2025年5月

歴史の謎を探る会教養として知っておきたい聖書の名場面KAWADE夢文庫

西洋の絵画、彫刻、小説、映画のモチーフとして、聖書の物語が使われる場合が多くあります。ですが、聖書になじみのない私たち日本人がそれらに接する場合、聖書の知識を欠くため作者の意図が今一つ分かり難く、その作品を今一つ楽しめない場合があります。ということで、こんな本を読んで聖書の知識をアップデートしておくとしましょう。ま、本書は学術書ではありませんので、旅行の際の暇つぶしの一冊としてどうでしょうか。私は本書を駅の近くの本屋さんで買いました。本書の帯に「役に立っても!立たなくても!!おもしろ知識はここにある!」と書いてあります。気軽に楽しむことにしましょう。

西洋の有名な絵画が聖書にヒントを得ていると聞いても驚きませんが、日本の漫画だとかアニメも元々のモチーフの出所を辿ると聖書に行きつく、なんて解釈には結構驚かされるものがあります。暇つぶしをしながら、結構驚かされるところがありますよ。

 

 

東 茂由治療法の世界史KAWADE夢文庫

「役に立っても!立たなくても!!おもしろ知識はここにある!」ということで読んでみた2冊目。

「壊疽した脚を瞬時に切断する。痔の治療のために肛門に焼きごてを当てる、虫歯の治療は、力まかせに抜歯する、白内障の治療では、麻酔をかけていない目に鍼を突き刺す」、書き写しているだけでも痛そうですが、どれも実際に行われていた治療だそうです。今じゃ即医療訴訟だなきっと。ではありますが、その当時は医療を行う側だけではなく、患者側も今では無茶苦茶と思える施術に積極的、ではないにしても暗黙の承諾を与えていたのだと思います。

いまでは妥当だと思われている施術だって、将来は医学技術が発達して、“科学の発展していない時代にはこんなとんでもない手術が行われていた”、なんて言われないとも限りません。患者としても何を信じるか、はよくよく考えて覚悟を決めないといけないみたいですね。

 

 

原田 実捏造の日本史: 偽史をつくったのは誰か?なぜ信じられたのか?KAWADE夢文庫

「役に立っても!立たなくても!!おもしろ知識はここにある!」ということで読んでみた3冊目。ま、これくらいあれば、旅のお供、暇つぶしとしては十分なんじゃないでしょうか。

捏造・偽造といっても、その内実は様々なようです。元々は講談や歌舞伎などフィクションだったものが事実として定着してしまったもの、すでに誤りであったことが判明している学説にも関わらず、世間では旧説が上書きされないまま定着している、など様々な原因があるようです。

本書を読んで気付くのは、新しい学説を頑迷に拒絶する学会、ではなく、逆に学会で明快な考証に基づき学術的に否定された学説に頑迷にしがみつく在野の学者がいることです。

ちなみに、著者の原田さんは一時期話題になった“江戸しぐさ”の根拠のいい加減さを明らかにした『江戸しぐさの正体』(   )なんて本も書かれています。世の中には多種多様な言説が溢れています。トンデモ説かどうかを見分ける、私たち自身が試されているのはようです。

 

 

浜竹 睦子自家製はエンタメだ。』サンクチュアリ出版

浜竹さんの本職はイラストレーター。ですから絵を描くプロなわけですが、誰だって料理を作ったりします。で、買い物に行ったり、外食をしたりしたとき、ふと気づいてしまったみたいです。“これって、自分でも作れるんじゃね”って。で企画されたのが本書みたいです。もちろんいろんなものを浜竹さんご本人が作るわけですが、その道のプロにちゃんと教えてもらっています。うーん、うらやましいぐらい贅沢な企画!ちゃんとご家庭で作れるようレシピも工夫されているようです。

面白いのは、本書の最初の方に「季節のカレンダー」という自家製のスケジュールが載っているところ。確かに、梅の実が手に入らない季節に“さあ梅酒を作ってみましょう”なんて言われても困りますからね。

浜竹さんはイラストレーターですから、レシピにはご本人の描いたイラスト入りです。写真よりよほど分かり易いと思います。あと、様々な疑問(素人が疑問に思いそうなやつ)についてもイラスト+文章で答えてくれていますよ。

さ、本書を読んで何か作ってみましょう。

 

 

 

2025年4月

宮下 洋一安楽死を遂げた日本人』小学館

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安楽死を遂げた日本人 [ 宮下 洋一 ]
価格:913円(税込、送料無料) (2025/2/24時点)

日本では「死」をめぐる議論は非常に低調です。タブーと言っても良いのかもしれません。「縁起でもない」、「そんなことは口にするもんじゃない」などが普通の反応ではないでしょう。でも、口にしなかったからと言っても、人間、いつかは死ぬんです。本書でも「医師から余命を宣告され、初めて死と正面から向き合うのが日本人である」なんて書かれています。遅いって。

ということで、私は子どもたちにも、むやみな延命治療は止めてくれ、その代わり、緩和治療だけはよろしく、と言ってあります。ただし、このような方法も日本では「安楽死」の範疇に入れられていますが、これは「現行の医療制度でも実現できる」「延命治療の手控えや中止」(いわゆる尊厳死)に含まれるようです。ここら辺のことも本書では結構詳しく触れられています。

本書の前半で詳しく取り上げているのはより積極的に死を選ぶ方法です。宮下さんも簡単にこれが正解、などと主張している訳ではないようです。皆様はどのようにお考えになりますか?少なくとも、考えてみる、ことから出発しようではありませんか。

 

 

リック・ストラスマン 東川恭子訳『DMT-精神(スピリット)の分子ー 臨死と神秘体験の生物学についての革命的な研究』ナチュラルスピリット

著者のストラスマンさんは1952年ロサンゼルス生まれ。いわゆるフラワー・ムーブメント真只中の青春時代を送ったわけですね。現在は開業されているようですが、以前は精神医学の大学教授でした。もともと「松果体ホルモン、メラトニンの機能に関する臨床研究に従事した」とのことですので、脳内化学物質の研究を専門にされていたようですが、「幻覚剤研究を米国で20年ぶりに再会させた」なんて記述を読むと、なるほど昔の……なんて思っちゃいますね。もっともストラスマンさんは若いころから禅仏教の修行を積まれていたそうですから、DMTなどサイケデリック・ドラッグへの興味も、ラリッちゃうことが目的ではなく、「人々の暮らしに生かすことを模索した」ものなのだそうです。心してお読みくださいね。

本書の主役DMTN,N-ジメチルトリプタミン)という化学物質そのものは、アマゾン植物のサイコトリア・ビリディスの葉に含まれる天然物質で、古くから体験者に幻覚や知覚、感情、認識の変化をもたらすアヤワスカ飲料に使用されてきました。古くから知られていたわけですね。また、人間の脳内でも生成されることが知られています(「実のところ、DMTがどこにあるか、という議論ではなく、どこにないかを調査すべきところに来ている」)。歴史的には人類は随分と前から幻覚剤(サイケデリック)を使っていたみたいですよ。ではありますが、DMTは、向精神薬に関する国際条約により1971年に世界的に禁止された精神活性アルカロイド物質に分類され、アヤワスカという煎じ薬飲料の中で宗教的、儀式的にのみその消費が許されているそうです。何たって麻薬の一種ですからね、現在の警察とか司法権力とは(その他順法精神に富んだ組織とも)相性がよくないみたいです。アヤワスカとは何か、なんてことは以前ご紹介した『Quantum Science of Psychedelicsでも採り上げられていました。ご興味のある方はどうぞ。

DMTで興味深いのは、DMTは「私たちの意識を実に驚異的な、予想もしなかったビジョンや考え、感情にアクセスさせてくれる。それは私たちの想像を超える世界へ至る扉をパッと開け放つ」ように思えることです。ストラスマンさんは禅仏教にも親しんでいるようですが、DMTの経験は瞑想時の体験に大変似ているように思えます。ストラスマンさんは「自分のキャリアをかけて幻覚剤研究を再開しようと決断した動機の一つに、高用量の幻覚剤体験と、神秘体験の類似性が挙げられる」としています。また、「宇宙人による誘拐」体験談なんかとの類似も指摘しています。DMTは本当に私たちに神秘体験をもたらしてくれるのでしょうか、それとも単にラリッているだけなのでしょうか。あるいは単にラリッているのと神秘体験とか瞑想、変性意識なんてものに差は無いのでしょうか。

本書には臨死体験に似たDMT体験も記載されています。実は私も脳出血で入院中、隣死体験なのか三途の川の近所(多分)まで行ってしまったことがあります。そのときタイミング良く看護師さんが声をかけて起こしてくれなければ三途の川を渡っていたのかもしれません。あれは神秘体験だったのでしょうか、それとも脳内麻薬でラリッているだけだったのでしょうか。

ストラスマンさんも実際は豊富なトリップ体験があるように思えますが、政治的配慮もあるのでしょうが、ストラスマンさんの個人的経験に関しては本書では慎重に記述が避けられています。そこらへんにもいささか残念感が残りました。

DMT研究の顛末は本書にも詳しく書かれているように、再び停止、もしくは停滞状態(最近また「サイケデリック・ルネサンス」が起きつつあるそうですが)にあるようです。果たして幻覚剤(DMT)は私たち人類が新たなステージに到達するブレークスルーの一助となるのでしょうか、それとも単にヤバいドラッグなのでしょうか。

 

 

森 功地面師 他人の土地を売り飛ばす闇の詐欺集団』講談者文庫

映像化された『地面師たちの参考文献に取り上げられた一冊である本書はノンフィクション作家の森功さんが過去の不動産詐欺事件を取材した一冊です。

まあそれにしてもいろいろな手口があるもんですね。やはり、資産がある場合にはきちんと管理しておかなくてはいけない、ということになるんでしょうね。まあ、地面師に目を付けられるような資産は持ってないから関係ないのかもしれませんが。

 

三橋 貴明『財政破綻論の嘘 99%の日本人を貧乏にした国家的詐欺のカラクリ』経営科学出版

「文藝春秋」20219月号に現役の財務省事務次官の矢野康治氏が書いた、「財務次官、モノ申す『このままでは国家財政は破綻する』」という論文が掲載れました。矢野次官は文字通り、「このままでは財政破綻する」と主張しています。三橋さんは「矢野氏が「国家には無尽蔵にお金がある」ことを否定している時点で、氏が「貨幣」について何も理解していないことが明々白々である」とけちょんけちょんに批判しています。なぜそうなのか、は本書をお読みくださいね。

 

 

2025年3月

林 綾野モネ 庭とレシピ』講談社

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モネ 庭とレシピ [ 林 綾野 ]
価格:1,760円(税込、送料無料) (2025/1/24時点)

上野の西洋美術館にモネ展『モネ 睡蓮のとき』を見に行った際に購入しました。若い時、売れない画家であったモネは自殺を考えることもあったほど困窮していましたが、40歳を超えジヴェルニーに移住したころには「フランス内外で作品も売れはじめ、ようやく生活が出来るようになり、自身の趣味を追求」できるようになりました。で、出来たのが睡蓮で有名なジヴェルニーの庭、ということになります。また、モネは「日々の「食事」にもこだわりを持っていた」そうでです。

ジヴェルニー移住の前に最初の妻カミーユを亡くしていたモネにとって、妻の代わりに家の切り盛りをしてくれたのがアリス・オシュデです。このアリスさんが料理上手だったようです。「友人たちの間でも美食の定評があった」なんて書いてあります。モネ自身気に入ったレシピを書き残したレシピ・ノートを6冊も残しているそうですから相性は良かったのでしょうね。ジヴェルニー移住(1883年)からしばらくして(1892年)正式に結婚しています。ここら辺の複雑な事情は原田マハさんの『ジヴェルニーの食卓』をお読みください。

本書にはモネのノートから復元したレシピで、「日本のキッチンでも調理可能な」料理がいくつも掲載されています。さて、どれが美味しそうかな。

 

 

にしうら 染フランスふらふら一人旅 モネの足跡をたどる旅』だいわ文庫

にしうらさんの『フランスふらふら一人旅』につづく旅シリーズ。今回はモネに焦点を絞っています。にしうらさんが旅をしてあらためて認識したのは「ああ、モネが描いた風景は存在するんだ」ということ。実際の風景に比べると、脆弱そうに思える絵画作品とかの方がまだ寿命が長いかもしれません。

モネの見た情景をそのまま追体験できる時間はどれくらい残されているのでしょうか。行くなら、今でしょ!!旅慣れていない(!?)にしうらさんが懇切丁寧に旅のあれこれを教えてくれますよ。

 

 

ピーター・J・マクミラン謎とき百人一首 和歌から見える日本文化のふしぎ』新潮選書

マクミランさんはアイルランド生まれ。英文学で博士号を取得の後、英文学と哲学を教えるために1年の予定で来日したそうです。が、以来30年以上日本に滞在、百人一首や伊勢物語の英訳を出版、米国で2008年度ドナルド・キーン日本文化センター日本文学翻訳特別賞、国内では2008年度日本翻訳家協会第44回日本翻訳文化特別賞を受賞されているそうです。ご自分では「日本古典文学の翻訳家であり、研究者ではありません」とのことですが、本書、「日本文化に出会い直せる「最良の入門書」」なんて紹介されています。まあ、平安時代の和歌なんて、現代の日本人にしてみたら外国語よりなじみがない場合があります。マクミランさんはそんな歌を、その背景、意味を踏まえ、英語話者にも分かるように技巧を凝らして翻訳(百人一首の歌には主語が書かれておらず、複数の意味にとれる歌があります。歌の場合は意図的にそのような書き方をしていると思われます。ですが、動作なりの主体が分からない文章は英語ではほぼあり得ません。さあ、どうする?)、さらに懇切丁寧な解説も加えていますので、日本人であるとはいえ日本古典文学にはとんと縁のない私にもよく分かる説明になっています。マクミランさんの英訳、現代語訳が百人一首の各歌に示されていますが、歌によっては英訳の方が現代日本語訳より分かり易かったりします。あれま。

マクミランさんが京都のお宅に日本庭園を造ろうとしたときのエピソードが載っていました。万葉集その他のいにしえの和歌に詠まれたような草花を植えようとしたのだそうですが、その一角にチューリップなど西洋の花も一緒に植えようとしたところ、「今は庭を作っているんだ!ガーデニングをしてるんじゃない」と𠮟られてしまったそうです。京都の人ってのは(いや、庭造りがでしょうか)難しいもんですね。

ま、とにかく、なかなか面白かったですよ。

 

 

ジェフリー・アーチャー 戸田浩之訳『狙われた英国の薔薇 ロンドン警視庁王室警護本部 [ ジェフリー・アーチャー ]』ハーバーBOOKS

ジェフリー・アーチャーさんの新作です。

アーチャーさんは本人の人生が波乱万丈そのものです。若くして英国下院議員になるも巨額詐欺事件に巻き込まれて議員はクビ(不出馬)に追い込まれ、巨額の借金まで背負わされたみたいです。が、詐欺事件を題材に『百万ドルをとり返せ』を上梓、ベストセラー作家に。めでたく借金も完済、政界復帰も果たします。その後一代貴族に叙せられ貴族院議員にもなりました。その後も色々あるみたいですが、ご興味のある方はWikipediaでもご覧ください。

本書はそんなアーチャーさんがロンドン警視庁王室警護本部といういかにもイギリス的な部署を題材に書いたシリーズの最新作です。文句なしに面白かったですよ。亡きダイアナ妃も(故マーガレット・サッチャー首相も)大変重要な役割で登場します。

たっぷりこってりと(英国風クロテッドクリームみたいに)英国趣味のあれこれを満喫できますよ。

 

 

2025年2月

山崎 良平天才読書 世界一の富を築いたマスク、ベゾス、ゲイツが選ぶ100』日経BP

テスラCEOのイーロン・マスク、アマゾン創業者のジェフ・ベゾス、マイクロソフト創業者のビル・ゲイツ──。いずれもイノベーションを起こして「フォーブス」世界長者番付1位になった天才です。実は猛烈な読書家でもある3人が読んだ100冊の本が一挙に紹介されています。

大変な読書家でもある3人が読んだ100冊の本を一挙に紹介している訳ですが、実際にこの3人に頼んで100冊の本を選んでもらった、という訳ではありません。様々なメディアなどでこの3人がコメントしている本の中から、日本語訳があるものを抽出、そこから100冊選んだ、ということのようです。ではありますが、著者の山崎さんはこの100冊プラス選ばれなかった本多数に実際に目を通され、解説も加えています。読むだけでも大変な労力ですな、とても自分でやろうとは思いません。ということで、本書を読んで帳尻を合わせることにしましょう。

紹介されている本のジャンルは経営学、歴史からフィクションまで多岐にわたりますので、あなたもきっと読んでみたくなる一冊を見つけられると思いますよ。

 

 

マット・ルメイ 吉羽龍太郎・永瀬美穂・原田騎郎・有野雅士訳 『みんなでアジャイル 変化に対応できる顧客中心組織のつくりかた / 原タイトル:Agile for Everybody』オライリー・ジャパン

アジャイルと言う言葉は必ずしも人口に膾炙しているとは言い難い言葉ですが、アジャイルの名詞形のアジリティ(agility、敏捷・機敏)には多少の耳馴染みがあるのではないでしょうか。アジャイルという言葉はソフトウェアの開発現場から広まった言葉のようですが、「ウェブサービスやスマートフォンアプリケーションに対して、小さい改善を繰り返すことで、使われるプロダクトを作り上げていく」手法だそうです。日本人は得意……かもしれません。

本書のまえがきを書いている及川卓也さんは、アジャイル手法はあくまでも武道やスポーツにおける「型」であり、「型」を習ったからと言って、それだけで武道なりスポーツなりが上手くなるわけではない、と警鐘を鳴らしています。そりゃそうですよね。ただ、世の中にはゴルフの“教え魔”のように、「型」を知っただけでそのスポーツなりをマスターしたように勘違いしている人が多いそうです。これも、そうでしょうね。

本書では「手法としてのアジャイル」と「マインドセットとしてのアジャイル」を分けて分かり易く解説しています。本書を読めば、そんなアジャイルの本質が分かる……、あるいはヒントがつかめるかもしれませんよ。

 

 

三橋貴明【中古】 竹中平蔵教授の 反日 経済学』経営科学出版

書名を一瞥しただけで著書の三橋さんの言わんとすることが分かりますね。

バブル崩壊を機に日本経済はデフレのドツボにはまり、低成長(というか無成長)の失われた30年(現在絶賛記録更新中)になります。ドツボ。で、なんでこうなったのか、というと、同期間中の代表的経済的政策である構造改革と財政緊縮政策が元凶である、というのが三橋さんの見立てです。

世界経済のネタ帳

上記グラフが同期間中の通信簿です。理論的にどうのこうのではなく、実績として全くダメであったことが分かります。日本人の悪い癖として計画を立てるときにはああだこうだと議論する割には実績を検証する、という習慣がないことが挙げられます。で、実績を比べてみるとこうです。ダメだこりゃ。

日本にデフレ型経済政策を強いているのは、「プライマリーバランス黒字化目標、平均概念の潜在GDP、そして発展途上国型マクロ経済モデルというシミュレーションモデルなのである」と三橋さんは指摘しています。で、「日本のデフレ継続と中国の「属国化」をもたらす三つの目標と指標、シミュレーションモデルは、ある人物により導入された。その人物の名は、竹中平蔵という」だそうです。

あなたは竹中教授と三橋さんのどちらに軍配を上げますか?ぜひ本書をお読みになってお考え下さい。

 

 

小谷 太郎物理の4大定数 宇宙を支配するc、G、e、h』幻冬舎新書

「物理定数は日常から宇宙の彼方までのあらゆる現象を支配する法則が、数値となって現れたものです」。あ、そう。「この4個の物理定数を理解するには、相対性理論から素粒子物理学まで、人類がこえまで得た宇宙についての知識が全部必要です」。ムリだ。

それぞれの意味は、cは光速、Gは重力定数、eは電子の電荷の大きさ、hはプランク定数を意味します。ご興味のあある方はWikipedia 宇宙定数などをご参照下さい。

「相対性理論、宇宙の構造、素粒子や量子力学までわかる画期的な書!」だそうです。分かる人には分かるんでしょう。私には……分かんなかった。

 

 

2025年1月

鈴木 貴博日本経済復活の書 2040年、世界一になる未来を予言するPHPビジネス新書

本書の副題は「2040年、世界一になる未来を予言する」というものです。まあ、その時私は80歳ですので、あまり関係はなさそうですが、子供世代には影響しますよね。

鈴木さんの経歴は東大−ボストンコンサルティンググループ−独立、というピカピカのエリートの方のようです。専門は未来予測とイノベーション戦略。

で、鈴木さんが日本の未来を予測するわけですが、人口の減少も予測される日本、このままでは現状維持すら難しいようです。ではありますが、それをそのまま受け入れてしまっては有能なコンサルタントとしては実も蓋もありません。で、鈴木さんは「これまで30年間、日本経済が地盤低下を続けてきたのは本当にやるべきことをせずに、決めやすいことしか決めてこなかったからだ」という不都合な真実を前提に大胆な提言をぶち上げます。で、ぶち上げたのが「日本経済の魔改造」です。魔改造って、若者向けのクルマ雑誌なんかで目にするコトバです。どんなのかって言うと、軽自動車にでかいアメ車のV8エンジンをぶっこんじゃう、みたいな感じがあります……。私の個人的感じですよ、もちろん。で、鈴木さんがどんな魔改造を意図しているか、は本書をお読みくださいね。

果たして鈴木さんが主張する通り「数字でマイナス×マイナスがプラスになるように、受け入れがたいマイナスの未来が二つ重なることで、絶望の先に希望が見えてくる」のでしょうか。

はてさて、「ときめく」魔改造って現実化するのでしょうか。そもそもあなたは魔改造を現実化させたいでしょうか。あなたはどちらですか。

 

 

植草 一秀『千載一遇の金融大波乱』ビジネス社

本書は2023年の1月に出版されています。ですから書かれたの2022年ということになると思います。で、2023年が過ぎ、この書評を書いているのが20247月。日経平均のチャートを見ると、一本調子とは言いませんが、そのころから大きな下落もなく上昇しています。こんな相場、私は全く予想していませんでした。植草さんも……。ま、後からだったら何とでも言えるわな。

ということですが、植草さんが本書で指摘している問題は何一つ解決されたとは言い難い状況です。そしてその結果起こるであろう予想図は、今現在でも有効な示唆を与えてくれるものと思います。

私は現在の世界的な株高は中銀バブル(コロナ禍を契機として主要各国において低金利政策(及び過剰流動性の供給)が採られた)によって人為的に演出された相場だと思っています。そうであれば……。そうですよね植草さん?

本書を株式投資の推奨銘柄リストとして使おうと思っておられる方には向かないと思いますが、今後の日本経済の俯瞰図としては役立つ視点を提供してくれるものと思いますよ。植草さんの挙げるリスクは3つ。「第3次世界大戦勃発のリスク、世界恐慌発生のリスク、そして中国大波乱のリスク」です。2023年には起こらなかったわけですが、火種は今現在でもくすぶっています。何しろ植草さんは「戦争は必然によって生じるものではなく、必要によって創作されるもの」なんて指摘しておられます。戦争でさえそうなら……。2024年の後半、2025年以降はどうなるのでしょう。

千載一遇のチャンスは、いつ来るのでしょうか?いつ、と正確には答えられませんが、備えておくことはできます。備えておかなくっちゃ。

 

 

名和高司資本主義の先を予言した 史上最高の経済学者 シュンペーター』日経BP

著者の名和さんは東大卒業、三菱商事入社の後、ハーバード・ビジネス・スクールで修士号取得、マッキンゼー入社、ディレクタ−としてコンサルティングに従事、と私なんぞとはラベルの違うビカビカのエリートの方のようです。

本書の帯には「本物の経済学とはなにかを知れ」と大きく書かれ、経済学にはイノベーションとルビが振ってあります。ま、これが名和さんの言いたいことなんでしょうね。

でも、シュンペーターの原著って「理屈っぽくて読みづらく、しかも分厚い」んだそうです。そんなシュンペーターの主著3冊を名和さんが読み解いてくれています。ま、そういうことですので、本物の経済学を知るために本書を紐解いてみることにしました。ビカビカのエリートの名和さんが言うんだから間違いない!?

ところで、名和さんはシュンペーターが資本主義の終焉を予想していたこと、破壊的な革命を否定していた(だからレボリューション(革命的破壊)ではなくイノべーション(創造的破壊)なんでしょう)ことなども指摘しています。それだけではなく、シュンペーターは「どうしたらいいのかの答えも出しているのです」だそうですよ。そうだったの‼ここから先は本書をお読みくださいね。

 

 

眞邊 明人もしも徳川家康が総理大臣になったら』サンマーク出版

眞邊さんは「家康は意図的に 当時の“領土を拡大して成長する”ことを止めた、世界でもまれに見る異質のリーダーであった」としています。「結果、江戸時代は265年間も続く、太平の時代になった」のです。確かに。

で、ここからが本書のお話。パンデミックでパニックになった現代日本政府は、「AIと最新ホログラム技術で偉人たちを復活させ、最強内閣を作る」のです。総理大臣には徳川家康、官房長官には坂本竜馬、財務大臣には豊臣秀吉、産業経済大臣には織田信長、文部科学大臣には菅原道真などなど日本史に名を遺す偉人たちに、させます。で、その結果……。最近実写映画化されたコメディーです。

著者の眞邊さんは、「吉本興業において、新規事業を手掛け事業の成長を導き独立。作家として活動しながら、エンタテイメント事業、教育事業を推進している」という方です。で、その講演のテーマは「徳川家康、徳川綱吉、田沼意次といった歴史上の人物の実績を基に、現代のビジネス上の課題を解決する方法を示唆します」なんて紹介されてます(ノビテクビジネスタレント)。本書はそのものずばり、を小説家したものでしょう。

本書、政治パロディーものの本かともおもいますが、眞邊さんの経歴からもわかる通り、立派なビジネス書としての内容を持っています。コンピュータに政治を任せることについての作中人物の会話に「それでも生身の政治家よりはいいんじゃない」というのがでてきます。立派な政治風刺にもなっているようです。

 

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