経営管理(MGM702)3クレジット

ビジネスモデル特許戦略

Rushmore University

Global Distance Learning DBA

大國

1998年7月に米国の連邦巡回控訴裁判所(CAFC)によってその後のビジネスモデル特許に関する認識を一変させる判決が下された。その後、日本においてもビジネスモデル特許が大いに話題となったことは記憶に新しい。折からのインターネット・ビジネスの隆盛とともに、ビジネスモデル特許は、今もっとも注目されている経営戦略といってよいであろう。

本稿においては、ビジネスモデル特許に関する歴史を振り返るとともに、今後のビジネスモデル特許戦略をいかに展開させていくかを検証する。

目次

1.はじめに

2.特許とは

2.1ステート・ストリート銀行事件

2.1.1事件の概要
2.1.2判決

2.2日本におけるビジネスモデル特許

2.3アメリカとヨーロッパのビジネスモデル特許に関する考え方

2.3.1アメリカの場合
2.3.2欧州の場合

2.4アメリカにおけるビジネスモデル特許

3.ビジネスモデル特許の影響

4.ビジネスモデル特許戦略

4.1早い者勝ち

4.2具体的な戦略

5.結論

 

 

1.はじめに

ビジネスモデル特許が認められることになり、特許に関する認識が大幅に変化した。また、ビジネスモデル特許の成立は、今後のビジネスのあり方にも変革を要求するようになった。今後、新しいビジネスの展開を考えていく上で、いかにビジネスモデル特許を取得するかは、ビジネスを差別化していく上で強力な武器になりうると思われる。ビジネスモデル特許とはどのように成立するものであり、どのように活用すべきなのであろうか。

2.特許とは

特許の本来の目的は、新しい技術を保護するものである。特許法第1条に、「この法律は、発明の保護及び利益を図ることにより、発明を奨励し、もって産業の発達に寄与することを目的とする」とあるように、新しい発明の独占使用を特許権者に認めることにより、その利益を保護し、さらなる発明を促す効果を狙っている。発明や考案は、具体的な物体とは異なり、制度による保護がなければ、発明者が独占的に支配できるわけではない。ある発明を秘密にしておけば、発明自体は独占できるかもしれないが、発明を活用して利益を得ることはできない。社会全体としても、発明が明らかにならないことによって発明の有効利用が妨げられる上、情報が共有されないため、同じ物を発明するための研究が社会全体で繰り返される無駄が生じる。

そこで特許制度を設け、発明者には一定期間、一定の条件のもとに特許権を与えて発明の保護を図るとともに、その発明を公開して更なる技術の発展を図るものである。

2.1ステート・ストリート銀行事件

2.1.1事件の概要

シグネチャー社(Signature Financial Group Inc.,)は米国特許5193056において、投資信託の運用方法に関する特許を所有していた。特許の内容は、複数の投資信託をまとめて運用するとともに、各投資家がそれぞれの資産状況を確認できるようにしたものである。複数の投資信託をまとめて運用することにより管理費用を節約できるスケールメリットと、パートナーシップ制度の利用による節税効果をメリットとしてあげている。

また、シグネチャー社は個々の投資信託を車輪のスポークとし、これを集めて作成したポートフォリオを車輪のハブと見立てて、全体をハブ・アンド・スポーク(Hub & Spoke)と呼んで、商標登録している点も興味深い。

1 ハブ&スポーク特許

出典 古屋 栄男「ビジネスモデル特許の事例」

この特許に興味を示したステート・ストリート銀行は、シグネチャー社に特許の使用許可を申し出たが、条件面で折り合わず、契約が成立しなかった。ステート・ストリート銀行は無償でこのシステムを使用するため、特許無効の訴えを起こした。

2.1.2判決

一審である連邦地裁は、ビジネス方法は特許にならないとして特許の無効宣言をした。これを不服としたシグネチャー社は控訴、CAFCは一審判決を覆し、特許有効と判断した。

実は、米国においても、ビジネス方法は特許にならないと一般的に考えられてきた。この事例として引用されるのが1908年のホテル・セキュリティー事件(Hotel Security Checking Co. v. Lorraine Co)である。この特許は、レストランの売上を記録しておき、従業員が不正を働かないようにするシステムであった。この特許は成立せず、ビジネス方法は特許にならないとの判断が定着していた。

CAFCの判決は、ステート・ストリート事件において、ビジネス方法も特許になりうるとの衝撃的な判断を下した。ただし、これは判例変更ではなく、従来の判例においてこれと対立する先例はないとしている。

米国特許法101条は、特許の対象となる発明の定義として、新規かつ有用な方法、機械、製品もしくは組成物、または、それらに対する新規かつ有用な改良の発明または発見とし、それらを発明または発見したものは、米国特許法の定める条件及び要求にしたがって特許を受けることができるとしている(1)

この条文により、CAFCは数学的アルゴリズムであっても、何か実用的な目的に応用されるのであれば、特許が認められるとした(2)

従って、純粋な数学的アルゴリズム(例えば近年解決されたとする「フェルマーの大定理」の証明方法など)は特許の対象とはなり得ないが、それが有用な目的に応用されるのであれば、特許が認められる。

また、ビジネス方法の特許についても、他の特許と同じ法的な要求にしたがって特許が認められる、また、裁判所は、かつて、ビジネス方法が特許の対象とはなりえないという判断はしたことがない3)としている。

1908年のホテル・セキュリティー事件で特許が否定されたのは、ビジネス方法に特許適格性が認められないとしたものではなく、同特許申請に新規性や発明性が認められなかったためであるとした(4)

この判決によれば、ビジネス方法そのものも、新規性や発明性が認められれば特許が成立することになる。

以上により、シグネチャー社の特許を認めたのである。

2.2日本におけるビジネスモデル特許

シグネチャー社は日本にも特許を出願したが、特許は成立しなかった5)

特許の基準は各国で若干の違いがあり、申請する国によって特許が成立したりしなかったりする。日本において特許で保護される発明とは、@発明であること、A新規性があること、B進歩性があることの3要件を満たさなくてはならないとされている。

@の発明とは、「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(特許法第2条)と規定されている。発明に該当しないものとしては、エネルギー保存の法則や万有引力の法則などがあげられる。また、自然法則に反する永久機関や美的創造物なども発明とはみなされない。

ビジネスモデル特許については、ビジネス方法そのものは、上記自然法則を利用していないので、特許は与えられないことになる。ただし、ビジネスモデル特許については、ソフトウェア特許の概念が援用されており、ハードウェアとしてIT技術を用いる場合には、特許の対象となりうるとしている。

ソフトウェアにおいては、あるアイデアを具体的に実現するには、何らかの技術に依存することになる。その技術のひとつに、ITも含まれる。ITを活用することにより、ハードウェアとして新たな専用装置を創作しなくても、ソフトウェアの制御により、あたかも専用装置を創作したかのような効果が得られるのである(特許庁「ビジネス方法の特許について」)。

だからといって、既存のビジネスモデルをインターネット上に移行するだけでは、特許とは認められない。特許法第29条(6)に規定する新規性や進歩性が求められるのである。

Aの新規性とは、それ以前に日本内外で発表された発明ではいけないということである。その発表の中には、例えば自社のホームページに次期プロジェクト計画として公開した場合なども含まれる(ただし、特許法第30条に出願者自身が公表した場合には、6ヶ月以内に出願すれば、新規性を失わないとの例外規定が存在する)ので注意が必要である。

Bの進歩性とは、その分野の専門家が容易に思いつくものでないことである。容易に思いつくものである場合には、特許は認められない。前述の、既存のビジネスモデルをインターネット上で行うだけでは、新規性はあっても、進歩性がないとして特許は与えられない。

また、特許法第29条(6)の冒頭に、産業上利用することができる発明と書かれている。ここでいう産業とは、一般的な製造業以外の農業、漁業など、広く含まれる。実務上は、「「産業上利用することができる発明」の審査の運用指針」において、「「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型」にあたらないものは、原則として産業上利用することができるものとみなされる。

「産業上利用することができる発明」に該当しないものの類型としては、人間を手術・治療・診断する方法など、医療行為にかかわるものがあげられており、これらに特許は認められていない。ただし、医療機器や医薬品そのものは特許の対象となり得る。

また、変わった例としては、理論的には実施可能であっても、実際上不可能な発明、「オゾン層の減少に伴う紫外線の増加を防ぐために、地球表面全体を紫外線吸収プラスチックフィルムで覆う方法」はその実施が実際上考えられないとして特許は与えられない(特許庁「「産業上利用することができる発明」の審査の運用指針」)。

ビジネスモデル特許という言葉自体が最近話題になったので、ビジネスモデル特許は最近成立した概念であると思われがちであるが、純粋にビジネス特許として特許権を得たものではないものでも、現在ではほとんどビジネス特許と考えられるものもある。

カンバン方式

何の説明も要らないトヨタの生産システム特許。オリジナルのカンバン方式については、平成1年に出願、平成3年に登録されている。その後も、発注時の数量と納品時の数量の照合をコンピュータ処理化、経理処理もネット経由で行われたデータにより自動的に行えるようにするなど改良が加えられた特許が取得されている。

自動車等の競売システム

これは、オンラインで自動車業者を結んで、オンライン上にオークション会場を作るものである。昭和63年に出願、平成1年に公開、平成10年に登録されている。その後も、発注時の数量と納品時の数量の照合を連番によりコンピュータで処理され、経理もネット経由で行えるようにするなどの改良が加えられ、特許が成立している。

スイング預金

これは、各種預金の預入れに優先順位と預け入れ限度額を設定しておき、入金された金銭を自動的に振り分けるシステムである。1983年に出願され、1992年にいったん特許すべきものであるとして広告されたが、その後特許適格性を否定する文献が発見され、結局特許は成立しなかった。

特許は成立しなかったが、充分にビジネスモデル特許の形態を持ったものであるといい得るであろう。

日本ばかりではなく、ビジネスモデル特許は米国においても、多数成立している。

2.3アメリカとヨーロッパのビジネスモデル特許に関する考え方

2.3.1アメリカの場合

アメリカでは、ステート・ストリート事件で記述したとおり、日本とは異なり、自然法則を利用したもの(コンピュータを用いたもの)である必要はない。何か何か実用的な目的に応用されるのであれば、特許が認められるとしたのは前述のとおりである。

日本や次に述べる欧州と比べても、特許に関する間口が最も広いものと思われる。

2.3.2欧州の場合

欧州特許庁においては、EPC(European Patent Convention)第52条(7)において、科学的発見や美的創造物と並んで、ビジネスを行うための仕組みや規則、コンピュータ・プログラムには特許権を付与しないとしている。これを額面どおりに受け取ると、欧州においては、ビジネスモデル特許は成立しないことになる。ただし、その運用は徐々に緩和されているようで、ビジネス方法やコンピュータ・プログラムに属するものでも、技術的効果をもたらすものについては、上記の除外項目にあたらないとしている(European Patent Office (2000), Patentability of methods of doing business)。この点は、後述する三極特許庁専門家会合でも確認されている。

従って、日本と同じような形ではあるが、コンピュータを利用したビジネスモデル特許は成立し得ると理解される。

2.4アメリカにおけるビジネスモデル特許

前述のハブ・アンド・スポーク特許のほかにも、数多くのビジネスモデル特許が存在する。そのうち、著名なものをいくつか紹介する。

ワンクリック特許

オンラインで買い物をしようとするとき、購入者は初回に自分の購入者情報を入力する。これに対してサーバー側は固有のクライアントIDを発生させ、購入者側に送り、購入者のPCに記憶される。再度購入する際には、購入者は商品を選ぶだけでクライアントIDとともにサーバー側に送られるので、購入者情報を改めて入力する必要がなくなるシステム。

逆オークション特許

プライスライン社を一躍有名にしたビジネスモデル特許。航空機のチケット販売の例がよく見かけられる。

顧客は仲介者であるプライスライン社に行く先、いくらなら買うかという指値、連絡先等を登録しておく。航空会社としては、たとえ空席があっても予定通りに航空機を飛ばさなくてはいけない。空席がある場合には単に空気を運ぶだけで何の利益ももたらさないのであるから、たとえ指値が大幅なディスカウントになったとしても、ゼロよりは好ましいので、チケットを販売するインセンティブが働く。取引が成立すれば、航空会社は空席を埋められるし、購入者は安くチケットを手に入れられるのである。

通常のオークションでは、売り手が値段を決めるが、この場合は買い手が値段を決めるので逆オークションと呼ばれているのである。また、逆オークション・システムには、支払いの確認という入力項目があり、売り手が買い手の条件を飲んだとき、買い手は必ず買わなければいけないことになっている。

ユニバーサル・ショッピングカート特許

個人発明家がYahoo!を訴えたことから大きく取り上げられた特許。

この特許は、買い手がオンライン上の複数のショッピング・モールから買い物をする場合に、個々に買い手の情報を交換せず、いったんショッピングカート・コンピュータに登録しておく。最後に、ショッピングカート・コンピュータの内容を確認して、一括して注文すると、それぞれのショッピング・モールに購入情報が送られる。

なお、ショッピングカート特許に関しては、米国において紛争は継続中。また、ショッピングカート特許は日本には出願されておらず、Yahoo! Japanのショッピング・モールではカートシステムが使われている。

3.ビジネスモデル特許の影響

ビジネスモデル特許については、伝統的なビジネスモデルをただ単にインターネットを用いることによって特許され得るといった誤解を受けたことから、さまざまな批判にさらされてきた。特に、前述したアマゾン・ドット・コムのワンクリック特許の裁判においては、米国でも深刻な議論を引き起こした。

この特許に基づき、1999年10月、アマゾン・ドット・コム社は同様の販売方法を取っていたバーンズ・アンド・ノーブル社を訴え、1999年12月には使用差し止めを認める仮処分が下された。

使用差し止め後

このままでは、Eコマース市場はアマゾン・ドット・コム社に支配されてしまうとの悲観的見方が大勢であった。従って、アマゾン・ドット・コム社の行動には、米国内外の著名人たちがブーイングの声をあげた。その後バーンズ・アンド・ノーブル社はどうなったのであろうか。

実は、同社は敗訴後すぐさま特許回避のための仕様変更に取り組み、確かにアマゾン・ドット・コム社の特許を侵害しないで、ほとんど同等の効果を得られるプログラムを開発(1クリック多い)、同社は2000年12月現在でも存続している。“ワンクリックで飛んでいこう!あなたはオンラインショッピングの便利さの虜になることは間違いない”(One click and we are A--W--A--Y--! You are guaranteed to love the convenience and ease of shopping online http://www.designer2.com/rsnyder/bn/1click.html (2000/11/30))と書いてあるページをクリックするとバーンズ・アンド・ノーブル社のホームページに1クリックで行けるようになっているのは、ご愛嬌であろうか。

アマゾン・ドット・コムの事件は、ビジネスモデル特許にかかわる紛争とはいえ、その内容はかなり技術的なものであったので、上記のような特許回避策をとることが可能であった。ただし、プライスライン社の逆オークションのような、ビジネスモデルそのものを特許することには、依然として批判がある。ビジネスモデルそのものは、アルゴリズムに近く、アルゴリズムは日米欧のいずれの特許法においても特許適格性を否定されている。

「特許法が保護の目的とするのは技術的創作物(発明)である。このことは洋の東西を問わない。技術というものは、人間の欲望が続く限り常に改良が加えられ、その結果、いま新しい斬新な技術もいつの日か陳腐化する。それゆえ、特許法は新しい技術的創作に独占権を設定し得るのである。逆にいえば、発明は常に陳腐化する性質を持つが故に、安心して独占権を付与しうるのである。ところが、ビジネスには陳腐化という現象がない。例えば、オークション(競り)と言ったビジネス手法は、紀元前から存在し、今なお取引の代表的手法として君臨していることからも自明であろう。ビジネスに陳腐化現象がないかどうかは、歴史が教えるところである。」「先に例示したアルゴリズムも、実はそれ自身陳腐化しない故に、私人の独占に適さないことが、特許の対象とされない根源的理由である。」「このように考えると、上記ビジネスそのものの定義に相当するようなビジネスモデルについて特許することは、アルゴリズムの特許性を否定する世界的な見解と矛盾することは明確であろう」(本庄国際特許事務所「最近の特許関連ニュース」)といった見解もある。そこで、ビジネスモデル特許に関しては特許の期間や効力を制限しようという主張がアメリカにおいてもなされている。

これに対しては、「ビジネスモデルといえども、本当に代替方法が考えにくいのか私には疑問に思います。ものの特許でもこれまで何度も同じように云われてきましたが、人類はその都度現状を乗り越える発明をして新時代を築いてきました。とくに変化が激しい情報技術の世界にあっては、現在よりもっと良いビジネスモデルを人類はどんどん考え出していくように思うのです。」「そして、この場合でも特許制度が与えるインセンティブは必要なはずですし、特許の保護を適正に与えることによってこそ、新しいビジネスモデルをさらに創造していけるのだと思います。」「要するに問題は特許制度そのものに対する疑問であるように思いますが、特許制度は創造の芽をつむのではなく助けるものであること、またその効果が大きいことは、近代特許制度が300年近く続いていたことが雄弁に証明していると思います。」(山内特許事務所「ビジネスモデル特許コーナー」)との主張もなされている。

今のところ、従来からの特許の3要件(日本では、発明であること、新規性があること、進歩性があること。米欧もほぼ同様)の運用によって、適正が保たれるのではないかと期待されている。また、日米欧の三極特許庁はビジネスモデル特許の審査基準のすり合わせ、審査資料の充実に向け協議を進めている。

前述のように、日米欧の特許基準には、細かところで相違点があったことは間違いない。ビジネスモデル特許に関しては、2000年6月に行われた第18回三極特許専門家会合において、現行の審査実務に関しての共通理解が以下のように示された。

「コンピュータにより実現されたビジネス方法が特許適格性を有するためには、「技術的側面」1が要求される。

通常の自動化技術を用いて、人間が行っている公知の事業方法を単に自動化しただけでは、特許性がない。

(注1)        米国においては、「in the technological arts」であることを示す活名の特徴が、明細書に明示されていれば、特許クレームには示唆されているだけでもよい。EPOとJPOでは、「技術的側面」が特許クレームに明示的に表現されていることが要求される。」(特許庁「第18回三極特許庁専門家会合結果概要」)

ただし、日本でも特許の要件になっている「自然法則を利用した」という部分を緩和する可能性もあり、弁理士によっては、「コンピュータを構成要件から削除したクレームを記載しておくことは意味がある」(本庄 武男「ビジネスモデル特許の戦略」)と、将来に備えた出願をしておくことを勧めている場合もある。自然法則を利用するという制限がなくなれば、ビジネスモデルそのものが日本でも特許され得るわけで、その影響が注目される。

また、ビジネスモデル特許に関する問題点として、昔から行われている、あるいは知られているビジネスモデル・ビジネス方法であっても、充分に文書化されておらず、特許庁がこの分野の先行事例を文献の中から発見することに困難があることは、共通した課題であることも同時に認識された。

日米欧の特許庁は、「この分野における資料整備を改善する必要性を認識し、関連する先行技術の最も適切な情報源を特定し、かつこうした情報源にアクセスできるようにするために、ユーザ側との協力等の可能性を探るべきである。」「そして三庁は、新たに、ビジネス方法発明分野において「共同サーチ・プロジェクト」を開始することで合意した。」(特許庁「第18回三極特許庁専門家会合結果概要」)。今後は、日米欧の特許基準がより明確化・共通化されることが期待できる。

4.ビジネスモデル特許戦略

ビジネスモデル特許についての解説は上記のようになる。ビジネスモデル特許の成立については、さまざまな批判があることは前述の通りである。しかし、理論的批判はともかく、実際にビジネスも出る特許は成立している。その影響を無視するわけにはいかないのである。ビジネスモデル特許を、ビジネスの現場でどのように利用すればよいのであろうか。

4.1早い者勝ち

特許の基本は早い者勝ちである。将来のビジネスの展開をにらんで、特許されるかどうかはさておき、出願しておくことが肝心である。

良いアイデアを考案しても、何らの法的手段も取らずに放置しておくと、他社が容易にまねをして、創業者利益を守ることができなくなる。また、他社が特許を取得した場合、同様のビジネスモデルを採用していた企業は市場からの撤退、もしくはライセンス料の支払いを余儀なくされる。もちろん特許の成立について争うことは可能ではある。しかし、当然の事ながら時間と資金が必要とされるし、必ず勝てるわけでもない。特許は企業防衛の有効な手段になり得るのである。

特許の出願をしておくことは、自社を守る上で、大変有効な手段であると考えられる。特許が取れれば、ビジネスを独占することも、ライセンス収入を期待することもできる。また、従来、小企業では実現できなかったような資本を要求する事業であっても、大企業とタイアップする、あるいは自ら資本市場から資金を調達することで事業化できる可能性がある。

また、特許が取れなかった場合でも、他社も同様の特許が取れないことを確認できたのであるから、将来のビジネス展開を考える上で、プラスになると思われる。

4.2具体的な戦略

ビジネスモデル特許の活用方法としては、一般の特許と同様に、市場獲得戦略、収益戦略、経営支援戦略、防衛戦略の4種類の戦略が考えられる(山内特許事務所「ビジネスモデル特許コーナー」)。

市場獲得戦略

ビジネスモデル特許を使って、競合他社の算入を阻止し、市場そのものの独占を狙う戦略である。

収益戦略

ビジネスモデル特許を積極的に有償公開することによって、特許のもとになるアイデアを一般化し、他社からのライセンス収入の獲得を目指す戦略。ライセンス収入が全収益の数10%にも達している企業もあるそうである。ライセンス料のような安定した収益は企業の財務状況の改善に大きな役割を果たすであろう。

また、過去に多くの特許(ビジネスモデル特許とは限らない)を取得してきた大企業の場合には、取得してそのままになっている特許も多数に上っていることであろう。そのような資源を有効活用することにより、収益向上に資することができるのである。

ダウ・ケミカル社は世界的な化学品メーカーであり、特許取得にも熱心であったが、「経験だけにもとづいて知的財産管理が行われていたことが逆効果を及ぼした。」「貨車全体として収入を増やし、競争手段を確保できるかという視点で特許を監査し、その価値を最大にできるような組織体制が全く存在しなかったのだ」。そこで、1年の年月をかけて、知的財産の再評価を行った。その結果、「不必要な特許をポートフォリオから除き、放棄したり大学などの非営利団体に寄贈することで、税金と維持費で5千万ドルをすぐ節約できた。さらに、監査が終了した1994年時点では2500万ドルであった特許収入ライセンス収入を、現在の1億2500万ドルまで急増させた」(Kevine G. Rivette & David Kline, REMENBRANDTS THE ATTIC, (荒川 弘熙監修、NTTデータ技術開発本部訳『ビジネスモデル特許戦略』pp80-82))のである。ダウ社の事例はビジネスモデル特許ではないが、特許の有効活用の例としてあげられるであろう。

経営支援戦略

現在でも、ビジネスモデル特許取得はニュースのネタになっている。ビジネスモデル特許取得を積極的にアピールすることにより、知名度やブランド・イメージの向上に役立てることができる。ビジネスモデル特許を所有していることは、企業のイメージや先進性を認知させる効用がある。資金調達も容易になるであろうし、企業の信用度アップにもつながるであろう。イメージの向上という意味では、ビジネスモデル特許を出願中であることをうたうだけでも効果が期待できるであろう。

また、特許戦略を全面に打ち立てることは、社内の変革への意欲を高める効果が期待できる。特許はひとつとってしまえば終わりではなく、常に前進しつづけることが要求されるからである。基本特許に続いて周辺特許を押えることによって、特許全体の寿命を延ばすことができるのである。

防衛戦略

前述のように、ビジネスモデル特許取得を企業防衛のために使う戦略である。また、特許そのものを防衛するための方策も講じなくてはならない。中心特許を取得するばかりではなく、改良、代替技術など幅広く網をかけることにより、競合他社が市場に容易に算入してくることを防げる。周辺特許まで押さえておくことにより、ライセンス交渉において、自己を有利な立場に置くことができるようになる。

ゼロックス社は世界的に知られた複写機メーカーである。その他、独創的な商品開発を行ってきたことでも知られている。ゼロックス社は「1965年の世界初の自動複写機、1966年の世界初の卓上ファックス、1977年のレーザープリンタ、1979年の世界初のコンピュータ・ネットワーク・システムであるイーサネット」などを開発してきた。また、「今日のウィンドウズやマックOSの画面の基本となっているGUI(Graphical User Interface:グラフィカル・ユーザ・インターフェース)などの最新技術も初めに着想した。しかしながら、それらの特許化や商品化には失敗してしまったのである。」「同社は8千件もの特許を所有しているにもかかわらず、どれが商用的または経営戦略的に価値があるのかを正確に把握している者がいなかった。その上、同社の重役たちは、自社の特許のいくつかが他社によって違法にコピーされているのではないかと、長年懸念をいだいていた。しかし、特許権侵害を防ぐための措置を何ら講じていなかった」(Kevine G. Rivette & David Kline, REMENBRANDTS THE ATTIC, (荒川 弘熙監修、NTTデータ技術開発本部訳『ビジネスモデル特許戦略』pp72-73))状態にあった。数字としては、1997年度のゼロックス社の特許ライセンス収入は850万ドルで、特許1件あたり千ドルにしかならず、特許権を維持するにも足りないほどであったという。ちなみに、同年のIBM社は、特許1件あたり、7万5千ドルのライセンス収入を上げていたという(同前p73)。

その後、ゼロックス社は知的財産の管理に乗り出したようである。しかし、2000年にはたびたび破綻のうわさが市場を駆け回るほどに同社の財務状況は悪化してしまった。特許戦略の誤りだけが破綻の原因ではないだろうが、同社が貴重な財産を活用せず、実現できたはずの利益を放棄してしまったことは確かであろう。逆に、この苦境を乗り越え、知的財産を有効に活用できれば、同社の劇的な復活もありうるのであろう。

5.結論

昨今のネット関連株式市場の下落は、一時期のネットビジネス万能、インターネットを使っていればどんなビジネスモデルを使っていてももてはやされた時代は終わり、淘汰の時代に入ったことをうかがわせる。本稿でも取り上げたアマゾン・ドット・コムですら、2000年度には著しい株価の下落に見舞われたことは、記憶に新しい。ネット時代に入り、ビジネスの移り変わりも、その変革のサイクルも確実に短くなっていることは確実である。

そのような状況の中でビジネスを継続していく上で、ビジネスモデル特許に限らず、知的所有権は大きな武器となるばかりでなく、放置しておくと企業の存亡にまでかかわる問題に発展しかねない重要事項であるといえるであろう。ビジネスモデル特許問題をおろそかにしていると、ある日突然巨額の損害賠償を請求されたり、市場からの撤退を余儀なくされたりすることになる。

そのような場合においても、特許権を確保しておくことは、相手に対する交渉力、対抗力を確実に高め得るのである。特許権を利用することにより、相手の特許の無効を主張する、相手の特許とのバーター取引を交渉するなどの対策が考えられる。ビジネス特許には、企業にとって収益をもたらす力を持っているだけでなく、企業の生存能力を高める力もあるのである。

ビジネスモデル特許を所有しているだけではビジネスの成功はおぼつかない。しかし、特許を無視することは確実にリスクを高める。今後のビジネス展開を考えていく上で、ビジネスモデル特許は避けてとおれない問題となっていくであろう。

 

 

 

(1) 原文「Sect. 101. Inventions Patentable
Whoever invents or discovers any new and useful process, machine, manufacture, or composition of matter, or any new and useful improvement thereof, may obtain a patent therefor, subject to the conditions and requirements of this title.」

(2) 原文「From a practical standpoint, this means that to be patentable an algorithm must be applied in a “useful” way」(Federal Circuit , State St. Bank & Trust Co. v. Signature Fin. Group, Inc.

(3) 原文「Since the 1952 Patent Act, business methods have been, and should have been, subject to the same legal requirements for patentiability as applied to any other process of methods.  The business method exception has never been invoked by this court, or the CCPA , to deem an invention unpatentable.」(Federal Circuit , State St. Bank & Trust Co. v. Signature Fin. Group, Inc. ) CCPAとは、The Court of Customs and Patent Appealsの略。

(4) 原文「In that case, the patent was found invalid for lack of novelty and “invention”, not because it was improper subject matter for a patent.」(Federal Circuit , State St. Bank & Trust Co. v. Signature Fin. Group, Inc.

(5) 「本件は、日本にも出願されている(特表平6−505581)。平成11年9月24日に、発明に該当しないとする拒絶理由が出されている。その中では、次のように述べられている。

請求項1において出願人が発明として提案する内容は、データ処理のためのコンピュータが本来有する機能の一利用形態であって、しかも、その利用形態は、特定の金融サービスの必要な会計および税務処理についての考察に基づいて定められたものであり、何ら技術的考察を伴うものでないから、これをもって「技術的思考の創作」ということはできない。」(古屋 栄男「ビジネスモデル特許の事例」)

(6) 特許法第29条
産業上利用することができる発明をした者は、次に掲げる発明を除き、その発明について特許を受けることができる。
一 特許出願前に日本国内又は外国において公然知られた発明
二 特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明
三 特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明

2 特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有するものが前項各号に掲げる発明に基づいて容易に発明をすることができたときは、その発明については、動向の規定にかかわらず、特許を受けることができない。

(7) 原文「(1) European patent shall be granted for any inventions which are susceptible of industrial application, which are new and which involve an inventive step.
(2) The following in particular shall not be regarded as inventions within the meaning of paragraph 1:
(a) discoveries, scientific theories and mathematical methods;
(b) aesthetic creations;
(c) schemes, rules and methods for performing mental acts, playing games or doing business, and program for computers;
(3) The provisions of paragraph 2 shall exclude patentability of the subject-matter or activities referred to in that provision only to the extent to which a European patent application or European patent relates to such subject-matter or activities as such.
(4) Methods for treatment of the human or animal body by surgery or therapy and diagnostic methods practiced on the human or animal body shall not be regarded as inventions which are susceptible of industrial application within the meaning of paragraph 1.  This provision shall not apply to products, in particular substances or compositions, for use in any of these methods.」

(以上の翻訳はすべて大國 亨)

 

 

参考文献

Kevine G. Rivette & David Kline(2000), REMENBRANDTS THE ATTIC, Harvard Business School Press (荒川 弘熙監修、NTTデータ技術開発本部訳(2000)『ビジネスモデル特許戦略』NTT出版)

松本 直樹(1998)「金融ビジネス用システムの特許性」http://village.infoweb.ne.jp/~fwgc5697/SSB-SIG.HTM (2000/11/22)

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