20194

松島 斉ゲーム理論はアート 社会のしくみを思いつくための繊細な哲学』日本評論社

「ゲーム理論の真骨頂は、日常と空想のはざまで仮想的モデルを思いつこうとする、その創造的、芸術的行為にある」「ゲーム理論の仮想的モデルは、数学であるがゆえに、相互に、自在に、比較検討することができる」のだそうです。したがって、このゲーム理論を活用することによって、「バブルはなぜ起こるのか」とか「どうしてハラスメントは起きるのか」なんて現代の諸問題も説明できるのだそうです。ちなみに、「金融市場のバブルと、職場のハラスメントは、まったく異なる次元の問題であるにもかかわらず、まったく同じ仮説的モデルによって説明される」のだそうです。へー、そうなの。

まあですね、頭脳明晰な松島さんが本書の題名で述べられている通り、ゲーム理論はアートなんです。芸術作品の価値(値段だけではなく、個人のし好なども)が理論的に決まるわけではありません。ゲーム理論の仮想的モデルにしても、残念ながら万人に適応可能なのか、といえばそんなことはないでしょう。社会全体として何らかのモデルを作り、こういった方向性の選択をすることがベストだと思います、といったことは可能なのかもしれません。しかし、個人が何らかの選択をする場合、例えば、この人と結婚するべきかどうか、なんて選択の場合、その決定は個人のアートに属するものでしょう。松島さんも仰っている通り、ここら辺は文系の諸君の方が理系の諸君より得意なのかもしれません。

ただし、本書は経済学会誌に応募した論文に適宜加筆したものがベースになっているようです。従って、ゲーム理論はアートであると仰っている張本人の松島さんですが、その説明はかなり論理的で固い表現になっています。専門書と紙一重であることを覚悟のうえで読んだ方が良いみたいですよ。

 

 

ジャレド・ダイアモンド、ジェイムズ・A・ロビンソン 小坂恵理訳『歴史は実験できるのか ーー自然実験が解き明かす人類史』慶應義塾大学出版会

物理学、化学、生理学といった分野では研究室における厳密にコントロールされた実験を行うことができ、大きな成果を上げてきました。ところが、いわゆる人文科学系の学問、例えば経済学や経営学、あるいは歴史学といった分野では実験を行うことはできません。あっちの国では資本主義、こっちの国では共産主義を採用して100年ほど実験をしてみよう、なんてことはできないのです。

ではありますが、昨今計量・統計学的手法が洗練されてきたことにより、様々なことが可能になってきました。医学・疫学における大きな発展も計量・統計学の進歩によるところ大でしょう。本書では、歴史学、考古学、経済学、経済史、地理学、政治学といった分野における自然実験の例を紹介しています。

本書に取り上げられた論文は、大変興味深い結論を導き出した例がある一方で、読んでいても、だから何なんだ、と思うような例もあります。自然実験というアイデアは、方法論としては大変興味深いことは間違いありませんが、実世界における分析への適用ということに関しては、さらなる洗練が必要とされているようです。

 

 

新井 紀子AI vs.教科書が読めない子どもたち』東洋経済新報社

新井さんは国立情報学研究所教授、同社会共有知研究センター長という肩書の方ですが、「ロボットは東大に入れるか」プロジェクトのディレクターとして「東ロボくん」と名付けた人工知能の育ての親、といった方が、何をやっている方なのかイメージしやすいでしょうが。

新井さんは断言しています。「「AIが神になる?」―――なりません。「AIが人類を滅ぼす?」―――滅ぼしません。「シンギュラリティが到来する?」―――到来しません」あ、そうなの。

とは言え、「人間の仕事の多くがAIに代替される社会はすぐそこに迫っている」のだそうです。そして、現在まで東大には合格できなかった「東ロボくん」ですが、なんと、「MARCHレベルの有名私大には合格できる偏差値に達している」のだそうです。

新井さんは「東ロボくん」の開発と並行して、「日本人の読解力についての大掛かりな調査と分析を実施」したのだそうです。で、分かったのが、「日本の中高生の多くは」「中学校の歴史や理科の教科書程度の文章を正確に理解できない」という恐るべき事態です。多くの中高生は少なくとも表層的な知識は有していますので、多肢選択式の試験程度は何とかなるのですが、論理的思考を必要とする問題は解けない、というところでしょうか。大学に入ったって、コピペでレポートを作成する時代ですからねえ。これ、実は現在のAIの思考(というか処理能力)の質と似ているのだそうです。

ところで、新井さんは本書の印税は受け取らず、全額「教育のための科学研究所」に寄付するそうです。この研究所は基礎的独海力を調査するために新井さんらに開発したリーディングスキルテスト(RST)を実際に提供するための社団法人なのだそうです。まだお読みになっていないあなた、日本人の将来のためにもぜひご購入の上ご一読ください。大変理知的で興味深い議論が展開されていましたよ。

 

 

須田 桃子合成生物学の衝撃』文芸春秋

合成生物学とは「コンピュータ上で「生命の設計図」であるゲノム設計し、その情報に基づいて合成したDNAや、改変したDNAを持つ新たな生物を作る。作ることによって生命の仕組みを解き明かす。あるいは得られた知識と技術を駆使して人類にとって有用な生物を作る」試みのことです。で、実際にそのような「合成生物」あるいは「人工生命体」はすでに誕生しているのです。

現在作られた人工生命体はまだまだ原始的なものです。が、突破口が開かれた今、これから飛躍的に大きな、様々な機能を持った生命体が作られていくのでしょう。私たちは生命の謎を解き明かすことができるのでしょうか。そしてそれは人類に明るい未来をもたらすのでしょうか、それとも?

でも読んで面白かったことは保証いたします。

 

 

20193

トーマス・ラッポルト 赤坂桃子訳『ピーター・ティール 世界を手にした「反逆の起業家」の野望』飛鳥新社

本書の主人公ピーター・ティールとは、西ドイツ生まれのドイツ人ですが、生まれてすぐにアメリカに移住したようです。スタンフォード大学で哲学のB.A.、スタンフォード・ロー・スクールで法務博士を取得しているそうです。その後は合衆国控訴裁判所で法務事務官、ニューヨークの法律事務所で弁護士、などを務め、さらにはクレディ・スイス銀行で通貨オプションのトレーダーとしても働いた経験があるのだそうです。その後は自身のティール・キャピタル・マネジメントを設立、さらには後にPayPalとなるコンフィニティの共同設立者となり、これをeBayに売却、巨万の富を築いたようです。現在も多くのスタートアップ企業のエンジェルとなっているようです。その経歴はなんだかバラバラな気がしますが、後から見るとその経験が後の投資家としての判断に生かされているようです。

「「シリコンバレー」がドイツやフランス、英国や日本にはないのは偶然でもなんでもない。こうした国々では、人々はあえて定められた軌道を外れようとはしないからだ」ですって。そうかもしれないですね。私は軌道を外れようとしない人間、のはずなんですが、脱線しちゃった。

本書は「今日のビジネス界でピーター・ティールの名を聞いたことがないという人間がいたら、そいつは間違いなく三流だ」という書き出しで始まります。あら、私は三流だわ。どちらかというと、ひたすらピーター・ティールってすげえな、と思いながら読む小説みたいでした。私ごとき一般人の参考にはならないもんね。

 

 

ロバート・I・サットン 坂田雪子訳『スタンフォードの教授が教える 職場のアホと戦わない技術SBクリエイティブ

サットンさんは「スタンフォード大学で、組織行動学や組織管理論を研究している」教授ですが、「同時にこれらをベースとした『アホ』の研究も行っている」方です。本書評においても以前田村耕太郎さんの『頭に来てもアホとは戦うな!をご紹介したことがあります。世の東西を問わずアホはいるようです。

本書ではいかに「アホ」に立ち向かうか、というノウハウも教えてくれています。私の専門分野でもあるコンプライアンス問題が起こった時の対処などにも言えることですが、とにかく冷静に自分の置かれている状況を判断していただきたいと思います。たとえあなたが正しくても、告発の結果は必ずしもあなたの思い通りにはなりません。思い通りにならないどころか、非難した相手方に有利なように捻じ曲げられてしまう可能性が多分にあるのです。本書でも「「戦うリスク」と「逃げるメリット」を考えよ」って書かれてますよ。

「アホなヤツというのは他人の悪口は言いまくるくせに、自分が非難されるとすぐにキレる」とも書かれています。私も昔、上司の外人に面と向かって「バカ」(もう少し穏便な言い方であったとは思いますが、先方には十分伝わってたんじゃないかと思います)って言ったらクビになっちゃいました。キレちゃいけませんよ。もっと戦略的にならなきゃ、って、今さら遅いか。

 

 

デービット・アトキンソンデービッド・アトキンソン 新・生産性立国論 人口減少で「経済の常識」が根本から変わった東洋経済新報社

アトキンソンさんはアンダーセン・コンサルティング、ソロモン・ブラザースを経てゴールドマン・サックスに入社、アナリストとしてバブル崩壊後の日本の金融界の不良債権の存在をいち早く指摘し、一躍有名人になりました。2006年にはゴールドマン・サックス社のパートナーに昇進したのですが、2007年には退社してしまいます。その後日本の国宝や重要文化財などを補修している小西美術工藝社に2009年入社、2011年に同社会長兼社長に就任、経営の建て直しに当たりました。その後は日本の文化財の専門家として、あるいは経済経営の専門家として様々な提言を行っていることは皆さんもご存知のことでしょう。

アトキンソンさんは生産性の向上がカギだとしています。生産性といってもピンとこない方もおられると思います。アトキンソンさんは「生産性=一人当たりのGDP」であるのは世界の常識だ、としています。

それでは、日本とアメリカの一人当たりGDPがどんなもんだったのか比べてみましょう。表にするとこんな感じです。

GDP per capita, PPP (constant 2011 international $)

 

1990

2016

日本

$30,447.245

$38,282.505

アメリカ

$37,062.13

$53,445.371

https://data.worldbank.orgより作成

1990年といえば、ジャパン・アズ・ナンバーワンなんて言って浮かれていたころです。なるほどアメリカに肉薄しています。が、現在では随分と差が開いています。アベノミクスがどーのこーのというより、もっと根深い問題があった、ということなんです。日本は生産性がちっとも向上してこなかった、というのが失われた25年の正体だったんですね。

生産性と聞くと、なんとなくわかるような気がしますが、アトキンソンさんは生産性と効率性を誤解している人が多いと指摘しています。例えば、現在一人当たり10個生産しているものを、20個生産できるように工夫すれば、生産性が上がるようにも思えます。しかし、10個しか売れなければ、効率性は上がったのかもしれませんが、生産性の増加はゼロです。ところが、同じ10個でも、製品の値段を上げられれば、値上げの分生産性はアップしとことになります。今の日本に必要なのは、良い製品を安く、たくさん作ることではなく、良い製品をなるべく高い値段で売ることなのではないでしょうか。で、賃金も上げる、と。そうすれば日本のお家芸、サービス残業・長時間労働・過労死だって改善されるんじゃないですかね。

「国連などのさまざまな調査で、日本の労働者の質は世界最高レベルと太鼓判が押されています。しかし、日本の生産性は先進国最低レベルです。これは、日本の経営者が奇跡的に無能であるということを意味しています」ですって。最近も働かせ放題法なんてぞが可決されたな。そういえば、日本が負けた先の大戦での評価も似たようなもんでしたねえ。兵隊は優秀だけと、将校は無能だって。敗戦以来70年以上が経過していますが、日本は社会として全く改善されていない、のでしょうか。

ネットで検索するとアトキンソンさんって結構な確率で、外人が何言ってんだ、みたいに書かれています。しかしながら、私には大変しっくり来ました。日本には痛いところを突かれると怒っちゃって、議論ができない方がたくさんいますからねえ。残念。

 

 

羽根田 治ドキュメント道迷い遭難』ヤマケイ文庫

昨今中高年の趣味として登山が取り上げられることもあり、多くの方が登山を楽しむようになりました。ところが、いわゆる登山のイロハもろくに覚えないまま、さらに体力を過信して登山するので、当然のこととして事故も増えるわけです。そんなことへの警鐘として書かれたのが本書の背景のようです。

登山においては、「おかしいなと思ったら引き返せ」「道に迷ったら沢を下るな」というのが鉄則なのだそうです。ある時点までは正しい道を歩いていたわけですから、元に戻れば正しい道に戻れるはずです。ですから、戻れ、と。また、道に迷ったとき、やみくもに下っていくと、沢に出てしまいます。沢の脇というのは歩きやすそうにも思えますが、実は沢の先には必ずと言ってよいほど滝があるのだそうです。滝を下るというのは沢を下るのとはけた違いに危険を伴います。だから沢を下るな、と。

なぜそのような、たとえ知っていても誤った決断をしてしまうのかというと、どうも人間には自分の誤りを認めたくない、という欲求があるからだそうです。で、何かちょっとでも良い(と自分が思った)兆候があるとそれを過大評価し、今までやってきたことは間違っていなかった、と思い込み、同じことを繰り返してゆくのです。で、気が付いた時にはにっちもさっちも行かない状況になってしまうのです。あれ、これって『失敗の本質などでイヤッていうほど取り上げてきたことではありませんか。

取り上げられているケースでは遭難の経緯を説明するだけでなく、道に迷った本人とのインタビューも取り上げられており、その内容に極めて興味深いものがありました。本書の意図とは外れるのかもしれませんが、登山をなさらない方にも大いに参考になるのではないか、と思いご紹介することにしました。これから登山をする方はもちろん、そんな面倒臭いことしないよ、なんて思っている方も読んで損はないと思います。

 

 

20192

村上 誠一郎、古賀 茂明断罪 政権の強権支配と霞が関の堕落を撃つ』ビジネス社

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断罪 政権の強権支配と霞が関の堕落を撃つ [ 村上誠一郎 ]
価格:1512円(税込、送料無料) (2018/12/25時点)

本書冒頭に「一国のトップに人を得ないと、いかにその国の政治が毀損していくか。それを鮮やかに示したのが、現政権の五年間でした」と書かれています。私もその通りだと思います。

著者の一人はあのI am not ABEの古賀さんです。もう一人の村上さんは最近テレビでの露出も多くなっていますのでご覧になった方も多いと思いますが、数少ないリベラル派の自民党国会議員で、現政権に対して反対意見を表明しているほとんど絶滅危惧種の議員です。だからですかね、「最近料亭なんか呼ばれたこともないんだから」なんて言ってます。著書に『自民党ひとり良識派』その他があります。

村上さんと古賀さんの議論には大変参考になるものが多いのですが、その中でもそうだよな、と思ったのは公務員法の改正(内閣人事局とか)に関するものです。ここで思い出すのが、私も本書評で何度も取り上げているPDCA理論です。日本では制度の改革(大学の入試改革とか公務員法とか)などに関しては大変議論され、制度を変えるのですが、一度できてしまうと、「あれだけ議論したんだから」とか、「先輩方が苦労したんだから」ということで、変更が利かなくなってしまいます。つまり、PDには時間をかけるのですが、CAはお座なりにされているということです。

さらに、安倍政権の強引な政治手法を見て、内閣人事局をつぶさなくてはいけない、なんて議論がありますが、古賀さんは「今の最大の問題は、繰り返しますが、安倍政権がおかしなことばかりやっていること」だと一刀両断しています。私も賛成しますね。現在の改正された公務員法だって以前の弊害を是正するために実施されたわけです。その結果不都合が起きているのであれば、手直しをすることは決して悪いことではありません。うまくいっていないから止めちゃう、のではなく、より良い方向へ制度を持っていく議論があってしかるべきではないでしょうか。それが本当のPDCAだと思います。

本書で議論されているような改革が全く行われないようでは、日本の将来は暗い、と思います。皆様も是非ご一読を。

 

 

ダグ・デッター、ステファン・フォルスター 小坂恵理訳『政府の隠れ資産』東洋経済新報社

アベノミクスは破綻し、人口も減少して行くといわれている日本。八方ふさがりではありませんか。何かで方策はあるんでしょうか、ということで読んでみたのが本書。

本書によれば、日本に限らずどこの国でも、きちんと評価されていないパブリック・ウェルス(公共資産、公園などの公共財とは異なります)を所有しているのだと指摘しています。そして、それらの資産がきちんと活用されていない、と。「ここで肝心なのは、これらの資産の運営を専門家の手に委ねるだけでなく、政治家や政策立案者の干渉されない場所にとどめ、短期的な政治的思惑に左右されない環境を整え」れば、バラ色の未来が開けるよ、というものです。ホンマかいな、世の中そんなエエコトばっかの話なんかありますかいな(なんで関西弁?)、なんて思いますがいかがでしょうか。

パブリック・ウェルスの活用、なんていうと、どこぞの国でも盛んにやっていた国営企業の民営化を思い浮かべますが、私は民営化に関してはあまり良い印象は持っていません。だって、民営化されてサービスが劇的に改善された、なんて実感はあんまりないからなあ。それよりも、天下りとか、大企業のトップが横滑りしたなんて話ばかりで、魅力的企業に生まれ変わった、なんて思えない会社が多いですもんね。

どこぞの国で何がいけなかったのか、というと、どうもガバナンスがうまく働いていなかったからのようです。「パブリック・ウェルスのガバナンスがおそまつだと国全体が破滅的な被害をうけ、民主主義が弱体化しかねない」ですって。そういえば、どこぞの国でも国有地払い下げで……。

良きガバナンスの例として、中央銀行の例が取り上げられています。政府から独立した中央銀行というのは、現代型民主主義国家でのあるべき姿であると考えられています。パブリック・ウェルスの運営も、同様の機関、ガバナンスが期待されるのですが、例えば日本銀行って本当に政府から独立しているのか、という疑念にとらわれます。なるほど、ここら辺がキモなのか、とも思いますが、現状に鑑みると日本では実現が難しそうだなあ……。

 

 

セス・スティーヴンズ=ダヴィドウィッツ 酒井泰介訳『誰もが嘘をついている ビッグデータ分析が暴く人間のヤバい本性』光文社

著者のスティーヴンズ=ダヴィドウィッツさんはスタンフォードで哲学の学士号を、ハーバードで経済学の博士号を取得、グーグルではデータ・サイエンティストを務めていたという経歴の方です。なんだかすごそうだな。

本書にはこんなエピソードが紹介されています。2008年の米国大統領選挙。ご存知の通り、バラク・オバマはアフリカ系アメリカ人として初めて大統領に選出されました。で、この時行われていた各種世論調査では「米国の選挙において人種はさほど障害にならないことを示していた」「ギャラップ社はオバマの初当選の前後に世論調査を山ほど実施し、アメリカ人はバラク・オバマが黒人であることをおおむね気にしていない、と総括していた」のだそうです。選挙結果からすれば、妥当な分析でしょう。で、2016年の大統領選挙でも同様の調査を行い、「世論調査の専門家は、ドナルド・トランプ候補の勝利など夢想だにしていなかった」のです。で、結果は大間違い。

ですが、著者はこのような兆候はネット上に見つけることができた、としています。「私はインターネット・データの専門家、人々がウェブ上に残す痕跡を負うのが仕事だ。キーボードやタッチスクリーン、の操作を手掛かりに、人々の本当の欲求、実際の行動、そして真実の姿を探っている」のだそうです。まあね、ネット調査で匿名は守られます、なんて言われても、心配だったり、あるいはちょっと気取ってみたりして、正直に答えないことも良くありますよね。あと、これは秘密ですが、私の場合、あまりにも設問が長くて面倒くさくなると、一番右とか、左とか、あるいは斜めに、なんて何も読まずに選んだりしちゃいます。こんな回答者が多くいたら、まともな調査結果は得られませんよねえ。すいませんね。

で、著者が注目したのがグーグルなどの検索データ。いわゆるビッグデータですね。問題はどうやって膨大なデータから洞察を得るのか、です。本書評でも何度か言及したことがあると思いますが、あるデータと別のデータの間に相関関係があるからと言って、それが必ずしも因果関係を示しているのではない場合があるからです。本書では「証券市場の動きを予想できるか?」という章でこの問題を取り扱っています。で、スティーヴンズ=ダヴィドウィッツさんの結論はムリ。ま、そんなところかなと思いますよ。

本書の最後の方でスティーヴンズ=ダヴィドウィッツさんは「社会科学はビッグデータで真の科学になる」って言ってますが、そうなんでしょうかね。ビッグデータを用いて作曲したり、小説を書いたり、なんて世界で人間は幸せに暮らせるんでしょうか。私としてはそんな世界は願い下げだな。

 

 

ジョージ・A・アカロフ/ロバート・J・シラー 山形浩生訳『不道徳な見えざる手』東洋経済新報社

著者のアカロフさんとシラーさんはともにノーベル経済学賞の受賞者です。こりゃまた豪華な執筆陣ですな。本書もさぞかし専門的な経済学の論文なのかな、なんて思いますが、どちらかというと経済エッセイって感じです。

本書の原題は『Phishing For Phools』です。Phishingって単語は最近日本でもフィッシング詐欺、なんて使われ方をしているので目にした方も多いと思います。で、Phoolって方はどうも造語のようです。意味はFool同じようです。アホなカモが釣られてるぞ、ってとこでしょうか。

「自由市場システムは私たちの弱みに自動的に付け込む」のだそうです。決して自由市場経済がオートマチックに私たちを幸福にするわけではなく、「相手を犠牲にして自分が儲かるものも作り出す」のです。ノーベル経済学賞を受賞したお二人としては、我々パンピーがあんまりカモられないよう、経済リテラシーを持ちましょうね、と警鐘を鳴らす意図が本書には込められているようです。

 

20191

幸福についてショーペンハウアー原作 Teamバンミカス・伊佐義勇まんが  講談社まんが学術文庫

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幸福について (まんが学術文庫) [ ショーペンハウアー ]
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ショーペンハウアー(ショーペンハウエル)は有名な哲学者ではありますが、もちろん私は彼の著書を読んだことはありません。ま、そんなもんでしょう。ということで、「まんがでちゃちゃっと4000!!」という講談社まんが学術文庫で読んでみました。

老年期に至るまで社会的に認められなかったショーペンハウアーは、一般的基準から言うと幸福ではなかったように思えます。が、「孤独でいる時のみ人間は自由なのだから」なんてうそぶいて、意外と楽しく生きていたらしいです。

裕福な家庭に生まれたので、若いことから半隠遁生活を送れたのでしょうが、むやみやたらと他人と比べたりしない生き方は、そうなのかもしれないなあ、なんて思います。でも、イギリスでは孤独は健康に良くないって孤独担当相を任命したんですって。どうしましょ。

 

 

歎異抄唯円原作(親鸞 述)Teamバンミカスまんが 講談社まんが学術文庫

親鸞は浄土真宗の開祖。晩年の弟子である唯円が親鸞の言葉をまとめたものが歎異抄であるといわれています。その中身は、って言われると、知ってるのは「善人なおもて往生をとぐ、いわんや悪人をや」ぐらい。ま、ここら辺は日本史の試験でも頻出、暗記必須、です。で、この意味を説明できて、あとちょっと大乗仏教とか小乗仏教なんて付け加えれば、記述式問題も何とかなるんじゃないですか。

で、そこから先を知りたくなったあなた、にぴったりなのが本書。難しい本なんか読んじゃいられないでしょ、だって大乗仏教、私たちのような凡夫を救う宗教なんだから……。

 

 

恋愛と贅沢と資本主義ゾンバルト原作 Teamバンミカス・名波雄太まんが 講談社まんが学術文庫

本書の冒頭で、ゾンバルトは「資本主義は「恋愛と贅沢」から生まれた」と喝破しています。人間は皆、女に(男に)もてたい、とか、贅沢は素敵だ、なんて行動原理に基づいて行動しているんです。もっとはっきり言っちゃうと、エロとカネ(ミエかもしれませんが)ですね。近現代の経済学に登場する合理的経済人なんてどこ探してもいやしませんよ。

まあ、それはそうなんでしょうが、それだけが正しいってわけでもないような気もします。

 

 

資本論マルクス原作 岩下博美まんが 講談社まんが学術文庫

相対的剰余価値とか絶対的剰余価値なんてマルクス経済学に出てくるテクニカル・タームが物語とともに説明されていきます。

でも、私が印象に残っとのは、庶民が永遠に搾取されていく構造。上に立つ人間の呼び名は変われど、庶民の暮らしは変わらない。じっとわが手を見る……。

 

 

政談荻生徂徠原作 近藤たけしまんが 講談社まんが学術文庫

荻生徂徠は江戸時代中期の儒学者だそうです。彼の思想信条は、かの赤穂浪士の討ち入り事件の処理を巡り、討ち入りを賛美し除名嘆願が幕府内からも出る中、法に基づいた処分(ただし名誉ある切腹)を主張したことによく表れているように思います。

ここから見えるのは武士の論理(てか情)の支配する世界ではなく、法とか制度とかといった理性が支配する世界を求める姿勢、でしょうか。

ですが、本書はSORAIという人工知能(AI)が統治する近未来を舞台にしたSFチックなお話として展開していきます。AIが提唱するドライで合理的な世界はどんなもんでしょうか。ここから先は是非本書をお読みください。

 

 

罪と罰ドストエフスキー原作 岩下博美まんが 講談社まんが学術文庫

ご存知ドストエフスキーの名作。私も読みかけたことはあるのですが、延々とあーでもないこーでもないとウジウジ考え続けるインテリゲンチャにゲンナリして、読み続けられなかった経験があります。まんがで読めるとは有り難いですね。

『罪と罰』は「哲学書であり、ミステリーであり、恋愛小説」でもあるんだそうです。どうです、読みたくなりました?

 

 

ツァラトゥストラはかく語りきニーチェ原作 堀江一郎著 十常アキまんが 講談社まんが学術文庫

「ソ、ソ、ソクラテスかプラトンか、ニ、ニ、ニーチェかサルトルか」のニーチェです。若い人には分からないか。

戦前の旧制高校の生徒ならともかく、戦後生まれの私たちにとってニーチェなんて、名前は知っていても、その著作を読んだ、なんて方は少ないのではないでしょうか。それがマンガで読めるとは、良い時代になったもんですね。

「神は死んだ」ので、私たちは「超人たれ」ってことらしいです。ムリだな。

 

 

カラマーゾフの兄弟ドストエフスキー原作 岩下博美まんが 講談社まんが学術文庫

講談社まんが学術文庫に二度目の登場のドストエフスキー。人気ありますね。

どうやら『カラマーゾフの兄弟』も「哲学書であり、ミステリーであり、恋愛小説」の要素を多分に持っているようです。幾重にも物語が交錯しており、しかもそれが収斂することなく物語が終わってしまうのです。読了できない読者がたくさんいるわけだ。

 

 

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