テクノロジー(TEC701)4クレジット

電子金融取引におけるコンプライアンス

 

Rushmore University

Global Distance Learning DBA

大國

 

このコースワークを提出するにあたって、ここに記述されている文章/アイデアは、引用の表記がない限り、私の作品であります。また、私がこのコースの研究を手がけるまでは、このコースワークは存在しなかったことを確認します。

 

電子金融取引は、金融取引の新しい形態として大いに注目を集めている。また、新しい法令が特に電子金融取引における技術的側面に焦点を当てて制定されている。

ともすれば、そのような技術的な側面にこだわる余り軽視され勝ちであるが、電子金融取引も通常の金融取引の一環であり、通常の金融取引と同様なコンプライアンス態勢が求められているのである。

本稿においては、電子金融取引も通常の金融取引と全く同様なコンプライアンス態勢が求められていることを、「汝の顧客を知れ」というキーワードを通して明らかにするものである。

 

目次

1.はじめに

2.電子金融取引に対する規制

2.1電子金融取引に関する法令

2.1.1金融商品の販売に関する法律/消費者契約法

2.1.2 電子消費者契約および電子承諾通知における意思表示に関する民法の特例に関する法律

2.1.3金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律

2.1.4金融庁検査マニュアル

2.1.5電子署名及び認証業務に関する法律

2.1.6組織的犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

2.2その他の法律

2.2.1特定商取引に関する法律

2.2.2不正アクセス行為の禁止等に関する法律

3. 電子金融取引におけるコンプライアンス

3.1重要事項の説明

3.2説明を受けることを拒否した場合の取り扱い

3.3適合性の原則

3.4本人確認とマネーロンダリング

4. コンプライアンスの確保

4.1電子金融取引が直面する問題の原点

4.2汝の顧客を知れ

4.3情報提供におけるコンプライアンス

5.結論

 

参考文献

 

 

1. はじめに

近年、インターネットを介した金融取引が広く行われるようになってきた。2001年度下半期の統計では株式取引全体の9%(金額ベース)がインターネットを通して行われている(日本証券業協会「インターネット取引に関する調査結果(平成14年3月末)について」)。また、個人の取引についてはすでに半数がインターネット経由で行われているという。

ところで、通常の対面式販売においてもコンプライアンスが重視されるようになってきている。電子商取引においては、通常の取引とは何が異なり、どのような点に注意しなくてはならないのであろうか。

本稿においては、電子商取引の中でも特に金融商品を販売する場合における金融機関側のコンプライアンス上の問題について取り扱うものである。

 

2.電子金融取引に対する規制

現在、様々な法その他による規制が電子金融取引に対して加えられている。

以下、電子金融取引におけるコンプライアンスの問題に関して適用されると思われる法令等、及びそれらがどのように電子金融取引に関連するか、そしてそれにどのように対処するかをまとめる。

電子金融取引といえども通常の金融取引である以上、通常の業法でよって規制されることは当然である。ただし、通常の業法における規制に関しては、本稿の目的とするところではないので、特に電子金融取引に関連する場合以外は改めて言及しない。ただ、金融取引には刑法、民法、商法、金融商品の販売に関する法律、消費者契約法などが一般的に適用されるほか、預金など銀行がかかわる業務については銀行法、保険に関しては保険業法、証券取引に関しては証券取引法など関連業法が常に適用されていること、また通常の取引に適用される法令はすべて電子金融取引においても同様に適用される。ことにはご留意いただきたい。従って、下記の法令が適用される全てではない。

 

2.1電子金融取引に関する法令

2.1.1金融商品の販売に関する法律/消費者契約法

金融商品の販売に関する法律(以下「金融商品販売法」と略す)及び消費者契約法においては、電子商取引について特有の言及はないが、電子商取引についても当然に両法における金融商品の販売や消費者契約に含まれると考えられる。

金融商品販売法においてまず問題になるのが、どのように勧誘方針を提示するかである。金融商品販売法第8条において、勧誘の対象となるものの知識、経験及び財産の状況に照らして配慮すべき事項、勧誘の方法及び時間帯、勧誘の適正に関する事項を定め、公表しなくてはならないとされている。

電子金融取引において問題になるのは、どのように公表するかである。

実際の金融機関のサイトをご覧いただければわかるとおり、多くの金融機関が勧誘方針をホームページのどこかに掲載している。通常の対面取引においても、勧誘方針は店頭に掲示するか閲覧可能な状態に置けばよいとされているのと同様である。従って、消費者がそのサイトを訪れ、取引したいと思ったときに、勧誘方針を読まなければ、あるいは一読後承認しなければ取引できないような規制をプログラム上かけなくてはならないわけではない。

電子金融取引と両法の関係において最も問題となるのは、重要事項の説明である。そして、この問題は適合性の原則をどう判断するかとも係わってくる。

この問題は本稿の主要なテーマであるので、別項において考察を加えることにする。

 

2.1.2電子消費者契約および電子承諾通知における意思表示に関する民法の特例に関する法律

電子消費者契約および電子承諾通知における意思表示に関する民法の特例に関する法律(以下「電子消費者契約等特例法」と略す)とは、電子承諾通知、つまり消費者が何らかの意思表示を事業者に対して行った場合、民法95条の錯誤に関する規定をどのように適用するかを定めた法律で、2001年6月に成立した。

「この法律において「電子消費者契約」とは、消費者と事業者との間で電磁的方法により電子計算機の映像面を介して締結される契約であって、事業者又はその委託を受けた者が当該映像面に表示する手続に従って消費者がその使用する電子計算機を用いて送信することによってその申込み又はその承諾の意思表示を行うものをいう。」(電子消費者契約等特例法第2条第1項)

民法95条とは、「意思表示ハ法律行為ノ要素ニ錯誤アリタルトキハ無効トス 但表意者ニ重大ナル過失アリタルトキハ表意者自ラ其無効ヲ主張スルコトヲ得ス」という、意思表示に錯誤があった場合のその意思表示の有効性を規程している条文である。

コンピュータ操作において、クリックミスなどをすることはありがちである。しかし、操作ミスに対してすべて無効の主張を認めることは事業者側にとって酷であるし取引の安定を損なう。逆に本人がコンピュータを操作したのだからと、すべてにおいて消費者側の過失を認めるのも、消費者にとってあまりにも不利である。

そこで、電子消費者契約等特例法第3条においては、

「民法第九十五条ただし書の規定は、消費者が行う電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示について、その電子消費者契約の要素に錯誤があった場合であって、当該錯誤が次のいずれかに該当するときは、適用しない。ただし、当該電子消費者契約の相手方である事業者(その委託を受けた者を含む。以下同じ。)が、当該申込み又はその承諾の意思表示に際して、電磁的方法によりその映像面を介して、その消費者の申込み若しくはその承諾の意思表示を行う意思の有無について確認を求める措置を講じた場合又はその消費者から当該事業者に対して当該措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合は、この限りでない。
 一  消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該事業者との間で電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示を行う意思がなかったとき。
 二  消費者がその使用する電子計算機を用いて送信した時に当該電子消費者契約の申込み又はその承諾の意思表示と異なる内容の意思表示を行う意思があったとき。」と定めている。

基本的には、消費者がその意思がなかったり、別の意思を持って意思表示をしたりした場合には民法第3条の但し書きは適用されず、錯誤無効の主張ができるとされている。ただし、消費者から事業者に対してそのような措置を講ずる必要がない旨の意思の表明があった場合はこの限りでないとされている。最近インターネットで取引をするとよく出会う例であるが、「取引を承認する」をクリックしても、コンピュータ・スクリーンに確認画面がポップアップしたり、最終的に取引内容を確認する画面が最後に現れたりする。そのような方法によって消費者の意思確認をしたり、または消費者からそのような措置を講ずる必要がないという意思表示がなされたりした場合には、民法の原則にもどり、錯誤に重大な消費者側の過失があるとして、錯誤無効の主張は認められなくなる。

また、同法は、契約の成立時期に関しても、民法の発信主義(民法第526条第1項、第527条)を修正し、相手方に到達しない限り意思表示の効果は発生しないとしている。

これは、システム障害が発生して取引が成立しなかった場合などに適用されるものと思われる。現実に、この法律の成立以前から、オンライントレードの取引約款で、「当社が相当の安全策を講じたにもかかわらず、通信機器、通信回線、インターネット、コンピュータ等に障害が生じ、サービスの取り扱いに遅延、不能等があっても、これによって発生した損害については、当社は一切の責任を負いません」といった免責条項が設定されているのが通常であった。

この場合でも、消費者の権利を不当に害するような取り決め(例えば消費者の意思表示が金融機関に到達したかどうかの判断は金融機関側で行うなど。この場合、金融機関側の過失で消費者に負わせた損害を不当に逃れられることになる)は権利の濫用であるとして排除されるであろうが、社会通念上相当の注意を払った場合(障害発生時の社内の内部管理体制やバックアップ体制の整備を行った場合)には、重大な過失を欠くものとして免責が認められると考えられる。

ただし、「米国においては、E*トレード証券が96年5月に発生したシステムの障害により、投資家に総額170万ドルの保証金を支払っている。また、チャールズ・シュワブ証券も、取引開始前に買い注文のキャンセルを入れたが実行されず、高値で注文が執行された事案(98年11月発生)で、損失分を和解金として支払うことで調停成立に至ったという事件が発生している。」(岡村 久道『インターネット訴訟2000』p173)また、日本においては、証券会社が気配値を大幅に間違えて入力した結果成立した取引に関して問題が起きている。「ボラティリティ値の誤入力およびeワラント取引の価格計算システムにおける検知機能障害が原因で株式市場の市場価格をもとに計算した価格と異なる価格が、オンライン上で提示され、その価格をもとに執行がなされた場合に、業者は、錯誤無効を主張しうるかという興味深い問題を提供している事件がある。これに対し金融庁は、問題の証券会社に対して報告書の提出を求め、「重要な事項につき誤解を生ぜしめるべき表示をする行為(証券会社の行為規制等に関する内閣府令第4条第1号)」があったとして、同年6月27日業務停止命令と同改善命令をなしたのである。」(高橋 郁夫「オンライン証券業務の法的問題」p5)

この手の問題は最近でも発生している。場合によっては巨額の損失が絡む場合があるので、問題がすんなりとは解決しないのである。ある程度の価格範囲を決めてそれを逸脱する場合にはロックがかかる、あるいは価格の変動幅を制限するなどの安全策が考えられる。ただ、実際の相場の動きは速く、指値で注文を出す場合などには、いちいち「この価格で注文してよろしいですか?」などとのポップアップが現れても、「OK」を即座にクリックしてしまったり、「Enter」キーを連打したり(経験がありませんか?)してしまいがちである。取引の効率性を重視する場合には、あまり頻繁に確認手続を取らせることには問題がある。

また、市場全体で考えた場合でも、あまり頻繁に取引をストップすることは、逆に市場価格のボラティリティを増大させてしまうというジレンマがある。

何らかの理由で取引が停止するということは、何らかの未知のニュースがあったか、異常に大きな注文が入ったかなどを意味しており、市場関係者にとっては大変興味深い情報なのである。そして、取引が中断している間に価格が動いた方向に沿って売りもしくは買い注文が累積する。通常そのような場合には一方向の注文しか入らない。売り買いの数量がマッチせず、気配値だけが動いていく。それがさらに市場の不安を誘い、雪崩のような価格変動を結果としてもたらしてしまうのである。経験的には、何らかの明らかな理由がある場合にはともかく、あまり取引を中断しない方が好ましいとされている。そうでないと、管理相場になってしまい、相場の意味を失わせることになるからである。

 

2.1.3金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律

20024月に成立した金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律(以下「金融機関本人確認法」と略す)は、今まで業界の自主ルールとして本人確認が行われてきたものを、改めて法律で定めることにより規制強化を図るものである。その目的は、借名口座や仮名口座を通じてテロ資金が流通することや、犯罪資金の洗浄(マネーロンダリング)に使用されることを防止しようというものである。

金融機関に対しては本人確認(自然人については氏名、住居及び生年月日、法人の顧客については名称及び本店又は主たる事務所の所在地)を主務省令による方法で行わなくてはならないとされている。また、顧客に対しても、隠蔽の目的で本人特定事項を偽った場合には罰則が課せられる。

対面取引の場合には当然免許証などの提示を求めることになるが、インターデットなどでの非対面取引の場合には、政省令案では、コピーやファックスによる送付も認めるとしている(日本経済新聞2002518日)。

この問題も本稿の主要なテーマであるので、他の法律と合わせ、本人確認の項目を設け考察を加えることにする。

 

2.1.4金融庁検査マニュアル

以上のような法令を踏まえ、金融庁検査マニュアルも、最近の電子商取引の進展を勘案、電子商取引についても詳細な検査マニュアルを用意している。なお、以下においては「証券会社に関する検査マニュアル」(http://www.fsa.go.jp/manual/manualj/shouken.pdf)から引用しているが、基本的には預金等受入金融機関、保険会社に係る検査マニュアルにおいても同様の言及がなされている。

証券会社に係る検査マニュアルにおいては、コンピュータや携帯情報端末によりインターネット又は他の商用オープンネットワークを利用して有価証券の売買その他の取引を行うものを電子証券取引であるとしている。具体的な確認事項として、電子商取引に関する法令等遵守態勢の確認検査用チェックリストと電子商取引に関するリスク管理態勢の確認検査用チェックリストに分かれている。

証券会社は電子証券取引であるかないかに係らず、当然遵守しなくてはならない法令が多数ある。それらについての法令遵守は当然のことであるが、電子証券取引に関して、その特性に合わせた管理がなされているかが問われている。

法令等遵守態勢のチェックリストでは、

l        システム障害が発生した場合のバックアップ体制や対応策、社内規定やマニュアルが整備されているか。

l        非対面取引であることを留意したうえで、顧客の本人確認が適切に行われる体制になっているか。

l        取引の安全性を確保するための暗証番号などを活用しているか。

l        確認画面などで顧客に再確認を促すようなシステムになっているか。

l        過度に頻繁な取引などを排除するためのシステムになっているか。

l        顧客に対する情報提供のシステムは、常に正確なものが提供されるようになっているか。また、それを確保する体制はとられているか。

l        提供した情報は適切に保存されているか。

などの項目が問われている。

リスク管理態勢のチェックリストでは、

l        取締役をはじめとするリスク管理体制は適切に構築されているか。

l        セキュリティー確保は適切になされているか。

l        システム障害が発生した場合の責任分担のあり方について、利用者に対して適切な情報提供がなされているか。

などが問われている。

いずれも、通常の証券業務における注意事項とは異なる、電子取引に固有の問題を提起している。

 

2.1.5電子署名及び認証業務に関する法律

「電子署名及び認証業務に関する法律」(以下「電子署名法」)は2001年4月1日から施行された。電子署名とは、実社会において記名押印などの方法によって行われている本人意思の確認を、ネット上などで可能にする技術である。

電子商取引においては、相手が見えないので、相手が信用するに足りるかを検証することは難しい。従って、なりすましや言い逃れの被害をこうむるリスクは、通常の対面取引に比べて大きくなるといえる。

そこで、実社会における印鑑証明書の代わりに電子署名を利用しようというものである。電子署名の付いた文書であれば、間違いなく本人が作成した文書であることが推定される(ただし、実社会における印鑑証明書つきの文書と同じく、推定である以上反証によってその推定は覆されうる。真実性が自動的に100%保証されるわけではない)。

「電子署名は公開鍵暗号技術(PKI: Public Key Infrastructure)の応用が中心である。この技術では一対の公開鍵と秘密鍵とがペアで生成される。ペアになった鍵の一方で暗号化されたメッセージはその鍵自体でも解読できず、ペアの他方の鍵を使わなければ解読できない。本来は暗号通信用に考案された技術である。A宛にメッセージを送ろうとするBは、Aの公開鍵で暗号化して送信する。受け取ったAは自分だけが保管するAの秘密鍵で解読する。途中で傍受されても暗号化されているので第三者に内容が分からないから安心である。Aの公開鍵でも解読不能であるから、Aは自分の公開鍵をネットで配布しても悪用される心配はない。自分の公開鍵を預けて配布してくれるサイトがあれば、みんなネットを介してそのサイトに取りに行けばすむからさらに便利である。

 逆に、BがA名義の暗号メッセージをAの公開鍵で解読できれば、それはAの秘密鍵で暗号化されたものであることが判明する。しかもAの秘密鍵はAだけが保管している以上、Aが送ったメッセージだと確認できるから、サインや印鑑とおなじ機能を営む。以上が「電子署名技術」の仕組みである。

 残された問題はAの公開鍵の入手方法と、それが本当にAの公開鍵に間違いないかどうかである。そこで、Aが事前に自分の公開鍵を「信頼できる機関」に預け、その機関がAの公開鍵に間違いないという証明(電子認証)を付けて、これをネットでみんなに配布できるシステムを作れば、問題は技術的に解決する。こうしたいわば「電子の印鑑登録証明書」を発行する「信頼できる機関」を「認証機関(認証局)」という。」(岡村 久道「電子署名法の解説」)

電子署名法の最大の問題は一般には使いにくく、少額の取引であれば代替方式があることであろう。例えば、不動産をネット上だけで買う人はいないであろうし、少額のインターネット取引で、いちいち電子署名を求めていたのでは、面倒くさくてしょうがない。実社会でも、いちいち印鑑証明書を取って契約書に実印を押さなくては取引ができないとしたら、煩雑極まりないことになるのと同じである。

ネット上での代替手段としては、クレジットカードの活用が挙げられる。オンライン・ショッピングでは、クレジットカードの決済が一般的である(特定商取引法上の規制参照)。また、違法販売の温床であると社会問題化したYahoo! JAPANのオークションサイトYahoo!オークションでは、出品者の身元確認手段として、オフィシャルバンク銀行口座又はクレジットカードによる認証を行っている。このような手軽な認証方法があるので、電子署名は一般的に使われるには至っていないようである。

しかし、今後の発展を考えた場合、特に電子金融取引における身元確認の方法としては今後の発展が期待できる方法であろう。また、現時点ではあまり現実的ではないかもしれないが、海外の金融機関、非居住者との直接取引なども電子署名を活用すればマネーロンダリングなどを回避しつつ取引を行うことができるようになる。

もちろん、国内取引においても、顧客の意思確認が確実にできるなどそのメリットは大きい。現在では一般的に使用されているとは言いがたい手法ではあるが、今後の発展次第では大いに期待のもてる認証方法であるといえるだろう。

 

2.1.6組織的犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律

組織的犯罪の処罰及び犯罪収益の規制等に関する法律(以下「組織的犯罪処罰法」)は、麻薬取引などに絡んだ資金がマネーロンダリング(資金洗浄)の後、再び暴力団などの手に還流することを防止すべく、「麻薬及び向精神薬取締法等の一部を改正する法律」あるいは「国際的な協力の下に規制薬物に係る不正行為を助長する行為等の防止を図るための麻薬及び向精神薬取締法の特例等に関する法律」などに個別に規定されていたマネーロンダリングに係る規制を一本化、平成12年2月1日に施行された。

組織的犯罪処罰法の施行により、犯罪収益を隠匿したり、隠匿に手を貸したりしたものは5年以下の懲役若しくは300万円以下の罰金、又はこれらが併科されることになった。

また、マネーロンダリングを防止するため、金融機関には口座の開設や大口取引をする場合には本人確認をすることが義務付けられた。また、金融機関は疑わしい取引が認められた場合には、金融監督庁等の主務大臣に届け出なくてはならないとされた。これは、取引が成立しなかった場合でも同様である。

電子金融取引は、対面取引ではないので、マネーロンダリング対策には万全であることが要求される。特に、新規口座開設などに際しては注意が必要とされる。ひとたび口座が開設されてしまうと、繰り返し利用されることになるからである。また、口座が開きやすいという評判が立とうものなら、その他の組織的犯罪者も追従することになるであろう。

以前からマネーロンダリング対策は国際的な課題となってきたが、2001年9月11日の米国における同時多発テロ以来一段と要求が厳しくなっているので、留意が必要である。

本人確認とマネーロンダリング対策については、本法のみが係る問題ではなく、本人の意思確認に係る問題など、非対面方式である電子金融取引における基本的な問題に係る話題であるので、以下に別項を設けて論じることにする。

 

2.2その他の法律

2.2.1特定商取引に関する法律

一般的な通信販売には「特定商取引に関する法律」(2001年6月1日施行、「訪問販売等に関する法律」からの改題。以下「特定商取引法」)が適用される。ただし、同法は訪問販売による取引一般を適用対象とはせず、指定商品制(政令で定める物品・権利・役務の提供を対象としている)をとっている。その趣旨は、法規制は必要最小限にとどめるべきであること、問題のある商品は大部分指定されていること、機動的対処により消費者保護は図れること、原則適用とする場合には適用除外品目の列挙が困難であることなどがあるとされている。

「しかし、訪問販売被害は不意打ち性や攻撃性など販売形態の特殊性から生じるものであって、対象商品によって規制の要否が異なるものではなく、指定商品制は縦割り消費者行政の下では被害の後追い指定が避けられず、諸外国においても指定商品制を採用している例は見当たらない。指定商品制はわが国の消費者立法の構造的欠陥であるといわざるをえない。」(斎藤 雅弘、池本 誠司、石戸谷 豊『特定商取引法ハンドブック』pp27-28)

まことにそのとおりである。上記のように、電子金融取引だけでも幾多の法律が別個に絡んでくるし、それぞれの法律で要求する内容や、その法律効果が相違している。このあたりにも、縦割り行政のひずみが露呈しているような気がしてならない。

従って、同法は金融取引には適用されないが、電子商取引などに関しては幾多の改正を経て制定されている法律であるので、大いに参考になると思われる。

通信販売の定義は以下のようになされている。

特定商取引法律第2条第2項

「この章において「通信販売」とは、販売業者又は役務提供事業者が郵便その他の経済産業省令で定める方法(以下「郵便等」という。)により売買契約又は役務提供契約の申し込みを受けて行う特定商品若しくは指定権利の販売又は指定役務の提供であって電話勧誘販売に該当しないものをいう。」

経済産業省令2条

「法第2条第2項の経済産業省令で定める方法は、次の各号に掲げるものとする。

1.        郵便

2.       電話機、ファクシミリ装置その他の通信機器又は情報処理の用に供する機器を利用する方法

3.        電報

4.        預金又は貯金の口座に対する振込み」

特定商取引に該当する通信販売の場合には、「積極的広告規制」、「消極的広告規制」、「前払式通信販売での承諾等の通知義務」が課せられる。

「積極的広告規制」(特定商取引法第11条)とは、通信販売を行う場合には販売業者または役務提供事業者は、その対価、支払方法、氏名・名称、住所・電話番号、返品特約、瑕疵責任などを明記しなくてはならない。また、当該広告に顧客からの請求によりこれらの事項を記載した電磁的記録を地帯なく提供する旨の表示をする場合には、これらの表示の一部を表示しないことができるとされている。この場合顧客がダウンロードできるようにHTML形式やPDF方式で記録しておくことが必要とされる。あるいは、販売業者のサーバー上の特定領域に特定の顧客だけがアクセスできる場合には、その領域には特定の顧客がIDやパスワードによって区別されているので、ダウンロードまでは要求されず、閲覧することで足りるとされている。

通常の訪問販売では書面の交付が要求されているのに対し、書面を電磁的記録の提供に替えられることが明示的に規定されている。

「消極的広告規制」(特定商取引法第12条)とは、誇大広告等の禁止である。

「前払式通信販売での承諾等の通知義務」(特定商取引法第13条)とは、商品の引渡し、権利の移転や役務の提供に先立って顧客に代金を請求する場合がある。このような販売形式は業者にとっては大変有利であるが、顧客にとっては業者が義務を履行するまでは非常に不安定な法律関係に置かれることになる。前払式通信販売には、実際の支払いを行う場合ばかりではなく、代金の支払いにクレジットカードを利用する場合も含まれるとされている。

前払式通信販売を行う場合には、業者は顧客に対して申し込みを承諾した(若しくは承諾しない)こと、受領した金額、受領日、申し込みを受けた商品の明細、商品の引渡し次期などを書面若しくは電磁的方法によって遅滞なく通知しなくてはならないとされている。この通知もメールで行うことが認められている。

この法律はすでに現実に多用されている通信販売を前提に規制が加えられているので、電子金融取引は規制の対象にならないとしても、大いに参考になるものである。

 

2.2.2不正アクセス行為の禁止等に関する法律

「不正アクセス行為の禁止等に関する法律」(以下、「不正アクセス禁止法」)は2000年2月13日に施行された。他人のIDやパスワード、或いは指紋や声紋などの何らかのネットワークへのアクセスを制御する「識別符号」を悪用して進入した場合には、不正アクセス行為として処罰されることになった。

この法律成立以前において、他人のサイトを勝手に書き換えたりした場合は、1987年の刑法改正により新設された電子機損壊等業務妨害罪などが適用され処罰されていた。しかし、単なる覗き見などは処罰の対象とはされなかった。

これに対して、不正アクセス禁止法では、不正にアクセスすることそのものが処罰の対象となる。

この法律そのものは、不正アクセスしたものを処罰する法律であるので、直接電子金融取引を行うものがかかわるわけではない。しかし、2000年1月(つまり本法施行直前)に日本の政府機関のサイトが何者かによって書き換えられるという事件が起きた。

この際問題になったのは、その犯罪そのものもさることながら、日本の政府機関、あるいは日本の企業のセキュリティーに対する脇の甘さである。

電子金融取引を行う場合に、顧客情報や金融取引情報が漏洩したり、書き換えられたりといったことがあってはならない。本法は直接的には電子商取引を営むものに対して規制を加えているわけではないが、今後金融取引を含む電子商取引を営むものに対して、セキュリティー対策に万全を期すことを間接的に求めているといえるだろう。

同様のことは、不正アクセスばかりではなく、コンピュータ・ウィルス対策なでについても同様である。

セキュリティーシステムとしては、128bitSSL方式、日本独自の割賦販売方式などに適したアプリケーションを付加したSECE方式などが導入されている。また、本人認証のためのパスワードも何種類か用意して安易に取引ができないようにしたり、契約カードなどに乱数表を印刷しておいて取引の都度に違うパスワードを使うようにしたりといった工夫も凝らされているようである。

しかし、現在の技術では、万全のセキュリティー対策は存在しない。電子金融取引にもたらす不正アクセスやウィルスの被害を想定すれば、まずセキュリティーを高め被害を未然に防ぐ努力を怠らないのはもちろんのこと、何か問題があった場合にも即座に対応できる体制を整えておくことが要求されるのである。

 

3.電子金融取引におけるコンプライアンス

以上、電子金融取引にかかわる主要な法令について見てきたわけであるが、各種法令の目指すところは、取引の安全の確保と顧客の保護である。顧客保護に共通する基本的な命題とは、顧客に対していかに商品内容を知らしめるか、そしていかにして顧客が商品内容を理解したと判定するかということである。以下、この2点について考察を加える。

 

3.1重要事項の説明

金融商品販売法第3条第1項において、@相場の変動等による市場リスク、A金融商品販売業者その他のものの信用リスク、Bその他元本欠損の恐れがある場合にはその旨及び理由、C権利行使期間、解除権行使期間の制限などがある場合にはそのことを消費者に説明しなくてはならないとされている。そして、金融商品販売業者が説明義務に反して重要事項について説明しなかった場合には、これによって生じた当該顧客の損害を賠償する責任を負うとされている。

また、消費者契約法第4条第4項において、重要事項とは、消費者契約の目的物(物品、権利、役務等)に関する質、用途、対価またはその他取引条件であって、消費者の判断に通共影響を及ぼすものであるとされている。そして、消費者がこのような重要事項に関して誤認して消費者契約を締結した場合にはその意思表示を取り消すことができるとされている。

電子金融取引において問題になるのは、この説明義務をどのように果すかである。

テレフォンバンキングの時代には、新種の商品を販売する場合には所定の文言を説明してからでないと取引を行えないようにする、といった取り扱いをしていたようである。

いわゆるインターネット取引では、新しい種類の取引をする場合には、新たな口座の開設を申し込ませるようにし、口座開設に際しては重要事項のお知らせなどのページを読ませる、また、インターネットでは口座開設の申込だけを受けるものとし、実際の講座開設には会社から送付した申込書、重要事項のお知らせなどを受取り、了知した旨を返送した上で口座を開設するといった対応がなされているようである。

ただし、対面販売方式では、重要事項のお知らせなどを交付しただけでは重要事項の説明義務を果したことにはならないと理解されている。これに対して、非対面方式である電子金融取引においては相手の理解度を確認できないなどの弱点が存在する。

また、最近ではポップアップした確認画面も、その内容(約款など)をある程度読まないとすぐには承諾(OK)できないようになっている場合が多い(クリック・オン契約、あるいはクリックラップ・ライセンス契約などと呼ばれる)。ただし、その場合でも本当に読んだかどうかの確認は画面をスクロールしたかどうかで確認している場合が多い。従って、こすっからい顧客(私?)は最初からスクロールボタンを動かし、承諾ボタンがアクティブになると文章の内容も確認せず押下してしまう。

形式に流れる意志確認に対しては顧客側の反応も形式に流れてしまうのである。

このような承諾は約款をちゃんと読まずに下した承諾であるから、無効であるとの批判もある。これに対して日本では確たる判例がないが、米国ではこのような行為も有効であるとの判例が出ている。

1996年に高等裁判所が下した「プロCD対ザイテンバーグ」事件では、パッケージソフトの箱の中に入っているCD-ROMの袋を破いて使うという行為だけでユーザー側の「承諾」が有効であると判決しました。この判決は、「クリック・オン契約」も有効であるという解釈の先駆けとなりました。」(牧野 和夫、平野 晋、雨宮 由明(2000)『ネット・トラブルから身を守る本』p81

クリック・オン契約は日本において実際すでに多用されている。上記判例も勘案すれば、金融機関側としては、顧客の意思確認の証拠とするには有効な手段であるといえるだろう。ただし、非対面方式における重要事項の説明には、対面方式における場合より、はるかに説明の密度が落ちると考えなくてはならない。顧客が「承諾」ボタンを押したという事実を免罪符としてはならない。

あまり確認事項を多くしてしまうと取引の効率を損なってしまう。しかし、後々のトラブルを避けるためにも、様々なリスクを充分に説明できるシステムを考えなくてはならないといえるであろう。

 

3.2説明を受けることを拒否した場合の取り扱い

金融商品販売法第3条第4項第2号において、「重要事項について説明を要しない旨の顧客の意思の表明があった場合」には金融商品販売業者の説明義務は課されない。

消費者契約法第4条第2項においても、「当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りではない」として、事業者の説明義務を免除している。

これら条文の是非はともかく、いずれの法律においても顧客側が説明は要らないと意思表示をした場合、それによって顧客側に損害が生じたとしても自己責任となることが明記されているのである。

それでは、金融機関において実際にはどのような取り扱いがなされているのであろうか。

条文上は顧客側がとにかく説明は要らないと表明した場合(民法の規定からは口頭の意思表示も当然有効である)、重要事項の説明は不要になる。ただ、法の精神から見て、顧客が説明は要らないといった場合でも、説明を試みる努力はするべきであろうし、また、その意思表示の効力を不当に長く見積もるべきでもないであろう。

多くの金融機関では、後々のトラブルに備えてこの条文の適用には慎重である場合が多い。多くは説明が不要であることに関して「一筆取る」場合が多い。ただし、中には顧客が説明不要であるとした場合には「販売不可」とする金融機関もある。

電子金融取引の場合にも、同様の注意が必要とされるであろう。

ところで、インターネットで作業を行っていると、作業の確認をする、あるいは説明をするポップアップのなかに、「以下このような表示をしない」といったチェックボックスが現れる場合がある。反復して取引を行う場合など、あまりにも確認場面が多くなってしまうと取引がうまく進まなくなってしまうことが考えられる。そのような場合に顧客が説明の省略を要求することも考えられる。

顧客が説明を要しないとした場合に、その顧客の意志を確認、記録するためにこのようなポップアップを使うことは当然であるが、単に一度このような質問にイエスと答えただけでその顧客に対しては未来永劫説明不要とするといった取り扱いをするべきではないであろう。その有効期間はそのような意思表示がなされた接続期間に限定するといった取り扱いが必要であると思われる。ただ、今後の通信技術の発展によっては、常時接続が前提となることも考えられない訳ではない。金融市場も24時間継続的に開設され、常時取引が可能になるといった展開も多いに考えられる。その場合には、さらに別の規制が必要になるであろう。

 

3.3適合性の原則

適合性原則とは、一定の利用者に対しては、如何に説明を尽くしても一定の金融商品の販売・勧誘を行ってはならないというルールである。一般的な言葉でいえば、利用者の知識・経験、財産力、投資目的等に照らして適合した商品・サービスの販売・勧誘を行わなければならないといったルールである。

証券取引法第43条第1号において、有価証券等の取引において、顧客の知識、経験及び財産の状況に照らして不適当と認められる勧誘を行つて投資者の保護に欠けることとなつており、又は欠けることとなるおそれがあってはならないと規定しているのが、適合性原則遵守義務を定めた代表的事例である。

一般的な手法としては、取引開始時に過去の投資経験などを調査し、取引範囲を限定するといった制限を設けている例も多い。しかし、取引開始時の調査がいつまでも有効であるとは言い切れない。新しい種類の取引を請求してくる場合もあるであろう。第一、現在ラインアップされている商品がいつまでも取引されているわけでもないだろうし、新種の商品が導入されることもありうる。いままで誰も取引したことがないから新種の商品なのである。新種だからという理由だけで取引を認めなくては、誰も取引ができないことになってしまう。

また、規制緩和の流れを受け、多くの金融機関においてそれまで取り扱われていなかった商品が垣根を越えて販売されるようになっている。その結果として銀行の店頭で投資信託が販売されたり、証券会社を通して生命保険商品が販売されたりしている。このような場合、その金融機関との過去の取引とはまったく異なった種類の商品を販売することになる。

金融商品に関する紛争の多くで、多くの法律が規定されているにもかかわらず、依然として顧客の側がよく知りもしなければ理解もしていない金融商品を金融機関が無理に売りつけた、という主張を耳にする。もちろん、顧客側からの訴えがすべて事実であるというわけでもないだろうし、事実、裁判になった事例では、顧客側のミス(商品内容について知ろうとする努力を怠った)を認め、原告が勝訴した場合でも請求金額を削減したり、あるいは敗訴したりといった例が見られるのは事実である(拙稿「金融商品を巡るトラブルの実態」http://www.fpohkuni.com 参照)。

これに対して、電子金融取引の場合には、対面販売で見られた強圧的な売り込み、ということは考えにくい。顧客側が取引を選択していくからである。しかし、例えば新しい種類の商品に関する取引を始めようとする場合においては、対面取引と全く同様に適合性原理に関する判断が要求される。また、いくら強圧的な販売姿勢を採っていないといっても、顧客に提供する情報にバイアスがかかっている場合には、同じことになってしまう。

この問題については、電子金融取引におけるコンプライアンスの確保の項において、改めて取上げることにする。

 

3.4本人確認とマネーロンダリング

組織的犯罪処罰法のところでも記述したとおり、テロ撲滅に向けた国際的協調としてマネーロンダリング対策が求められている。

マネーロンダリング対策として金融機関に求められているのは、まず口座開設時における本人確認と「疑わしい取引」の報告である。

電子商取引において最も問題になるのは、口座開設時の本人確認であろう。口座開設時に確実に本人確認ができていれば、マネーロンダリングに使用される確率は小さくなる。なぜならば、誰の口座を経由したかが確実にトレースできるからである。

それでは、電子金融取引において、どのように本人確認をするのであろうか。

日本証券業協会が2001年4月に発表した「インターネット取引において留意すべき事項について(ガイドライン)」においては、「本人確認書類の提示又は提出を受ける」、「証券カード等を届け出のあった住所に簡易書留扱いで郵送し、当該郵便物が返戻されない」「ことをもって顧客の本人確認を行う」方法が提唱されている(日本証券業協会(2001)「インターネット取引において留意すべき事項について(ガイドライン)」)。また、このような取り扱いは金融機関本人確認法の政省令でも認められる見込である。

電子金融取引においては提示を受けるのは難しいであろうからコピーを送付してもらうといった方法でも認められるようであるが、残念ながらあまり有効な認証手段とはいえないであろう。例えば免許証の有効期間中に住所を変更した場合、変更したことは免許証の表面には表記されず、裏面に手書きされる。コピーであれば、何とでも書き込めるのではないだろうか。もちろん、免許証などの記載事項とその他の書類の記載事項をつき合わせて照合するのであるが、本人と面会しているのではないので、いくらでも操作はできてしまう。第一、写真と本人の照合が不可能である。

サッカーのワールドカップのチケットを受け取るだけでも写真つきの公的証明書(免許証やパスポート)の提示が必要なのである(もっともチケット印刷の遅れに伴って一部緩和されたらしい。時事ニュースの取り扱いには気を使う)。技術的な問題もあろうが、電子署名の活用など、さらなる本人確認の徹底が必要であると思われる。

実際のマネーロンダリング取引の実行にあたっては、様々な擬装が施されるのが普通であるという。例えば、口座の開設にあたっては、怪しげな人間が怪しげな風体で金融機関を訪れたりはしない。「妖精」(SMURFS)等と呼ばれる専門の口座開設屋が報酬を受取って口座を開設する。もちろん本名を使ったりはしないのであろうが、彼らは裏の口座開設者とは関係のない第三者である。もちろん彼らとて法的なリスクは犯しているわけであるが、直接的に元々の犯罪(麻薬取引等)に係っているのではない。一旦犯罪者の手に口座が渡ってしまえば、後からのトレースが大変難しくなることは当然である。

また、現状の住民票システムのセキュリティーは万全とは言いがたい。それどころか、戸籍ですら正確とは言い難いのである(資料1参照)。現在では、とにかくできるだけ多様な方法で本人確認を行うことが望まれる。例えば、住所確認のための郵便物の発送も、たった1度で終わりではなく、取引成立の後も定期的に様々なお知らせを郵送し続ければ、それだけ確認の精度は高まる。資料1にもあるように、見知らぬ名前宛の手紙などが届くことによって、擬装登記などが明らかになる場合もあるのである。たった1回であれば、悪意を見抜くのは難しいかもしれないが、複数回の取引をすれば、上手の手からも水が漏れることはあるだろう。漫然と取引を続けてはいけないのである。

ひとたび口座が開設されてしまうと、その口座を通じて不正な資金が流れるばかりではなく、その口座が本人を確認するための口座として使われるなど、新たな不正の温床となってしまう。電子商取引における本人確認には、課題が多数あるといってよいだろう。

 

4.コンプライアンスの確保

電子金融取引におかるコンプライアンスに関しては、技術的な問題も多く指摘できる。しかし、その多くが実は通常の対面販売においても問題となっている原因に起因しているのではないだろうか。

 

4.1電子金融取引が直面する問題の原点

幾多の法的規制が引かれてはいるものの、電子金融取引においても、通常の対面方式における問題と全く同じ問題が指摘されているといえるだろう。

電子金融取引におけるコンプライアンスに関する問題の原点は、販売方法の差によってもたらされているのではなく、現在の金融取引の抱える問題によって引き起こされているのである。

電子金融取引に関する純粋に技術的な議論は本稿の目的とするところではないので、詳細には取上げなかったが、根本的な問題を一つだけ問題を指摘しておくと、現在の技術では、完全に取引の安全を保証する方法はないということである。従って、金融機関は常に取引の安全の確保を担保するための最新の方策を採り続けなくてはならないのである。しかし、このような義務は何も電子金融取引に限られたことではない。最近、システムトラブルである大銀行が大変な批判にさらされた(資料2参照)。また、2000年1月には官公庁のホームページが改竄されたことは記憶に新しい。そのような事件が起こったこと自体ばかりではなく、起こった後に適切な対応が取られなかったばかりか、そもそもそのようなリスクがあることを全く認識せず、リスクに備える発想が全くなかったことが問題とされたのである。現在の金融機関は巨大なシステム産業である。システムに対するセキュリティーの確保に関しては、電子金融取引において何か特別なことが要求されているのではなく、システム全般に対して高いセキュリティー水準が要求されているた考えて良いであろう。

それでは、重要事項の説明はどうであろうか。確かに電子金融取引においては、相手に面会して説明している訳ではないため、対面販売に比べ顧客の理解度を推し量る機能はどうしても劣るであろう。しかし、現在の金融トラブルの多くも、説明不足(少なくとも顧客側の理解からすれば)が引き起こしているのである。

国民生活センターの集計において、証券会社・銀行・生命保険会社を通じて苦情が最も集中しているのは、説明に関する苦情である。証券会社では合計47.3%、銀行で40.0%、生命保険会社で40.4%を占め、その他の苦情を圧倒している。内容的には、証券会社では不実告知とリスク説明無し、銀行では商品説明無し、生命保険会社ではリスク説明無しの項目が多い(国民生活センター『「金融商品に係る消費者トラブル問題」調査報告書』)。

電子金融取引が導入される以前も同様であったし、金融商品取引法や消費者契約法が施行されたからといって劇的に改善されるということも想像しにくい。

あるいは、マネーロンダリングにおける本人確認はどうであろうか。電子金融取引では本人の顔や証明書類を直接確認できないという不都合は確かに存在するが、本質的な問題は全く同じである。

マネーロンダリング防止には、口座開設の際の本人確認が最も重要であるとされている。また、取引を開始した後も、多額の現金を用いた取引等の「疑わしい取引」をチェックし、もしそのような疑いがある場合には当局に届け出なくてはならないとされている(その際、いわゆる証拠などは必要とされず、顧客取引に関する守秘義務も適用されない、また取引が成立しなかった場合でも通報義務があることなどが組織的犯罪処罰法に規定されている)。

電子金融取引においては現金取引というのは考えられないが、頻繁な外国との送金のやり取りなどは、同様に「疑わしい取引」の一例とされている。

ところで、多額の現金とはいくらで、頻繁な取引とは月何回の取引を意味しているのであろうか。従来金融庁のガイドラインでは、絶対的な基準を設けてはいなかった(北米など元々金融取引における現金の使用が一般的でなかった地域では、現金での金融商品の販売を全面的に禁止している金融機関の例もある。しかし日本の慣行では、現金取引が絶対的に不自然であるとは言い切れない。そこで、金融機関の自主規制として3000万円以上という基準を採用していた。しかし、2002年制定された金融機関等による顧客等の本人確認等に関する法律の施行において、この金額を200万円に引き下げると言われている。金額は政令で定められるが、2002年5月末時点では未公布)。しかし、金額だけで疑わしいかどうかを判断するのは難しいであろう。何しろ、日本では現金決済の習慣が残っている業界もあるのである。頻繁な取引に関しても同じである。

だからといって、知らん顔をしているのも、現在世界的な規模で進められているマネーロンダリング対策の原因に思いを致せば、到底無視することはできない。

どのように判断すればよいのであろうか。

 

4.2汝の顧客を知れ

そこで重要になるのが、日頃の情報収集である。これは何もマネーロンダリング対策のために情報を収集するのではない。顧客が何を求め、顧客にどのような商品設計が最適であるかを知るためには、顧客情報が極めて重要な役割を果すことになるからである。金融機関に務める人間は、子供が御用聞きにいくのとは訳が違うのである。顧客にあれが欲しい、これが欲しいといわれて初めて商品パンフレットを用意しているようでは駄目なのである。

もっとも、金融機関側が売りたい商品を強引に販売することも当然禁止されている。夜討ち朝駆けで顧客にしつこく付きまとったりすれば、嫌われるだけでなく、最近ではれっきとした法律違反、場合によっては処罰が待っているので、気を付けなくてはいけないのではあるが。

お客に言われる前にどのような商品が相応しいかを考える基礎が顧客情報なのである。

例えば、重要事項の説明において、顧客が理解できたかどうか、あるいは顧客が取引することが相応しい商品であるかどうかなどの判断は、金融商品を取扱う側が判断しなくてはならない。重要事項に関して説明することはもちろんであるが、説明しさえすれば顧客が理解していようがいまいが関係ないというのでは、まともに説明義務を果したとは言えないであろう。また、トラブル事例においては、顧客側と業者側で、説明をしたしない、分った分らなかったといった水掛け論が延々と続く場合が多い。顧客の側は業者が思っている以上に商品の有利な部分の説明しか聞いていない場合が多い。つまり、儲かる部分(利回りが有利、税金がかからない、リスクは限定的など)については良く聞いているし覚えているが、リスク(相場の変動によっては損をする、税制は変わる、支払ったオプションプレミアムは全額損する可能性もあるなど)については聞いてはいるのかもしれないが、理解していない(悪意に取れば知らない振りをしている)。「汝の顧客を知れ」ということにつきるのではないか。

マネーロンダリング対策にしても同様である。多額の現金取引が疑わしいことは先にも触れたとおりであるが、現金取引が一般的である場合も存在する(例えば、小売業など)。また日本では、不動産取引等では多額の現金がやり取りされる場合が現在でもある。逆にマネーロンダリングを行う側は、そのような取引を擬装して資金の洗浄を行おうとする。その場合、疑わしい取引であるか否かの判断は、単独の取引事例からはできず、日頃からの取引を知らなければ判断はできないのである。「汝の顧客を知れ」ということである。

新規口座の開設に際しても同じようなことがいえる。顧客の本人確認は、決して要求される書類さえ整っていれば機械的に承認するのではないだろう。自分の持っている情報と顧客からもたらされた情報を総合し、何らかの不自然さや不一致が認められたならば、もう一度確認する勇気を持つべきである。その勇気を支えるものが「汝の顧客を知れ」という精神なのである。

汝の顧客を知れというキャッチフレーズは、金融機関を守るためだけに存在するのではない。顧客のことを知っているからこそ良いサービスを提供でき、顧客の金融機関に対するロイヤリティーの確保ができるのである。

 

4.3情報提供におけるコンプライアンス

電子金融取引を勧誘するために、多分全ての金融機関がホームページを開設、何らかの形で情報提供を行っているものと思われる。金融機関がホームページを開設する目的は、大きく分けてふたつあると思われる。

第一に挙げられるのは、ネットサーフィンかどうかは別にしてインターネットで取引金融機関を探しているような人を採り込む目的である。つまり、一見さんを呼び込むのである。

そして二番目にあげられるのが、顧客への情報提供である。こちらは、一見さんばかりではなく、すでに取引している顧客も対象にしている。

第一の目的に関しては、インターネットで新規顧客を獲得するのは大変難しく、また初期投資が多額に上ることも、現在では常識となりつつある。その証拠というわけでもないだろうが、日本証券業協会の調査においてインターネット取引を行っている証券会社は、2001年9月末の統計における67社をピークに、2002年3月末時点では63社まで減少している(ただし、全体での取り扱い金額は増加している。日本証券業協会「インターネット取引に関する調査結果(平成14年3月末)について」)。すでにオンライン証券会社の淘汰が始まっているのである。また、異業種から銀行業務に参入して大いに話題を呼んだ各社も、業績面ではかなり苦戦している(資料3参照)。インターネットの検索ページで「金融 オンライン取引」などを検索すると、何千というページが現れる。その中から顧客が選択するのは、やはり知名度もあり安心感もある企業名であり、怪しげな「なんとか.com」が選ばれる訳ではないのである。そもそも、取引金融機関を選別するのに、単にインターネットで検索したら名前が出てきた、というだけで取引する消費者はいないのではないか。であるとすれば、第一の目的に過分な比重をかけるべきではないだろう。

重要なのは第二の目的である。電子金融取引においては、いわゆる顧客係(渉外担当者)が存在する訳ではないので、顧客との注文は実際の取引だけに限定されてしまうきらいがある。しかし、これでは顧客の金融に対する理解も全く深められないし、金融機関にとっても、顧客がどのような興味を持って取引しているかが全く分からない。信用取引で追証が必要になって初めて顧客のところに出向いていく、というのではしゃれにもならない。

顧客に公開しているホームページを、顧客への情報提供(そして顧客からのフィードバック)の場と位置付ければ、このような問題は解消され得るであろう。また、このような目的に特化したホームページであれば、特定の顧客のみがアクセスできるプライベートページとした方が、より効率は高まると思われる。

顧客が情報を求めてアクセスしてくるようなホームページを持っている金融機関は、顧客とのより良い、安定した長期的関係を築けると思うのであるがいかがであろうか。そのような金融機関とは、顧客はお金を払ってでも取引を継続したいと思うであろう。そうであれば、単なる価格競争(手数料の引き下げ合戦)に巻込まれることなく取引を継続していけるであろう。

提供する情報の中味はどうであろうか。昨今、アナリストの中立性が問題になっている(資料4参照)。そもそも効率的市場仮説が正当なものであるとするならば、アナリストなどという商売が学問的に成り立つかどうかにはいささか疑問もあるが(経済学的には、景気予測(つまり未来予測)などが成り立たないことはもはや常識であるといって良いであろう。「投資家に平均以上のリターンを提供し得るかどうかという点で、ファンダメンタルズ分析は、テクニカル分析と大して変わらないのである」(Malkiel, Burton G.『ウォール街のランダム・ウォーカー』p257)、「為替レートの予想を行うのは、その人が真のエコノミストでないことの証明だ」、「いまでは、計量モデルで為替レートを予測しようなどと試みる学者は、さすがにいない」(野口 悠紀雄『金融工学、こんなに面白い』pp35-36))、実際に影響力を持っていることは確かである。

ところで、一般に金融機関は多種多様なレポート(相場や為替動向の分析、研究所や調査部の発行するマクロ経済レポートや産業レポート、個別銘柄に関するレポート、新しい商品やマーケットの紹介などなど)を発行しているものである。これらのレポートを実際に作成していて困ることは、読者像がはっきりしないことである。非常に専門的な読者を対象とするのか、単に一般的な解説を求めているのか、フィードバックがないために非常に分かりにくいのである。そのためレポートの内容は、万遍なく読者におもねるようなものになり、人数的には最も多いであろう初歩的な顧客でも分かる内容にせざるを得なくなる。適確な情報を必要とする顧客にとって見れば、初歩的かつ総花的で、何を言いたいのかさっぱり分からないレポートになってしまうのである。

なぜフィードバックがないのかというと、レポートを配るのは販売現場の担当者でレポートを作成した人間ではなく、適当に決められた部数を顧客に配布して回るだけだからである。これでは、単なる情報の垂れ流しであり、費用対効果も低いといわざるを得ない。

ホームページにおける情報提供にも同じ事がいえる。ホームページを不特定多数に対する公告宣伝の場と位置付けてはならない。そんなことをすれば、ホームページの内容は最も初歩の顧客を相手にするような内容になり、ある程度取引を続けた人間には一顧だにされなくなってしまう。

現在の技術をもってすれば容易に顧客個人の要求に合わせたホームページが作成できるはずである(実際に個人専用にページをカストマイズさせるホームページはすでにたくさん存在する)。わざわざ自分用にカストマイズしたページを作るぐらいであるから、それ以後も興味を持ってホームページを閲覧することであろう。また、顧客が過去に閲覧したデータを基に自動的にページがカストマイズされるようにしておけば、顧客にとって便利なばかりではなく、金融機関にとっても顧客の興味のありようがつかめるのではないだろうか。過去の取引データを含めかなりの顧客に関するデータが蓄積できるはずである。こんな事からも、汝の顧客を知ることができ、顧客に対してより良いサービスを提供できるのである。また、このような関係を維持して行けば、コンプライアンスに係る問題も発生しにくいことであろう。

 

5.結論

電子金融取引は、現在も拡大中の市場であり、これからの金融取引の中心となっていくであろうことは間違いないであろう。これに対して、現在も各種法令上の規制が拡大しつつある。

各種法令の目指すところは、取引の安全の確保と顧客の保護である。

取引の安全の確保に関しては、金融機関に対してセキュリティーの確保が求められている。ハッカーなどによる攻撃に対しても適切に対処できるよう、あるいはシステムトラブルなどに関しては適切なバックアップ体制が取られることが求められている。また、マネーロンダリングなどの犯罪の舞台として利用されない体制を構築することもこの範疇に含まれるものと思われる。

顧客の保護に関しては、上記セキュリティーの保護と同様の配慮が顧客のプライバシーなどに対して払われることが求められると同時に、適合性原理に基づく適正な販売が行われることが求められている。

しかし、これら法令によって課されている義務・規制は、何も特別に電子金融取引に対して求められているのではない。

例えば、セキュリティーの確保に関しては、電子金融取引だからといって特別な対策が求められているのではない。巨大なシステム産業である金融機関にとっては、システムのセキュリティー確保は全ての業務に渡る重要な命題である。現在の技術では絶対的なセキュリティーは存在しないのであるから、必要とされるのは、適格なリスク分析に基づく危機管理体制であるといえるだろう。

顧客の保護に関しても同様である。電子金融取引に対してだけ特別の配慮が求められているのではない。求められているのは、対面取引と同じ水準のコンプライアンス態勢なのである。それは重要事項の周知についても、また本人の意思確認についても、全く同様である。

電子金融取引においては、顧客と直に面会している訳ではないので、重要事項の説明などに関しては、顧客の反応を確かめられないなど確かに不利な面がある。しかし、逆に電子金融取引にはメールなどによる情報提供が容易にできる、情報提供の場(ホームページ)に顧客からアクセスしてくれるなどの有利な点も存在するのである。そして、結果として求められているのは、対面取引と同じ水準のコンプライアンス態勢なのである。

そして、その際にキーワードとなるのが、「汝の顧客を知れ」ということである。重要事項の説明においても、適合性原理の適用においても、あるいはマネーロンダリングの判断においても、重要なのはいかに顧客のことを知っているかなのである。

確かに、電子金融取引においては、顧客の自宅を訪問しているわけでもないので、顧客情報が入手しにくいことは確かである。それでも、顧客の取引やホームページ上でどのような情報に頻繁にアクセスしているかなどのフィードバックから、顧客に関する様々な属性が入手できるであろう。

そのような情報を基に顧客に対して情報を発信することによって、顧客の求めるサービスをタイムリーに提供することができるようになる。サービスの提供だけでなく、一般的なコンプライアンス(法令遵守)の確保も図れるのである。

コンプライアンスの強化は、何も規制強化をもたらすのではない。コンプライアンスを活用することによって、逆にサービスを向上させ、顧客満足度を高めることが可能なのである。

これこそがコンプライアンスの本質であり、電子金融取引、対面取引にかかわらず最重要項目なのである。

 

 

 

<資料1><住民票>改ざんも多発 東京23区だけで3年間に1300件

 戸籍の改ざんが問題になる中、他人の部屋や空き家を使って、虚偽の住民登録をし、住民票を改ざんする事件も相次いでいる。毎日新聞の調べでは東京23区だけでも過去3年間に1300件近い事例が確認された。全国では膨大な数にのぼるとみられる。公正証書原本不実記載にあたり、改ざんされた住民票は犯罪に使われるケースが多い。

 住民票が実態と異なる例には、転出届が出されずに放置された場合や、作為的に虚偽の住所を登録するケースがある。見知らぬ名前あての手紙や請求書などが届いた住民から役所へ問い合わせがあったり、選挙時の投票用紙引換券が役所に戻ってきたり、消費者金融などから役所に住所確認などがあった場合などに発覚しやすい。

 住民票の表記が事実と異なることが確認された場合には、役所は虚偽の事項を抹消する「職権消除」を行う。中でも、故意に事実に反する届け出をしたものは「住民票の虚偽記載」として分類されている。

 毎日新聞で東京23区が記録している「虚偽記載による職権消除」を集計したところ、99年度に438件、00年度に414件、01年度(一部は02年2月までの集計)に445件の職権消除が行われていた。住民の流出入が激しい新宿、渋谷、豊島の各区の件数が多かった。

 区役所の住民課職員らの話を総合すると、虚偽記載による住民票が消費者金融の借り逃げや外国人との偽装結婚、架空名義による携帯電話の購入、パスポートの不正取得などに使われ、警察が捜査したケースもあり、戸籍の改ざんを伴うものも多かった。

 毎日新聞の取材でも、(1)新宿区の芸能プロダクションの住所地に、戸籍改ざんグループが無断で3人の住所を設定した(2)新宿区新宿の改装中のマンション3室に3人の住所が設定され、携帯電話の料金請求先にされていた(3)虚偽の養子縁組の養子の住所として杉並区下井草のアパートの空き家が設定されていた(4)消費者金融を借り逃げするため、足立区鹿浜の別人の家に住民票が設定されていた――などの事例があった。

 現行制度では、住民登録は記載事項に問題がなければ受理される。虚偽記載の多発に伴い、対策として「身分証明書の提示を求めることもあります」などと張り紙を掲示する自治体も増えているが、強制力はなく、決め手にはなっていない。 【萩尾信也】(2002年5月9日毎日新聞)(http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020509-00000155-mai-soci

 

<偽装結婚>アジアから出稼ぎ女性 在留資格目的に 大阪・西成

 不況にあえぐ日雇い労働者が集まる大阪・西成のあいりん。ここを舞台にアジアからの出稼ぎ女性による偽装結婚がはびこっている。元鉄道公安官の加藤善一郎さん(77)が戸籍上、病死したことにされた替え玉事件で指名手配された尹麗娜(いんりな)容疑者(46)は、和風スナックの客に戸籍売買を持ちかけていたという。身寄りのない人が生活の糧に戸籍を売り、出稼ぎの中国人女性が隠れみのとして購入する裏ビジネス。不況の街に不気味な影がしのびよる。

 ◆戸籍相場も値崩れ

 「尹容疑者が客から戸籍を買い取っていたようだ」。尹容疑者があいりんで経営していたスナックに通っていた30代男性が打ち明けた。自分の店などで就労させるため、毎年数人の中国人女性を日本に受け入れていたらしく、戸籍を売る人物を日ごろから物色していたらしい。

 偽装結婚に詳しい関係者によると、仕事にあぶれて生活に行き詰まった男性が戸籍を売るケースが急増。「供給過剰」になり、相場は、以前の100万〜200万円から、50万円に下がっているという。

 ◆指南役が暗躍

 替え玉事件では、尹容疑者と病死男性に石川県野々市町の民家を紹介した越田俊昭容疑者(61)▽加藤さんと偽装結婚した尹容疑者▽相続を装って不正取得した宅地の売買仲介に動いた2人組の男――など複数の男女が役割分担をしていたとみられる。特に不動産登記には法的な知識が必要で、指南役が存在していた可能性が強い。

 大阪府警が昨年秋に摘発した偽装結婚事件では大阪入国管理局OBが関与していた。夫婦の実態があるかどうかを確認する入管の審査に備えて、「お互いの歯ぶらしの色」「昨日みたテレビ番組」など想定問答集を用意し、謝礼を受け取っていた。

 ◆見抜けない偽装

 就労目的で来日する女性にとって、偽装結婚は在留資格を取得するための単なる手段だ。同様の事件を担当した大阪市内の弁護士は「中国人女性にとって、日本に来る手数料と思っているようだ。逮捕された女性から『こんなことで逮捕されるのか』と疑問を突きつけられることも多い」と指摘する。(2002年5月21日毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020521-00001082-mai-soci

 

<偽装結婚>100人中50人が行方不明 福建省出身女性調査

 東京入国管理局が、日本人の配偶者の資格で昨年入国した中国・福建省出身者約170人について集中的な実態調査を初めて行ったところ、これまでに調査が終了した100人のうち約50人が、届け出た住居地に住んでおらず、所在が不明となっていることが21日、明らかになった。東京入管はこの50人について偽装結婚と断定、3〜4月に在留資格の更新を不許可とし、退去強制手続きをとった。偽装結婚問題で一挙にこれほどの処分をした例は過去にない。 (社会面に関連記事)

 東京入管は昨年12月、偽装結婚のあっせん組織の拠点があるとされる福建省出身者の一部について追跡調査をしたところ、ほとんどが偽装だったため、約400人の在留資格認定証明書を一斉に取り消して中国でビザを発給せず、入国を事前に阻止した。今回の調査で、偽装結婚がまん延している実態が浮き彫りになり、入管当局は全国に警戒を指示した。

 東京入管によると、調査は1月から4月末まで実施。日本人男性と結婚した福建省出身の女性らを対象に、来日して1年後の更新手続き時期に合わせて所在調査した。その結果、夫と妻双方、または妻だけが所在不明が約半数に上った。日本人の夫だけが所在するケースでは「妻は友だちの所へ行っている」などと弁明する例が多かったという。東京入管は残る70人についても、偽装結婚が判明し次第、退去強制手続きをとる方針。

 入管や警察当局の調べでは、日本人配偶者として来日しながら、個室マッサージなど風俗店で働く中国人女性が激増しており、東京入管は、今回偽装結婚と断定した約50人も就労目的とみて行方を追っている。

 外国人が日本人と結婚する場合、日本人が、結婚を証明する戸籍謄本などを添えて入管窓口に申し込み、相手の在留資格認定証明書を取得。証明書を受け取った配偶者が、在外公館で配偶者ビザを得て来日する。偽装結婚については、中国側に大規模な送り出し組織があるとみられる。また、日本側は暴力団が関与し、金銭を対価に「戸籍貸し」に応じるホームレスなどを組織的に掘り起こしているとされる。 【伊藤正志】(2002年5月21日毎日新聞)

http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20020521-00001086-mai-soci

 

<資料2>「(4/3)3行主導権争いも響く・複雑なシステム、統合準備遅れる

第一勧業、富士、日本興業の3行の再編で1日に発足した個人・中小企業向けの「みずほ銀行」の大規模なシステム障害は、発生から丸1日たった2日朝になってようやくほぼ復旧した。開業初日の混乱の背景には、システム面の準備不足とともに、統合をめぐる3行の主導権争いもある。

銀行界にはみずほ銀の発足前から「システム不良が発生する可能性が高い」との観測があった。その根拠は、みずほ銀の複雑なシステム統合計画だ。みずほ銀は、一気にシステム統合をせず、まず3行のシステムを中継コンピュータを通じて相互接続する方式を選んだ。完全な統合は1年後をメドに第一勧銀のシステムに集約する2段階の計画だ。

この背景には経営統合前の主導権争いがある。第一勧銀と富士銀が自行システムへの集約にこだわり、最終的な統合システムの青写真をつくるのが大幅に遅れた。発表から実際の経営統合までの2年以上の準備期間も十分に生かせなかった。計画作りに時間がかかり、接続試験などの準備が不足したまま本番を迎えることになったようだ。

みずほ銀のシステムの完全統合にはまだ1年かかる。みずほ銀は「再発防止に万全の態勢をとる」としているが、そのためにはまず組織内固めが必要との声がグループ内でもあがっている。」

日本経済新聞 NIKKEI NET 2002年4月3日 http://www.nikkei.co.jp/sp2/nt26/20020405kr545001_05.html (2002/04/08)

 

<資料3>ジャパンネット、ソニー、イーバンク、アイワイ

ネット銀行 中間決算報告!

今年は、ネット専業銀行や決済業務を中心とした銀行等、銀行業への新規参入が相次ぎました。現在、ネット専業銀行としては、ジャパンネット銀行、ソニー銀行、イーバンク銀行、の3行が、決済業務を中心とした銀行としては、アイワイバンク銀行(2001年12月17日よりインターネットサービス開始)が営業を行っています。こうした新規参入銀行の中間決算が出揃いました。

ネット専業銀行としては老舗のジャパンネット銀行は、Yahooオークションのオフィシャルバンクとして、Yahooオークションと一番始めに提携したことで口座数が一気に伸び、現在も、口座数は新規参入行の中でダントツトップ。

ソニー銀行は、定期預金の金利を高めに設定したり、米ドル外貨預金の為替手数料を1ドルあたり片道25銭(1円とする銀行が多い)にしたりと顧客取り込みに積極的。公共料金決済の取扱いを行っていないのは残念。また、2001年12月からポスペットをキャラクターとして採用し、新規顧客獲得へ。

イーバンク銀行は、少額決済サービスを中心とした銀行。個人間の送金は送金側にも受取側にも手数料がかからないのが魅力。ネットオークションの売り手と買い手がイーバンク銀行に口座を持っている場合は手数料無料で代金決済が可能です。ただし、普通預金の付利は50万円まで。また、2001年11月1日より定期預金の新規設定を終了。 

アイワイバンク銀行は、セブン-イレブン、イトーヨーカドー等の店舗にATMを設置し、主に個人の顧客を対象に、預け入れ・引き出し・振込みといった決済を中心としたサービスを提供。都市銀行との提携も進み、徐々にATMの使い勝手も向上。2001年12月17日より、待望のインターネット・モバイルバンキングのサービス開始。

上記、新規参入銀行の中間決算は以下の通りです。

ジャパンネット銀行以外は、今年の5月から7月にかけて開業したばかりの銀行であり、まだ開業から1年も経っておらず、単純な比較はできませんが

各銀行とも、初期投資がかさみ、また低金利下で利ざやが薄く、厳しい結果となっています。特に、ATMによる決済サービス中心のアイワイバンク銀行は、ATM設置のための初期投資負担に加え、ATM利用客の伸び悩みにより57億円近くの赤字。

銀行法は、新規参入銀行に対して、開業3年以内の黒字転換を求めているため、各銀行の今後の収益基盤強化が注目されます。 

(All About Japan 2001年12月20日)

http://allabout.co.jp/finance/bank/closeup/CU20011220R/index.htm (06/07/2002)

 

<資料4>SEC、投資銀行改革を検討〜株式アナリストと銀行営業部を分離へ

 投資銀行における金融部門と調査部門の癒着が問題となるなか、証券取引委員会(SEC)は、両部門が接触する場合に弁護士の立ちあいを義務づけることを含めた新規制の導入を検討している。

 フィナンシャル・タイムズによると、SECはそのほか、同じ契約に関与するリサーチ・アナリストと銀行部門の接触を禁止することも検討している。投資銀行では、大口預金部門と、投資顧客に投資助言する株式アナリストが連携することで市場開拓を行ってきたが、SECではその商慣行が株式アナリストと銀行部門の中立性を損なっていると問題視している。

 投資銀行では2つの部門の分離を義務づけた「チャイニーズ・ウォール」と呼ばれる規則がすでに適用されており、新規制はそれをさらに強化し各部門の中立性を高めるのが狙い。

 しかし、そうした新規制に対しては「ワンストップ・ショップの顧客サービスを提供するには部門間の緊密な関係維持が重要」という証券会社からの反対が出るのは必至と見られている。

 ニューヨーク州政府のエリオット・スピッツァー検事総長は現在、証券大手に対する関連調査を拡大しており、業界最大手メリルリンチに対して、リサーチ・アナリストが個人的には評価していない同社と取引のある企業の株を投資家に薦めていたと判断して、今後は投資家に取引企業を明示するよう指示したばかりだ。

 政府の調査は他にCSFB、モルガン・スタンレー、ソロモン・スミス・バーニー、ゴールドマン・サックス、リーマン・ブラザーズ、リザード、UBSワーバーグに対しても進められている。

更新02/04/11 19:17:35米国東部時間  U.S. Frontline http://www.usfl.com/Daily/News/02/04/0411_029.asp (05/29/2002)

 

 

 

 

参考文献

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