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瀬木 真一真贋の世界 美術裏面史 贋作の事件簿』河出書房出版

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真贋の世界 美術裏面史 贋作の事件簿 [ 瀬木 慎一 ]
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贋作の歴史というのは古いものなのだそうです。「贋作というものをまったく知らなかった清潔で無菌の状態を史上に求めようとすると、せいぜい原始の一時代が浮かび上がるだけで、美術が美術として最初に祖の形をととのえたエジプトになると、もう、多数の模作が表れる有様であり、美術が珍重されたギリシア・ローマ時代には、明らかに意識的行為とみられる贋作が大量につくられている」んだそうです。

でも、『古代ローマ人の24時間』によれば、ローマ時代のお金持ちの家にはギリシア、あるいはエジプト王朝時代の骨董品が飾られていたそうです。儲かるとなりゃ何でもするのが人間ですから、それなりの技術だかノウハウだかを持って居る人間にとっては、アホな鴨がネギしょってるみたいなもんだったんでしょうねえ。

そんな贋作ですが、贋作であるか、真作であるかは専門家でも区別が難しいことが本書でも取り上げられています。科学的鑑定などで決定的な証拠(例えば新しい化学合成の絵の具が使われているので、絶対に古い時代の作品ではないと分かるとか)でも出てこない限り、専門家でも迷う場合があるようなのです。本書でゴッホのカタログ・レゾネを作成したド・ラ・ファイユという学者の例が取り上げられています。彼自身は真面目な学者で、それこそ一生をゴッホのカタログ・レゾネ作りにささげたような方なのだそうです。が、いくつかの作品については初期のカタログ・レゾネでは真作としたものの、中期のカタログ・レゾネでは贋作と変更、さらに晩年のカタログ・レゾネでは再び真作であると判断した、なんてことがあるのだそうです。まあ、学者が一度「こうである」なんて書いてしまったことを訂正するってのは大変真面目な姿勢であるとも言えますが、判断が何度も変わるってのもねえ。

私たちが個人としてゴッホを買う、なんてことはもはや想像もできませんが、どこぞの美術館が目玉としてゴッホを購入する、なんてことはあり得ます。その際参考にするのがカタログ・レゾネなわけですが、そのカタログ・レゾネそのものが変わってしまうこともあるとは。購買責任者にとっては悪夢でしょうねえ。

本書は1977年に別の出版社から出されたものの再版です。40年も経ってから再販されるってことは、良く言えば本書の内容は全く古びていない、悪く言えば今でも美術界には贋作ははびこっている、ということなんでしょうか。

 

 

中野 京子運命の絵』文藝春秋

本書評でも何度か採り上げたことのある中野さんの新作です。最近は中野さんの著作を基にした『「怖い絵」展』が全国を回っていますので、ご覧になった方もいらっしゃるかもしれません。

本書のテーマは運命の瞬間を描いた絵画です。運命の瞬間、といっても、歴史的な場面における登場人物にとっての運命の瞬間や(1812年のナポレオンの肖像とか)、描いた画家にとっての運命の瞬間など様々です。

本書の美点は、取り上げられた絵画の写真がカラーで掲載されていることでしょう。またその画の外側には、絵の中のこの部分に注目しなさい、という指示が書きこまれていますので、大いに本書を読む助けになりました。

 

 

原田 マハサロメ』文藝春秋

本書評でも何度か取り上げたことがある原田マハさんの新作です。

サロメの物語は新約聖書のマタイ伝に登場します。そのあらすじは……、ま、先王ピリポの娘サロメがいます。て、その母親、亡き先王ピリポの妻ヘロデアと結婚したのが新しいユダヤの王ヘロデ。で、ヘロデ王の誕生日にサロメが踊りを舞い、喜んだヘロデ王が、何でも褒美を取らす、なんて言っちゃったもんだから、サロメはバプテスマのヨハネの生首を所望した、なんてお話です。で、これを思いっ切り脚色して戯曲化したのがオスカー・ワイルド。このオスカー・ワイルドの評判は「天才」「犯罪者にして芸術家」「男色家」。なかなかのもんですな。そんなワイルドの『サロメ改版 (岩波文庫)』に挿絵を描いて一躍時の人になったのがオーブリー・ビアズリー。本書の表紙にも使われていますので、どんな作風かはお分かりいただけると思います。

本書はそんなオスカー・ワイルド、オーブリー・ビアズリー、そしてオーブリーの姉のメイベルを中心として展開していきますが、本書はいわゆる伝記や評伝ではなく、原田さんが想像の翼を広げた小説になっています。

原田マハ・ワールド全開、例によってとっても面白い一冊でした。是非ご一読を。

 

 

フィリップ・フック 中山ゆかり訳『サザビーズで朝食を 競売人が明かす美とお金の物語』フィルムアート社

最近クリスティーズのオークションでレオナルド・ダ・ビンチ作とされる『サルバトール・ムンディ』(救世主)芸術作品としては文句なしの世界最高額の45千万ドルで落札されて話題になりました。

著者のフックさんはケンブリッジ大学で美術史を修め、世界二大オークション会社のクリスティーズに就職した方だそうです。現在は世界二大オークション会社のもう一つであるサザビーズのディレクターを務め、「印象派・近代美術部門の重要なセールを手掛ける花形的な競売人(オークショニア)としても知られる」方だそうです。美術そのものに詳しいことはもちろん、美術のビジネス面にも精通している方、ということです。

本書の原題は"Breakfast at Sotheby's  An A-Z of the Art World"となっていることからも分かる通り、辞書形式で美術にまつわるあれこれをアルファベット順に書き綴ったアンソロジーのような形式をとっているようです。

最近では投資の対象にもなっている芸術作品ですが、本書によればその価格は、特に長期的にはかなり変動するようです。オールド・マスターたちの作品の値段も上昇していますが、印象派や現代美術の作品のロケットのような高騰ぶりにはかなわないでしょう。もちろん、美術館に収納されているような作品(その最高峰はモナリザでしょうか)の価格は高騰しているのでしょうが、博物館に収められた作品はあまり市場には出回りません。それだけでなく、過去の作家の作品でも、購入者の趣味の変化などにより人気がなくなってしまった作家の作品も多いようです。

日本でも最近は屏風とか掛け軸の価格が低迷していると言われています。なぜかというと、日本における一般住宅のスタイルが変化したから。掛け軸を飾る床の間とか、何双もある屏風を飾れる広大な広間なんて最近見かけないですからねえ。で、人気がなくなっちゃたんだそうです。

日本ではあまりなじみがないオークションですが、実は何も天文学的な値段の美術品、骨董品、あるいはビッカビカのクラシック・カーなぞばかりを取り扱っているわけではなく、私たちでも購入可能な値段の競売品も数多く取り扱っているのだそうです。ただ、あるクラシック・カーの愛好家が、オークションは売るには良いけれど、買うところではない、なんて言っていました。オークション会場では掘り出し物もある一方で、欲しいと思う人間が複数いる場合には入札する方も熱くなってしまい、後から考えると、どう考えても高すぎるだろ、なんて値段になってしまうことも多いからだそうです。魅惑的なオークションの世界へようこそ。私は……、しばらく様子を見ましょうか。

オークショニアから見た美術・芸術に関するあれこれ。私たちがなかなか知ることのできない世界を垣間見させてくれる一冊でした。

 

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