橘玲さんの11年ぶりの書下ろし長編だそうです。題材はハッキング技術を駆使したマネーロンダリング手法の数々、それが暗号資産だなんだかんだが蠢く国際的な陰謀へと……。
ま、小説ですので気軽にお楽しみください。「世界はHACKされるのを待っているバグだらけのシステムだ」ですって。本書はフィクションですからね。信じるのは構いませんが、自己責任で……、って書いてあります。小説家として手練れの橘さんの書く波乱万丈のストーリーは、暗号資産だなんだの解説を間に挟み読ませます。面白かったですよ。
ミチオ・カク 斎藤隆夫訳『神の方程式 「万物の理論」を求めて』NHK出版
アインシュタイン以来、宇宙のあらゆる事象を記述する究極理論、たったひとつの数式を、科学者たちは探求しつづけてきました。アインシュタインもあと一歩、ところまで行ったのですが、そのあと一歩が途轍もなく難しく、今のところ見つかりそうだという確たる見通しが立っているわけでもないようです。
で、その究極理論が完成、厳密な検証を経て世界中の科学者からあまねく受け入れられたとしたら、私たちの暮らしや生活、宇宙観にどのような影響があるのでしょうか。「日常生活への直接的な影響については、無きに等しいだろう」なんだそうです。「万物の理論の規模をもつエネルギーは、宇宙の創成やブラックホールの謎とは関係するが、あなたや私の暮らしとは無関係なのであろ」ですって。あ、そう。まあ、ビッグバンとは何か、なんてことが分かったとしても、今日の晩御飯何にしようかな、なんてことが分かるわけではないでしょうから、そうなのかもしれないですよね。
本書の位置づけは物理学に興味のある初心者向けのいわゆるポピュラー・サイエンス読本といったところなのだと思います。ですから、高次元のひも理論を解説する場合も数式が出てくるわけではありません。とはいえその道の第一人者ですから、説明を端折ったりするわけにはいきませんので、なんだかんだ結構難しかったです、私には。そこらへんは心してお読みください。
清武 英利『どんがら トヨタエンジニアの反骨』KODANSHA
トヨタ自動車は世界でもトップクラスの生産台数を誇る最大手自動車会社です。そんな大手自動車会社の生産する車というのは、まあ大体において売れる車、つまり一般受けする車、というのが通り相場です。トヨタの車もそんな車が多い、と思います。運転していると、言っちゃ悪いけど掃除機を動かしてるみたい。掃除機のあそこがスバラシイ、ここがカッコ良い、なんて思わず、使えりゃ何でもいいや、って感じで使ってるでしょう、あんな感じ。まあ、いわゆるマニア、オタクには受けない車作りをしています。でも、だからこそ売れる。とはいえ自動車会社のエンジニアなんて人は、そもそもクルマが好きで、クルマが作りたくて入社してくるわけですから、作りたいクルマと売れる車のギャップに悩むわけです。本社の主人公多田哲哉さんもそんなひとり。本書はそんな多田さんが、現在トヨタの作る数少ないスポーツカーであるスープラや86を開発しているときの苦難のルポです。
正直なところ、私はトヨタの車が余り好きではなく、もちろん今まで買ったこともありませんでした。でも、本書を読んでそんな車も実はエンジニアたちが知恵を絞って作っていることが分かりました。私の好みに合わないのは、そういう方向性で作っているからにすぎないようです。分かっててそういう風に作っているんだよ、ということなのでしょう。なるほどね。
ジャッキー・ヒギンズ 夏目大『人間には12の感覚がある 動物たちに学ぶセンス・オブ・ワンダー』文藝春秋
私たちは人間の感覚に関しては、「五感」という言葉に表されている通り、5種類であると思い込んでいます。が、最近の研究では「神経学者にきくと、感覚は22種類くらいある、という答えが返ってくる」とか「感覚は5つではなく、私たちの研究によっておそらく33種類くらいには増えそうだ」なんて状態らしいです。第六感どころじゃありませんね。どうなってるんでしょ。
この感覚というもの、実は明確に定義されているものだそうです。ですから私たちも喪失「感」とか罪悪「感」なんて言葉を日常的に使っているわけです。これらの「感」と五感の「感」とは根本的に異なったものなのでしょうか?
友清 哲『ルポ“霊能者″に会いにいく 「本物」は存在するのか 』PHP
「著者が自腹で全国の“霊能者”を訪ね、徹底検証した傑作ルポルタージュ」だそうです。いやあ、のっけから怪しさ満載ですね。本物の“霊能者”は見つかったのでしょうか。
本書は霊能者版ミシュランガイドではありません。霊能者の名前とか所在は全てぼかしてあります。ですから霊能者探しをしている方には向きませんのでご注意を。でも読み物としては結構面白かったですよ。
牛島 信『上場廃止』幻冬舎文庫
「あのカルロス・ゴーン事件を予言した衝撃の企業法律小説」だそうです。ただ、著者の牛島さんは東京、広島での地検検事を経て弁護士になられ、現在は「M&A、コーポレートガバナンス、不動産の証券化、情報管理などで定評のある牛島総合法律事務所代表」という方だそうです。法律のプロが書く小説ってのはどんなもんでしょうか。
本書は小説ですので話の本筋はフィクションです。が、話の進行上出てくるエピソードの法律的な意味づけを本職の法律家である牛島さんが解説してくれています。こんなこといちいち弁護士に聞いたらいくら掛かるんだか……。ここら辺を心して読めば、すぐに本代の元は取れるんじゃないですか。でも、普通の小説として読んでも結構面白かったですよ。
ヌリエル・ルービニ 村井章子訳『MEGATHREATS(メガスレット)世界経済を破滅させる10の巨大な脅威』日本経済新聞出版
著者のルービニさんによれば、現代の世界は様々な「広い範囲で大きな損害と苦痛を引き起こし、しかも容易には解決できないような深刻な問題」があるのだそうです。その中から10のリスクについて分析しています。長く続いた平和と繁栄の時代はもう長くは続きませんよ、というわけです。本書が出版されたのは2022年のことです。結構長い時間が経過していますが、特段世界中が緊張するような事件は起きていないような……。本書は20年程度のスパンを見据えた分析のようですが。ま、読んでみましょう。
私も拙論の為替見通し(https://www.fpohkuni.com/Magazine%20Articles.htm)でも指摘してきたとおり、本書でもコロナ渦期の世界的な金融緩和が回収されておらず、バブルとも言うべき状況になっており、バブル崩壊は時間の問題であり、その崩壊の影響は相当深いものが予想されています。私も同じような見通しを数年来持っているのですが、未だに現実化していません。私もルービニさんのような「破滅博士」
本書を読んで、寺田寅彦が言ったといわれる「天災は忘れた頃にやって来る」を思い出しました。現代の科学では天災を予測することはできないし、まして予防することもできない。しかし、天災に対する備えをすることによってその被害を少なくすることはできる、なんて100年以上も前に言ってます。私たちも本書を読んでどんな問題が起きそうなのか、そしてどんな備えが可能なのかを考えておくのは決して無駄ではないでしょう。
「第二次世界大戦が終わってからは、先進国がデフレに見舞われたことはほとんどない」「長期にわたるデフレを経験したのは日本だけだ。日本は1990年から経済が低迷し、「失われた20年」さらには「失われた30年」と呼ばれた」ですって。日本にだけはMEGATHREATSは起きちゃっていたみたいですね。
著者が最も懸念しているのはスタグフレーション。「責任ある積極財政」を掲げる政権が日本でも発足いたしました。さてどうなりますか。
「過去から学べない者は過ちを繰り返す」皆様もご一読を。
宮田 珠巳『アーサー・マンデヴィルの不合理な冒険』大福書林
「マルコ・ポーロが『東方見聞録』を発表したのと同じ頃、行ってもいない東方世界の旅行記を著した稀代のペテン師ジョン・マンデヴィル。世に出るのを厭い、苔と羊歯の庭いじりを唯一の喜びとしていた息子アーサーは、ある日教皇から呼び出され、亡き父の書に記されたプレスター・ジョンの王国を探すよう命じられる」なんて紹介文が本書の帯に書かれていますが、はっきり言って何言ってるのかわからない。本書は全てフィクションな訳ですが、そのフィクションが何重にも重なって物語を形成していきます。ここからは宮田珠巳ワールド全開。