2022121

 

2023年為替相場見通し

 

大國亨FP研究所

大國 亨 Ph.D.

為替相場および政治状況の概観

2022年の経済状況において大きな影響を持ったファクターは、ロシアによるウクライナ侵攻という地政学的リスクの顕在化と主要各国においてアフター・コロナを見込んだQEQuantitative Easing 金融の量的緩和)からQTQuantitative Tightening 金融の量的引き締め≒利上げ)への政策転換が挙げられるでしょう。いずれも本稿執筆時点においては現在進行形であり、その影響を確定的に記述することはできませんが、少なくとも2023年第一四半期にかけて大きな影響ファクターであり続けるものと思われます。

それらの影響を受け、為替相場は昨年度の本稿の予想レンジを大きく外れる円安方向へと動きました。

政治的にも2022年度は主要国において様々な影響力のある事象が起きました。

イギリスにおいては「低税率・高成長経済」を打ち出したトラス首相が結果的に在任45日という短期間で辞任に追い込まれました。今後のイギリスの経済運営、ひいてはEU各国の経済運営にも影響がありそうです。

米国においては時の政権が中間選挙において厳しい審判を受けることは織り込み済みであるとはいえ、今後の経済政策を含む政策運営に大きな影響を与えることでしょう。

世界を驚かせたウクライナ侵攻に打って出たロシアですが、2014年のクリミア併合のように首尾よく終結させることができず、西側各国の援助を受けたウクライナの善戦により思いの外紛争は長期化してしまいました。ロシアは軍事大国であり、ロシア領内に攻め込まれている訳でもなく、ウクライナを相手に簡単に白旗を掲げるとは思えませんが、現在紛争当事国が飲み込める上手い落としどころが見つけられない状況です。現在高い支持率を誇るプーチン政権ですが、不協和音とも思える声も報じられるようになりました(ロシア国内でプーチン氏に異例の批判、著名キャスターは日露戦争敗北を引き合いに総動員を主張 読売新聞 https://www.yomiuri.co.jp/world/20221114-OYT1T50195/)。多分にスピン(パブリック・リレーションズ(PR)において、特定の人に有利になるような、非常に偏った事件や事態の描写を意味する Wikipediahttps://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B9%E3%83%94%E3%83%B3_(%E3%83%91%E3%83%96%E3%83%AA%E3%83%83%E3%82%AF%E3%83%BB%E3%83%AA%E3%83%AC%E3%83%BC%E3%82%B7%E3%83%A7%E3%83%B3%E3%82%BA)))を含むと思われる報道ですので額面どおり受け取るわけにはいきませんが、ロシアの政治状況は世界の軍事、政治、経済状況に大きな影響を与えかねないだけに注目されます。

中国においては習近平国家主席が3選を果たしました(中国共産党、習近平氏を総書記に3選 前日には前国家主席が腕つかまれ途中退席 BBChttps://www.bbc.com/japanese/63362283))。ということは現在のゼロコロナ政策を含めた政策運営が引き継がれるものと思われますが、中国は大きな不動産バブルという爆弾を抱えています。うまく切り抜けられるでしょうか。

日本においても安倍元首相の銃撃事件を受けて顕在化した旧統一教会問題を受け、岸田内閣の支持率が低迷、いつ解散総選挙があってもおかしくない状態です。円相場にはネガティブな要因でしょう。

米国、欧州、アジア各国ともネガティブな要素を抱えた状況で、本稿の趣旨と離れますが、金などの商品相場が堅調であることが予想されます。為替相場については、上記のような危機要因からの距離がポイントになるのではないでしょうか。コロナの流行は各国で対応の巧拙はあるにせよ世界的現象であり、その分影響はイーブンにあるものと思われます。それに対し、ウクライナ危機は東欧で起こっている事象です。主要経済圏の中でその影響を最も強く受けるのはやはり欧州ということになるのではないでしょうか。このままウクライナ紛争が拡大するようなことになれば、第三次世界大戦が欧州を舞台に起こることになります。ユーロについては対円でも現状より弱含むのではないでしょうか

円については黒田日銀総裁の任期である20234月を目途に日本のゼロ金利政策変が変更されるかどうかがポイントになりそうです。円金利の上昇は円相場にとってプラスになると思われます。

米国金利の上昇を先食いする形で上昇してきたドルですが、金利上昇のスピードが緩んだと思われた瞬間、為替相場の反転が起きても不思議はありません。

以上から下記レンジを予想します。

 

予想レンジ

ドル/                 120円〜160

ユーロ/             130円〜170

  

usd/jpy

Trading Economics  https://www.bbc.com/japanese/63362283

 

eur/jpy

Trading Economics   https://tradingeconomics.com/euro-area/currency

 

 


地域別ファクター/分析

日本

国内総生産増加率 実質季節調整系列(年率)

japan gdp growth 

内閣府 (https://www.esri.cao.go.jp/jp/sna/menu.html より作成)

 

20221115日に発表された日本の20217-9月期GDP成長率速報値はマイナスとなりました。個人消費などがコロナ第7波伸び悩んだ要因のようですが、この統計が発表された時点ではすでにコロナ第8波の流行が懸念されています(新型コロナ第8波は“史上最悪の流行”になる恐れ…「3つの悪材料」が国民を脅かす 日刊ゲンダイ https://www.nikkan-gendai.com/articles/view/life/314286)。当然のことながら、大きな流行が起きれば、すでに大打撃を被っている旅行業界や飲食業界にはとどめの一撃となり、中小企業の倒産ラッシュといった事態も予想されます。コロナの流行状況にも注意する必要があるでしょう。

 

日本国内の感染者数(1日ごと)

colona nhk

NHK  https://www3.nhk.or.jp/news/special/coronavirus/data-all/

 

日本国内がコロナ第8波に見舞われる中、岸田内閣は旧統一教会問題を始め問題山積、閣僚にも数々の疑惑が持ち上がるなど青息吐息の有様です。2022年夏の参議院選挙に勝利し、「黄金の3年」を迎えると思われていましたが、3か月ほどで黄金の賞味期限は切れてしまったようです。現状の日本においては例え内閣が倒れても大きな円安要因になることはないと思われますが、政治の混乱は経済政策の転換に必要以上に時間が掛かるなどの副作用も予想されます。現在の日本は政争に明け暮れているような余裕はないと思います。

 

岸田内閣は20221028日、総額で29100億円規模の物価高への対処などを盛り込んだ総合経済対策を発表しましたが、評判は芳しくないようです(経済対策、岸田首相「経済下振れに備え」補正29.1兆円 一律支援、メリハリ欠く 20221028日 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA2845J0Y2A021C2000000/)。岸田内閣は看板政策である「新しい資本主義」において、「成長と分配の好循環」といったことを重点課題としてぶち上げましたが、政策として結実した実績は乏しいようです(岸田政権、分配戦略はどこに? アベノミクスとの違い不明瞭 JIJI.COM 202262日 https://www.jiji.com/jc/article?k=2022060101025&g=pol)。

 

gdp per capita

資料:GLOBAL NOTE 出典:IMF  https://www.globalnote.jp/p-data-g/?dno=8870&post_no=1339

 

Average wages

average wage

OECD Data  https://data.oecd.org/earnwage/average-wages.htm

岸田内閣は様々な形で賃上げを要請していますが、上記資料に見るように、現在の日本は先進国には属しているのでしょうが、賃金レベルで見る限り最下位グループに属しています。上記資料は2021年のデータですので、急激な円安の進んだ2022年度末のデータはさらに不利な状況になっていることが予想されます。

 

Japan Inflation Rate

japan cpi

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/japan/inflation-cpi

 

日本におけるインフレ率もウクライナ侵攻を受けて上昇しています。さすがに「異次元の金融緩和」の成果であるといった評価は聞こえてきません。それはともかくとして、現在の物価高騰はウクライナ侵攻が長引けば長引くほど続くことが容易に予想されます。それだけでなく、ウクライナでは紛争の影響から来年向けの小麦の作付けなどにも影響があったようですので(ウクライナ 春の作付275ha減 同国政府発表 農業協同組合新聞 https://www.jacom.or.jp/nousei/news/2022/06/220614-59555.php)、仮に戦闘が収まったとしても世界各国の物価への影響は長く残るものと思われます。

日本でもウクライナ侵攻の物価への影響はグラフからも明らかなように表れています。円金利にも遠からずその影響は表れるものと思われます。円金利の上昇は円の為替相場においても円高要因になると思います。

 

 

Japan General Government Gross Debt to GDP

japan gdp vs debt

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/japan/government-debt-to-gdp

 

昨今の「異次元の金融緩和」の結果としてGDPに対する政府債務も増加しています。以前から日本の数値は諸外国に対して高かったことから現状ではこの数値に注目は集まっていませんが、英国におけるトラス政権の減税策へのマーケットの厳しい反応を見ても、政府の債務比率は重要な指標であり続けています。再び注目が集まるようであれば、当然ながら円安要因となるでしょう。効果のある経済対策が待たれるところです。

2022年のドル円為替相場は歴史的に見ても極めて値幅の大きな動きとなりました。その背景にはウクライナ侵攻、日米金利差といった要因があったと思います。ウクライナ侵攻についてはいまだに着地点が見えていません。日米金利差についても、ウクライナ侵攻を受けた日本国内の物価高騰といった要因によりほぼ外堀は埋められているのかと思いますが、政府日銀は「異次元の金融緩和」のスタンスをかたくなに守っています。しかし、すでに(というかとっくに)「異次元の金融緩和」のメリットとデメリットを比較検討すべき時期になっていると思います。金融政策が変更されればもちろん、そうでない場合でえも数か月といったタイムスパンでは、すでに2022年に大きく円安が進行してしまったことから、現地点から大きな円安進行はないのではないかと思います。

 

 

中国

異例とも言える総書記三選を決めた習近平総書記ではありますが、必ずしも歓迎一色のお祭り騒ぎという訳でもないようです(中国・上海、「習近平退陣」連呼も 各地でゼロコロナ抗議 jiji.com https://www.jiji.com/jc/article?k=2022112700178&g=int。また、緊張感の高まる台湾統一問題に関しては1016日の共産党大会で、台湾統一について、武力行使の放棄は「絶対に約束しない」と言明しました(習氏、台湾への武力行使「絶対に放棄しない」 中国共産党大会 産経新聞 https://www.sankei.com/article/20221016-TS657NMVGJOE5C5N7VZKAMAHTU/)。その発言から見れば当然のことながら20221114日の米中首脳会談でも新たな合意などのへの進展は何ら見られなかったようです(一定の成果も“台湾”で溝 対面で初の米中首脳会談  日テレNNEWS  https://news.ntv.co.jp/category/international/04513e8f1b2545d282d3caaeb59d3268)。国内を習派で固めたと思われる習近平総書記の弱点とも思えるのが目立った政治的実績を残せていないことです。台湾統一のような歴史に残る派手な業績は、国内的にはやり残したこともないであろう習近平総書記にとっては極めて魅力的に映るかもしれません。プーチン政権だってまさかと思われたウクライナ侵攻を実行に移したのです。台湾海峡の波は危険なほど高まっています。台湾有事は日本にとって極めて近接した地域での有事であり、場合によっては日本が直接的な脅威の対象ともなり得ますので、大きな円安要因となるでしょう。

中国の経済状況において最も注目されるのは不動産バブルの行方でしょう。2021年暮れの恒大集団のデフォルトに端を発する混乱はいまだに進行中のようです(中国恒大危機、デフォルトの連鎖止まらず DIAMOND Online https://diamond.jp/articles/-/311400)。ただ、いわゆるバブルが破裂するような事態には至ってないようです。バブル破裂が回避可能できるかどうか、注目されるところです。

 

中国経済はバブル禍の影響から低成長を余儀なくされているようです(中国実質GDP成長率 市場予想を上回るも政府目標に達せず ニッセイ・アセット・マネジメント https://www.nam.co.jp/news/mpdf/221026_tj.pdf)。

 china gdp growth

China GDP Growth Rate

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/china/gdp-growth

 

以下に本見通しで毎年のように引用している建機大手のコマツのデータを上げておきます。

komatsu construction equipmemt demand

コマツ https://www.komatsu.jp/ja/-/media/home/ir/library/demand-orders/ja/main_products_order_j.pdf?rev=3aadcca17f8342b09b11f81b744a5019&hash=F611995E5D7F774A5DDF8F3514A269A8

 

ここ1年ほどズラリとマイナスデータが並んでいるのが分かります。コマツは世界でも有数の建設機械メーカーではありますが、中国市場においては必ずしもトップメーカーという訳でもないようです(建設機械が中国市場でまた試練、日本製品に勝算はあるか 日刊工業新聞 https://newswitch.jp/p/27493)。ではありますが、必ずしも信頼性が高いとは言えない中国の統計資料に代えて中国国内の経済状況を伺える資料として貴重でしょう。

 

以下、とりあえず最近の経済指標のチャートを掲載しておきましょう。

GDP成長率(年率)

china gdp growth

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/china/gdp-growth

yuan/usd 

Chinese Yuan/USD

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/china/currency

 

人民元については、中国当局が対ドルでいくらを下限としているかは定かではないものの、1ドル7.2元あたりが下限ではないかと言われてきました20229月には2008年以来の安値圏であるそのレベルを一時的に割り込んでいます。中国人民銀行(中央銀行)がどのような通貨防衛措置を採ってくるか注目されます。

 

China Shanghai Composite Stock Market Index

shanghai composite stock index

Trading Economics https://tradingeconomics.com/china/stock-market

現在のところ不動産市場のクラッシュの兆候は見通せないようです。

 

China Government Debt to GDP

china gdp vs debt

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/china/government-debt-to-gdp

 

政府債務のGDP比のグラフからは、ここ25年間ほぼ一貫して債務比が上昇してきています。ただしこれは中央政府の債務であり、地方政府も巨額の債務を抱えているのではないかと言われていますが公的な統計もなく、真相は闇の中です。

 

昨年末デフォルトに陥った中国恒大集団ですが、全面的なデフォルトではなく、債務者がある特定の債務を選択して不履行としたものの、その他の債務については期日通りに支払いを継続している状況を意味する選択的債務不履行という状況にあるようです。そのため、中国恒大集団のデフォルトの影響に関しても、「中国恒大危機、デフォルトの連鎖止まらず」(THE WALL STREET JOURNAL. https://jp.wsj.com/articles/china-evergrandes-debt-crisis-fallout-losses-layoffs-and-more-defaults-11665965470)という分析から、金融危機は起こらないとする分析(中国恒大集団がデフォルトした原因は?経営難を引き起こす要因となった政策を徹底解説 MONEY THEORY https://www.meiko-trading.co.jp/money/category/net-shoken/)まであります。ただ、今年は欧州でクレディ・スイス銀行に対し危機が噂されるなど「世界の投資銀行ビジネスが振るわない。今年79月期決算で、米ゴールドマン・サックスは最終利益が前年同期比43%減の30億ドル、モルガン・スタンレーは29%減の26億ドルだった」(DIAMOND online https://diamond.jp/articles/-/311831)という状況のようです。同様のことがほかでも起きれば、リーマンショックの再来の可能性もないとは言えません。そのきっかけが中国に起因していても不思議とは言えない状況です。やはり注意が必要なようです。

 

鳴り物入りで喧伝されてきた一帯一路政策も、最近では債務の罠をはじめとするデメリットも広く報道されるようになってきました(「一帯一路」の最新状況-参加国の現状・ロシアとの関係・日本のメリット・AIIBとの関連性をわかりやすく Digima https://www.digima-japan.com/knowhow/china/16660.php)(中国の「債務の罠」を調査せよ 途上国への「経済的威圧」 長年親中派≠ニ目された外務省が覇権主義に対抗の動き 夕刊フジ https://www.zakzak.co.jp/article/20221120-GLXL4KQH2FIJVL6YXPEKBGKYIQ/)。

 

また、日本では特に話題にはなりませんでしたが、来年にもインドが人口で中国を上回るという報道がされ、中国では大きな話題になったようです(「恋愛や結婚の指導強化」中国、人口減の危機感 価値観への介入も 朝日新聞Digital  https://www.asahi.com/articles/ASQCH02HRQCCULFA04V.html)。いつ実際に追い抜かれるかなどは不確定ではありますが、大筋では中国政府も認めているようです。中国は有名な「一人っ子政策」を採用してきましたが、その弊害が顕在化してきたようです。その弊害とは端的に言えば急速な人口老齢化です。中国はGDP世界第2位の国に発展しましたが、それが教育や技術力といったものの向上によりもたらされたのではなく、単に人口ボーナスのお陰によるものだったのではないか、ということです。お金を投資する側からすると、老大国になりつつある中国と若く経済の活発な動きが期待できるインドとどちらに投資したくなるのか、は自明のことではないでしょうか。投資資金の動きは早く、公的な統計の数値からは分かりにくいものです。周辺の情報から判断せざるを得ないのですが、注意が必要だと思われます。

 

 

米国

 

202211月の米国中間選挙において、バイデン政権は壊滅的とも言われていた事前調査を覆し、下院では共和党に逆転を許したものの、上院においては多数派を維持しました。なぜ事前調査との齟齬がこれほど大きかったかについては(事前調査の手法に誤りがあったのか、はたまたトランプ支持派の主張するような不正があったのか)は今後検証が進むのでしょうが、とりあえず2022111日のFOMCで示されたように(米FOMC2211月)−4会合連続で政策金利の0.75%引上げを決定。利上げ幅縮小の可能性を示唆 ニッセイ基礎研究所 https://www.nli-research.co.jp/report/detail/id=72883?site=nli)、インフレはピークアウトしたとの認識のもと当面の経済政策は運営されるものと思われます。冒頭にも記したとおり、ドル円の為替レートはドル金利の先高観を大きく先食いする形で円安が進んだ経緯がありますので、金利先高観に一服傾向が見られるのは円高要因であると思われます。20221114日円安一服との認識を示しましたが(【速報】日銀・黒田総裁が評価 急速な円安落ちつき「大変結構」 YAHOOニュース https://news.yahoo.co.jp/articles/d50f7a925537a38b9718177b993d045bf1b804af)、先食い分の揺り戻しである可能性が高いのではないでしょうか。国内の賃金も高く、新しい商品・技術が紹介される国と現状の日本の通貨を比較した場合、円の不利、長期的な円売りドル買いの圧力は弱まってはいないと思われます。

米国の株式市場は依然として高値圏での推移が続いています。

US Dow 30

us dow 30

 Trading Economics  https://tradingeconomics.com/united-states/stock-market

GDP成長率もコロナ禍による落ち込みは見られるものの、依然プラスの値を維持しています。

us gdp growth 

United States GDP Annual Growth Rate

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/united-states/gdp-growth-annual

 

米国の経済指標で現在最も注目されているのがインフレ率でしょう。

 

United States Inflation Rate

us cpi

Trading Economics   https://tradingeconomics.com/united-states/inflation-cpi

 

上記グラフからも最近のインフレ率の高騰がここ20年ほどでも最も厳しいものであること、インフレの高進は2021年には始まっていることなどが分かります。FRBによる金利引き上げの開始が遅きに失したのではないかと批判される所以です。またここ1年のグラフを拡大したものが下記です。FRBがとりあえずインフレ高進に歯止めをかけられた、と判断したのもうなずけるものがあります。

 

United States Inflation Rate

us cpi

Trading Economics   https://tradingeconomics.com/united-states/inflation-cpi

 

ただ、最近20221115日ポーランドにミサイルが着弾、すわ第3次世界大戦勃発か、と緊張が走りました(ポーランドにミサイル着弾で「WWIII(第三次大戦)」がトレンド入り Newsweek  https://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2022/11/wwiii.php)。今回は西側陣営の火消しが効果的だったことから事なきを得ましたが、偶発的事象の危険性を浮き彫りにしました。偶発的事象による紛争リスク拡大の危険性はかつてないほど高まっています。

 

以下、上記以外の興味深い経済指標をいくつかご紹介しましょう。

 

United States Nonfarm Unit Labour Cost

us labour cost

Trading Economics   https://tradingeconomics.com/united-states/labour-costs

 

Unit Labour Costの正確な定義などはU.S. BUREAU OF LABOR STATISTICSのページ(What is unit labor cost?  https://www.bls.gov/k12/productivity-101/content/what-is-productivity/what-is-unit-labor-cost.htm)をご参照いただきたいと思いますが、政府が企業に賃上げを懇願しているような日本(岸田総理 賃上げを強く要請 新しい資本主義実現会議 TBS NEWS DIG  https://newsdig.tbs.co.jp/articles/-/201226?display=1)とはいささか次元の異なる米国の好調ぶりが伝わって来ます。

 

 

United States GDP per capita

us gdp per capita

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/united-states/gdp-per-capita

 

Japan GDP per capita

japan gdp per capita

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/japan/gdp-per-capita

 

上記2つのグラフはここ50年間の日米の一人当たりGDPのグラフを比較したものです。日本は1990年頃を境にガックリと伸びが鈍っているのが分かります。最近の急激な円安進行が故なしとはしないことがよく分かります。

 

絶好調の米国経済ですが、気になる影がないわけではありません。まず挙げられるのが財政赤字の拡大です。

 

United States Gross Federal Debt to GDP

us gdp vs debt

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/united-states/government-debt-to-gdp

 

上記グラフからも伺えるように、2020年から急激にGDPに対する政府債務が急増していることが分かります。コロナ禍を機にQuasi-MMT政策(quasiとは類似の意)とも言うべき財政拡大政策が世界各国で採用されました。アフター・コロナ(完全に終息したわけではないようですが)に向け、各国ともにばら撒き政策の回収に採りかかかっており、金利の引き上げに舵を切っています。政府負債に頼った財政拡大がいつまでも続けられる訳がありませんので当然の政策転換ではありますが、ここ2年程の財政拡大により米国を含め各国とも財政バブルとでもいうべき状態になっています。金利引き上げの反動はかなり厳しいものになるのではないでしょうか。

 

United States 3 month bill yield vs. 10year Government Bond

usd interest 3m vs 10y

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/united-states/3-month-bill-yield

 

3カ月物の金利と10年物金利を比較したグラフからは、FRBによる金利引上げの影響を受け、金利が上昇していること、直近では逆イールドの状態になっていることがうかがえます。

 

United States Balance of Trade

us balance of trade

Trading Economics http://www.tradingeconomics.com/united-states/balance-of-trade

 

どのような品目の輸入が増え、どのような品目の輸出が減ったかなど細かい解説はTrading Economicsの当該ページをご参照いただきたいと思いますが、簡単に言ってしまうとウクライナ侵攻の影響、ということになるかと思います。財政赤字とともに貿易赤字も米国のアキレス腱です。輸出先である中国市場の不振、輸入先としての中国産品の高騰、世界的なサプライチェーンの混乱による半導体不足やガソリン価格の高騰など、米国にはいささか逆風が吹いているようです。非常に短期で現在のドル堅調基調が崩れることはないでしょうが、足元には火種もあることに留意が必要でしょう。

 

 

EU

2022年のEU圏にとって最もインパクトのあった政治・経済的事象と言えば、ロシアによるウクライナ侵攻でしょう。本稿執筆時点では戦闘はウクライナ国内に限られていますが、地図を確認すると分かる通り私たちがヨーロッパと言ったときにすぐ思い浮かべるドイツ、フランスなどは地続きの地域で戦闘が行われています。ドイツなどは自動車で移動可能な距離、です。現状では戦火の拡大は抑えられていますが、エネルギー価格や小麦価格の高騰といった形で日々の生活にも影響が表れています。

Natural gas 

natural gas

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/commodity/natural-gas

 

Brent crude oil

brent crude oil

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/commodity/brent-crude-oil

 

Wheat

wheat

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/commodity/wheat

 

天然ガス、ブレント原油、小麦など歴史的高値水準、という訳ではありませんが、ウクライナ侵攻の影響は表れており、高値圏の推移となっています。小麦などは戦乱による作付けの不調により、2023年以降にも影響は残りそうです。天然ガス、原油などについては本稿執筆時点より後の2022年末から2023年初頭の本格的厳冬期により影響が深まるかもしれません。また、本稿執筆時点において誰が破壊工作を行ったかについて国際的合意があるわけではないでしょうが、(パイプライン損傷は破壊工作 スウェーデン検察が断定 AFP BB News https://www.afpbb.com/articles/-/3439514?cx_part=search)パイプラインが損傷を受けたのは確かです。

パイプライン損傷を受け、欧州側も輸入先を分散して対応しているようですが(ウクライナ危機で激変する世界の天然ガス市場 J B press https://jbpress.ismedia.jp/articles/-/72360)、そもそも西欧諸国がある意味対立しているロシアからの天然ガス供給を増やしたのにも歴史、政治的経緯を含め様々な理由があります(【詳しく】ロシアの天然ガスをなぜ止められない?ドイツの実情 NHK  https://www3.nhk.or.jp/news/html/20220506/k10013608441000.html)。今後ウクライナ侵攻にどのような着地点を見出すことができるのか注目されます。

 

金融面での大きなニュースとして挙げられるのははクレディ・スイスの危機FTXの破綻でしょう。クレディ・スイスに関しては一応再建策がまとまったようです(クレディ・スイスが約6,000億円の損失計上、再建策を発表 株価-19%  Coin Post   https://coinpost.jp/?p=401796)。兆円単位とも言われる資産が失われたとも言われるFTXに関してはあまり明るい展望は見えていないようです(仮想通貨業者FTXが経営破綻、“感染”という倒産ドミノは広がるか 日経ビジネス https://business.nikkei.com/atcl/gen/19/00511/111600004/)。FTXについては深刻な企業統治の不備が指摘されていますが(FTX、資金流用・会計不備で「完全な統治不全」 新CEOが報告  REUTERS  https://jp.reuters.com/article/fintech-crypto-ftx-idJPKBN2S729Q)、投資ファンドや暗号資産に投資家が群がったのには世界的な金余りも背景にあると思います(FTX株主、カネ余りで投資優先か 取締役派遣せず 日本経済新聞 https://www.nikkei.com/nkd/theme/509/news/?DisplayType=1&ng=DGXZQOUB18BED018112022000000)。コロナ禍も一段落、QE(量的緩和)からQT(量的引き締め)への政策転換が世界的に進んでいます。そうであるとすれば、様々な金融破綻は本稿で取り上げた企業群に留まらない可能性があります。引き続き注意が必要でしょう。

 

eu unemployment

Euro Stat  https://ec.europa.eu/eurostat/statistics-explained/index.php?title=Unemployment_statistics

 

コロナの影響から跳ね上がって失業率も落ち着きを取り戻しているようです。

 

COVID-19 Dashboard

by the Center for Systems Science and Engineering (CSSE) at Johns Hopkins University (JHU)

\covid 19 dashboard

Johns Hopkins University & Medicine  https://coronavirus.jhu.edu/map.html

 

上記地図は各国の過去28日間の発生件数を図にしたものです。欧州におけるコロナ禍は日本と比べて落ち着いていることがうかがえます。

米国と同様に金融政策も含め、ポスト・コロナを見据えた政策運営に舵を切ったと思われます。

 

 

その他現在発表されている経済指標をご紹介しましょう。

EU GDP growth

eu gdp growth

Trading Ecinimics  https://tradingeconomics.com/euro-area/gdp-growth

 

ウクライナ侵攻が直接的にEU経済圏の成長を阻害しているということはないようですが、エネルギー危機とそれに起因する高インフレが消費者の購買力を奪っていること、中央銀行の引き締め政策とそれに伴う高金利などにより将来的な見通しは芳しくないようです。

 

欧州株価推移

euro area stock index

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/euro-area/stock-market

 

ユーロ圏の上位銘柄によって構成される株価指数であるSTOXX 50ですが、コロナ禍の影響からは逃れつつあったようですが、今度はウクライナ侵攻の影響が表れているようです。

 

Euro Area Inflation Rate MoM

ruro area inflation rate

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/euro-area/inflation-rate-mom

 

ユーロ圏の消費者物価指数は、ウクライナ侵攻後の急騰はいったん落ち着いたようですが、冬を迎え再び上昇しつつあるようです。

 

EUR/USD

eur/usd

Trading Economics https://tradingeconomics.com/euro-area/currency

 

ユーロ/ドルレートは一時のパリティ割れからは回復したようですが、ここ十数年の安値圏で推移しています。やはり地理的に近い地域での紛争は通貨価値にも大きな影響があるようです。

 

Euro Area ZEW Economic Sentiment Index

zew index

Trading Economics https://tradingeconomics.com/germany/zew-economic-sentiment-index

 

ドイツの民間調査会社であるZEW(欧州経済研究センター(ZEWZentrum fur Europaische WirtschaftsforschungCentre for European Economic Research ))が毎月1回発表するユーロ圏の景気予測指数であるZEW経済感指標(向こう半年の景気見通しに対する調査で、この指数が50を超えると景気が良いと判断されます)は、直近やや持ち直していますが、2022年に入ってはっきりとマイナスに落ち込んでいることが分かります。ウクライナ侵攻の影響が深刻に受け止められていることが分かります。

 

今後、ウクライナ侵攻の落としどころを探る動きが強まるのでしょうが、軍事大国であるロシアが簡単に白旗を揚げるとも思えませんし、ロシアの国内事情も戦争の敗北を簡単に受け入れるとも思えません。戦火は収まったとしても、エネルギー供給、食糧輸出などに長期的影響が残ることは間違いありません。エネルギー、食糧を自給できない日本の通貨円に対してはともかく、エネルギー、食糧の自給が可能な米国の通貨ドルに対しては弱含むのではないでしょうか。

 

 

ロシア

 

2022年の政治面における主役はロシアのウクライナ侵攻でしょう。西側各国は経済制裁、ウクライナへの武器支援などで対応しましたが、本稿執筆時点では着地点は見いだせていません。

 

Russia GDP Annual Growth Rate

russia gdp

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/russia/gdp-growth-annual

 

ロシア経済は制裁の影響から減速傾向を示しています(9月のGDP成長率は前年同月比マイナス5.0%、貨物輸送が減少 JETRO  https://www.jetro.go.jp/biznews/2022/11/95f3d5c58e0a4fd0.html)。

 

Russia Inflation Rate

russia cpi

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/russia/inflation-cpi

 

ロシアにおけるインフレ率もウクライナ侵攻に対する経済制裁の影響を受け、跳ね上がっているようです。事実上の独裁体制を敷くプーチン政権にとってすぐどうのこうのということはないのかもしれませんが、国民の不満は確実に高まって行くことでしょう。

 

天然ガス、原油、小麦価格推移はEU圏の項でご説明したとおりですが、これらコモディティ価格の高騰により、ロシアの貿易黒字は拡大しています。もしかすると、経済制裁というのは意外と効いていないのかもしれません。

 

Russia Balance of Trade

russia balance of trade

Trading Ecinimics  https://tradingeconomics.com/russia/balance-of-trade

 

天然ガスの供給に関して、誰がパイプラインへの破壊工作を主導したのか、はEU圏の項でも触れたとおりですが、ここではヨーロッパ各国の天然ガスのロシア依存度のグラフを掲載しておきましょう。本稿執筆時点でヨーロッパは厳冬期に入っています。天然ガスは主に暖房用として使われているそうですので、紛争が長引けば影響は拡大するばかりでしょう。

 

European Countries Dependent on Russian Natural Gas

russia natural gas dependence by europea countries

NPR  https://www.npr.org/2022/02/09/1079338002/russia-ukraine-europe-gas-nordstream2-energy

 

Russian Ruble

russian ruble/usd 

Trading Economics  https://tradingeconomics.com/russia/currency

 

ロシア・ルーブルも2022年ウクライナ侵攻開始時には異常な乱高下をしましたが、現状ウクライナ侵攻が始まった時点よりドル安ルーブル高のレベルで推移しています。やはり、経済制裁はロシア経済に対して意外と効果が薄いのかもしれません。

 

ロシアのプーチン大統領は場合によっては核兵器の使用もあり得る、とも取れる発言を繰り返しています(焦点:プーチン氏の核使用巡る発言、「本気」か警戒感強める西側 REUTERS https://jp.reuters.com/article/putin-nuclear-warnings-idJPKBN2QU0D2)。それどころか、使えば人類の滅亡を意味するといわれる終末兵器の使用まで取り沙汰されています(Putin fails to test doomsday weapon that can engulf cities in 'radioactive tsunamis' and swim around the world forever LBC https://www.lbc.co.uk/news/putin-test-nuclear-weapon/)。それらが使用されるかどうか、使用されたら為替市場がどうなるか、などは本稿の分析範囲を超えますが、そのような事態が起きないことを祈りたいものです。

 

 

中東

ウクライナ侵攻の終結を目指す話し合いにおいて、トルコのエルドアン大統領がキーパーソンになるかもしれないとも言われています(【詳しく】なぜトルコが仲介?ウクライナとロシアの交渉 NHK  https://www3.nhk.or.jp/news/special/international_news_navi/articles/qa/2022/07/20/23492.html)。地図を見れば一目瞭然ですが、黒海を挟んでウクライナとトルコは向かい合っています。トルコはNATO加盟国ではありますが、地理的な近さからロシアとの貿易関係も深いものがあります(輸入先としては10.7%で中国に次いで2位 外務省 https://www.mofa.go.jp/mofaj/area/turkey/data.html)。

当然のことながら、近年府bb層のあったイラク、アフガニスタンなどとも近接しています。

本稿の守備範囲からは外れますが、注意が必要でしょう。

 

 

結論

コロナ禍は本稿執筆時において依然として終息した訳ではないようですが、各国政府はアフターコロナへと舵を切ったようです。コロナ対策としてQuasi-MMT政策(Quasiとは近似の意味)とでも言うべきQEQuotative Easing 量的緩和)政策を採って市中へじゃぶじゃぶの通貨供給をしていましたが、ウクライナ侵攻の影響から高騰した物価対策も含めQTQuantitative Tightening 量的引き締め)政策を採用、各国で金利の引き上げが行われました。そのような政策展開の影響から各国通貨に対してのドル高が進行しました。

2022年、すでに通常の変動幅を大きく超えるドル高が進行しました。通常の市場環境であれば揺り戻しがあってもおかしくありません。

ウクライナ侵攻は一応の手打ちを迎える、中国の台湾進攻はない。その他の新たな紛争も起こらない、世界的な金融危機は起こらない、といった条件は付きますが、2023年は2022年に一方的に進んだドル高の修正が入るものと予想します。

 

 

本レポートは、為替状況の参考となる情報の提供を目的としたもので、いかなる投資勧誘を目的としたものではありません。本レポートは大國亨が信頼できると考える情報に基いて作成されていますが、その情報の正確性及び完全性に関していかなる責任を負うものではありません。本レポートに記載された意見は作成日における判断であり、予告なく変更される場合があります。