共創社会におけるアウトソーシング

大國 亨Ph.D.

 

はじめに

先般、アメリカにある精密ダイキャスト・モデルのメーカーからメールを(顧客の一人として)戴いた。長らく中国南部の珠江デルタ地帯の工場に生産を委託してきたが、ここ2年ほどより高給を支払うエレクトロニクスおよび自動車関連の産業が進出してきたため、優秀な労働力の流出に見まわれた。同時に生産に必要な原材料費も上昇してしまったという。この会社の場合、他の地域に移転することでこの事態を乗り越えようとしているようである。もちろんそのメールは、将来的な製品の値上げは不可避であるから、今お買いになるのがお得ですよ、と続くわけであるが、アウトソーシングにおける課題の一つを端無くも示しているといえるだろう。

コストダウンや限りある経営資源を集中して使うことができるなど様々なメリットのあるアウトソーシングであり、共創社会では一つの必然である。しかし、なんでもかんでもアウトソースすればよいわけではない。本論文ではアウトソースにまつわる様々な問題を明らかにするものである。

 

アウトソーシングとは何か

アウトソーシングという言葉も“企業経営のソリューション”(何を言っているのか分かるひとがどれだけいるのだろうか)として大変流行したので、耳にされた方も多いと思う。実際には、アウトソーシングという言葉には複数の概念が含まれている。また、オフショアリング、グローバル・ソーシング等の類似の用語が時には全く同じものとして、時には微妙に異なった意味合いに用いられたりしている。混乱を避けるため、本論文においては、アウトソーシングという言葉を用いるものとする。アウトソーシングとは、「ある企業がサービス提供業者と契約を結び、サービス提供業者が企業に代わって何らかの業務を行なうこと」を意味するものとする。

さらに、アウトソース先のサービス提供業者が母体企業グループに属しているグループ内アウトソースや、全くの第三者に業務委託する社外アウトソースに分かれる。

 

アウトソーシングの歴史

ただし、企業本体で行なうことが困難である業務を外部委託することは古くから行なわれてきた。例えば、配布するパンフレットの印刷を印刷業者に委託したり、業務について税理士や弁護士に相談するといったことは以前から当然のこととして行なわれてきた。また、制度的に外部委託しなくてはならない監査業務なども存在する。旧来型の大企業や軍隊ではなんでもかんでも抱え込む場合もあるが(大企業の場合、企業村に病院や娯楽施設、住宅などを抱え込んでいた。軍隊も、日本における米軍基地を見れば分かるように、基地の中は完全にアメリカの町として設計されている。病院や娯楽施設、住宅など全てがアメリカ仕様で設計されていて、買い物も米国と同じようにできるし、車だって右側通行である)、そのような大組織は例外であるし、大組織でさえも変質しつつあることは拙著(大國亨(2003)『共創社会におけるコンプライアンス ――今なぜコンプライアンスが必要とされるのか――』日本文藝社)でも明らかにしたところである。アウトソーシングに関してどのような変化が起きているのであろうか。

 

どのような機能がアウトソースされているか

米国のアウトソーシング研究所(Outsourcing Institute, http://www.outsourcing.com/)は会員1,911名(2003年度)から得られた情報をもとにアウトソーシングに関する各種情報を分析、公表している。

1に見られるように、アウトソーシングする機能の主流はなんといってもIT分野であるが、その他事務管理、人事を含め、経営の中枢業務である意思決定作業を除くあらゆる分野でアウトソーシングが取り入れられている現状がお分かりいただけるものと思う。

1 どのような機能をアウトソースしているか

注 複数回答のため合計値は100%にはならない。


出典 Outsourcing Institute, (2003), “Outsourcing Institute,” 大國亨訳

 


続いてアウトソーシングする理由としては図2に見られるとおりコスト削減が重視されているのはもちろんであるが、事業戦略として事業の焦点を絞ることも重視されていることが分かる。その他挙げられている事由も、グローバル化した企業が最適な事業展開を求めていく上でアウトソーシングが最適てあると判断されたから採用されたのであろうことを伺わせる。当初、コスト削減を目的として広く取り入れられたアウトソーシングも、歳月を経て企業経営の最適化を勘案した上で採用されるようになったのであろう。

2 アウトソースする理由 トップ10


注 複数回答のため合計値は100%にはならない。

出典 Outsourcing Institute, (2003), “Outsourcing Institute,” 大國亨訳

 

同様の傾向はサービス提供業者を選択する際に重視する要件(図3)にも現れている。価格を最重要視するのはもちろんであるが、品質、将来を見越した柔軟な契約要件なども充分考慮されている。アウトソーシングが短期的なコスト削減だけではなく、長期的な事業戦略に基づいて選択されていることが伺える。

3 サービス提供業者を選択する際にもっとも重視する要件


注 複数回答のため合計値は100%にはならない。

出典 Outsourcing Institute, (2003), “Outsourcing Institute,” 大國亨訳

 

アウトソーシングをめぐる最近の動向

アウトソーシングをめぐって最近もいくつかの報道がなされた。

コンピュータの直接販売の雄であるデルは、最近法人顧客のテクニカル・サポートのコールセンターをインドのバンガロールからテキサス、アイダホ、テネシーなどの米国内の拠点に移すことを決定した。顧客からはインドのコールセンターは訛りがひどく、紋切り型の返答しかしてこないので使い勝手が悪いと苦情が殺到したそうである(Associated Press, 11/25/2003)。

一方、最近バンク・ワンと合併したJPモルガン・チェースはIBMと交わしていた総額50億ドルに上る7年のアウトソーシング契約をキャンセルした。

この場合、JPモルガン・チェースはIBMのサービスに不満を持ったわけではないが、バンク・ワンと合併したことにより自社に必要とされるサービスを社内で開発できることになったため契約をキャンセルすることになったのである。ただし、JPモルガン・チェースのCIOは長期的な成長や成功のためには社内技術インフラを社内で管理するのが最適であると述べている(Yahoo!ニュース-コンピュータ-CNET Japanhttp://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20040916-00000005-cnet-sci (10/6/2004))。

 

事例から得られる教訓

冒頭に上げた精密ダイキャスト・モデルのメーカーの事例からは、製造業の生命線である製造行程をアウトソースすることによるリスクを示しているといえるだろう。確かに精密ダイキャストを米国内で手作りしていたら価格はとんでもないものになってしまう。従って熟練労働者の賃金が安い地域を目指して進出するわけであるが、賃金はいつまでも安いままではない。需要が勝れば上がるのである。単に「安さ」だけを追求してアウトソーシングに頼っているとしっぺ返しを食うことになるのである。

ここ数年日本で流行っていた食玩も同地域で生産していたと記憶している。生産価格が高騰してしまっては成り立たないことは明らかである(200円のお菓子のおまけも、日本で生産したら2000円になってしまうとか)。今後が注目される。

デルの事例から得られる教訓は、顧客は必ずしも価格にばかりこだわるわけではなく、サービスの品質にも重大な関心を持っている、ということであろう。

コールセンターのアウトソーシングは最近日本でも注目されている分野である。日本語ができるオペレーターを集められ、なおかつ人件費が安いことから、沖縄などにコールセンターを設置するケースがある。さらに、中国の大連にも進出計画があると聞く。

コールセンターは一定の教育を施した多くの人員を貼り付けなくてはならないことから、多くの企業でコスト・センターと位置付けられている。確かにきちんと電話がかかり、トラブルが解決すればコールセンターの所在は関係ない、といえるかもしれない。しかし、コールセンターはコスト削減のため外国に設置してあります、と聞いて、この会社は顧客を大事にする会社だな、と思うであろうか。企業からすればコールセンターにかかってくる電話は何千本、何万本とかかってくる内の一本かも知れないが、顧客の立場からすれば、コールセンターにかける電話は最後の頼みの綱なのである。多くの顧客は暇つぶしのために電話をかけるのではない。何かトラブルがあり、その解決を願って電話するのである。

近年CS(顧客満足度)が重視されるようになってきた。市場が無限に成長を続ける、行け行けどんどんの時代が終わり、成熟型の社会に移行してきたからである。低成長の時代では新規顧客を見つけるより、一人の顧客に長くご愛顧願ったほうが効率が良い。だからCSが重要なのである。

最近のコンピュータなどは設定方法など極めて複雑であり、何か新しいことをしようとした場合、いくらマニュアルを読んでも良く分からない、それどころかどこに何が書いてあるかさえ分からない、といった状況に陥りがちである。世の中コンピュータオタクばかりではないのである。そこでコールセンターに電話をかけることになる。なかなかつながらないコールセンターにやっとつながった、と思ったらとんちんかんな答えしか返ってこない、たらい回しにされた、というのでは、CSもへったくれもない。複雑な機械になればなるほどコールセンターのようなソフト面のサービスも製品の一部として重要になるのである。現に、そのようなサービスをパッケージ化し、有料で提供しているコンピュータ・メーカーも多い。コスト・センターをプロフィット・センター化していく興味深い試みであると言えるだろう。

JPモルガン・チェースの事例はどうであろうか。記事の紹介でも書いたように、決してIBMのサービスに失望したから契約を打ち切ったわけではない。それどころか、JPモルガン・チェースはIBMとの関係を今後も続けていくという。それでは何で契約を打ち切ったのであろうか。

近年、金融業は一大IT産業になりつつある。IT分野への投資が死命を決するのである。JPモルガン・チェースとしては、従来からのIBMとの関係を生かしてIT戦略を構築することも可能であっただろう。しかし、同社は独自開発路線を選択した。ご存知のようにIBMIT業界の巨人である。すばらしい技術開発力やソリューション提案力を持っているであろうことに疑いはない。しかし、IBMは巨人であるがゆえに、様々な企業と業務関係がある。もちろん機密情報が簡単に他社に漏れる、などということが起こりうるとは思えない。ただ、IBMJPモルガン・チェースの問題解決に使った能力が他行との関係において使われることは大いにありうる。JPモルガン・チェースは金融業界のフロント・ランナーとして活躍したいと思っている。先端金融理論などはあるいは特許などで守ることは可能かもしれない。しかし、先端的な金融サービスは何もロケット工学だけでできているわけではない。すでに既知の様々な知識・経験を組み合わせて対応するのが普通なのである。

また、JPモルガン・チェースとIBMの契約は大変広範囲に及ぶものであったそうである。これも、日進月歩のマーケットを相手にしている金融業界にとっては足かせになる可能性がある。小さなプログラムであれば解決できるサービス提供業者を多く見つけられるし、契約の打ち切り、異なった開発計画へのシフトなど素早く対応することができる。経営資源の一極集中にはメリットもあるが、デメリットも存在するのである。

 

アウトソーシングのリスク

業務のアウトソーシングによってどのようなリスクがもたらされるのであろうか。BCBSIOSCOIAISのジョイント・フォーラムの協議書では以下のようなアウトソーシングに関するリスクがあげられるでいる。

1 アウトソーシングの主要なリスク

リスク

主な懸念

戦略的リスク

規制対象企業の全体的な戦略目標とは整合しない形で、第三者は自らのために事業を行う恐れがある。

サービス提供業者の監督が適切に行えないない場合がある。

サービス提供業者を監督するための専門知識が不足する場合がある。

風評リスク

サービス提供業者のサービスの質が悪い場合。

顧客対応が規制対象企業と一致しない場合がある。

サービス提供業者の慣行が規制対象企業の定める慣行(倫理その他)と一致しない場合がある。

コンプライアンス・リスク

プライバシー関連法令を守らない場合。

消費者とプルーデンシャルに関する法律を守らない場合。

サービス提供業者が適切なコンプライアンス体制とその統制を持たない場合。

オペレーショナル・リスク

技術上の障害。

義務の履行や救済措置を実行するための財務能力が不十分である場合。

不正行為や過失。

企業にとって検査を行なうことが困難又は高価となるリスク。

撤退戦略リスク

適切な撤退戦略が用意されないリスク。単一企業への過度の依存、関連技術が金融機関自体から失われ、対象業務を社内に戻すことができなくなること、あるいは迅速な撤退を不可能にする懲罰的条項の存在などによってもたらされる。

人員不足あるいは専門知識の蓄積が失われたことによって業務を本国に戻しにくくなってしまう場合。

契約相手リスク

不適切な引受けあるいは信用評価。

債権の質が低下する。

カントリー・リスク

政治的、社会的、法的環境が追加的リスクをもたらす場合。

事業継続計画が複雑化する場合がある。

契約リスク

契約を遂行する能力。

オフショアリング(国外へのアウトソース)については、管轄法の選択が重要である。

アクセス・リスク

規制対象企業が規制当局にタイムリーにデータやその他の情報を提供する能力を、アウトソーシング契約が制限してしまう場合がある。

サービス提供業者の業務を理解するという新たな困難を規制当局にもたらす。

集中あるいはシステミック・リスク

業界全体がサービス提供業者に対して大きなリスクを抱えることになる。この集中リスクには、以下を含む多くの側面がある。

·           サービス提供業者に対する個別企業による統制の不足

·           業界全体にとってのシステミック・リスク

出典 BCBS, IOSCO, IAIS, (2004) ”Outsourcing in Financial Services”, 大國亨訳

 

精密ダイキャスト・モデルのメーカーはカントリー・リスク、デルの場合はオペレーショナル・リスク、JPモルガン・チェースの場合は集中リスクが顕在化したものであるといえるであろう。

アウトソーシング研究所はどのような問題が生ずるかについても総計を取っている。

4 一般的問題発生分野


注 複数回答のため合計値は100%にはならない。

出典 Outsourcing Institute, (2003), “Outsourcing Institute,” 大國亨訳

 

これに対して、アウトソーシング契約を成功させるために最も重要なファクターについても統計を取っている。

5に見るとおり、最も重要なファクターとして挙げられているのは適切なサービス提供業者を選択することであるが、次に重要視されているのは、継続的な管理である。アウトソーシング契約というのは締結してアウトソースされた業務が始まった後も、継続的な見直しを行ない、問題が発見された場合、改善策が取られなくてはならない。そしてアウトソースしている期間を通じてこのプロセスが繰り返されるのである。

5 アウトソーシングを成功させる最も重要なファクター


複数回答のため合計値は100%にはならない。

出典 Outsourcing Institute, (2003), “Outsourcing Institute,” 大國亨訳

 

アウトソーシングに伴うリスク管理方法を定めても、永年の取引関係があったり、サービス提供業者がグループ会社であった場合などにチェックが甘くなり勝ちである。また、サービス提供業者の方が専門家であり、委託側の企業としてチェックが行き届かなくなる場合も考えられる。その場合、適宜外部監査を導入するなど、リスクを適切に管理する枠組みを構築することが重要であるといえるだろう。

 

アウトソーシングに対する規制(金融業界)

企業にとって本質的でない業務、あるいは付随的業務をアウトソースすることは企業統治の観点に鑑みて問題無いとしても、企業の本質的業務をアウトソースする場合、様々な観点からリスクを検討する必要がある。また、現実の問題として金融関係ではBCBS(バーゼル銀行監視委員会)などが中心になってアウトソーシングに関する規制のための原則を作成しており、各国でもそれにならった規制が敷かれつつある。

2 各国のアウトソーシングへの対応

オーストラリア

200271日から銀行のアウトソーシングに関するプルーデンシャル基準を施行した。保険部門も、正式な基準導入までこの基準に従うよう指導されている。

ベルギー

20046月、CBFA(銀行金融保険委員会)はCEBS(欧州銀行監督委員会)諮問報告書に基づき、銀行と投資サービス部門に対して共通指針通達を発布した。保険部門についても同一指針施行に関する協議が開始された。

カナダ

20015OSFI(金融機関監督局)は、アウトソーシングをする場合に期待される要件を定めた指針B-10を導入、200312月には同指針の改訂版を発行した。連邦政府の規制対象企業はすべて、20041215日までに改訂版指針に従わなくてはならない。

ドイツ

200112月、ドイツ当局はすべての与信機関と金融サービス会社を対象とした指針を発表した。業務のアウトソーシングによって以下を妨げないようにするため、指針はアウトソーシングに関する要件を定めている。(1)対象業務あるいはサービスの秩序、(2)対象業務を管理・監視する管理者の能力、または、(3BaFin(連邦金融監督庁)が管轄区域内の与信機関を監査する権利とこれを監視する能力。

日本

20014月、日本銀行はアウトソーシングに際するリスク管理において期待される要件を定めた金融機関向けの健全業務遂行のための報告書を発表した。

金融庁は金融機関の検査マニュアルを発行した。マニュアルはアウトソーシング契約に関するリスク管理のチェックポイントを定めている。

オランダ

200141日、オランダ中央銀行(与信機関の慎重な監督当局)は「組織と統制に関する規則」を発表した。この規制のセクション2.6はビジネス過程(の構成要素)のアウトソーシングを規定している。200421日、オランダ年金・保険監督庁(保険会社と年金基金の慎重な監督当局)は「保険会社によるアウトソーシングに関する規則」を発表した。

スイス

19998月、SFBC(スイス連邦銀行委員会)は銀行と証券会社に対して「アウトソーシング・ガイドライン」を導入、SFBCの明示的同意なしにアウトソーシングができるようにした。

ガイドラインの遵守状況は年1回の外部監査に服する。

アウトソーシング契約は書面で行われなくてはならない。また、金融機関の内部統制システムにアウトソースされた業務を一体化させなくてはならない。アウトソーシング契約において、当該金融機関、その内部・外部監査人およびSFBCによる訪問と統制を明示的に認めなくてはならない。

金融機関の取締役会機能および経営中枢機能をアウトソースしてはならない。

英国

英国FSA(金融サービス機構)は銀行向けの「暫定的プルーデンシャル ソースブック(Interim Prudential Sourcebook)」で、銀行と住宅金融組合に対するガイドラインを定めた。保険会社向けの「暫定的プルーデンシャル ソースブック」のガイダンス・ノートP3もほぼ同様な規定をしている。

ガイドラインは重要なアウトソーシングと重要でないアウトソーシングの双方を対象としているが、重要なアウトソーシングに重点を置いている。重要なアウトソーシング契約を結ぶ前に企業はFSAに対して報告しなくてはならない。

200412月には、FSAハンドブックの新しい章SYSC 3A.7において新たなガイドラインが導入される予定である。

米国(証券会社)

従来証券会社の社内で行ってきたの伝統的なプロセスや手続に変更をもたらす一定のアウトソーシングを行う場合、証券規制当局が事前承認を与えてきた。

ニューヨーク証券取引所(ほとんどの大手企業が会員である)の規則342346および382は、アウトソーシングを禁止するか、アウトソーシング先を全面的もしくは規制対象者のみに制限すると解釈されてきた。

証券取引所法の登録要件は、未登録者(適当な証券取引組織に登録されている者)が一定の業務をすることを禁止していると解釈されてきた。

米国(銀行)

米国に5つある金融機関規制当局を傘下に収めるFFIEC(連邦金融機関検査協議会)は、ITアウトソーシング関係のリスクを管理する際の銀行の責務を明確化し、検査官に対する指針を提供することを目的として一連のガイドラインと公報を公布した。最近の更新において、第三者との関係における情報セキュリティ・リスクに具体的に取り扱っている。

最近の米国における銀行に対するアウトソーシングに関する規制は下記を含む:

OCC(通貨監督官事務所)公報2001-47「第三者関係:リスク管理原則」(200111月)。

「アウトソーシングされた技術サービスのリスク管理に関するFFIEC指針」(200011月)。

FDIC(連邦預金保険会社)の3つの技術関連公報「サービス提供業者選択のための効果的慣行」、「技術提供業者のパフォーマンスリスク管理ツール:サービス水準協定」および「複数のサービス提供業者を管理するテクニック」(20016月)。

FFIECITハンドブック「技術サービス・プロバイダー(TSP)監督小冊子」(20035月)において、TSP関係の監視と管理に対するリスクに基づいた監督方法を概説している。

2004年半ば、米国の銀行監督官はITアウトソーシング関係を確立、管理および監視するための金融機関のリスク管理プロセスを検査官が評価する際の参考となる指針と検査手続を規定している技術サービスのアウトソーシングに関するFFIECIT検査ハンドブックの改訂版を完成させた。

米国(保険)

米国では、州保険監督官がさまざまな方法で保険会社による業務のアウトソーシングに対処している。本質的業務のアウトソーシングには、監督官に具体的な法的権限を与えることで対処している。例えば、一般代理店と第三者管理機関の管理に関する法律があげられる(NAIC(全米保険監督官協会)一般代理店管理モデル法、第三者管理機関モデル法により規定)。

その他アウトソースされる業務については、企業の内部統制を検査する市場活動の立入検査の過程−例えば保険金請求の処理や投資管理など−で対応しており、違反には、監督官に不正な保険金支払や不正な取引慣行を防止する権限を与えることで対応している。

NAICの市場規則・消費者問題(D)委員会は、保険会社が第三者サービス提供業者を利用している分野のうち、現行の規制権限が及ばないものに対処するため「第三者サービス提供業者作業部会」を設置した。作業部会はNAICの「市場活動検査官ハンドブック」に組み込まれる勧告を提出する予定。

出典 BCBS, IOSCO, IAIS, (2004) ”Outsourcing in Financial Services”, 大國亨訳

 

規制の概要

BCBSはひとつのガイドラインとして各国金融業界におけるアウトソーシングに関する規制の基本方針(BCBS, IOSCO, IAIS, (2004), ”Outsourcing in Financial Services”)を提示しているものであり、決して細かい規則を指図しているわけではない。

BCBSIOSCOIAISのジョイント・フォーラムの協議書において、9つの原則が示されている。

I                     業務をアウトソースしようとする規制対象企業は、その業務をどのようにアウトソースするか評価するための、包括的な方針を用意しなくてはならない。取締役会もしくは同等の機関がアウトソーシング指針に対する責任と、その指針の下でなされる業務に関連するすべての責任を負う。

II                  規制対象企業は、アウトソースされた業務およびサービス提供業者との関係に関する包括的なアウトソーシング・リスク管理プログラムを策定しなくてはならない。

III               規制対象企業は、アウトソーシング契約により、顧客や、規制当局に対する履行義務を果たす能力が損なわれないこと、そして、規制当局による効果的な監督を妨げることがないようにしなくてはならない。

IV                規制対象企業は、第三者であるサービス提供業者を選択する際に、適切なデューディリジェンス行なわなくてはならない。

V                   アウトソーシングにおける契約関係は、全当事者の権利、責任、予測といった、アウトソーシング契約の全ての重要な側面を書面化した契約により規定されなくてはんらない。

VI                規制対象企業およびそのサービス提供業者は、災害発生時の復興計画やバックアップ設備の定期点検を含む緊急時対応計画を定め、維持しなくてはならない。

VII             サービス業者に対して、規制対象企業とその顧客の機密情報を故意に、または、不注意で権限のない人物に漏洩することが無いように求めるため、規制対象企業は適切な措置を講じなくてはならない。

VIII          規制当局は、規制対象企業を継続的に評価する際、アウトソーシング業務を不可欠な部分として捉えなくてはならない。
規制当局は、いかなるアウトソーシング契約も規制対象企業が規制要件を充足する上での妨げとならないことを、適切な手段をもって確保しなくてはならない。

IX                規制当局は、複数の規制対象企業のアウトソース業務が特定のサービス提供者に集中している場合、潜在的リスク要因となることを認識しなくてはならない。

Outsourcing Institute, (2003), “Outsourcing Institute,” 大國亨訳)

 

IからVIIまでの項目は規制対象企業が業務をアウトソースする際に守らなくてはならない項目を示したものであり、残りのふたつは規制当局の責任を明らかにしている。

各国の規制当局は上記ガイドラインをもとにより詳細なアウトソーシングに対する規制を各国の規制や法令環境、各業種に特有な慣行などを勘案して規制を行なうことが期待されている。今や一国の金融不安は決して一国に留まるものではなく、グローバルな影響を持つからである。

5でも示されているとおり、アウトソーシングとは事業方針の決定、サービス提供業者の選定、契約の締結、契約条項の順守とその確認といった一連のプロセスを意味するのであって、単なる業務の外部委託ではないのである。

 

共創社会におけるアウトソーシングの意味

IT技術の進歩とそれに伴う社会のネットワーク化により、製造設備を持たない製造業者、販売組織を持たない商社など、以前は想像もつかなかった企業が出現してきた。このようなネットワーク社会においては社会的信頼(コンプライアンス)の存在が不可欠であることは拙著(大國亨(2003)『共創社会におけるコンプライアンス ――今なぜコンプライアンスが必要とされるのか――』日本文藝社)でも明らかにしたところである。

共創社会では必然的に大きな会社は分割され、各企業がゆるやかなネットワークで結ばれる。そのような各企業にとって、あらゆる業務を社内に抱え込むのではなく、経営資源をコア・コンピテンシーに集中、足りない部分は外部にアウトソースする、というのは必然的な流れであろう。

しかし、アウトソースする業務とはいえ、企業にとっては企業統治上、あるいは法令上必要な業務なのである。必要が無いのであれば止めてしまえばいいのであるから。そのような業務をアウトソースすることは当然大きなリスクを伴う。そのリスクを最小限に留めるよう管理することが企業に求められている。

リスクを極小化するためには、サービス提供業者が契約条件の順守に勤めのはもちろんであるが、アウトソースする企業側も契約の履行状態をチェックする管理体制を取らなくてはならない。そして、契約条件はぎちぎちに詰められたものではなく、業務を遂行していく上で必然的に出現する環境の変化や突発事項に対しても対応できる柔軟性を持っていなくてはならない。紛争が生じた場合の解決方法についても一定のルールを設けておくことが好ましい。紛争が起こったら即座に訴訟沙汰になる、というのはお互いに時間と労力の無駄であるし、特に海外にアウトソースする場合(オフショアリング)、紛争解決の標準的な手順を用意しておかないと、解決にいたずらに時間と労力を費やすことになる。

また、予想される災害などに対しては充分な復興計画が策定されていなくてはならない。サービス提供業者が災害復興計画を用意しており、アウトソースする企業側がそれを検証できるように備えておくのはもちろん、万一に備えてアウトソースする企業側が当該業務をもう一度内部で処理したり、あるいは別の業者を選定するなどと言った撤退プログラムを用意しておくことが必要な場合もあるであろう。

共創社会は信頼をキーワードとして結ばれた社会である。しかし、相手を信頼しているから何もしなくて良いのではない。相手を信頼しているからこそお互いにチェックし合えるのである。相互牽制機能が働かないと、戦略的なパートナー関係は成り立たない。一方的な思いこみだけでアウトソースする側とされる側が業務を続けていたのでは、アウトソーシング関係は長続きしないだろう。お互いがチェックし合うことにより、方針のずれを絶えず修正することが可能になる。そのような関係が成り立って初めてアウトソーシング関係は成功するのである。

共創社会においてアウトソーシングは必然であり、必然であるからこそアウトソーシングもまた共創社会における様々な関係と同様に信頼をキーワードとして成立していることが分かるであろう。

信頼できるパートナーをサービス提供業者として戦略的に最適であると判断された業務をアウトソースする、それが共創社会におけるアウトソーシングなのである。また、そのような観点から本論文で触れた事例を検証してみると、至極真っ当な判断をしていることがお分かりいただけるであろう。

  

 

参考文献

BCBS, IOSCO, IAIS, (2004), ”Outsourcing in Financial Services”, http://www.bis.org/publ/joint09.pdf (10/07/2004)

Deloitte Development LLC, (2004), “The Titans Take Hold,” http://www.deloitte.com/dtt/cda/doc/content/offshoring%20Final%280%29.pdf

日本銀行(2001)「金融機関のアウトソーシングに際してのリスク管理」http://www.boj.or.jp/set/01/fsk0104b.htm (10/07/2004)

Outsourcing Institute, (2003), “Outsourcing Institute,” http://www.outsourcing.com/ (10/07/2004)