。イタリアが碑文の製作に適した大理石の産地であった、なんてことも影響しているのでしょう。同じ時代の紙(パピルス)の資料なんて死海文書みたいにウルトラ貴重品でしょうが、大理石とかの碑文となると、さほど貴重品扱いされていないみたいです。いっぱいあるんでしょうね。

で、本書に紹介されているのは、「居酒屋の女将セッリナ、マンションの管理人エロス、戦車競争の賞金王ディオクレス、美容師ダプネ、クリーニング屋のステパヌス、ガラス職人エニオン、小学校の先生ルガ」など、間違っても世界史の教科書には登場しないであろうごくふつうの面々。書いてある内容だって歴史には残らないごく個人的な内容。別に何か歴史的な発見があったとかって話ではありませんが、これがリアルなローマの歴史!ってな感じですかね。

しかしですね、ローマ時代って今から2000年前、日本では弥生時代なんて呼ばれる頃です。その時代に庶民(男女とも)が読み書きの教育を受け、実際に多くの記録が残されているんです。おまけにちゃんと本屋さんまであったんですって。いやあ、人類ってのは大して進歩していないんですね。

 

 

小笠原弘幸ハレム 女官と宦官たちの世界』新潮選書

ハレム(ハーレム)という言葉には、何やら隠微な響きがあります。そのイメージは歴史的事実としてふさわしいものなのでしょうか。本書はそんなハレムのイメージを最新のアカデミックな研究を基に描きなおして行きます。

ところで、本書にも登場する宦官。中国に宦官が多く存在したことは知られていますが、オリエント(本書で歴史的資料を基に多く記述されているのはイスラム化以後の時代)にも存在したようです。また、西洋においてもカステラートと呼ばれる去勢された男性ソプラノ歌手が割と近世まで(1878年に、時のローマ教皇レオ13世が禁止したそうです)存在していました。古代エジプトやインカ文明にも宦官は存在したとされているようです。日本は宦官制度がなかった数少ない国と言われていますが、日本は中国文明に連なる周辺国です。中国の影響を考えれば宦官が存在していてもおかしくはありませんが、史料的には証明されている訳ではないようですし、その存在に関しては歴史学会でも意見が分かれているようです。ですが、歴史の表面に現れるような影響はなかった、と言ってよいのではないでしょうか。日本でも将軍家にはちゃんと大奥なんての(細かいところはともかく、血縁維持といった目的はハレムと共通しています。明治天皇までは天皇にも側室がいたそうです)が存在していたことを考えると、興味深いものを感じます。

 

 

2024年.1月

宮口 幸治どうしても頑張れない人たち ケーキの切れない非行少年たち2 (新潮新書) [ 宮口 幸治 ]』新潮新書

宮口さんはベストセラーになった『ケーキの切れない非行少年たち』の執筆中から本書のテーマ「ケーキの切れない少年たちは、その後、どう生きていけばいいのか」を考えていたそうです。

私たちは簡単に“努力すればできる”なんて言いますが、「「努力できる」ことは、ある種の才能です」ってひろゆきさんも言ってます。努力できるかどうかには本人の “才能”だけでなく、自分ではどうにもならない周囲の環境、時代、地域性なんてことにも好むと好まざると左右されます。じゃあどうすれば良いのか、なんてことも考えてみましょう。

 

 

中川 淳一郎恥ずかしい人たち』新潮新書

junnichirou

今の世の中には「恥ずかしい人」が増殖しています。「態度がエラそう過ぎるオッサン」、「言い訳する能力も欠けた政治家」、「勝手な義憤に駆られた「リベラル」と「保守」」。思い当たるなあ、自分も含めて。私なんか、人生からのリタイアも間近のジジイですが、やっぱり恥ずかしいことやっちゃってるもんね。やだねえ。

で、本書はそんな「恥ずかしい人たちの見本市」です。ま、本で読んでる分には面白いわな。

 

 

綿野 恵太みんな政治でバカになる』晶文社

「私たちは人間本性上バカな言動をとってしまう。くわえて、ほとんどの人が政治について無知=バカである。いわば、「人間本性」によるバカ(認知バイアス)と「環境」によるバカ(政治的無知)とがかけあわされた「バカの二乗」である。これが、フェイクニュースや陰謀論が後を絶たない理由である」、と長々と引用しまたが、こんなことが表紙のデザインとして引用されています。で、そんなバカの連鎖に陥らないために何ができるの、なんてことが書かれているのが本書です。

私には難解過ぎて読むのに苦労しました。

 

 

橘 玲スピリチュアルズ 「わたし」の謎』幻冬舎

「近年の脳科学や進化心理学、進化生物学、行動遺伝学などの急速な進歩によって脳=こころの秘密が徐々に明らかになり」「「わたしもあなたも、たった“8つの要素”でできている」」ことが明らかにされてきたそうです。たった8つ!

まあ、最近ではビッグデータを分析して選挙民の思想信条の傾向を明らかにし、それに合わせて投票行動を誘導する、なんてことが実際に行われているみたいですからね。自分なりに情報を収集、分析して投票したつもりでも、ケンブリッジ・アナリティカなんて会社に操作されていただけ、なんて陰謀論かいなよ思うようなこともありうるのでしょう。

1984』の世界も近い?

 

 

スティーブン・ピンカー人はどこまで合理的か 上  』草思社


著者ののピンカーさんはハーバード大学心理学教授。同大で人気の講座を受け持っているそうです。

私たち人類は理性的・合理的に考える能力獲得して久しいものがあります。しかし、いまだにフェイク・ニュースや陰謀論に簡単に引っかかったりします。どうも人間の脳・思考にはある種のバイアスがあるようですし、推論を展開する場合にも陥りやすい間違いのパターンがあるようです。つまり、私たちの思考はほっておくと合理的な推論から外れて行ってしまう傾向があるってことみたいです。ですからそのようなバイアスに気を付けることによって、正しい思考・推論に立ち戻ることができますよ、というのが本書の主張のようです。

本書では、合理的に考えれば戦争などというものが不合理な選択である、なんてこともエラスムスの説を引用して示されています。「ゼロサムゲームとしての戦争の損得と、その期待効用が負であることについて説いている」。よーく考えてみれば、戦争って、例え勝っても損するとんでもない博打だ、ってことですね。それにしちゃ未だに戦争って無くならないですよねえ。合理的に考えられない軍人とか政治家がいるせいなのか、そもそも人類ってのは合理的に考えられないせいなのか。

ま、冒頭にも記したとおり、本書はハーバード大学における講義を基にして書かれた本です。要するにハーバードの頭の切れる教授が、若くて賢い読者を想定して書かれている本なわけです(「ベイズ推論は誰が立証責任を負うべきかについて、理にかなった判断方法を教えてくれる……」分かります?)。それを私みたいなジジイが読みこなすのはやっぱり無理がありますね。ということで、論理思考が得意で、俺は頭が切れる、なんて思っているあなた、ぜひ挑戦してみて下さい。

  

 

2023年度の書評はこちら