ファイナンス(FIN701)10クレジット

不動産証券化

その問題点と将来性

Rushmore University

Global Distance Learning DBA

大國

本論文の目的

抵当証券の失敗に懲りた日本市場においても、海外市場での不動産証券化の流れを受けて再び不動産の証券化に取り組み始めた。証券化により流動性を高めることによって、再び不動産市場に資金が流入、バブル崩壊によって傷んだ市場の復活を期待している向きも多い。

本論文においては、不動産市場は証券化によって復活するのかどうか、また、不動産証券の商品性には問題がないのかどうかを以下の手順で検討する。

不動産投資の基本は土地である。土地の値段は左右する要因として、

l        土地の形状や広さ

l        建築基準法のまつわる問題

を検証する。

次に、土地の利用法の問題として、

l        共有及び区分所有

l        借地権、定期借地権、定期借家権

に検討を加える。特に、定期借地権、定期借家権は新しい土地所有・賃貸の方式として、不動産証券化にも大いに関連があると思われている。

次に、不動産証券化を巡る問題として、

l        不動産証券化の手法

l        不動産鑑定評価
一般的な土地の鑑定方法
原価方式、取引事例比較方式、収益還元方式

を検討、最終的に不動産証券化の問題及び将来性について結論づける。


目次

1. 土地の値段

1.1.1土地の公示価格
1.1.2土地の形状
1.1.3面大地
1.1.4建て付け地
1.1.5地上げ

1.2建築基準法

1.2.1接道義務の基本
1.2.2 4メートル道路
1.2.3 接道義務違反の土地
1.2.4 接道義務その他の問題

1.3 土地の値段に関する問題

2. 土地の利用方法

2.1 共有

2.1.1 民法上の共有の定義
2.1.2 不動産の共有
2.1.3共有問題まとめ

2.2 区分所有法

2.2.1 区分所有法の問題
2.2.2 区分所有法まとめ

2.3 不動産の賃貸借

2.3.1 借地権
2.3.2 借地の問題点
2.3.3 借地の解消法

2.4 定期借地権

2.4.1 定期借地権の内容
2.4.2 つくば方式
2.4.3 定期借地権の利用状況と問題点

2.5 定期借家権

2.5.1 定期借家権の内容
2.5.2 定期借家権に期待される経済効果
2.5.3 増床オプション

3. 不動産証券化

3.1. 米国の不動産業の特徴

3.1.1 賃貸借
3.1.2 ノンリコース・ローン
3.1.3 米国における不動産証券

3.2 ドイツにおける不動産証券

3.3 日本における不動産証券化

3.3.1 SPC法
3.3.2 不動産投信
3.3.3 不動産証券化のメリットとデメリット

3.4 不動産鑑定評価

3.4.1 不動産の鑑定評価
3.4.2 一般的な土地の鑑定方法
3.4.3 収益還元法の実際
3.4.4 不動産に関するデータ

4. 不動産証券とコンプライアンス

4.1活用が期待される資産 

4.1.1家計の資産構成
4.1.2家計の金融資産構成

4.2 消費者保護政策

4.2.1 金融商品販売法、消費者契約法に基づく説明義務
4.2.2 宅建業法における重要事項の説明義務

4.3 不動産証券化 問題点と今後の展望

5. 結論

参考文献


1.土地の値段

ここでは、個々の不動産の値段ではなく、一般的に土地の価値、値段がどのような要因によってどのように影響を受け、決定されるかについてについて論じる。

不動産の値段はさまざまなファクターが絡み合って形成されている。また、土地は非常に個性が強く、同じ土地は2つとして存在しない。しかも、後述するように、同じ土地でも分割したり、逆に併合したりしても値段は変わってしまう。

実際に不動産を売買する場合に実地検分をしないことは考えられない。しかし、不動産証券化に係る不動産のように、金融商品に組み込まれた場合には、投資家にとって、投資と不動産の関わりが希薄になる危険性がある。不動産投資に際して、どのような問題に注意すればよいのであろうか。

1.1.1土地の公示価格

土地の公示価格は、不動産の取引に際して一般的な指標を与えるものとして広く使われている。本年も公示価格が公表され、地価が上がった下がったと報道されたが、公示地価とはいかなるものであるかに関する基本的な情報が欠けているのではないだろうか。

本来、土地の売買価格は民法上の契約自由の原則から見ても、取引の当事者が決めるべきことである。しかし、一般消費者には土地の適正な値段はつけにくい。また、土地を巡る駆け引きが過剰な投資を呼び、地価バブルを引き起こしたことは記憶に新しいところである。

公示価格とは、土地鑑定委員会が地価公示法に基づき、一般の土地の取引価格に指標を与えると共に、公共用地等の取得価格の算定基準として算出されるものである。地価公示は、総理府令で定める都市計画区域の中から土地鑑定委員会が選定する「標準地」の単位面積あたりの価格を定められた基準で価格を判定することによって行われる。

ここで注意しなくてはいけないのは、「標準地」の性格である。「標準地」は、もちろん実際に色々に利用されている土地を参考に選定されるが、いわば架空の土地である。「標準地」の価格は、土地選定委員会が選定した「標準地」の場所に、150平方メートル程度の形の良い更地が存在し、その土地が最有効使用された場合を想定して決定される。

従って、建物が存在しても建物が存在しないものとして、また土地の形状にしても、実際にその場所に存在している土地ではなく、最も利用し易い、理想的な形をしているものとして算定される。従って、公示地価を鵜呑みにして不動産取引をすると、以下述べるような不都合が考えられる。

1.1.2 土地の形状

丸型や三角、不定形の土地がたとえ面積が正方形の土地と同じだとしても、使いづらく、従って価格も安くなるであろうことは容易に想像がつく。逆にいえば、変な格好の土地でもうまく使える算段や特別な目的がある場合は、面積に比べて割安な土地が手に入ることになる。土地の使い方に何か特定の目的がある場合には、難点のある土地を探してみることも、土地を安く手に入れる方法である。

一般的には、同じ四角い土地でも下図に示す例のように、色々と差が出てくる。

図1,2,3の土地はいずれも面積200平方メートルとする。図1の土地は道路にそって長い長方形、図2の土地は道路から見て細長い土地、図3の土地は標準地のような真四角である。

1の場合、真中から分ければ理想的な四角い標準地のような土地ができるので、処分も容易で、公示価格など指標価格に近い価格で売れるであろう。(それでも、東西南北どの方角に向いているか、並んでいる順番はどうかで差が生まれることがあるが、ここでは触れない)。

2はどうであろうか。点線で区切ったような土地割りをすれば、100平方メートルの土地を2つ作れる。東京都内の分譲住宅では良く見かけるが、後ろ側の土地は再処分する際にはかなり条件が悪くなるはずであり、好ましくない土地分割といえるだろう。当然、一体のものとして図2の土地を処分する場合にも、公示価格に面積を乗じただけの値段では処分ができない。一般的に、奥行きの深い土地は単位価格が安くなる。

それでは図3はどうであろうか。標準地のような正方形であるし、一見問題なさそうである。しかし、これを分割するには図2以上に無理な分割をしなければならず、分割するとかなり奥行きの狭い土地が2筆、もしくは間口が狭く奥行きの深い2筆ができることになる。では、一括して処分する場合にはどうであろうか。

実は、面積の広い土地の値段は、面積が広くなるのに反比例して単位あたりの価格は下がっていく。上記の例では、200平方メートルの土地である。もし東京都内にあるとしたら、かなりの高額物件といえるだろう。しかし、そのような高額物件はどうしても販路が狭まるし、それなりの高級住宅街にないと売れないであろう。周辺の住宅がみな100平方メートル程度の場合には、必要もないのに広い土地を買わなくてはならないことになる。土地は広いというだけで問題になる場合もあるのである。

ここでは一区画100平方メートルに分割して分譲することを前提として設例したが、最近横浜市では100平方メートル以上の建物が建築できるようにしか、土地の区画割ができなくなってしまった例があるそうである(倉橋隆行『プロが教えるアッと驚く不動産投資法』p70)。容積率80%とすると約124平方メートル以上の土地がなくてはいけないことになる。この場合、上記図1、図2、図3のような200平方メートルの土地は区画割もできず、一体のものとして売るしかない。当然販路は狭まり、単価も安くなるであろう。中途半端な広さの土地も処分を難しくする。

1.1.3面大地

さらに広大な土地(面大地)の場合はどうであろうか。

広い土地に対して、例えばビルを建てたいので全部の土地を一体で買いたいという需要がある場合は問題ない。駅前で広い土地(商業用地)、などという場合には全く問題なく公示地価に近い値段(上回る場合もあるであろう)で売れるであろう。

ところが、住宅地の場合には事情が異なる。マンション用地に使える場合は何とかなるかもしれないが、第一種、第二種低層住居専用地域など用途規制にかかる場合はマンションも建てられない。従って、分割して処分するよりほかに方法はない。

4は分譲住宅などで良く見かける例である。土地を4区画に分け、接道義務(接道義務については建築基準法の項で詳述)を満たすために位置指定道路を引き込んでいる。図は正確な縮尺を示してはいないが、例えば全体で400平方メートルの土地だとする。ちょうど20メートル四方になる。位置指定道路は幅が最低4メートル必要になり、長さが10メートルになるので、道路用地として、4x10で40平方メートル必要になる。また、実際には図に示したとおり隅切りが必要になるので、さらに広くなる。そうすると、400平方メートルの土地に引き込み道路を作っただけで、実際に使える土地面積が1割以上も減ってしまうことになる。しかも、土地の評価をする場合には、道路の評価価格はゼロとして算定される。

5の場合は、12区画に分割した場合である。1区画100平方メートルとして、分譲できる土地が全部で1,200平方メートル、正確な計算ではないが、道路が4メートル幅で延長約60メートルの240平方メートルになるので、全体の土地面積1,440平方メートルのうちなんと18%が道路で占められてしまうことになる。

このような土地を取引する場合には、当然安くなる。造成工事や区画割の費用を勘案すると、2割以上安くなると思われる。

また、大変よくあるケースとして、建物の位置が不適当な場合がある。上記4図のような土地の、ちょうど位置指定道路の上にでんと母屋が立っている場合である。確かに1軒の家を建てるには最適な場所であろう。ところが、土地を分割する必要ができた場合には、家屋を取り壊さなくては分割できなくなってしまう。取り壊しの簡単な建物であれば実害は少ないだろうが、マンションなど堅固な建物を建ててしまった場合には問題となる。

6のような場所にマンションなどを建てた場合、建物の後ろ側の土地は接道義務を果たさないので土地を分割できない。建物の前の土地も、接道義務など建築基準法上の制限は受けない場合でも、細長い、一般的に好ましくない形状の土地となってしまう。また、建築済みのマンションの面前に建物を建てることは、マンションの住人にとっても、採光・眺望などの面から好ましくない。そのような場合、マンション自体は土地に対して容積率一杯に建っているわけでもないのに他の建物が建てられない、最有効利用とは程遠い状態になってしまう。

1.1.4建て付け地

建て付け地とは、現に建物が建っている土地である。

不動産の広告などを見ると、更地の値段と土地付き中古住宅の値段があまり違わないことに気付かれると思う。実は、不動産に占める住宅の値段は、非常に低く、場合によってはマイナスになってしまう。日本では住宅の耐用年数は二十数年といわれており、欧米に比べると非常に短く、中古住宅のマーケットがきちんと存在していない。従って、住宅販売において、建て付け地おける既存住宅は取り壊して建てかえることが前提になっており、土地に建っている建物は単なる粗大ゴミの扱いを受けている。現在では廃棄物処理の対する規制が厳しく、住宅をきちんとしたルートで廃品処理すると、普通の家屋を取り壊した場合でも数百万円かかることが珍しくない。従って、建て付け地の価格は、住宅自体は新しくても、良い評価を受けられなくなる。同じ建て付け地でも、借地権がついている場合、問題はさらに複雑になる。これについては別項で詳しく触れる。

1.1.5 地上げ

バブル期前後の地上げにまつわる不幸な出来事を契機として、地上げには悪いイメージが付きまとっている。本来の地上げとは、現在我々がもっているイメージとは異なり、むしろ土地に付加価値をもたらす開発行為なのである。

7のように、商業地でありながら2階建ての商店が軒を並べる一画があったとする。表の道路は12メートルあるが、裏通りの道幅は4メートルであるとする。

商業地域における容積率の上限は10分の100(簡単に言えば、敷地目一杯に10階建てのビルが建てられる)である。ただし、前面道路の幅員が12メートル未満の場合には、前面道路の幅員に10分の6を乗じたもの、または指定容積率のうち小さいものが適用される。従って、上記の例では裏通のみに面した4区画の容積率は10分の24に制限される。つまり、裏通りに面した区画には2階建ての建物しか建てられないことになる。

ところが、図7の土地を一括して地上げして、ひとつの土地としてビルを建設する場合には、区画全部が12メートル以上の前面道路に面することになる。従って、全区画の上に10階建てのビルを建てられることになる。

7の一区画の面積が200平方メートルとすると、地上げ前は8区画合わせて9,920平方メートル( )の床面積をもつ建物が建てられることになるが、地上げ後は16,000平方メートル( )の床面積をもつ一棟のビルが建てられる。もしこのビルを賃貸するとすれば、床面積の増加は賃貸収入の増大を意味する。もちろん、ワンフロアー当りの床面積も広い、上質なビルが建てられる。

地上げ前は裏通りに面した2階建ての建物しか建てられなかった土地に10階建てのビルが建てられるようになる。5倍の収益を前提とすれば、土地を買収する場合にも、表通りに面していない状態では考えられない金額を提示することが可能になる。これが地上げのからくりである。

もちろん地上げにもリスクはあり、例えば上記図7の例で、○印の付いた区画の地上げ交渉に失敗したとする。その場合、例え裏通りに面した土地の容積率アップに成功したとしても、建物のフロアーがいびつな形になってしまう。実際にこのような例もあるが、その場合には単位床面積当りの賃料が低下したり、建設上の制限から有効床面積が狭くなったり(壁が多くなる)、広いフロアーを一括して賃貸できないなどの弊害が出てくる。また、逆に○印の付いた区画しか地上げできなかった場合には、ビルそのものが建てられなくなってしまう。

失敗例はともかくとして、地上げ前の土地単価と地上げ後の土地単価には大幅な差が出るのは当然であろう。面大地の項では広い土地を区画割りすることによって土地単価が下がると書いたが、商業地などでは土地を併合することによって付加価値を高めることができるのである。

1.2建築基準法

次に、土地の値段に影響を与える要因として、不動産と建築基準法の関係について取り上げる。

建築基準法と言っても、その範囲は広く、集団規定といって都市計画区域内でのみ適用されるものと、単体規定といって日本全国の建物について適用されるものがある。ここでは、集団規定の中から、代表的なものとして接道義務を取り上げる。

1.2.1接道義務の基本

建築基準法では、都市計画区域内においては建物の敷地は図8のように道路に2メートル以上接していなければならないと規定されている。逆にいえば、道路に2メートル以上接していない土地には建物を建ててはいけないことになる。ところで、4メートル幅の道路とは具体的にはどれくらいの広さであろうか。日本の車の代表としてタクシーを取り上げるが、殆どの中型タクシー(クラウンとかセドリッククラス)は幅が1.7メートルである。4メートルの道路といえば、ぎりぎりタクシーが2台すれ違える広さになる。

また、2メートルの入り口は、ぎりぎり車が1台入れる(ドアは開かないかもしれないが)広さになる。実はこの規定は戦災時に消防自動車が活動できず、被害が広がったことから制定された経緯がある。ところで、東京に住んでおられる方は、自宅の周りを思い出してみていただきたい。車がすれ違えない道路などざらに存在することに思い当たるであろう。また、ちょっと注意深く周りを見回してみれば、道路から細い細い通路を入っていく家も案外簡単に見つかると思う。これらすべてが建築基準法違反なのだろうか。

1.2.2 4メートル道路

土地はすべて4メートル以上の道路に接していなくてはいけないと規定されているが、上記のように、4メートル未満の狭い道路など、東京にはざらに存在する。そこで、幅員4メートル未満の道であっても、建築基準法の集団規定が適用されるに至った際、現に存在し、すでに建築物が立ち並んでいるもののうち、特定行政庁の指定があるものは、建築基準法上の道路とみなされる、という規定(建築基準法42条2項)が作られた。これで狭い道路に接している建物についても法的な裏づけができたわけである。

しかし、接道義務は、国民の生活の安全性を向上させるために設定されたものであり、4メートル未満の道路はできるだけ幅を広くする方向で作りなおさなくてはならない。そこで、このような土地は将来の道路拡張に備えて土地の一部が道路とみなされて、将来建てかえるときは道路とみなされる部分(セットバック)に建築ができなくなる(図9参照)。具体的には、道路の中心線から水平距離2メートル後退した線(一方にがけや水路があり両側にとれない場合には、がけや水路と道路との境界線から道路側に水平距離4メートルとった線)が道路との境界線とみなされ、この境界線より内側には原則として建築物を建築したり、敷地を造成するための擁壁を建造したりしてはならないと規定されている。

これをセットバックという。不動産の広告をで、要セットバックとか現に建物が建っている場合にはセットバック含むなどと書いてあるものがこれにあたる。新聞などの折り込み広告ではこの規定に違反するような物件はまずないので、セットバックの記載漏れもまずないと思ってさしつかえない(不当景品類及び不当表示防止法の規制対象になる。違反した場合には宅建業法違反となり、業務停止、免許取消しの対象となる)。

ただ問題は、実際にはこのような土地はたくさん現実に存在することである。また、実際に建物が建っている物件の場合、再建築の際にはセットバックが必要ですといわれても、一般の方にはピンとこないのではないだろうか。しかし現実に将来家を立て替えようとした場合、土地面積が不足して、思ったような建物が建てられない、という事態になってしまわぬよう注意が必要である。また、セットバックを含む土地は、その分値段が安くなる。一般的に道路は値段がないもの(評価額ゼロ)と評価されるので、広さの割に安い土地だと勘違いしてはならない。

1.2.3 接道義務違反の土地

9のように、都市計画区域内の建物の敷地は道路に2メートル以上接していなくてはならないが、基準を満たさない通路で道路と接している土地もけっこうある。また、めくら地、ふくろ地と呼ばれる無道路地も存在する。しかも堂々と建物が建っている場合もある。建築基準法上も例外規定はあって、その敷地の周囲に広い空き地を有する建築物など、特定行政庁が交通上、安全上、防火上および衛生上支障がないと認めて建築審査会の同意を得て許可した場合には、例外的に接道義務に従わなくてもよいものとされている(建築基準法43条1項但し書き)。しかし、こんな土地は例外中の例外であろう。では、接道義務違反の土地はどのような評価を受けるのだろうか。

接道義務違反の土地・建物が売りに出された場合は建物について再建築不可との但し書きがあるのが普通である。土地・建物の売買に対しては宅建業法や不当景品類及び不当表示防止法その他かなり強い規制がかかっており、特に大都市の住宅地については接道義務違反を告げずに販売する事はほとんど考えられない。従って、接道義務違反の意味を充分わかってその土地を購入するなら、大変割安な土地を買うことができる。正常な土地の数割引の値段が付いているはずである。

1.2.4  接道義務その他の問題

面大地の項でも説明した宅地の分割について再度触れる。このような土地分割は、もともと広い一区画の土地を住宅建設にふさわしい大きさに分割する場合によくとられる手段であることは前述の通りである。

宅地を分割して分譲する場合には必ずプロの手が入るので、(宅地の不特定多数への分譲は宅地建物取引取引業免許が必要)接道義務を無視したりはしないであろうが、昔ながらの地主さんが建物を建てて貸している場合などに問題が起きやすい。ある土地全体が一人の所有に係るものであれば、全体として接道義務、容積率、建ぺい率等に問題がなければ建築許可は下りる。

よく問題になるのは、図10にあるように、裏の空き地にアパートを建てた場合などである。裏のアパートに行くには母屋の軒下の狭い通路を通って出入りするなどというケースは結構あると思われるが、接道義務を満たしているとは到底考えられない。建てた当初は問題ないだろうが、いざ相続が起きて土地の分割を使用とする場合に、問題になる。

接道義務を満たすためには母屋の一部を取り壊して土地を分筆しないと後ろ側のアパートの敷地は無道路地になってしまう。確かに民法上はこのように土地の分割によって無道路地が発生した場合、通行権が無道路地の所有者に発生すると規定されている。その場合でも、通行権が確保されただけで、将来的な再建築もできない、従って処分価格も低くなるなど、無道路地の問題の本質的解決にはならない。

まして、母屋も借家で借家人が住んでいる場合、借家人には居住権が発生するので、取り壊しも容易ではなく、問題は一段と複雑になってしまう。従って、相続等の問題を考えると、最初から将来の区画割などを考えて土地の利用法を決めなくてはいけないことがわかる。

1.3 土地の値段に関するまとめ

上記設例は主として個人が住宅を建設する場合を念頭において解説したものであるので、必ずしも不動産証券や不動産信託が対象としているオフィスビルなどに当てはまるわけではない。しかし、今後不動産証券が一般化するに従って、ビル建設のために将来の賃貸収入を証券化する(従って証券の募集時点でビルは存在しない)といったケースも出てくるものと思う。後述するが、日本における不動産証券化に伴うデュー・ディリジェンスは確立しているとは言い難い。現状では、投資家自身が不動産に精通するよりほかに投資の安全性を確かめるすべはないのである。

不動産は値段も高く、耐用年数も長い資産である。また、不動産は極めて個性が強く、実に些細なことで大きく価格が異なってくる。投資するときには遠い将来と思えるような未来まで十分気を配る必要がある。不動産にかかわる取引をする場合は、決して公示価格などを鵜呑みにしないで、必ず実際に土地の検分に出かけることが必要である。例え証券化されている物件であっても、机上の空論で不動産に関わることがいかに危険であるかは、以上の例からも分かると思う。

2. 土地の利用法

2.1 共有

共有とはひとつのものを数人で所有している状態をいう。ここでは不動産の共有とそれに伴う問題点を取り上げる。また、共有は区分所有(具体的にはマンションの所有形態)の基礎になっている概念なので、区分所有を理解する上で欠かせない概念である。

区分所有法(正式名称「建物区分所有等に関する法律」)とは、別名マンション法と呼ばれ、マンションブームを背景に昭和59年に改正、施行された。しかし、淡路大震災後、神戸のマンションの建て替えが軌道に乗らないように、マンションにも色々な問題が指摘され始めた。マンション建設後年数が経ち、マンションの老朽化が問題になるのも、遠い将来とは言えなくなっている。他の地域でも建て替え問題が社会問題になるのは、時間の問題といえよう。

不動産の共有形態は、従来から問題とされてきた。それだけではなく、定期借地権の創設に伴う新しい不動産所有形態や、証券化に伴う所有権の変質などから、不動産の所有形態が複雑になることが予想される。不動産の所有を巡る問題を以下で検討する。

2.1.1 民法上の共有の定義

不動産に関わる共有問題に入る前に、民法に規定する共有の概念を紹介する。

例として、別荘をABC3人で共有しているとする。民法では、特に持分に関する取り決めをしていない場合は、持分は平等と推定する(民法第250条)。従って、この場合は各人の持分は3分の1となる。

別荘の共有状態とは、子供の陣取りゲームのように建物や土地に線を引いて3分の1ずつ使うわけではない。各人が別荘全部について使うことができると民法は規定している(民法第249条)。ただ、各人の持分に応じて使える程度が異なってくる。この場合は平等ということになる。

また、共有者の1人が相続人なくして死亡し、特別縁故者に対する財産分与もなされない場合、または、共有者の1人が持分を放棄した場合には、その持分は他の共有者に帰属することになる(民法第255条)。

各共有者は各自の持分を自由に処分することがでる。また、共有状態を脱するため、いつでも(ただし5年を越えない範囲で共有物を分割しない特約は可能)共有物の分割を他の共有者に請求できる。また、当事者間で協議がまとまらない場合には裁判所に分割の請求ができることになっている(民法第256条)。

各共有者は1人で、共有物の保存行為ができる。保存行為とは、共有物の現状を維持する行為で、例えば別荘の通常の維持管理に必要な手入れなどがこれに当たる(民法第252条但書)。

各共有者の持分の過半数の賛成を得て管理行為を行うことができる(民法第252条)。上記別荘の例では2人の賛成が必要となる。管理行為とは保存行為を超えて共有物を利用・改良する行為で、第三者に対する別荘の賃貸借の契約を締結したり、解除したりする行為があたる。より一般的な行為としては、別荘の利用者を決めることも含まれる。

共有者の全員の同意が必要になるのが変更行為である(民法第251条)。変更行為とは共有物の形や性質に変更を加える行為をいい、具体的には別荘を第三者に売却したり、別荘自体の建て替えたりする場合があたる。

2.1.2不動産の共有

民法に規定される共有の概略は上記のとおりである。一見かなり細かく規定されているようであるが、残念ながら「共有は紛争の母」とまで言われるほど厄介な問題を引き起こすといわれている。

上記例のABCを仲の良い兄弟とでもしよう。実際、共有関係に入ってしまうのは共有者が肉親関係の場合が多いようである。最初のうちは3人で仲良く別荘を使っていたとする。

ところが、有り勝ちなことだが、別荘の使い方をめぐって争いがおきたとする。例えば、ABが結託してお互いに入れ替わりに終末を使うことにしてCを排除してしまったとする。Cは不満であるが、管理行為は各共有者の持分の過半数が賛成すれば法的には有効に決定されてしまう。

不満なCは持分を売ってしまおうとする。持分の処分は法的にも各共有者の自由である。しかし、共有状態の土地・建物を売却しようとしても、実は買い手がつかない。これは、値段の問題ではなく、共有状態の不動産にはほとんど市場価値がないからである。また、別荘全体を処分しようにも、変更行為には全員の賛成が必要となるが、無理なことは明らかである。

そこで、Cは共有物の分割を請求する。しかし、分割するのは別荘である。1軒の別荘をどうやって3分割するのであろうか。土地にしても、充分な広さがあればともかく、一般的な土地では無理に分割すると方角や地形、接道の関係から不平等が生まれがちである。

そうこうしているうちにCが亡くなったとする。Cにはc1とc2という子供がいたとする。Cの持分はc1とc2に相続されることになる。ABの権利もa1,a2,b1,b2という子供達に相続されたとする。

こうなると、共有者は6人になり、各人の持分は6分の1ずつになる。代が替われば、別荘を買った最初のいきさつも分からなくなるであろうし、各共有者の関係も疎遠になる。各共有者が結婚でもすれば、法律上の共有者の数は変わらないとはいえ、利害を持っている人間の数が一挙に増えるので、すでに充分複雑になっていた利害関係が泥沼状態になってしまう。このような事態につけこんで悪質な人間が共有者の一人にならないとも限らない。何しろABCの一族郎党が全員死んでしまえば、別荘は1人のものになるのであるから。このような事態は極端としても、代を経るごとに共有者が増えてしまった物件には不動産業者も手を出さない。実際、田舎の土地などで共有状態のまま所有権だけ代々移転している例がある。まともな市場価値はゼロであろう。

上記の例では、共有者は兄弟であったが、たとえ親友といえどもヨットや自動車といった動産はともかく、不動産を共有する例は多くないようである。やはり日本人には不動産信仰があるのであろうか。しかし、兄弟や親子間では、意外と安易に共有関係に入ってしまう例が多い。

土地家屋を夫婦で共有にするのは良くある例であるが、この場合はそれほど問題とはならない。夫婦共有を解消する場合は離婚がほとんどであろうが、この場合は利害関係人も2人しかいないし、財産分与の一環として論じられるので、そのまま共有状態が続くなどということは考えられない。

また、肉親といっても親子で共有関係に入る場合も問題は少ないといわれる。通常親の死亡が先になる。その場合、相続人たる子が親の持分を相続して単有状態になるので、問題は自動的に解消される(死亡の順序が逆でも単有状態になるのは同じ)。

問題は兄弟である。上記別荘の場合は意識的に共有状態に入ってしまったわけであるから自業自得ともいえるが、意外に多いのが相続をきっかけに共有状態に入ってしまう場合である。民法上は、相続財産は財産分割協議が整うまでは相続人の共有状態になるとされている(民法第898条)。これは別に民法が共有状態になるように指導しているわけではなく、所有者のはっきりしない事態を回避すべく規定されている。ところが、これを額面どおり受け取って、分割協議が整わないうちに早々に土地だけ共有の登記をしてしまい(遺産分割協議が整った後に単有の登記に更正するのは、手続き上は簡単である)、遺産分割でもめているうちに相続税の申告期限がきてしまい、結局共有状態はそのままになってしまう、といった場合がある。実際には共有状態で申告しておけば修正申告は可能であるが、相続問題でもめている場合にはなかなか合意が成立しない。そして時間がたてばたつほど問題はこじれしまうのである。

2.1.3共有問題まとめ

最良のアドバイスは、最初から共有状態に入らないようにするとしか言いようがない。財産を残す親としては、あらかじめ分割方法を考えて、子供達を共有問題で苦しめないようにあらかじめプランニングしておくことが必要であろう。

2.2区分所有法

「建物の区分所有等に関する法律」(以下「区分所有法」という)制定(昭和37年)以前はマンションなどの権利関係は民法の共有概念を解釈することで決定されてきた。ところがマンションの場合、1人で何部屋も持っていたり、部屋にも広い狭いがあったりと区分所有者の数と持分(各区分所有者が所有する専有部分の床面積の割合。区分所有法では議決権という)の割合が違っていることがあるなど、さまざまな問題が発生した。そこで協同生活のルールとして区分所有法が制定された。

区分所有法は大まかに、建物や敷地など物に関するルールと住民の自治に関するルールの2つの部分から成り立っている。ここでは区分所有法の概要について箇条書きで簡単にまとめておく。

·         マンションは共有部分と専有部分に分かれる。廊下やエレベーターといった法定共有部分とマンションの一室を集会所や管理人室にする規約共有部分がある。(区分所有法4条)

·         保存行為は各区分所有者が単独で自由に行うことができる。(区分所有法18条)

·         管理行為は区分所有者及び議決権の過半数の賛成が必要である。(区分所有法18条、39条)

·         変更行為(著しく多額の費用を要しない変更行為)は区分所有者及び議決権の過半数の賛成が必要。(区分所有法17条、39条)

·         変更行為(著しく多額の費用を要する変更行為)は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成が必要(軽減条項あり)。(区分所有法17条)

·         各区分所有者はその有する専有部分の床面積の割合に応じて敷地利用権の共有部分を有する。(区分所有法22条)

·         原則として専有部分と敷地利用権を分離して処分することはできない。(区分所有法22条)

·         管理は全員参加の団体として当然に成立する管理組合によってなされる。(区分所有法3条)

·         管理組合は一定の条件を満たせば法人格を得られる。(区分所有法47条)

·         区分所有者または管理組合法人は一定の手続きを経ることによって、当該区分所有者に対して行為の停止、使用禁止、区分所有権の競売を請求できる。区分所有建物の占有者に対しても行為の停止、部屋の引渡しを請求できる。(区分所有法57条、58条、59条、60条)

·         建物の価格の2分の1以下に相当する部分が滅失した場合、集会の区分所有者及び議決権の過半数のよる決議で復旧計画を定めるまでは各区分所有者が復旧できる。(区分所有法61条)

·         建物の価格の2分の1を越える部分が滅失した場合は区分所有者及び議決権の各4分の3以上の賛成で復旧の決議を行う。反対した人はその所有する区分所有権及び敷地利用権を時価で買い取ることを賛成した区分所有者に請求できる。(区分所有法61条)

·         建物の老朽、損傷、一部滅失等のため、その効用を維持し又は回復するのに過分の費用がかかる場合は区分所有者及び議決権の各5分の4以上の賛成で建て替えの決議を行うことができる。反対の区分所有者に対しては、賛成の区分所有者などが売り渡しを請求できる。(区分所有法62条、63条)

2.1.3区分所有法の問題

区分所有法の概略は大体上記のようになる。いくつか問題点が指摘されており、現実に紛争になっている場合もある。大別すると、

·         共有部分と占有部分の区別、敷地利用権の処分など、所有権に関わる問題

·         規約の制定、住民と管理組合の関係など、管理に関する問題

·         建物の復旧、立替えに関する問題

3点になる。

<所有権の問題>

占有部分については当然に登記に反映されるが、廊下、エレベーターといった当然に共有部分とされる部分については明確に登記簿に反映されない。また、管理人室や屋内駐車場といった規約共有部分も、別途登記をしなくては第三者に対抗できない。この規定を悪用して、「駐車場やトランクルームなどは勿論、ピロティー部分を分譲後、駐車場や店舗に改造して分譲業者が利益を残存させたり、当然に共有部分と解されるべき廊下ですら隠密裏に占有部分として登記させた」(日本弁護士連合会「区分所有意見書」p3)といった例まであるという。

占有部分と共有部分、そして規約共有部分がある場合はその規約共有部分についても宅地建物取引業法(以下「宅建業法」という)第35条によって、重要事項として契約の申し込みを受ける前に買主に対して説明しなくてはいけないことになっている。実際に経験された方は分かると思うが、この重要事項の説明というものは結構長く、かつ専門的なものである。

宅建業法第35条は、重要事項の説明は書面を交付した上で、宅建主任者をして説明させなくてはいけないと規定されている。規定通りに説明が行われた場合、重要事項の説明を受けた時点で買主側が問題を指摘しないと、たとえ消費者契約法を適用したとしても、売り主側には説明義務を果たしたと主張されることになる。実際に不動産を買う場合には、こういった説明もおっくうがらずにきちんと聞かなくてはいけないことが分かる。

<管理の問題>

区分所有法は団地形式の団地全体が区分所有者の共有になっている形態を想定しているが、現在ではマンションの所有形態も、店舗併用型、主に投資の対象として買われるワンルームマンション(実際の居住者は賃借人ばかり)、不在区分所有者ばかりのリゾートマンションと多岐に渡っている。

居住者が入居する前に、管理会社が分譲会社の子会社などに決まっている、などというのは良くあるケースである。住民が熱心で管理組合をきちんと結成して交渉すれば別であろうが、区分所有者が多く住んでいないマンションなどでは管理組合の結成もままならない場合もあるようである。

また、管理会社には分譲会社とは異なり、何らの法的規制もない(分譲会社は宅建業者であることが義務づけられており、一定の金額の供託義務などがある)。管理組合からの預り金を着服したり、最悪のケースでは、預り金の名義が管理組合名義になっておらず、管理会社の倒産とともに差し押さえられてしまった、などという事件もあるという(日本弁護士連合会「区分所有意見書」p2)。

管理業者に対する法的規制が望まれることはもちろんであるが、居住者は自己財産の自衛のためにも、是非管理組合の会合にも出席するべきであろう。

<復旧・建て替えの問題>

阪神・淡路大震災で壊れたマンションで、復旧や建て替えの決議がうまくまとまらないケースがかなり多いと聞く。また、一般のマンションでも、建て替えがうまくいったのは、もともと容積率に余裕があり、より大きなマンションに建て替えられ、元々の区分所有者の居住部分を確保したうえで、残りを分譲できるなど、かなり恵まれた条件のところに限られている。1960年代に贅沢に建てられたマンションはいざ知らず、高度成長期に容積率いっぱいに建てられたマンションなど、厳しいことになりそうである。

また、これは所有権の問題のところでも触れた問題であるが、敷地が不明朗な形式で分譲前に分筆されてしまった場合、もともとの敷地に対して建ぺい率・容積率いっぱいに立てられていたとすると、立替え後の建物は当然もとの建物より小さいものしか建てられないことになる。

2.2区分所有法まとめ

マンションは当初耐用年数を60年くらいとうたわれていた。しかし、その後の経過を見ると、せいぜい30年くらいのようである。21世紀に入ると、高度成長期以後に粗製乱造されたマンションが次々と耐用年数切れを起こしていくと思われる。その際に、前述の立替え問題などが大きくクローズアップされることであろう。

マンションを買う場合には、資産としてではなく住むための機械と割り切って、ちょっと高額の耐久消費財(車や冷蔵庫などである)を買うつもりで購入したほうが良いようである。そう思えば、車に定期点検が付き物であるように、また、修理点検は安かろう悪かろうなどという業者には頼まないように、マンションにもアフターケアとその業者選びが重要性も理解できることであろう。

また、今後不動産の証券化によって、不動産の所有形態も大きく変わっていくことが予想される。実際に不動産の所有権を取得しない場合でも、証券や株式の取得を通じて間接的に不動産の運営に関わることになる。

不動産証券や株式の取得を通じて間接的に不動産の所有にかかわる場合でも、資産価値を維持するためには、現状資産の精査はもちろん、将来的なメインテナンスが必要なことも明らかであろう。

2.3 不動産の賃貸借

賃貸借契約については、民法に一般的な規定がある。しかし、土地建物の賃貸借契約には借地借家法という法律が別に設けられている。これは、民法における賃貸借が対等な個人間で結ばれる契約を念頭においているのに対し、借地借家では賃貸人(大家)と賃借人(店子)が対等な関係とはいいがたく、賃借人を保護する規定が必要とされ、特に戦中戦後、軍人の遺族を優遇するために制定されたといわれている(旧借地法、旧借家法、建物保護法)。

旧借地法、旧借家法、建物保護法があまりにも賃借人に有利だということで弊害も目立ってきたので、平成4年8月1日より旧借地法など3法を廃止するとともに借地借家法に統合、施行された。さらに、平成11年12月15日、「良質な賃貸住宅等の供給の促進に関する特別措置法」が交付、借地借家法が定期借家を認めるかたちで一部改正され、平成12年3月1日より施行された。ただし、突然法律が変わってしまったのでは借地人、借家人に不利となるので、新報施行以前の契約については新報施行後に更新される場合にも旧法により更新されることとした。また、定期借家については、新法施行後も従来型の借家契約を結ぶことが可能である。

新法をもとに新しい借地契約の形として定期借地権、定期借家権が生まれ、不動産取引のひとつの潮流となりつつある。ここでは借地権及び定期借地権の中でもつくば方式と一般にいわれている方式について解説するとともにその問題点を洗い出す。そして、不動産証券化の流れとともに制定された定期借家権の今後の展開を予測する。

2.3.1借地権

借地借家法では借地権を、建物所有を目的とする地上権または土地の賃借権であると規定している(借地借家法2条)。従って、農地の場合などには適用されないが、店舗つき住居や店舗そのものなど事業用の建物を所有する場合にも借地借家法は適用される。

借地権は建物の所有を目的としている。建物は木造のものであっても30年程度は充分に存続するし、あまり短い期間を定めることは借地人を常に更新されるかどうか不明の不利な状態に置くことになる。そこで、借地権の存続期間は最低30年とし、民法における賃貸借の最長期間20年は適用されないこととした。

借地権が終了した場合、借地権者と借地権設定者(借地人と地主)の合意が得られれば更新される(合意による更新借地借家法4条)。また、地主の合意が得られない場合でも、建物を所有する借地人が契約の更新を請求した場合は、原則として前の契約と同じ条件で更新されることにした(借地借家法5条)。ただし、地主が「正当事由」ある意義をただちに述べれば、更新請求を拒絶できる(借地借家法5条、6条)。さらに、借地人が借地権の更新を請求しない場合でも、期間満了後も土地の使用を継続しており、建物が存在しているにもかかわらず、地主が遅滞なく「正当事由」ある意義を述べない場合も借地契約が原則として更新されたものとみなされる(法定更新 借地借家法5条)。更新後の期間は、最初の更新においては20年以上、2度目以降の更新では10年以上でなければならないと定められている(借地借家法9条)。

借地権の存続期間の満了前に建物が滅失しても、借地権は当然には消滅しない。その場合、借地人が存続期間を超えて存続する建物を再築したときは、地主が再築を承諾した場合に限って、借地権の期間が延長されることとした。もっとも、借地人から再築する旨を通知したばあいは、それから2ヶ月以内に地主が異議を述べなければ、その承諾があったものとみなされる。地主の承諾があった場合の延長期間は承諾があった日、もしくは建物再築の日のいずれか早い日から20年間になります(借地借家法7条)。地主が承諾しなかった場合は残存期間の満了に伴い借地権は終了します。この借地権終了後に更新が行われるかどうかは、前述の請求による更新や法定更新が行われるかどうかにかかってくる。

民法によれば、転貸や賃借権の譲渡には賃貸人の承諾が必要ですが、借地借家法では一定の場合には裁判所が借地人の申し立てにより地主の承諾に変わる許可を与えることができるとしている。建物の転貸、借地権の譲渡には地主の承諾は必要ないものとした(借地借家法19条)。増改築を制限する借地条件がある場合において、土地の利用上相当な増改築については、裁判所は借地人の申し立てにより地主の承諾に代わる許可を与えることがでる(借地借家法17条)。

2.3.2借地の問題点

以上のように、現在の借地借家法でも充分に借地人は保護されているが、逆に地主側から見れば、いったん土地を貸してしまったらいつ返してくれるか不明であり、契約の更新拒絶をする場合の正当事由についても、自身で土地を使用する必要がある、賃料が安すぎる、立退き料を支払ったかなどを厳しい条件を総合して判断されるので、簡単に立ち退きを要求することはできない。

また、賃料についても、借地の場合、固定資産税をわずかに上回る程度の低水準に決められている場合が多いようである。現在の固定資産税の標準税率は1.4%(プラス都市計画税0.3%)であるが、小規模住宅用地の場合は課税標準の6分の1、一般住宅用地の場合は課税標準の3分の1に軽減されるので、おそらく実効税率は1%以下であろう。従って借地の投資利回りも良くて1%程度なようである。借地の設定時や更新時に多額の設定料・更新料が支払われる事例も多いと思われまるが、投資としては充分なリターンを得ているとはいえない。

参考文献に挙がっている例では、賃貸料は「60坪を坪当たり500円の地代で借りていると毎月の時代が3万円、年間36万円」であり、「固定資産税を20万円とする」と、「6000万円の土地に対して収益が16万円、投資利回りは0.26%」にしかならない。「借地権割合を6割としても、底地は6000万円の4割の2400万円、この金額を基準にしても0.66%」である(倉橋 隆行『プロが教えるアッと驚く不動産投資法』pp153-154)。逆にいえば、借地の評価は実際の取引価格よりはかなり割高になっているとも言える。

例えば、相続が起きた場合、相続した借地については、借地権割合を割り引いた評価が適用されるが、(30から90%、借地権割合は路線価図に示されている)、それでも底地の市場価格に比べると割高な評価を受けることになる。この相続問題は近年不動産路線価を時価並に引き上げたことから一気にクローズアップされた。実は、以前も底地割合が市場価格とマッチしていない問題はあったものの、路線価そのものが安かったので問題にならなかっただけなのである(森田義男『新・怒りの路線価物語』p138)

2.3.3借地権の解消法

借地権(旧借地法に基づくものを含む)の付いた土地は現在でも多く見かける。地主の中にはとにかく土地を手放したがらない人種もいるが、上記のように借地が経済的にはほとんど機能していない以上、借地権は整理したほうが望ましいで。では、借地権整理の方法には、どのようなものがあるのだろうか。

解消方法としては、

1.            地主が借地権を買い取る。

2.            借地人に底地を買い取ってもらう。

3.            1と2の中間として、土地を分割、底地と借地権を等価交換する。

4.            両者共同で、もしくは底地だけで第三者に売却する。

といった方法が考えられる。ただし、4であげた、底地だけを売却する方法は経済的にはあまり勧められない。底地業者という底地買い取り専門業者もいるといわれるが、買い取り価格は更地価格の1割と言われている(逆にいえばそれしか経済的価値がない)(森田義男『間違いだらけの土地評価』p106)。売却するのであれば、借地人と協力して一体の土地・建物として売却の上代金を折半するほうが好ましいであろう。

ただし、いずれの方法をとるにしても、地主と借地人の利害は対立しており、交渉は簡単にまとまらないのが現実である。しかし、相続等後々の問題を考えると、粘り強く交渉を重ねるしかないであろう。

2.4定期借地権

普通借地権には更新の制度が認められているため、地主にとってはひとたび借地を認めてしまうと、いつ土地が帰ってくるか分からないという不安があり、土地供給の妨げになっているという批判があった。このような地主も、約定期間を設け、確実に手元に帰ってくるのであれば、土地を提供するのではないかという期待から制定された。

2.4.1定期借地権の内容

具体的には、長期の定期借地権(一般定期借地権)、建物譲渡特約付き借地権、事業用借地権の3種類がある。

<長期の定期借地権>

普通借地権の場合、借地人には更新請求権が認められていますが、存続期間50年以上に渡る長期の借地権設定の場合には、更新をしないという特約を付けることを認めた。この特約は公正証書などの書面によってしなければならないと定められている(借地借家法22条)。また、借地上の建物の用途は制限されていない。

<建物譲渡特約付き借地権>

借地権設定後30年以上が経過した日に、借地上の建物を地主に相当の対価で譲渡する特約を付けることを認めた(借地借家法23条)。なお、建物譲渡特約の形式は、売買予約や期限付売買契約等多様であるため、他の定期借地権のように書面によることは必要とされていない。地主は建物の登記簿に仮登記することにより建物を譲り受ける権利を担保できる。

所有権が移転し、借地権が消滅しても借地人が建物使用を継続している場合には、借地人が請求すれば期間の定めのない借家契約が成立するものとした(借地借家法23条)。また、借地上の建物の用途は制限されていない。

<事業用借地権>

上記定期借地権はいずれにしても長期にわたる契約である。そこで、居住を目的としない10年以上20年以下の事業用借地権を認めることにした。事業用借地権では、期間満了後の更新や建物買取請求を認めていない。事業用借地権の設定は公正証書によらなくてはならないものとされている(借地借家法24条)。

2.4.2つくば方式

定期借地権をうまく利用した「つくば方式」と呼ばれるマンション建設方式は、つくば学園都市にある建設省建築研究所等で開発され、つくば市内で第1号が事業化されたことから名づけられた。現在、全国で10棟程度が事業化されている。

つくば方式の基本的な特徴は、マンションを「スケルトン」という構造部分と「インフィル」という間取り部分を分ける建築方式を取っていることである。まず、スケルトンという構造体は鉄筋コンクリートで基本的には100年以上の耐用年数を想定して作られている。通常のマンションでは、構造と内装は一体設計であるので、一部改築は難しく、全面的な立替えが必要となるし、大体100年もの耐用年数はない。つくば方式では、インフィルの部分についてはライフステージに合った改装が簡単に実現できるようになっている。また、住宅を持ちたい人が集まって、協同してマンションを建築、建築段階で居住者の要望をあらかじめ取り入れた間取りを実現するコーポラティブ住宅と呼ばれる方式もある。

つくば方式では、当初30年間は借地契約に基づく借地代が(当初の権利金とともに)支払われる。30年経過後、スケルトン部分をあらかじめ定められた価格(スケルトン再建築費の4割)、インフィルは価格ゼロで地主に譲渡されるが、住人は以後30年間賃借人として引き続き居住できる(つくば方式では全体の借地期間を60年としている。50年以上であればつくば方式は適用できる)。また、賃借人と地主は譲渡価額と家賃との相殺契約を結び、実質的には借地期間と変わらぬ借賃で居住しつづけられるよう設計されている。

また、地主にとっても30年後には賃貸人のいる賃貸住宅を借入金その他の自己負担なしに取得できるメリットがある。また、当初の権利金等により自己借地を設定、自己の住居にすることも可能であるし、下層階のテナント部分を権利金等に換えて取得することにより家賃収入を見込むなど、さまざまな可能性が考えられる。

贅沢なスケルトン方式の建築も、建物建設代金の支払いを、定期借地権の活用によって押さえることで実現している。現状では優れた方式であるとの評価が多いようである。

2.4.3定期借地権の利用状況と問題点

平成5年の制定以来の定期借地権を利用した住宅の供給状況は表1のとおりである。平成9年度の新設住宅着工戸数は1,387,014戸(建設省平成9年の新設住宅着工戸数(概要))であるから、全体の住宅供給に占める定期借地権付住宅の供給はわずか0.26%という低率にとどまっていることが分かる。

また、一戸建て住宅において定期借地権を利用した件数が意外と多い。これは、マンションなどより、価格面でのメリットを強調しやすく、顧客アピールの度合いが強いという業者側の論理から生まれたものだろう。しかし、定期借地権の概念は、建設を想定して創設されたといわれている((株)バード財産コンサルタンツ「「定期借地権」はもういらない―――「定期借家権」の威力」 『バードレポート』194号1998年2月2日)。マンションやビルは耐用年限が数十年程度とされるので、50年の定期借地権もさほど無理なく適用できるであろう。ところが、一戸建て住宅の場合には、立替え等あり、簡単に土地を明け渡せるものではないだろう。50年後、いま40歳の両親と10歳の子供も、50年後には既に両親は亡く、子供も60歳になる。定年と同時に突然小さいときから住んでいた家から出て行けといわれることになる。50年前の契約をたやすく実行できるのだろうか。

また、定期借地権の設定には、土地を購入するより安いとはいえ、かなり多額の金額が必要になる。ところが、定期借地権は一切資産にはならない。さらに、定期借地権には期限がある。建物譲渡特約付き借地権の場合、期限がくれば、例えば30年経った後、その建物を売却する必要があるが、そのときに市場価値が存在しているか、適正な時価が決定できるかどうか大変怪しいものがある。まして、現状の日本では、前述のように中古住宅の流通市場が存在せず、建て付け減価まで生じてしまう。また、一般定期借地権の場合では期限到来とともに問答無用で土地を返却しなくてはならない。建物の寿命がちょうど50年であれば問題はないだろうが、途中で改築した場合など、後で問題となることは必定ではないのだろうか。

つくば方式にしても、何らかの理由で立替えが必要になった場合、スケルトンとインフィル所有者間での費用分担の問題は残る。また、居住者にとって、インフィルだけを担保の目的にできるかといった問題も指摘できる。

日本では定期借地権の期限を迎えたことがないのであるから、現状では確定的なことはいえない。しかし、英国では同様の規定がすでに17世紀には存在し、「17世紀には20年以下しか認められていなかった借地期間が、後に借地を地主に返還できない人達が急増して政治問題になり、貴族の私法制定という形で41年から51年に長期化され、18世紀の61年、81年というさらなる延長に続いて、ついに1882年の承継財産設定地法によって、99年という超長期の借地期間の延長が認知された」(井出 保夫『不動産は金融ビジネスだ』p94)経緯があるそうである。ちなみに現在の英国では999年などという歴史的なリース期間を設定している建物もある。

残念ながら定期借地権が社会に認知され定着するには、まだ何世代かかかるのではないだろうか。

1  年別定期借地権付住宅の供給状況

一戸建て

マンション

平成5年

102

159

261

6年

1,370

536

1,906

7年

2,570

1,246

3,816

8年

3,097

1,661

4,758

9年

2,576

1,007

3,583

供給時期不明

117

0

117

合計

9,832

4,609

14,411

(出展 平成11年版土地白書 国土庁より)

2.5定期借家権

従来の借地借家法における借家権は賃借人に大変有利にできていた。賃借人からの解約は、期間の定めのない借家に関しては解約申し入れから3ヶ月で認められる。1年以上の期間の定めがある借家に関しては、法的には賃借人からの解約申し入れは認められていないが、賃借人から解約申し入れがあった場合、即時に認めるのが通例である。一方、賃貸人からの解約申し入れには借地権の場合と同様の正当事由が必要とされた。

従って、賃貸人としては、アパートを大きなビルに立て替えて賃貸収入を増やしたいと思っても、借家権がある以上、全ての借家人が出て行くのをひたすら待つか、高額な立退き料を支払う必要があった。また、他の良質な賃借人が出ていってしまう原因となる悪質な賃借人には契約終了と同時に出ていってもらい場合でも、借家権をたてに居座られると、賃貸人からは効果的な手段が取り難かった。

同様な規定は借地法にも存在することは前述の通りである。このような規制が地主をして土地、建物の供給をためらわせる原因になってきたと指摘されてきた。このような状況を打破すべく、定期借地権に続いて定期建物賃貸借(定期借家権)が制定されたのである。

2.5.1定期借家法の内容

l        期間の定めのある賃貸借契約である。
従来の借家権は1年以上20年以下という制限があったが、1年以下、20年以上の契約も認められる。

l        建物の使用目的は問わない。
事業用、居住用ともに可能。

l        公正証書等書面をもって契約すること。

l        賃借人に対してあらかじめ、契約内容を記載した書面を交付し説明しなくてはならない。
この義務を怠った場合には、従来の賃貸借契約として取り扱われる。

l        中途解約は原則認められない。
ただし、延べ床面積200平方メートル未満の居住用建物で、転勤、療養、親族の介護などやむを得ない事情で自己の生活の本拠として使用困難な場合は、中途解約ができ、解約申し入れから1ヶ月経過することにより賃貸借は終了する。

l        契約の更新はない。
すべて再契約となる。

l        立退き料等は必要なく、契約期間の終了をもって当然に契約は終了する。

2.5.2定期借家権に期待される経済効果

定期借家権は現行法の賃借人の権利を制限する方向で制定されるため、弱者切り捨てになるとの批判も強かった。しかし、立替えが容易になることから優良賃貸住宅が市場に供給されることが期待できるなどさまざまなメリットがあることから制定された。

上記定期借地権で個人住宅を建設する場合には、50年という長い期間が問題になる可能性があることを指摘したが、定期借家件では期間の設定は当事者間で自由に決められる。また、定期借地権の場合とは異なり、建物も賃借人の所有になる。従って、長期定期借地権の場合のように50年後に更地で返却する必要や、建物譲渡特約付き借地権の場合のように30年後に建物を買い取る必要などはなく、権利関係がすっきりしている。また、賃貸人にとっては、賃貸期間がはっきりしているので、立替えなどを計画的に実行できるメリットがある。

定期借家権の施行でもっともメリットを享受できるのは、オフィスビルなどの、事業用不動産の賃貸においてだと思われる。前述のように、日本では事業用不動産においても賃借人の権利が手厚く守られていた結果、賃貸人にとっては不良テナントを追い出すことはほとんど不可能であった。また、賃借人からはいつでも賃貸借契約を打ち切ることができるので、常に空室リスクを抱えていた。そのため、リスクプレミアムとして敷金、礼金、更新料といった名目で賃貸料以外の金銭を徴収する必要があったのである。定期借家権の普及に伴い、賃貸料以外の金銭の授受は減っていくものと思われる。

また、定期借家権によって賃貸関係が安定するので、不動産の証券化を行う場合に多大なメリットがある。例えば、あるビルを10年の定期借家契約でテナントに貸す。このビルについては10年間の収支が事前に把握できるのであるから、利回りの確実な投資商品になる。

2.5.3増床オプション

また、定期借家権に付随する大変興味深いシステムに、増床オプションがある(山内 正教『不動産投資理論入門』pp182-183)。増床オプションとは、あるテナントが、現在はある一定のスペースしか必要としていないが、将来事業の拡大とともにさらにスペースを必要とする可能性があるとする。その場合、従来法の下では、将来のスペースを空室のままにして置く以外、確実に要求に答えることはできなかった。しかし、定期借家権を使えば、空室を有効に活用できる。これは米国で既に普及しているシステムである。

逆に、定期借家契約では中途解約ができないため、長期にわたって広いスペースを借りることに不安を持つテナントもあると思われる。そのようなテナントに対しては、減床オプションを提供することも考えられる。減少オプションを付与することによって、賃貸人が本来必要とする長期の定期借家契約を締結する誘因とするのである。

3. 不動産証券化

抵当証券の失敗に懲りた日本市場における投資家たちも、海外市場での不動産証券化の流れを受けて再び不動産の証券化に取り組み始めた。また、証券化により流動性を高めることによって、再び不動産市場に資金が流入、バブル崩壊によって傷んだ市場の復活を期待している向きもある。

グローバルスタンダードが叫ばれているが、不動産市場は国ごとにかなり違った制度、特性を持っている。米国とドイツの証券化を紹介するとともに、現在の日本の不動産証券、不動産投信などの商品性を検討する。

3.1米国の不動産業の特徴

良くも悪くも、世界の金融市場をリードしているのは米国である。何も日本だけが特殊なわけではなく、米国の不動産市場にも独特の市場慣行がある。

3.1.1賃貸借

米国の賃貸借契約は、日本より長く、事業用不動産では10年が標準的である。また、途中解約するにはほかのテナントを見つけてくるか、残った賃貸借契約期間の賃料の現在価値を支払わなくてはいけない契約になっている。2000年日本でも法制化された定期借家と同じ制度が一般的なのである。こういった市場慣行が、不動産証券化にフィットしているようである。ただし、米国でも居住用不動産(アパート)には厳しいレントコントロールがあり、いったん住人が住んでしまうと、死ぬまで出ていってくれとは言えない制度がある。何やら日本の旧借家法のようであるが、これも日本と同じく戦時立法だったそうである。ニューヨークの中心街といえるようなところにも賃料の安い環境・設備の悪いビルが残っているのはこの法律が原因である。

3.1.2ノンリコース・ローン

米国では不動産担保といえば、ノンリコースが普通である。ノンリコースとは、例え融資案件が失敗しても、融資した金融機関は不動産を取り上げるだけで、債務者の他の財産には遡及しないという条件である。日本では、不動産担保の場合でもウィズリコースが基本的である。この場合、不動産事業が失敗して担保不動産を没収されても、借金を全額返済しない限り負債は残る。米国方式のほうが、より容易に不動産投資をしやすいことは言うまでもないであろう。ただし当然リスクプレミアムは高くなる。土地を購入してビルを建てる開発事業に失敗した場合、金融機関には失敗事業の土地建物しか手に入らないのであるから、当然といえるであろう。従って、一般の不動産証券の格付けも低いことが多いようである。

3.1.3米国における不動産証券

米国においても、不動産の証券化は必ずしも長い歴史を持っているわけではないが、その中で1番長い歴史を持っているのがMBS(住宅ローン担保証券)である。MBSにはGNMA(ジニーメイ、政府抵当金庫債)、FNMA(ファニーメイ、連邦抵当金庫債)、FHLMC(フレディーマック、連邦住宅金融抵当金庫債)などがある。端的に言えば、日本の住宅金融公庫がその住宅ローンを証券化したようなものである。政府系の金融機関であるが、厳密には国債とは異なり、政府が保証しているわけではないが、それに準ずるものとして大変高い信用力を持っている。従って、その利率も国債プラス・アルファー程度である。

商業用不動産に対する前述ノンリコース・ローンを証券化したものがCMBS(商業用不動産担保ローン証券)である。1980年代後半、S&L(貯蓄貸付組合)の破綻に端を発した不良債権処理のため、RTC(整理信託公社)が譲り受けた不良債権を大量に証券化して売り出した。法的整備もあいまって一気に流通市場も拡大した。1990年代に入っても順調に拡大を続けたCMBS市場であるが、1998年のロシア危機を契機に一気にクラッシュしてしまった。ロシア危機が引き金となって、投資家の資金選好が安定志向を強め、CMBSに対するリスクプレミアムが一気に拡大、CMBS価格は暴落、発行市場は事実上停止、市場から撤退する金融機関もあった。その後発行市場は回復したが、CMBSにも一定のリスクがあるという教訓を残した。

上記2つのタイプの証券が不動産を担保にしたローン債権を裏づけにしたデット(Dept)型の証券化商品であるのに対して、REIT(不動産投資信託)は不動産そのものを裏づけにしたエクイティ(Equity)型の証券化商品である。ただし、REITの中にもCMBSや不動産担保ローンを組み込んだデット型、あるいはハイブリッド型のものもある。制度そのものは1960年代に開発されたが、二重課税回避などの法整備が進み、非常にポピュラーになったのは1990年代である。

REITの特徴は、投資家が実質的に不動産の所有権を得ることができ、従って不動産の値上がり益を取ることが出きる点にある。MBSやCMBSなどではおもに不動産から得られる収入(インカム・ゲイン)を証券化したものに対し、REITはインカム・ゲインに加えてキャピタル・ゲインまでも証券化したものといえる。

ところで、キャピタル・ゲインという言葉を使ったが、米国におけるキャピタル・ゲインの概念は日本とはやや異なるので注意が必要である。日本において不動産投資におけるキャピタル・ゲインとは、不動産、特に土地そのものの値上がり益を意味する。米国では、商業用不動産投資金額の内訳が日本とはかなり異なり、投資金額に占める土地の割合は2割程度だそうである(井出 保夫『不動産は金融ビジネスだ』p138)。従って、残り8割は建物に対する投資となる(日本では、商業用不動産でも、5割以上を土地が占めるはずである)。建物は不動産であるとはいえ、賃貸収入を得るための舞台装置、機械といった位置付けになる。建物はもちろん減価償却するので、そのままではキャピタルロスになってしまう。そこで、REITなどの投資物件に対しては、ディベロッパー(日本のゼネコン型ディベロッパーとは異なり、不動産は所有せず、コーディネートをしてフィーを得る業者)などがビルなりを再開発・整備して付加価値を高め、収益力を高めることによってキャピタル・ゲインを狙うのである。

また、REITと同じようなエクイティ型投資にリミテッド・パートナーシップを利用したものがある。リミテッド・パートナーシップはもともと石油やガス探索といったプロジェクトの資金集めのために生まれたもので、小口証券化したことが利点のREITに対して、投資単位は大きく、大規模なショッピングモールを作るなど大型プロジェクトに使われるようあるが、これなど成功すれば当然優良収益物件となり、そのリターンは巨額なものになる。

ちなみに、変わり種のREITとしては、刑務所に投資するREITがあるそうである。古くて収益力のなくなってしまったビルを安く買収し、刑務所に改装して賃貸するのである。「コレクション・コーポレーション・オブ・アメリカという名のREITは、全米に59の刑務所と45000のベッド数を持つREITで、年間総合利回りが50%から60%まわる高収益REITとして人気があります。同社の目論見書によれば、刑務所は連邦政府か州へ賃貸することで空室リスクが少なく、コンクリートと鉄骨だけの構造で管理しやすく、内装もとくにリフォームする必要がない点と、今後もアメリカの犯罪発生率は上昇を続け、全米の囚人数は現在の170万人から2004年には350万人に増加するという予測を同REITの利点としてあげています」(井出 保夫『不動産は金融ビジネスだ』pp155-156)。ユニークなところに目をつけた不動産開発法といえるだろう。

3.2ドイツにおける不動産証券

ドイツの代表的な不動産投資商品のオープン・エンド・ファンドは、基本的にはREITと同じ仕組みで、投資家は資本投資会社から持分証券を購入して収益を得る。資本投資会社はドイツ3大銀行の関連会社で、絶大な信用力を誇っている。ところで、ドイツにおける不動産の評価は、簿価によるそうである。従って、ドイツの不動産証券はキャピタル・ゲインを期待していない。従って、名前はファンドであるが、実質的には半ば元本保証の定期預金感覚である。ちょうど日本に従来あった(破綻続出で現在は廃れてしまった)、抵当証券に極めて似ている。金利水準も銀行預金プラス・アルファーである。また、いわゆる流通市場はないが、証券の発行会社および寄託銀行が定期的に買い取り基準価格を公表、いつでも買い取ってくれるシステムになっている(井出 保夫『不動産は金融ビジネスだ』pp40-43)。米国の事例とはかなり異なるやり方で、流通性や収益性を確保しているのが特徴である。

3.3日本における不動産証券化

3.3.1 SPC法

我が国でも不動産の証券化による流動化の促進のための法整備が行われ、いわゆるSPC法(正式には「特定目的会社による特定資産の流動化に関する法律」とその整備法)が平成10年9月1日施行された。

SPCとはSpecial Purpose Companyの略で、特定目的会社もしくは特別目的会社と訳される。SPCは債権の証券化など、特定の目的のために設立される会社である。SPCは企業などが所有するローン債権や不動産などを取得し、SPCが証券を発行、投資家に販売することで資金調達をする。

従って、SPCはきわめて限定された目的のために設立される会社であるので、従来の商法で規定する会社組織をもつ必要がない。法的にはSPCはSPC法に基づく特別な社団法人で、特定資産の処分後、解散を原則としている。その設立は株式会社や有限会社と比べてはるかに簡略化されている。また、資本金も現在300万円必要であるが、平成12年11月30日より10万円に引き下げる改正法案が可決されている。

また、投資のための特別会社であるので、収益の90%以上を配当すれば損金算入され、法人税を軽減している。また、設立登記時の登録免許税、不動産所得税の軽減、取得した土地に係る特別土地保有税の免除など、多くの優遇策が講じられている。

ただし、施行後2年を経たが、実はSPCを利用した不動産証券化は期待されたほど多くはない。市場関係者の間では、従来のケイマンあたりにSPCを作るのに比べて時間がかかるなどの問題点が指摘されている。これに関しては資本金のところでも触れたとおり、平成12年5月23日にSPC法の一部が改正され、SPC成立手続きの簡略化、投資対象資産の拡大、特定資産取得のための借り入れを可能にすることなどが盛り込まれた(平成12年11月30日施行)。

3.3.2不動産投信

平成10年に「証券投資信託法」が「証券投資信託及び証券投資法人に関する法律」(投信・投資法人法)に改正されたが、これもSPC法と同様、平成12年5月23日に改正案が可決され、法律名も「投資信託及び投資法人に関する法律」に変わる(平成12年11月30日施行)。法律名から証券が落とされたことからも分かるとおり、これまで主として有価証券に限定されてきた投資対象が、財産権全般へ拡大される。従って、不動産の現物やSPCによる優先出資証券、不動産信託受益権への投資が可能になるので、不動産の証券化にも大きな影響があるとおもわれる。

また、投資信託の受託者である信託銀行自らが運用する受託者運用型投信も新設され、不動産も運用対象に含まれる。元来金融と不動産をともに取り扱ってきた信託銀行が投資信託に乗り出すメリットは、不動産投信の育成の上からも大きいと思われる。

3.3.3不動産証券化のメリットとデメリット

以上不動産証券化のスキームについて述べてきたが、証券化された不動産にはメリットもあればデメリットもある。

メリットとしては、なんと言っても投資資金の小口化を図れることである。また、不動産管理のプロが立案しているので、不動産管理能力を個人としての投資家が問われることはない。その他、たとえ投資資金が小口でも、分散投資の効果があるので、例えば空室リスクは個人で同金額を投資した場合より少なくてすむ。

逆にデメリットとしては、投資家が直接物件を確かめて投資するわけではないので、どうしてもお仕着せの商品を購入することになり、投資に対する最大のリターンを期待するわけにはいかない。たとえば、中古ワンルームマンションが値崩れしている現状、現物投資により魅力を感じる方も多いとおもわれる。

また、日本では二次市場が未成熟なので中途換金が難しいのことも問題である。二次市場が未成熟ということは、商品を評価するためのベンチマークも整備されておらず、時価評価もできないということである。従って、ひとたび不動産証券を保有したら期限まで持ちきらなくてはならない。証券化のメリットは小口化とともに、現物と比べた場合の流動性の向上にあるはずであるが、これではメリットは感じられない。米国では確かにここ10年で不動産証券市場は急拡大してきた。その裏には、米国景気がここ10年好況を享受してきたこととともに、流通市場が整備されたからこそ不動産証券市場が拡大したことを見逃すわけにはいかない。

3.4不動産鑑定評価

流通市場を確立するためには、不動産に係るベンチマークの整備が重要であることは前述の通りである。ベンチマークを決定する際に、不動産価格をいかに評価、鑑定するかという問題がある。以下、不動産価格の評価方法について解説する。

3.4.1不動産の評価価格

詳しい評価方法の説明に入る前に、不動産の評価価格とは何かを説明しておく。不動産にとって、価格とは取引価格だけではない。そもそも評価価格はこれから取引をすることを想定して決めるものである。また、評価価格といっても、売ったり買ったりする人の立場によって価格条件が大きく変わる場合がある。そこで、日本の不動産鑑定評価においては価格について以下のような3種類を想定している。

<正常価格>

市場性のある不動産について、統制等の特殊な条件のない公開市場において、売買当事者が、売主の売り急ぎ、買主の投機といった特別の動機によらず経済合理性に基づいて行動した場合に形成されるであろう市場価値を表示する価格を正常価格という。

もっとも一般的な価格といってよいであろう。

<限定価格>

市場性のある不動産について、売買当事者が他の不動産との併合、あるいは不動産の分割により一部を取得する場合に合理的な市場価値と乖離することにより市場が相対的に限定される場合に形成される限定市場価格をいう。

例えば、借地権者が底地の併合を目的とする売買を行う場合、その土地を買ってメリットがある人は借地人しかいないので、一般に底地価格は正常価格より安く決定される。また、前述のように、地上げ業者が一画の土地の併合を目的として細分化された土地を買い入れる場合、併合後のより大きな市場価値を基準に価格を設定するので、一般に正常価格よりは高くなる。また、農地なども農地法によって取得者が限定されているので(事前に農地法の許可をとらない売買契約は無効になる、また例外はあるものの農業従事者以外はきわめて取得が難しい)、一般的な正常価格の算定は難しいであろう。

<特定価格>

宗教的建築物や墓地の鑑定など、一般的な市場性を考慮することができない不動産の経済価値を表示する価格を特定価格という。

3.4.2一般的な土地の鑑定方法

冒頭の公示価格の項で公示価格の算定方法について簡単に触れたが、実際はどのように計算するのであろうか。

従来不動産の価格は右肩上がりの上昇をすることが当然の(もちろん暗黙の)条件として期待されていた。従って、不動産投資をする場合に価格を判断する材料として取引事例比較法で十分に役に立った。何しろ、いずれ土地価格が上昇するのであるから、キャピタル・ゲインを勘案すれば、リターンは十分に見込めるからである。しかし、バブルの崩壊はこのぬるま湯状態を一変させた。一変どころか、取引そのものがなくなってしまい、取引事例比較法が使えなくなると、適当な歯止めもないまま土地価格は奈落の底へと落ち込んでしまった。

商業用の不動産を評価する場合にも収益還元法は有力な武器となる。また、売買取引事例がない場合でも十分に活用ができる。最近の不動産市況を収益還元法の観点から眺めてみると、バブル期の収益率に比べると夢のような、年間家賃収入が価格の10%を越えるものまで新聞紙上に現れている。収益還元法が有力な不動産価格評価ツールとして一般に認知されれば、現在の不動産価格は明らかに底に近付いていることが認識されるであろうし、そうなれば不動産市況の回復も期待できる。

また、最近話題になっている証券化された不動産(あるいは不動産投信)を評価する場合にも収益還元法は大きな意味を持っている。収益還元法などの一定の評価法で時価がきちんと把握されていないと投資の評価ができない。

年間家賃収入が価格の10%を越える例もあると書いたが、この単純な年間収益/価格をもって収益還元法といってしまってよいのであろうか。依然この程度の意味で収益還元法といっている場合も多いと思われるが、現在ではさらに洗練された収益還元法も数多く生まれている。

以下、一般的な鑑定評価法として、原価法、取引事例比較法について触れるとともに、収益還元法について詳説する。

<原価法>

原価法とは、ある造成された分譲地などを評価する際に、同様の土地を今買収して同じ程度の宅地を造成するのにいくらかかるか(再調達原価)を計算する。また、建物は時間の経過とともに当然に減価するし、土地についても擁壁の損傷などが考えられるので、減価修正が必要になる。そこで原価法は価格時点における対象不動産の再調達原価を求め、必要な減価修正を行って算出される。従って、鑑定される対象の土地を造成するのに実際にいくらかかったかを計算するのではない。一般的に、対象となる物件の周囲が開発され尽くされていない場合には有効な鑑定方法となるが、開発されてから年月の経ってしまった市街地などの鑑定には向かないとされる。

<取引事例比較法>

例えば、ある地域における不動産の取引事例を集めて並べてみれば、そこには当然ひとつの“相場”が形成されているはずある。そこで、対象不動産の評価額を推計する場合に、周辺の類似不動産の売買事例を探し、これをもとに対象不動産が取引されるとしたらいくらになるかを推計方法である。従って、取引事例比較法が有効に機能するためには、近隣または同一需給圏内の類似地域において正常な取引が行われていることが必要となる。また、不動産は類似地域といえども個別性が強いため、適正な補正を行う必要がある。

取引事例の収集に際しては、投機的要因が絡んでいないか、特殊な要因が影響していないかなどをチェックして採用することとされている。しかし、不動産は一般的には流動性が低く、また上記のような特殊事情が絡まなかったとしても、個別性が強い。そのような状況の中で取引事例を選択する場合に、どうしても投機的な売買事例も含まれてしまい、投機的売買の目的となる物件の地価の高騰に全体が引きずられてしまうきらいがあった。逆に、バブル崩壊後、取引事例自体が極端に減少してしまうと、適正な地価を算出できず、地価下落に歯止めがかからなくなってしまった。バブル期を経て、今最も批判されている鑑定評価方式といってよいであろう。

<収益還元法>

逆に収益還元法は今最ももてはやされている鑑定方法である。例えば、ある不動産を賃貸していると、賃料収入があるが、固定資産税、都市計画税といった税金や、建物の維持管理費、修繕費、火災保険料などが必要経費として支出される。また、建物の耐用年数も年月の経過とともに減っていくので、立替え費用分としての減価償却も経費に含まれる。収益からこれらの必要経費を差し引いたものを純利益と呼ぶ。このような不動産の経済的価値は、毎年生み出される純利益の現在価値の総和として求められる。

家賃収入、租税公課、保険料、管理維持費などは数字として把握しやすく、算定結果も数字として簡単に出せるし、欧米の不動産価格はすべてこれで決まっている、などといわれると、簡単に納得してしまいがちである。しかし、不動産の賃貸は大体において長期にわたる。そうすると、家賃は建物がぼろくなっても未来永劫に同じなのか、空室は出ないのか、極端なことをいうと遷都があっても東京の家賃は同じか、など問題がある。表1、2のように、空室率はかなり変化する。空室率の想定が5%異なれば、当然ビルの価格も約5%変わることは容易に想像がつく。また、肝心要の還元利回りをいくらに設定するかが大きな問題である。その他の収入、経費は現在の数字が比較的簡単に手に入るので問題はないが、還元利回りによって算定結果が一変してしまう。算式自体は後述のように簡単であるが、中身をよく確かめなくてはならない。

実際の不動産鑑定においては、上記3方法を併用し、3方法の特性、対象不動産の性格を勘案の上決定することが好ましいとされている。実際、それぞれの評価方法にも一長一短があって、必ずしも収益還元法が優れているわけではない。しかし、今後盛んになるであろう収益物件の証券化などにおいて、収益還元法は最も適した方法であることは間違いないであろう。

3.4.3収益還元法の実際

<直接還元法>

上記の簡単な収益還元法は直接還元法と呼ばれます。例えば、ここに年間C円の収益を上げている物件があるとする。この場合、この不動産の現在価値(PV)は将来のキャッシュフローの現在価値の総和として求められる。

数式として示せば、

として表される。不動産から上がる純収益が500万円、還元利回りを5%とすると、5,000,000/0.05=100,000,000(1億円)となる。

ただし、ここで注意が必要なのは、上記設定例では、収益は永遠に不変、建物の老朽化による立替えなども一切考慮していないことである。また、還元利回りを5%に設定したが、単純に還元利回りを10%にしただけで評価額は2分の1になってしまう。現在の日本の金利状態を基準に長期金利2%を採用すれば、当然不動産価格は跳ね上がる。いったいいくらが適当なのであろうか。米国では取引事例も多く、適当な不動産インデックス相場が形成されているようだが、日本ではいまだ成熟しておらず、不動産専門家、投資家の俗人的なノウハウに頼っている部分が大きいように思われる。

ただ、それでも一般的な傾向としては、1桁台の後半、それも6−10%(注)くらいに設定している方が多いように思われる。この還元レートは長期の収支を分析するときに使うので、簡単には変動しない。従って、不動産の適正価格は大体純収入の10から16年分、と考えておくと一つの指標になるであろう。

(注) 平成12年8月、国土庁土地局地価調査課が「投資用不動産の収益価格の算定の試行について」という報告書の中で、60棟の賃貸用不動産の所有者へのアンケートに基づく収益価格及び割引率の調査を行った。その結果、粗利ベースで8〜11%、経費差し引き後の総合還元利回りで4.8〜7.7%(中庸値6.0%)という結果を得ているのは注目される。
ただし、この指数も絶対的なものではなく、(財)日本不動産研究所が2000年7月に公表した数値では「総合還元利回り」の平均5.8%、DCF法(後述)による場合は、自己資金への期待収益率の平均は8.2%、借入金の平均金利は3.1%、投資期間中に想定する「最終還元利回り」は5.6%((財)日本不動産研究所(2000)「不動産投資家調査(第2回)の結果概要」http://www.reinet.or.jp/jp/10-toukei/10D-tohshi2.htm (2000/09/12)p1)、三菱信託銀行の公表している不動産インデックスの「単年度インカム収益」は1997年においては、全国平均で約4%、丸の内・大手町・有楽町地区で5%弱と(三菱信託銀行(2000)「単年度インカム収益率」http://www.mitsuibishi-trust.co.jp/houjin/fdsnidx/fdid09.html (2000/09/12))傾向としては似ているものの一致しているとは言いがたい。
その原因としては、アンケート調査を行っている国土庁の場合で大手機関投資家170社中回答を得たのは55社、日本不動産研究所で128社中40社の回答をもとに収益率を計算しているのに対して、三菱信託銀行の場合は地価公示の標準値に容積率限度いっぱいの建物を想定し、当該想定建物の収益率を算出する方法を取るなど、算出方法の基礎が大きく異なっていることがあげられる。
いずれにしても、現在の日本には不動産投資にかかわる標準的インデックスは存在しないと言ってよいと思われる。

DCF法>

直接還元法は前述のように、キャッシュフローは永遠に不変という前提に基づいて不動産の価値を計算している。従って、インカム・ゲインのみに着目してキャピタル・ゲインは考慮されていない。これは不動産の証券化の項で詳述するが、米国などにおける不動産投資では、ある期間を区切った考え方がほとんどである。そもそも不動産を証券化する場合、証券の期限に合わせて当該不動産を処分した場合の価値を正確に予測しなくては証券として成り立たない(不動産の性格上、永久債はなじまない)。また、キャッシュフローについても、賃料の上昇、空室リスクなどの分析を行う一方で、必要経費の上昇、修繕計画に基づく出費を勘案、期間中のキャッシュフローを算定しなくてはならない。また、投資期間終了時の不動産の処分価値も算定しなくてはならない。建物は当然減価するが、投資期間中に建物の補修、改装などによる収益力向上によるキャピタル・ゲインが見込まれる場合もある。逆に、再開発の場合などは、このキャピタル・ゲインに重きをおいた分析になる。

投資期間10年として数式に表すと、

 ただし、

PVは現在価値、 は各年度のキャッシュフロー、は還元利回り、RVは転売価値、rtは転売時還元利回りを表す。

通常、RV11年度のキャッシュフローをrtで直接還元することによって求めるのが普通である。10年後の転売価値を通常の還元利回りと異なるレートで還元するのは、11年後のキャッシュフローを予測する場合の不確実性などから、通常の還元利回り(上記では)より高く設定されたレートで現在価値を計算するためである。

大変合理的に決められているように思えるDCF法であるが、現状の日本ではやはり普及には時間がかかりそうである。当てはめる数値が多いだけに、市場のコンセンサスや多くの取引事例の比較がないと恣意的に投資利回りが左右されかねないなど、問題がある。

3.4.4不動産に関するのデータ

DCF法などにより地価を算出する場合、いかなる数値を採用するかで結果が全く異なるであろうことは容易に想像がつく。では、実際のデータはどのような変動を示しているのだろうか。

2及び表3は東京23区内における大規模ビルの空室率の推移を示している。グラフは過去4年間のデータを示している。データの取り方は異なるものの、株式会社生駒データサービスシステムのレポートでは、過去10年間にさかのぼると、1990年頃の空室率約0.5%を最低に、1994年には空室率約9.5%を記録している。また、実質賃料も1991年に約36,000円/坪であったものが1997年には17,500円/坪レベルまで低下している(株式会社生駒データサービスシステム(2000)「三大都市圏におけるオフィス市況の中期予測」http://www.ikoma-cbrichardellis.co.jp/j/jouhou/6-9-yosoku.pdf (2000/11/08))。

2東京23区 大規模ビルの空室率の推移


3 大規模ビル空室率構成比の推移


(出典 オフィスビル総合研究所 http://www.officesouken.com/market/market_03.html

さらに、バブル崩壊を裏付けるデータとして、東京圏市街地における地価価格指数を表4に付け加えておく。商業地の地価指数は、1991年頃に約105のピークを記録した後、地価は続落、2000年時点では約30にまで低下している。

4 東京圏市街地地価指数


 


(出典 財団法人日本不動産研究所(2000 )「不動産統計」http://www.reinet.or.jp/jp/10-toukei/10A-sigaichi/10A-tokyoj.htm (2000/11/08))

上記の資料は、バブル崩壊の深刻度を示している。バブル崩壊自体は、日本経済にとって未経験であったため、予見できなかったとしてもやむを得ない部分はある。しかしながら、不動産市場のボラティリティーの高さには、充分な注意が必要であろう。

また、通常、証券化された不動産を購入するメリットとして、分散投資を図れることが上げられる。ところが、バブルの崩壊は、いくら複数の不動産を資産に含むことによってリスク分散を図ろうとしても、地価の下落に合わせて賃料も下がり、おまけに空室率も上がる事態を引き起こしたことが上記資料から読み取れる。今回のバブル崩壊の過程で、不動産不況と同時に起こる産業全般の不況が、地価、賃料の同時下落をもたらし、空室率まで引き上げてしまったのである。不動産投資において分散投資によるヘッジがきわめて働きにくいことを示しているといえるだろう。

4. 不動産証券とコンプライアンス

フリー、フェア、グローバルを旗印として始まった日本版金融ビッグバンは、従来型の行政、法体系にも大きな影響をもたらした。従来の縦割り行政、それに伴って並立していた法体系のもとでは、効率的(フリー)で透明性のある(フェア)金融行政は期待できなかった。また、従来の間接金融を主流とした金融システムは、欧米先進諸国(グローバル)との金融競争を勝ち抜いていく上ですでに時代遅れになっていることは明らかであった。そこで、従来金融(銀行)、保険、証券、さらにその他商品市場など商品別(“所轄省庁別”との表現のほうが的確であるといえるかもしれない)に分かれて制定されていた業法を統括する法律の制定が望まれた。いわゆる日本版金融サービス法である。全体を統括する日本版金融サービス法そのものは、まだ制定されておらず、従来の業法との兼ね合いもあり、近日中に制定される見込みは立っていない。ただ、部分的に日本版金融サービス法の一部となる法律や組織はできつつあり、金融商品の販売等に関する法律(平成13年4月1日施行予定、以下、金融商品販売法と略す)もその一部である。

4.1活用が期待される資産

バブル崩壊によって機能不全に陥った日本の金融システムを救済するために当てにされているのが、1999年末時点において1,390兆円に達する家計部門に蓄積された金融資産である。この膨大な金融資産を有効活用することによって、国民経済の健全な発展を図るとともに、大きく傷ついた世界金融市場における日本の威信を取り戻そうとするものである。

4.1.1家計の資産構成

5に見られるように、我が国の家計部門の金融資産において、現金・預金が半分以上の比率を占めている(1999年53.8%)。これは、米国の例と比べると、際立った違いを見せている。米国においては、株式・出資金(1999年36.9%)と投資信託(12.8%)でほぼ半分を占めることから分かるとおり、リスク資産の占める割合が高い。米国の例は、先進国中でも最も高い比率を示している。比較年次が必ずしも一定していないが、欧州各国における安全資産とリスク資産の割合は次のとおりである。英国1998年安全資産20%、リスク資産20%、フランス1997年安全資産33%、リスク資産40%、ドイツ1998年安全資産40%、リスク資産18%(中川 忍、片桐 智子「日本の家計の金融資産選択行動」『日銀調査月報』1999年11月号 日本銀行 図表6)。米国の例は、欧州諸国と比べてもリスク資産の割合が高いことが分かる。逆に、日本の例は、先進諸国中で、安全資産の占める割合が際立って高いことが分かる。

それだけでなく、1989年と1999年の比較において、日本の家計に占める株式・出資金(13.3%から8.4%)、投資信託(3.9%から2.5%)の割合がいずれも低下しているのに対して、現金・預金の占める割合はわずかながらとはいえ増加している(48.5%から53.8%)。

一般的にはバブル崩壊の影響ということができるであろう。株価の下落などにより魅力的な投資対象が減少し、相次ぐ企業破綻は投資行動の一層の保守化をもたらし、元来高いとは言い難いリスク資産の比率を一層低下させた。

確かに一個人の投資行動としては、不合理な点はないが、一国の経済活動を考える上では、好ましいとは言えない面がある。確かに、戦後の復興期において、家計からの貯蓄が金融機関に一旦蓄積され、その資金が企業へ貸し出される間接金融によって日本経済を支えてきた。しかし、バブル崩壊によって金融機関の与信創造能力は大幅にそこなわれてしまった。金融機関はバブル崩壊による資産デフレとBIS基準による自己資本比率規制を満たすためのバランス・シート・スリム化要請があいまって、貸し出しを大幅に抑制した。これがいわゆる“貸し渋り”である。貸し渋りによって企業活動も大きく制約を受け、10年間に渡る経済の停滞を招いたのである。

その一方で、国際金融市場はいわゆるグローバル化の名のもとに統合を強め、お互いに影響しあうようになってきている。我が国だけが金融市場を閉鎖しつづけることは不可能になったのである。また、金融イノベーションによって、新しい金融商品も次々に生まれ、規制緩和に伴って我が国の市場にも続々と参入してくるようになった。我が国においても、金融ビッグ・バンが進展、家計が保有する金融資産がリスク・キャピタルとして直接資本市場に投資されることが期待されている。

5 家計部門の金融資産構成の変化

日本


1989年度末金融資産926兆円 GDP比2.3倍

1999年度末金融資産1,390兆円 GDP比2.8倍

米国


1989年度末金融資産15.0兆ドル GDP比2.6倍

1999年度末金融資産36.2兆ドル GDP比3.9倍

出典 日本銀行「資金循環統計からみた我が国の金融構造」

4.1.2家計の金融資産選択行動

日本の家計の金融資産選択行動における保守性がかなり高いことは、上記資料からも明らかであろう。このことは、財団法人証券広報センターの行った調査からも伺える(表6)。貯蓄選択行動で最も重視されるのは元金の安全性といつでも出し入れができることであり、利回りや値上がりを期待する比率はかなり落ちる。

6 貯蓄選択基準

出展 財団法人証券広報センター「平成12年度「証券投資に関する全国調査」結果の概要」より抜粋

この調査は、10,000世帯のサンプル中、有効回収数6,331世帯を対象に行われた。このうち株式を所有している世帯は20.8%、かつて所有した経験がある世帯を含めても31.0%である。投資信託の購入率は8.8%、投資信託をかつて保有した経験を含めても16.9%にとどまる。

7は昭和54年からの貯蓄状況の推移をしめしているが、各種商品の保有比率はバブル等の影響は大きくは受けておらず、かなり安定していることが分かる。わずかに、投資信託が表7において昭和63年(ほぼバブルのピークに重なる。第一次投信のブームといわれた)の16.7%から8.8%へと半減していることが目に付く程度である。逆に、株式保有世帯は20%前後で安定しており、バブルの影響等を受けていないことは興味深い。

7 貯蓄状況の推移(複数回答、%)

 

銀行等の普通預金

郵便局の通常貯金

銀行等の定期預金

郵便局の定額

金銭信託・貸付信託

社内預金

財形貯蓄

株式

投資信託

公社債

外国で発行された証券

銀行等の大口定期預金

郵便局の他の定期性貯金

ワイド

昭和54

87.9

51.6

68.4

42.5

11.2

18.6

18.0

16.0

6.4

7.2

0.3

*

*

*

57

87.7

48.3

83.8

52.1

12.1

20.1

20.5

18.0

8.2

10.9

0.3

*

*

*

60

86.8

44.8

80.1

48.9

13.7

18.2

20.0

15.8

12.8

10.5

0.6

*

*

*

63

87.4

47.0

73.0

49.2

12.7

17.7

21.3

18.5

16.7

10.8

1.0

*

*

*

平成3

88.4

47.1

71.9

51.0

13.0

15.8

21.3

19.6

15.1

9.5

1.4

-

8.7

3.0

6

87.0

51.5

68.0

51.0

11.1

15.2

20.5

20.5

12.1

7.9

1.3

6.8

12.1

2.2

9

86.3

55.6

61.6

49.3

7.4

9.8

14.8

19.2

8.8

6.7

2.1

5.3

9.4

1.2

12

87.6

58.7

61.5

48.9

5.9

8.6

14.9

20.8

8.8

6.8

2.5

5.1

10.5

0.8

この調査では、株式や投資信託をなぜ保有していないかについても調査を行っている(表8、9)。株式については、株式保有の経験のない4,368世帯の実に4分の3以上が条件に関係なく購入しないと回答している。投資信託についても、投資信託購入の経験のない5,260世帯のうち3分の2近くが投資信託に関心がないと回答している。日本の家計の金融に対する保守性がよくうかがえる。

8 株式購入条件

出展 財団法人証券広報センター「平成12年度「証券投資に関する全国調査」結果の概要」

9 投資信託非購入理由

出展 財団法人証券広報センター「平成12年度「証券投資に関する全国調査」結果の概要」

ただし、前述したように、金融のグローバル化の広がりとともに、投資家の自己責任が強く望まれる状況になっていることは認識しており、証券を保有していない世帯においても半数近くが証券知識を習得することの必要性を認識している。

10 証券保有状況/証券知識習得の必要性

出展 財団法人証券広報センター「平成12年度「証券投資に関する全国調査」結果の概要」

日本人の金融選好がなぜこのように安全志向であるかについては、残念ながら、定説はないようである。ただ、「@投資に必要な情報が質・量ともに不足しており、商品内容が良く理解されていない、A手数料等を勘案すれば小額の投資が不利となる、B預貯金等と比較した場合、税制面でのメリットが相対的に劣っている」(中川 忍、片桐 智子「日本の家計の金融資産選択行動」『日銀調査月報』1999年11月号 日本銀行p13))といった指摘はなされている。

また、歴史を振り返ってみれば、戦前の日本において、安全資産とリスク資産の割合には大きな差はなく、1930年時点で、安全資産約40%、リスク資産約35%(中川 忍、片桐 智子「日本の家計の金融資産選択行動」『日銀調査月報』1999年11月号 日本銀行 図表14)となっている。従って、日本人の現在のリスク回避体質は、決して国民性ではないことがうかがえる。リスク資産の比率は、終戦を境に急激に減少していった。背景としては、戦後の急激なインフレや、マル優制度の創設によって預貯金が奨励されたことも大きく影響しているだろう。その資金をもとに、傾斜配分制度というほとんど社会主義的な経済政策によって戦後の復興を図ってきたわけである。その政策そのものは、その後の歴史が証明しているとおり、日本を再び世界の一流国に引き上げることに成功した。ところが、二度にわたるオイルショック、バブルの崩壊を経験し、さらに経済のグローバル化、サービス化が進展、従来型の間接金融システムの限界を露呈、戦後50年(実際には戦争中に現在の統制システムは完成した)の清算とともに、新しいシステムが模索された。その結果として金融ビッグバンが開始され、さまざまな法律が制定され、行政システムにも変更が加えられたことは、前述のとおりである。

4.2消費者保護政策

ビッグバンに伴う変革の一環として、新しい金融商品の開発の自由及び迅速性を確保するための法整備が行われた。SPC法など、一連の不動産証券化などに関する法律を含む集団投資スキームは、金融審議会で議論されてきた。その一方で、前述のような保守的な日本人を再び金融市場におけるプレイヤーとして呼び戻すための法整備も同時に金融審議会で議論され、法制化されたのが金融商品販売法である。

ビッグバン以降の金融商品の多様化を踏まえて、消費者保護政策として金融商品販売法が、市場整備、新商品開発のプラットフォームとしてSPC法以下が車の両輪として整備されたのである。従って、不動産証券などはすべて金融商品販売法の規制がかかる。また、金融商品販売法と同時に施行される消費者契約法も、不動産証券の販売を規制する。消費者にとっては、金融商品販売法と消費者契約法は、事例に合わせて自分に有利な法律を選択適用できる。

4.2.1 金融商品販売法、消費者契約法に基づく説明義務

金融商品販売法においては、金融商品販売業者等に重要事項の説明義務が課されている(金融商品販売法第3条)一方、消費者契約法においては、事業者の努力義務にとどまっている(消費者契約法第3条第1項)。

金融商品販売法第3条において、重要事項として説明しなくてはいけない事項として、元本欠損が生ずるおそれがある場合には、その旨及び有価証券市場における当該指標、そして、その金融商品の販売に関して顧客の判断に影響を及ぼすこととなる事項について説明しなくてはならないとしている。

消費者契約法においては、第4条第4項で、重要事項とは消費者契約の目的となるものの質、用途などの内容、もしくは対価などの取引条件に係るもので、「消費者の当該消費者契約を締結するか否かについての判断に通常影響を及ぼすべきものをいう」といささか漠然と規定している。「通常」の判断基準として、一般平均的な消費者を基準として判断を行うとしているが(経済企画庁「消費者契約法の解説」p19)、適合性原理から見ても、当該消費者の理解や経験を考慮せずに型にはまった説明をすれば重要事項を説明したことになるとしているのは問題があると思われる。

平成10年の段階では国民生活審議会の議論において、事業者に情報提供義務を消費者契約法のなかで明確に位置付ける必要性が強調されている(経済企画庁「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」p14)。さらに、「これに対しては、事業者に新たな義務を課すことになるのではないかという意見があったが、従来、取引におけるメリットだけを表に大きく出して、消費者が自己決定を行う上でメリットと同様に必要なデメリットについては出さない悪質な事業者が往々にして見られるため、重要事項に関する情報の開示を義務づける必要があるのであり、これまで適切な事業活動を行ってきており、消費者に満足が得られている事業者にとっては、新たな義務が課せられるということにはならないと考える」(経済企画庁「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」p14)と明確に断定している。これにかかわらず、実際に公布された消費者契約法第3条第1項において事業者の努力義務にとどまっているのは、消費者保護が大幅に後退したとの印象を持たざるを得ない。

また、いずれの法律においても、金融商品販売業者等/事業者に対して充分な説明をすることを求めているものの、顧客/消費者の理解を確かめることを全く要求していない。このことは、「中間整理(第一次)」において、「取引きルールとして説明義務を考える場合には、「説明すればリスクは移転する」、「説明しなければ移転しない」を基本として」(金融審議会「中間整理(第一次)」p15)いること、「利用者が金融商品の内容すべてについて知ることを想定するのは非現実的である」(金融審議会「中間整理(第一次)」p15)と断じていることからも明らかであろう。消費者契約法においてはさらに、「消費者は、消費者契約を締結するに際しては、事業者から提供された情報を活用し、消費者の権利義務その他の消費者契約の内容について理解するように努めるものとする」(消費者契約法第3条第2項 )と、消費者の努力規定まで置いている。もちろん本条項は努力規定であり、「消費者が本条第2項に規定された努力を仮に果たさなかったとしても、本条に基づいて契約の取り消しが認められなくなったり、損害賠償責任が発生したり、過失相殺の判断において法的に影響が及んだりすることはない」(経済企画庁「消費者契約法の解説」p6)。

説明義務については、「中間整理(第一次)」において適合性原則について触れているのが参考になるであろう。適合性原則とは「狭義には、一定の利用者に対しては、如何に説明を尽くしても一定の金融商品の販売・勧誘を行ってはならないというルールであり、広義には、利用者の知識・経験、財産力、投資目的等に照らして適合した商品・サービスの販売・勧誘を行わなければならないといったルールを意味する」(金融審議会「中間整理(第一次)」p38)。まさにコンプライアンスの精神そのものであり、これからの金融商品の販売に際して求められているルールであると思われる。しかし、例えば不適合とされる利用者がなお取引を希望する場合などにおいては、契約における私的自治の原則等を踏まえれば、「一律に無効とする取り扱いを法令で明示的に規定すること」は難しい(金融審議会「中間整理(第一次)」p17)として金融商品販売法に反映されなかったのは大変残念なことである。

さらに、金融商品販売法第3条第4項第2号では、顧客から重要事項の説明は要しないとの意思の表明があった場合には、重要事項の説明を省略して良い旨規定されている。確かに、実務上、一定の金融取引を反復して行っている顧客に対しては、金融商品販売業者等、顧客ともに重要事項の説明を省略してしまう要求があって当然であろう。しかし、顧客に急いでいるからとか、面倒くさいからややこしい説明は止めてくれ、といわれた場合にも認めてしまうのはいかがなものであろうか。

消費者契約法においても「当該事業者が当該消費者に対し当該事実を告げようとしたにもかかわらず、当該消費者がこれを拒んだときは、この限りではない」(消費者契約法第4条第2項)と同様な規定がある。この規定に関しては、消費者が説明を拒否した理由が「説明を受ける時間がない、説明を受けることが面倒である」といった場合でも適用されるとしている(経済企画庁「消費者契約法の解説」p15)。平成10年における国民生活審議会報告においては、情報提供義務を免除されるのは、「単に消費者が情報提供を拒否したというのでは十分ではなく、消費者が自発的かつ十分に理解した上で情報提供を拒否した場合に限るべきである」(経済企画庁「消費者契約法(仮称)の具体的内容について」p14)と記されているのと比べると、大幅な後退が感じられる。

また、説明をする場合の方法については一切触れていない。例えば、現在の条項では電話を通じて説明を加えることも勿論認められるであろうし、書面を交付する方法も認められるであろう。書面を交付する場合には、交付した上で説明を加えなくては一般的には説明をしたことにはならないと思われるが、両法の条項上は認められていると理解される。

契約・説明書面の交付は両法において義務づけられてはいないが、金融商品取引法においては義務づけてしかるべき条項だと思われる。少なくとも、事後的に契約内容について書面で公布することは義務づけるべきだと思われる。金融商品の取引に関しては、実務上もコンファメーション(取引確認書)の交付として既に大概の金融機関で実行されていると思われる。

4.2.2宅建業法における重要事項の説明義務

不動産の現物を取引する場合には宅建業法が適用される。宅地・建物を取引する場合には、宅建業法第35条において、取引を締結するまでに一定の重要事項を記載した書面を交付した上で宅地建物取引主任者をして説明させなくてはならないと規定している。

宅建業法において、重要事項として説明しなくてはならない項目は下記のように大変多岐に渡る。代表的なものを箇条書きにすると、

すべての契約態様に対して

l        施設の整備状況

l        私道に関する負担

l        所有権、地上権、質権。抵当権、賃借権等で登記されたものがある場合には、その種類、登記名義人

l        都市計画法、建築基準法、その他の法令に基づく制限事項の概要

l        賃借の場合には用途その他の利用に関する制限がある場合はその事項

未完成物件の場合にはさらに、

l        工事完了時の接道状況、建物の主要構造、設備の設置状況などについての説明(必要な場合には図面を添付)

建物が区分所有である場合にはさらに

l        一棟の建物の敷地に関する権利の種類、内容

l        占有部分の用途その他の利用の制限に関する規約の定め(案を含む)があるときはその内容

l        共有部分に関する規約の定め(案を含む)があるときはその内容

l        一棟の建物または敷地の一部を特定のもののみに使用を許す旨の規約の定め(案を含む)があるときはその内容

l        一棟の建物、敷地の管理が委託されている場合には、委託を受けているものの氏名と住所

l        一棟の建物の計画的な維持修繕のための費用の積み立てを行う旨の規約の定め(案を含む)があるときはその内容とすでに積み立てられた金額

l        建物の所有者が負担しなければならない通常の管理費用の額

を説明しなくてはならないとされている。本論文の1.及び2.で問題として指摘した事項の大部分が、実は重要事項として説明しなくてはならない事項に含まれていることがお分かりいただけると思う。

ただし、不動産証券など金融商品化されたものについては、宅建業法は適用されない。従って、不動産証券を取引する場合には、現物を取引する場合に比べて不動産に対する情報が十分に伝わらない恐れがあると思われるが、いかがであろうか。

この点については、金融審議会の議論においても、「集団投資スキームから組成された金融商品は、我が国では株式や社債といった伝統的な金融商品と比べてまだ歴史が浅く、馴染みがうすい金融商品であることが多いといった点に留意する必要がある」(金融審議会(1999)「中間整理(第一次)」集団投資スキームに関するワーキンググループ レポートp30)と特別な注意を要求している。

前述のように、不動産は投資対象として、際めて分かりにくい性格を持っている。それだけでなく、金融商品としての不動産証券を販売することになる金融機関が必ずしも不動産投資に深い知識と長い経験を持っているわけではないことは、バブル崩壊の歴史が示す通りである。

4.3 不動産証券化 問題点と今後の展望

日本において不動産証券市場が発展するかどうかは、不動産証券市場が拡大していく過程において、いかに投資家に対して公平で正確な投資情報を提供できるか、またそれを比較検討できる流通市場を整備できるかにかかっているといえるだろう。

現在、さまざまな不動産インデックスが考案されている。しかし、国土庁による調査のところでも触れたが、現状の日本には依然充分な裏づけと信用力を備えた不動産インデックスは存在しない。また、予想のもとになるデータがかなりの変動率を備えていることはデータからも読み取れる。現状では残念ながら、日本における不動産投資にかかわる資料・情報の不備は否定できない。そのような観点から言えば、収益還元法をよりどころとしている不動産証券などは一般個人投資家が導入するのは不利であり、時期尚早であると言わざるを得ない。

日本版ビッグバンが民間部門に蓄積された金融資産の活用を通して日本経済の復興を図ろうとしたものであることは、前述のとおりである。それだけではなく、日本における不動産証券化は債権の証券化という本来の不動産証券化の目的とはあまり関係のない不良債権の償却を促進したい売り手側の思惑主導で進められていることも投資をする側にとっては気になるところである。

日本経済はバブル崩壊後10年にわたってその後遺症に悩まされてきた。そして、2000年現在でもその負の遺産を償却しきれていない。さすがにバブル崩壊後10年もたてば、ある程度の償却は進んだとはずであるが、現在なお日本の金融機関の不良債権だけでも100兆とも200兆とも言われており、2000年末においても金融機関の破綻が相次いでいる。その最大の原因は、バブル崩壊の痛手を最も大きくこうむった不動産関係の不良資産の償却を行わなかったことにある。

日本においては、1990年時点において対GDP比で見て約10%ほどの資金不足状態にあった非金融法人企業部門も1999年時点では、約5%ほどの資金余剰を抱えることになっている。逆に、1990年時点では若干の資金余剰状態にあった一般政府部門が約8%の資金不足状態に陥っている(その間、家計部門は一貫して資金余剰)(日本銀行「資金循環統計からみた我が国の金融構造」)。現在、日本政府の抱える負債は600兆円といわれているが、この統計は、バブル崩壊後、民間部門に存在した不良債権が、単に政府部門に移転しただけであることを示している。

不良資産とは、資産自体が不良なのではなく、資産の現在価値に比べて簿価が高すぎるから不良なのである。たとえ不良資産とはいえ、その評価(値段)を充分に下げれば、別に不良資産ではなくなる。米国において1980年代末の破綻したS&L(貯蓄信用組合)の処理に際して、RTC(Resolution Trust Corporation, 整理信託公社)が取った手法自体は別に日本の場合と大きく異ならない。最大の違いは、RTCはS&Lの不良資産を売却するに際して、きちんと売れる値段にまで下げて売ったことである。従前の簿価では不良資産だったかもしれないが、充分に値引きすれば、優良資産になる。権利関係のきれいな不動産が妥当な価格(実際にはかなり安かったらしい)で手に入るのであるから、RTCによる資産売却は順調に進展した。安い価格での不動産の売却は、一時的に不動産価格の下落をもたらしたが、その後の米国経済が順調に拡大したのはご存知のとおりである。

不動産証券化に登場してくるプレイヤーたちを眺めると、残念ながらバブルを演出し、その崩壊とともに痛手をこうむったであろう金融機関、不動産関係会社の名前がずらりと出てくる。不良債権を証券化するに際して、評価価額が妥当であるか、厳しくチェックしなくてはならないだろう。

現在日本で企画されている不動産証券の多くはかなり安全性に配慮しているようで、信用度は高いと思われるが、逆に利回りの面で現物投資に比べて魅力のない商品が多いような気がする。幸い現在のところ、以前の抵当証券の二の舞になった案件はないが、たとえ証券とはいえ投資をする場合には、利回りの吟味とともに、エクイティ型の場合には実際の投資物件を、デット型の場合でも格付けに気をつけるなど、十分に研究する必要があるだろう。

5. 結論

日本における不動産の証券化については、その将来性は認めるものの、現状では中途換金が難しい、投資指標となるインデックスが不備であるなど、投資対象としてメリットより多くのデメリットを抱えているように思われる。

特に、個人投資家にとっては、不動産証券の内容がブラックボックスに近く、投資対象の開示が充分に為されないまま投資を勧誘しかねないなど、問題があると思われる。

今後、不動産証券のみならず、集団投資スキームにのっとった新商品が続々と開発されることであろう。新商品の販売に際して、金融機関は従来商品の販売にも増して高度な説明義務が求められている。このような金融商品販売に関するコンプライアンスの確立が、後々の不動産証券など新しいスキームにのっとった商品の販売を可能にするのである。金融機関の不断の努力が望まれる。

 

参考文献

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