20212

安部長期政権は終わりましたが、安倍政権時代、あるいはそれ以前からの問題は解決されないままに残っています。そんな問題のいくつかをテーマにした本をご紹介しましょう。

 

 

新藤 宗幸官僚制と公文書 改竄、捏造、忖度の背景』ちくま新書

森友学園の問題をきっかけとして、国有地売却をめぐる決済の経緯が記載された公文書が改竄されていることが明るみに出ました。ではありますが、その改竄に関わった官僚には結局のところおとがめなし。日本は政治家がいい加減でも役人がしっかりしているから、なんて与太話がかなり信じられていましたが、与太話はやはり与太話であったようです。ノンキャリアの職員の方が自死に追い込まれたようですが、キャリアの方々は何を言われてもカエルの面になんとかで、結局皆さんご栄転されたようです。ま、上が上だから……。

とは言え、日本の官僚制度の根底に、民は由らしむべし,知らしむべからず、といった意識があるのは間違いのないところでしょう。本書にその経緯が詳しく書かれている通り、日本の官僚制はその基礎を明治時代の「天皇の官僚」であった時代のものをほとんどそのまま踏襲しています。戦後民主化後、何度かその改革が意図されたようですが、民主的な改革はほぼ進まなかったようです。お役人は既得権を自ら手放したりしませんからね。

菅首相も公文書の重要性は嫌というほど理解されていたようです。あ、新しい(『政治家の覚悟』)には書いてないのか。

本書は公文書管理に関して、法制を含め詳細に検討されている良書だと思います。が、読んで面白いかどうかの判断は皆さまにお任せします。だって、読了するのにに結構苦労しましたよ。

 

 

前川 喜平面従腹背』毎日新聞出版

Maekawa

上記 『官僚制と公文書』で語られていた忖度だ何だを組織の中にいた前川さんが書いちゃったのが本書。

本書の題名『面従腹背』については、前川さんと同じく元官僚の大学教授が、「前川は官僚のクズと口を極めて批判していました。この方は私なんぞが及びもつかない立派な人格者で、大きな権力に対しても正々堂々とものの言える素晴らしい力量の持ち主だったのだろうと推察いたします。私のような小物は及びもつきませんね。でも、私には前川さんの言うことの方がしっくりきます。

前川さんが本書で主張しているのは、「私が後輩である現役公務員に伝えたいのは、組織の論理に従って職務を遂行するときにおいても、自分が尊厳のある個人であること、思想、良心の自由を持つ個人であることを決して忘れてはならないということだ」「自由な精神を持つ独立した人間であってほしい、ということだ」にあるように思います。役人生活の中の仕事は、「やりたかった仕事ができた」「やりたかった仕事ができなかった」そして「やりたくなかった仕事をさせられた」の三種類だったそうです。どの政策がどれに該当するか、は本書をご参照ください。民間企業だって、ごく一部のハイパフォーマーがやっているキラキラした仕事ばかり任されるわけではありません。地味で目立たない仕事だってあるんです。そして、誰もやりたがらない仕事も。あったなあ……。

本書はある主義主張を主張するために書いた、というよりは「面従腹背の日々を思い出すままに書き連ねた」エッセイという趣が強いように思います。それでも、往時の出来事が具体的個人名と共に書かれています。いやあ、読み応えがありました。ぜひご一読を。

 

 

井上 寿一機密費外交 なぜ日中戦争は避けられなかったのか』講談社現代新書

現在でも内閣官房報償費(官房機密費)という使途の公表や領収書の提出が義務付けられていない予算があります。現在でもブラックボックスの中ですので、軍部の強かった戦前はさぞかし、と思ったら、意外にも記録がつけられていたのだそうです。ちゃんと管理していたみたいです。それが明らかになったのは、敗戦時に焼却処理するはずの外交機密費に関する文書が残っていたのだそうです。

特に満州事変の時期の記録が残されていたことから、この時期における日本はどのような政策をとったのか、また、結果として日中戦争が起きたわけですが、そのような事態を避けることはできたのか、などを井上さんは政治学者として検証しています。

で、外交機密費とは何に使われていたのか。長い期間の記録が残っているわけではなく、ごく一時期のもの、ではありますが、その時の記録によれば「機密費の半ば近くが接待費」であったそうです。最近も熱心にご接待外交を繰り返している政権がありますが、戦前の例に鑑みると、あまり効果はなかった、んじゃないですかね。

それはともかく、本書を読んで感じるのは、日本という国(あるいは国民)には戦術はあっても戦略がないのが致命的、という気がします。大きな戦略が定まっていないので、目の前の問題を解決するためにそれぞれの担当部局(各軍、省庁など)がそれぞれの判断に基づいて最善策を策定するのですが、それらの基本としてあるべき大きな戦略を欠き、しかも国内での内輪揉めも絡んでチグハグ。その結果が泥沼の日中戦争とそこから引き起こされた太平洋戦争。

類書と同じく、本書でも『失敗の本質と同様の結論が導かれるようです。

 

 

 

石井 暁自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』講談社現代新書

石井さんによれば、「陸上自衛隊の中には、『ベッパン』とか『チョウベツ』とかいう、総理も防衛大臣も知らない秘密情報組織があり、勝手に海外に拠点を作って、情報活動をしているらしい」ということなのだそうです。シビリアン・コントロールなんて糞くらえ、というわけですね。

まあ、軍隊がインテリジェンス組織を持っていても不思議はありません。ではありますが、軍隊のみに情報を独占させるのは危険です。ですから大体の国では軍隊とは別に情報組織を持ち、情報収集や分析を手掛けています。

まあ、日本国としては、情報機関は持っていないことになっています。内閣情報調査室だとか公安警察だとかはありますが、大々的に日本の情報機関ですと名乗っているわけではありません。

ところで、この『別班』というのは、超機密の活動なのだそうです。ですから、防衛大臣も総理大臣も与り知らないのだそうです。ですから、『別班』のもたらす機密情報は政府にはもたらされないのだそうです。じゃ、何のためにやってるの、ってことになると思うのですが、そこらへんについては詳らかに書かれていません。あまりにも誰も知らない、ということが強調されると、本当に誰も知らない、誰も知らないような情報元がもたらす情報は全く利用されない、ってことは税金の無駄遣いだ、バカヤロウ、ってことになりそうですが、いかがでしょうか。「日本が保持する「戦力」の最大タブー」って裏帯に書いてありますが、それほどのもんだろうか、ってのが本書を読んでの印象でした。

 

 

20211

橘 玲もっと言ってはいけない』新潮新書

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以前『言ってはいけないをご紹介した橘さんの新刊です。

本書によれば

@ 日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない」

「A 日本人の3分の1以上が小学校34年生の数的思考力しかない」

「B パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかない」

「C 65歳以下の日本の労働力人口のうち3人に1人がそもそもパソコンを使えない」

んだそうです。えーっ、と思われるかもしれませんが、エビデンス付き。ですが、これでも「日本はOECDに加盟する先進諸国のなかで、ほぼすべての分野で1位なのだ」そうです。日本人もなかなかやるじゃないか、とも言えますが、日本人の民度がどーのこーのという割には大したことないな、という感じもします。

ひろゆき叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』三笠書房

ご存知「2ちゃんねる」創始者のひろゆきさんです。日本の大学に在学中米国アーカンソー中央大学に留学されています。大学在学中から様々なサイトをオープンしてきたようですが、その中でも私のようなド素人でも知っている有名なサイトが「2ちゃんねる」とか「ニコニコ動画」みたいです。最近では英語圏最大と言われる匿名掲示板「4chan」の管理人もされているようです。

その経歴からも、同調圧力が強いと言われる日本人には珍しく個性が強く、それをしっかりと発信する方のようですね。そんなひろゆきさんが橘さんに続いて言っていけない「世の中の真実」を忖度やタブー抜きに書き下ろしてみたようです。なぜか。それは「意見を言ってくる人たちが、基本的な知識を持っていまいか、間違った知識を元に論理展開している」からだそうです。で、議論が成立しない。ところが、正しい知識のはずが、言ってはいけない真実だったみたいです。コロナ禍において屋形船なんかより満員電車の方がよっぽど危ないんじゃないの、なんてね。

何が書かれているかは本書をお読みください。きっと、なるほどそうだよな、って思うことが事例やデータとともに書かれていますよ。

 

波頭 亮論理的思考のコアスキル』ちくま新書

本書は「論理的思考力を実際に身に着けるための一冊」なんだそうです。ホンマかいな、ということで読んでみました。

本書では論理的思考力を構成する「コアスキル」として、「適切な言語化」「分ける・繋げる」「定量的判断」が挙げられ、それらを習得するためのプログラムが示してあります。

著者の波頭さんは東大経済学部からマッキンゼー、何年か後に独立して経営コンサルタント、という経歴の方だそうです。ネットニュースでお見かけしたことがありますが、まあ、頭がよさそうな方でしたね。本書を読んだ私的な印象は、私とは縁遠い世界のお話だな、というものでした。残念。

 

 

佐宗 邦威直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』ダイヤモンド社

本書の冒頭のエピソードに「他人モード」と「自分モード」という言葉が出てきます。現代の世界で重要視されるのはコミュニケーション力。TwitterInstagramを見ては「いいね!」を押す。自分が投稿するときだってなるべく多くの「いいね!」をもらうためにあれこれ工夫。これが「他人モード」。で、何をしたいのか、なんて根本的な問いかけはなし。これじゃあ新しい発想なんて生まれてきませんよね。

ということで佐宗さんが立ち上げたのが「BIOTOPE」という会社。「個人・組織が持つ「妄想」を掘り起こし、それを「ビジョン」に落とし込み、その「具現化」までをお手伝いする」お仕事なんだそうです。なんだかよく分からないけど面白そうですね。

ま、ビジネスの世界で妄想なんて言うと、「独りよがりの直観だ」とか「論理に裏付けられた戦略」が無きゃだめだ、とかなんとかかんとか言われちゃいます。ではありますが、昨今論理的に考えてできそうなことは片っ端から試されちゃってます。今必要なのはコツコツ一歩ずつ、ではなく、ホップ・ステップ・ジャンプ。ではありますが、最終的な形にまとめ上げられないと、単なる「空想家」に終わってしまいます。「単なる「空想家」で終わる人と、現実世界にもインパクトを与える「ビジョナリーな人」との間には、どんな違いがあるのでしょうか?」ということで、本書は「直観と論理をつなぐ思考法」とはどのようなものかを探って行きます。

本書は「従来型のロジカル・シンキングや戦略思考にはない、じわっと根っこから効いてくる「人生の漢方薬」的な効用」があるそうですよ。一つ試してみませんか?

 

 

坪田 信貴才能の正体』幻冬舎

著者の坪田さんはあの「ビリギャル」の坪田さんです。本書ではその坪田さんが「才能とはいったい何なのか」「才能とは、どう見つけて、どう伸ばしていけばいいのか」を解き明かしていきます。「才能は、誰にでもある」んだそうですよ。

思い返すと、陸上選手の為末さんが、恵まれた体で生まれて来るのが大前提だ、みたいなことを言ってたたかれましたねえ。私には為末さんの言っていることも大いに分かります。坪田さんも「世の中には「できないこと」がたくさんある以上、大人が子どもに、または目上の人が部下に言いがちな「やればできる」という言葉は嘘になる」と言っています。できないことだってあるんだって。でも「やれば伸びる」ってのは本当なんですって。このちょっとした違いが後々に影響するみたいですよ。

本書にも描かれている通り、「人は「結果」に合わせて「物語」にする」ものです。「ビリギャル」だって、受験に失敗していたら、そもそも小説(まして映画)にはならなかったでしょうからねえ。ただ、結果がそうだからと言って、「勉強をスタートした時点より、明らかに成長して」いるのですから、坪田さんはこう言っています。「うまく行かなかった子なんて、一人もいません」なるほど。有名大学に受かることが人生の最終目的ではありませんからね。

坪田さん、何しろ人を褒めるのがうまい、っていうか、その気にさせるのが上手なみたいです。どんなふうに褒めればその気になってくれるのか、なんてのは、ぜひ坪田先生の書かれた本書に倣ってみてください。

 

 

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