202112

小倉 広「ビミョーな人」とつきあう技術 ことごとく期待を裏切る「あの人」の正体 』アスコムBOOKS

小倉さんによれば、ビミョーな人というのは、「相手の期待に応えようとしながらも、相手の期待とズレた頑張りをしている人」なのだそうです。なんだか分かりますよね。金融機関なんかで、うっかり何か聞くと、延々と説明をされちゃう場合がありますよね。一応私も専門家の端くれなんで、その程度のことは分かってるよ、聞きたいのは違う部分なんだけどなあ、なんて思いながらイライラしている場合があります。でも、「ビミョー」な人というのは、頑張り屋さんなのだそうです。「無気力、無活力の人はビミョー」にさえ至らない論外」なんですって。まあ、言われて見りゃ確かにそうですね。

ま、しかし何ですね、著者の小倉さんはリクルートを経て独立、現在はコンサルティング会社を経営されている方なのだそうです。バリバリの一流。で、その人材の一流、二流、三流の差ってのは、下足番を任されたときに、

「一つ目は、ふてくされて適当にこなす道」

「二つ目は、言われた通りにそこそここなす道」

「三つめは、日本一の下足番になる道」

なんてのがある、って言ってます。私なんて三つ目だな。

でもねえ、上に立つものが分かんない、なんてことも良くあるような気がするなあ。ま、そんなぼんくらにも良く仕えるのが一流なのかもしれないけど。あたしゃ一流じゃないんで分かりません。

一流の方はお仕事頑張って、あたしたちぼんくらたちもおまんま食えるようにしてくださいな。

 

 

橘 玲上級国民/下級国民』小学館新書

言ってはいけないの橘さんの新作です。読み終わる前に“上級国民”が流行語になっちゃいました。でも、面白そうだから読んでみるか。

上級国民云々より、本書を読んで私に最も刺さったのは、日本って国は、「「日本人、男性、中高年、有名大学卒、正社員」という属性を持つ“おっさん”」が正規メンバーで、それ以外のマイノリティ(下級国民)なんぞどうなってもいいと思ってる社会だって言ってるところでしょうか。だからバリバリの左派のはずの労働組合が非正規、外国人なんぞはのけ者、同一労働同一賃金なんてのは日本にはなじまない働き方である、なんて主張してるんです。既得権。

橘さんは例によってこんな表立っては言いにくい話題についてもエビデンスを積み上げて論を進めていきます。私は団塊の世代よりちょっと後の世代です。宮仕えの間は、10歳ほど上の世代が幅を利かしており、往生したものです。何たってあいつら、数が多いですからね。で、今やその団塊の世代も人生の引退期です。ようやっとのことで、日本も少しは変わるんでしょうか、それとも共倒れになるんでしょうか。

 

 

筒井 康隆老人の美学』新潮新書

ご存知筒井康隆さんのエッセイ的作品です。SF作家として著名ではありますが、SFとは思えないような実験的作品など数多くものされています。また、文壇その他と大立ち回りを演じた断筆宣言なども記憶に新しいところです。

そんな筒井さんも本書執筆時点で85歳。ご自分でも「皮膚炎、筋肉痛、関節炎など、入れ替り立ち替り悪くなったり治ったりするのだが、これらはあきらかに歳をとったがゆえの老化現象なのであろう」と書いているような状態のようです。で、「老人問題を老人代表」として書いてみた、というところのようです。

ま、誰だって初めて老人になるんですから、分からないことだってありますよ、きっと。

 

 

呉 智英日本衆愚社会』小学館新書

著者の呉さんは日本の評論家、漫画評論家。京都精華大学マンガ学部客員教授だそうです。でも、若いころは全共闘の運動にも参加していたようですし、自分の思想を「極左封建主義」と呼んでいます。私にはどんな意味だか分かりませんが。

そんな博識、博覧強記の呉さんがあらゆる問題について切りまくります。呉さんは21世紀の社会(最近では日本だけの問題ではなくなったみたいです)の特徴を「偽善。欺瞞。疑惑」の3語で表しています。昨今の政治の堕落具合など、どうやら世界中で同じようなことをやっています。うーん、人類は大丈夫なのか、ま、だめならだめで仕方ないか。

 202111

岡本 茂樹反省させると犯罪者になります新潮選書

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反省させると犯罪者になります (新潮新書) [ 岡本 茂樹 ]
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「反省させると犯罪者になります」というのは、なかなか飲み込みにくい概念です。

岡本さんは大学において教員の傍ら学生相談を受け持っていたことがあるそうです。で、「心の病」を抱えた学生が相談に来ることがあるそうです。大学に通っているような学生さんですから、それなりに恵まれた境遇であるはずです。が、そんな学生さんでも心の病を抱えたケースは少なくないのだそうです。で、重症なケースを分析すると、「必ずと言っていいほど幼少期の問題にたどり着き、親子関係のなかでさまざまな感情を側圧していること」が分かったのだそうです。で、抑圧していた否定的感情を吐き出すことにより、「自分の内面の問題を学生自らが理解するように」なったのだそうです。自分を理解することにより心の病も徐々に解消した、と。

何だかアメリカとかのドラマとかに出てくる精神科医がカウンセリングを受けなさい、って言っているコマーシャルみたいな気もしますが、実は、私の専門であるコンプライアンスの現場でも同じようなことが言われています。

何か不祥事が起こった場合、どうしても「誰が悪いのか」という犯人探しに重点が置かれる場合があります。もちろんそれも大事なのですが、それだけに目を奪われ、犯人を特定して「多大なご迷惑をおかけして申し訳ありませんでした」と言って頭を下げさせて一件落着、となる場合があります。ですが、その不祥事が起きた原因をより深く掘り下げないと、同様の不祥事が再発する場合があります。コンプライアンス違反のように必ずしも犯罪とは言えない不祥事の場合、実はこの再発防止が犯人捜しより重要なのです。岡本さんは「「後悔」が先、「反省」はその後」、「すぐに「反省の言葉」を述べる犯罪者は悪質」という言葉で表現しています。「事件の発覚直後に反省すること自体が、人間の心理として不自然」だからなんだそうです。何か犯罪を犯して発覚、逮捕された人間が直後に反省の言葉を述べるのは、それによって処分が軽くなることを期待している、あるいは知っているからなのです。訓練すれば、サルでも反省するんです。

では、どうするのか、は本書をお読みください。本書の方法が一般性を持ち、私たちが子育てをするとき、あるいは学校で教師が生徒を叱る場合にものすごく参考になる、ということはないかもしれません。なにしろ時間がかかりますし、極めて高度な判断が求められます。でも、大変興味深い説であることは確かだと思います。皆様も是非ご一読を。

 

 

宮口 幸治ケーキの切れない非行少年たち』新潮新書

宮口さんは上記『反省させると犯罪者になります』の岡本さんの、立命館大学における後任のポストについている方なのでそうです。で、宮口さんの言う「反省させると犯罪者になります」は大いにわかるのですが、実はそもそも反省以前の少年たちも多くいるのだ、という問題を知らしめるために本書を書かれたのだそうです。

医療少年院に入所している少年たちには

「簡単な足し算や引き算ができない」

「漢字が読めない」

「簡単な図形を写せない」

「短い文章すら復唱できない」

といった認知能力に極めて問題がある傾向があるそうです。「そのせいで勉強が苦手というだけでなく、話を聞き間違えたり、周りの状況が読めなくて対人関係で失敗したり、いじめに遭ったりしていたのです」そして、認知能力に問題があることから、自分のやった非行と向き合うとか、被害者のことを考えて反省する、などという能力に欠けている、「反省以前の問題」なのだそうです。

ちょっと見難いかもしれませんが、本書の表紙の帯に書かれているのが、宮口さんが驚いた、「凶悪犯罪に手を染めていた非行少年たちが、“ケーキを切れない”ことだったのです」と書いている、ケーキを3人で食べるとき、皆が平等になるように切ってください、と言われて書いた図です。このような切り方は、小学校低学年の子どもたちや知的障害を持った子供に見られるそうですが、この図を書いたのは凶悪犯罪を起こしてはいるものの、中学・高校の年齢になっている少年たちが書いているのです。考える力が著しく弱いため、「そもそも反省ができず、葛藤すらもてない」状態なのです。正に「反省以前の問題」なのです。

実は刑務所にもこのような軽度の知的障害を持った人たちがかなりの割合で含まれているのではないか、と言われています。本書評でも紹介した政治資金規正法違反で実刑判決を受けた元衆議院議員の山本譲司さんが書かれた『累犯障害者−獄の中の不条理にも同様に感じられたことが書かれていました。

ではどうすれば、は本書をお読みください。「褒める」、「話を聴いてあげる」だけじゃダメみたいですよ。

 

 

岡田 尊司死に至る病 あなたを蝕む愛着障害の脅威』光文社新書

本書の著者の岡田さんも、上記二書に続き、精神科の医師として京都医療少年院などで「困難な課題を抱えた若者に向かい合」って来たという経歴をお持ちの方です。そして岡田さんが気付いたのは、あまりにも愛着障害を抱えている人が多く、それが様々な障害を引き起こしていることです。「実際、臨床の現場にいると、愛着障害を抱えている人が、うまくいかない親子関係に悩むだけでなく、さまざまな心身の不調に苦しみ、うまく社会に適応できず、対人関係でもつまずきを繰り返し、パートナーとの関係や子育てでもつまずいているということが、あまりにも多い」ということです。

愛着障害とは幼少期に親や養育者の養育に問題がある(虐待とかネグレクト)場合、安定した愛着(英語ではattachment)が築かれず、そのことが原因で後々に至るまで子供の心身に重大な影響を及ぼす障害のことです。

これに関しては、本書でも触れられている、有名なアカゲザルの実験が思い起こさせます。

これに関しては友田 明美・藤澤 玲子『虐待が脳を変える』でより詳しく採り上げられていましたので、そちらから紹介します。アカゲザルの代理母実験として知られるもので、針金で作った作り物の母親と、柔らかい布で作った作り物の母親を与えたところ、すべてのアカゲザルの子どもは柔らかい布製の母親にしがみついたそうです。ところが、この実験には後日談があり、「確かにぬいぐるみの母に育てられた子ザルたちは死ぬことこそなかったけれど、後に精神病的な症状を示し、正常に育たなかったのだ。うつ症状を示すものや、自傷行為をするもの、自分の子どもを虐待するものなど精神病的症状を示し、結果的にそのような状態で育てられたほとんどのサルが、まともな社会性を発展させることができなかった」のだそうです。ぬいぐるみとの間では愛着は築かれなかったのです。

岡田さんは最近話題の大人のADHDも、子どものADHDと症状は似ているものの、大きく異なる原因によって生ずるのではないかと推測しています。ここら辺はまだ学説として確定しているわけではないようですが、大変面白い理論の展開だとおもいました。

ま、それにしても精神医学なんてものはまだまだ分からないことがあるんですねえ。でも、だからこそ面白いんでしょう。

 

 

石川 弘子『モンスター部下』日経プレミアシリーズ

最近、本書のような部下がモンスターなっちゃう例を見聞きするようになりました。つい先ごろまではモンスターだとかなのは会社とか上司と相場が決まっていましたが、最近は部下までモンスターみたいです。日本はどうなっちゃうんだ?

石川さんは、最近の若手を見ていて、その特徴が「自己中心性」と「幼児性」にあるとしています。そうですよねえ、思いっきり思い当たります。石川さんは「分かりやすい意見に迎合する人」、「自分で考えず、大多数の意見に流される人」とも言い換えています。そうだとすると、若者だけではなく、実は立派な大人も思いっきり当てはまる人はいるんじゃないですか、どっかの首相とか。誰とは言いませんが。

本書にはモンスター部下に関する短いエピソードが豊富に出てきます。また、石川さんは社労士として人事関係のコンサルも行っていらっしゃるようですので、そのような場合どのように対処すればよいのか(法的にも)なんてことも豊富に書かれているので、お悩みの方は(多分たくさんいるんだろうな)一読すると参考になるケースもあるのではないでしょうか。

実は、私も思い当たる節があります。こちらも対処に困り、結局は私の方が辞めることになりました。ま。原因は全く別でしたが。でも、正直ほっとしたことを覚えています。

 

 

福田ますみモンスターマザー ー長野・丸子実業「いじめ自殺事件」教師たちの闘い』新潮社

こちらはモンスターマザーに関するノンフィクションです。

正直申し上げて、途中で読むのが嫌になるような本でした。お読みになる際は皆さまもお気を付けください。

 

昨今、学校関係者の不祥事が明らかになることが多くなりました。本書に掲載されている最初の頃の報道を見ると、マスコミもそのような思い込みで報道しているのであろうことが良く分かります。実際の事件が起こったのは2005年暮れだったようですので、今ほど電凹の勢いもなかったのかもしれません。今だったら……。

本件の場合、教師たち(生徒たちも)が一致団結してことに当たったため(素晴らしすぎる奇跡!)、モンスターマザーの問題が明らかになったのですが、もしそうでなかったら、この教師陣(加害者とされた生徒たちも)は母親に加え、「加勢する人権派弁護士、県議、盲信するマスコミ」にズタズタにされていたことでしょう。

この事件で自殺した子供の母親には境界性人格障害の疑いがあったようです。このような人物とは関わらない、近づかないのが一番、なのかもしれませんが、関わっちゃう場合もありますからね。家族、なんて場合には避けようがないもんね。最近は家族へのサポートなどもあるようです。抱え込まずに専門家へご相談を。

 

境界性人格障害については以前本書評でもご紹介した、ジェロルド・J・クライスマン、マル・ストラウス著『境界性人格障害のすべてなどをご参照ください。

 

 202110

ベルナルド・スタマテアス 久世修平訳『心に毒を持つ人たち あなたを傷つける「困った人」から身を守る方法SB Creative

私たちの周りには、実に迷惑な隣人がいるものです。「他人を自分の思い通りに動かそうとする「操縦人間」」、「壊れた倫理観の持ち主」、「高圧的な上司」、「妬み深い友人」、「噂好きな隣人」などなど。思い当たりますねえ。本書ではこのような迷惑な隣人たちに対して、どのように対処すればよいか、どのようにすれば私たちは自由になれるかを紹介した本です。

ところで、本書の著者スタマテアスさんはアルゼンチンの心理セラピストなのだそうです。が、本書の内容はそのままピッタリ日本にも当てはまります。いやあ、人間の心理的性向なんて、世界中同じようなものなんですね。

私もアラ還となりました。もう我慢することもないだろう、と思います。物の断捨離はよく話題になりますが、人間関係の断捨離もあっていいのかな、と思います。今さら心に毒を持つ人と無理して付き合う必要はありませんもんね。

 

 

片田 珠美他人を攻撃せずにはいられない人PHP新書

「攻撃欲の強い人が欲しているのは、破壊である。他の誰かがうまくいっているのが許せない。それゆえ、他人の幸福や成功に耐えられず、強い怒りや敵意に突き動かされて、とにかく壊そうとする」んだそうです。自分の利害に直結するので攻撃的になるのは分かります。直接的なライバルとか。ところが、この手の人は、他人がうまくやっているのが気に食わなかったりします。そのような場合、攻撃される本人にはとんと心当たりがなかったりします。気が付いた時には攻撃された側が心身ともにボロボロになっていたりします。

親子の関係などですと、このような関係性は決して稀ではありません。私だって、あなただって……。なぜ親が自分の子どもに異論を許さず思うとおりにさせたがるのか、というと、自分がそうだったから、という場合が多いのではないでしょうか。自分はこんな風にされて嫌だった、だから自分は絶対に同じことはしない、なんて人は少ないのでしょうか。体育会系の上下関係なんてのもこの範疇なのでしょう。昔から先輩後輩の関係はこうだった、なんてね。

いやあ、私はそういうのは嫌いですねえ。だから自分と子どもとの関係ではそんなことはしてこなかった、と思うのですが、子どもたちはどう思っているのでしょうか。怖くて聞けないわな。

 

 

梅谷 薫ゆがんだ正義感で他人を支配しようとする人【電子書籍】』講談社+α新書

著者の梅谷さんは、もともとは内科・消化器内科の専門医だそうです。でも、産業医としてメンタル不調の診療にも従事、ストレスから胃腸に不調を訴える人が多かったからでしょうか、現在は日本心身医学会会員、日本精神神経学会会員でもあるそうです。

本書で取り上げられているのは「危険な隣人」です。この人たちは、「こちらの話を聞かない」、「他人に対してあからさまな「敵意」や「憎しみ」を持っている」、「「怒り」や「ねたみ」をコントロールできない」といった特性を持っているそうです。理性的に物事を考えているわけではなさそうですから、キレたら何をするかわからないのです。

そこまでいかなくても、同じような傾向を持つ人は多いんじゃないですかね。私ももうアラ還ですからね、そんな人とはなるべく付き合わないようにいたしましょう。

 

 

鈴木 信行同窓会に行けない症候群』日経BP

「今、日本には、2種類の人間がいる。同窓会に行ける人と、行けない人だ」

私も、同窓会にはあまり顔を出しませんねえ。

本書によれば、同窓会に行ける人というのは、会社で出世した、起業して成功した、「好き」を仕事にできた、「仕事以外の何か」を見つけた人、なんだそうです。私なんか何にも当てはまりませんねえ。だから同窓会に行かないのか。

で、本書にはそんな人たちのために、同窓会に行けるようになる新しい職業が紹介されています。ホワイトハッカー、人口肉クリエイター、ドローン制御義士、データサイエンティストなど……。ムリだ。

で、同窓会に行かないとどうなるのか。社会から孤立化し、クレーマー老人になってしまう……。

でも、本書の最後の方には、「行きたくない同窓会なんて行く必要ありません」って書いてあります。そうだそうだ。で、「その代わり、同窓会に行かないなら、未来のために自分が今、一番やりたいこと、一番楽しいことを1つやってください」そうですよね。そうしよっと。

 

 

20219

保坂正康人を見る目』新潮新書

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しょっぱなに取り上げられているのは東條英機元首相。保坂さんの著書を読まれたことがある方であれば、高く評価しているなんてことはあり得ない、と思われるのではないでしょうか。ご明察。

「昭和十年代の陸軍の失態は人事異動にあったというのが私の考えだが、言葉を換えればお追従を競い合う軍服集団だったと言っていい」そうです。最近も、軍服は着ていない集団ですが、忖度が流行っている集団がありますねえ。東條はお追従を言う者の言うことを信じて戦争を起こした、と言われています。お追従を言う連中は東篠の喜びそうなことしか言わないわけですから、客観的な情報、論理的な情報分析、なんてのはどっかに置き忘れちゃってるわけです。

私は知りませんでしたが、本書にはこんなエピソードが引かれています。「この戦争の一カ月前に日本のレコード各社は、陸軍のしかるべき機関からの圧力もあったのだろうが、とんでもない歌をつくって国民に聞かせている。戦争になって「敵」機から、爆弾を落とされる事態になったら、逃げも隠れもせず、そう、つまり防空壕などにはいらずに〈爆弾位は手で受けよ〉という歌だ。上原敏、田畑義夫など当時の歌手たちは〈怖がることはない。爆弾位は手で受けよ〉と歌わされている。この歌手たちの何人かは戦死している」手で受けよ、って、お前がやってみろって。

灘高元教頭の倉石寛さんという方が、『現場からの医療改革推進協議会シンポジウム』に出席、優秀な人材がバカになる例として「昔、陸軍参謀本部、いま東大理3とお話になったそうです。ちなみに、灘校って、学年の半分くらいが医学部に進学するんだそうです。はあ。

現在の政界などを見ていると………。あとは皆様でお考え下さい。

 

 

半藤 一利なぜ必敗の戦争を始めたのか 陸軍エリート将校反省会議』文春新書

本書は、戦後になり、戦前から存在する偕行社という陸軍将校の集会所(ちなみに海軍の同様の施設が水交社)に、戦時中陸軍中枢にあった中堅参謀たちが集まり、なんであんな戦争をやっちゃったの、ということを語り合った座談会の記録を基に半藤さんが整理したものです。元々の原稿は偕行社の機関誌『偕行』に197612月号から19783月号に掲載されたものだそうです。

保坂さんの『人を見る目』で、「優秀な人材がバカになる例として「昔、陸軍参謀本部、いま東大理3」」という発言を取り上げましたが、その一方の当事者、陸軍参謀の方々の発言です。当時「陸軍中央部(陸軍省と参謀本部)」に配置されていたわけですから、いずれもバリバリのエリートです。

ま、作戦がどうの、といった分析は専門の方に任せるとして、本書で印象的だったのは、「陸大の教育が悪かった」ということです。陸大出身のエリートたちが言っているんだから、間違いない。「現代でも、そうだと思うんですけれども、戦が嫌なら、戦を研究しなければならない。伝染病が嫌なら、伝染病の予防を研究しなければいけない」「(イギリスでは)一番優秀な人を情報参謀にする、二番目は後方参謀。作戦参謀などは、どうでも、それが分かれば出来るんだ」「(日本では)大体、陸軍大学校は、とにかく矢を射て、それが当たればいいというような教育をしておったから、こういう結果になってるわけです」

半藤さんの解説に、開戦前、陸軍主計部の経済研究班で日本経済の分析をしたところ、石油の禁輸などがあった場合、2年程度は備蓄でなんとかなるかもしれないが、それ以降は日本の経済力では耐えられない、という分析を提出したそうです。で、これを聞いた参謀総長は「よく、わかった。調査及び推論は完ぺきなものと私は思う。しかし、結論は国策に相反する。ゆえに、この報告書はただちに焼却せよ」って言ったんですって。

なるほどねえ。でも、聞きたくない情報は無視、なんて気質は、今の政治・官僚制度にも大企業にも思いっきり残っています。そういえば、今度のオリンピックも……。ま、今の日本の支配システムって、ほとんど戦前・戦中の仕組みを受け継いでいますからねえ。日本国の病巣ってやつは、相当深く私たちを蝕んでいるようですね。

 

 

伊東 潤真実の航跡』集英社

本書は、太平洋戦争中に実際にあった捕虜殺害事件を基にしたフィクションです。が、このような事件は実際に起き、そしてそのような事件にかかわった関係者たちが戦後のBC級戦犯犯罪で断罪・処刑されたことは事実です。

何が正義か?は皆さまでお考え下さい。

 

 

ダニ・オルバフ 長尾莉紗/杉田真訳『暴走する日本軍兵士 帝国を崩壊させた明治維新の「バグ」』朝日新聞出版

オルバフさんはイスラエル人。ハーバードで歴史学を学び、専門は軍事史、日本及び中国の近現代史だそうです。ということで、従来の日本人歴史家とはやや異なった切り口で大日本帝国の軍人たちの行動パターンを分析していきます。

「私が見た日本兵の多くは、うつろな目をした去勢牛のような連中だった」「彼らは持ち場から離れずに命を落とした。そうしろと命令されたからだった。自分の頭で考えることができないのだ」

軍隊において命令は絶対です。命令に対して、その作戦は良くないとか、こうした方が良い、なんて現場でいちいち議論していたら戦争の遂行に支障が出ます。ですから、どこの国の軍隊でも抗命罪や敵前逃亡は厳しく罰せられます。

ではありますが、オルバフさんは「それにもかかわらず、大日本帝国陸軍は、近代史上屈指の反抗的な軍隊であったと言っていいだろう。日本の将校は、再三にわたりクーデター、暴動、政治家の暗殺を起こした」と指摘しています。

言われてみれば確かにそうですねえ。一方は、命令を墨守することに意味があると思っている軍人たち、他方は命令など何するものぞ、我に理ありと壮士気取りで叫ぶ軍人たち。そのどちらもが日本軍の本当の姿なのだったのです。何ともはやアンビヴァレントですねえ。そりゃどっかで論理の破綻を招きますよね。

日本の軍隊、あるいは明治から昭和にかけての大日本帝国にはこのようなバグ(とオルバフさんは表現しています)があったようです。具体的な指摘は本書をお読みいただきたいと思いますが、日本人はどうもアンビヴァレントで、本音と建前が思いっきり違う体制が好きなんでしょうか、それとも国民性がそのような体制を生み出してしまうのでしょうか。文句を言っている割には今でも大して代わり映えしませんね。

 

 

20212

新藤 宗幸官僚制と公文書 改竄、捏造、忖度の背景』ちくま新書

森友学園の問題をきっかけとして、国有地売却をめぐる決済の経緯が記載された公文書が改竄されていることが明るみに出ました。ではありますが、その改竄に関わった官僚には結局のところおとがめなし。日本は政治家がいい加減でも役人がしっかりしているから、なんて与太話がかなり信じられていましたが、与太話はやはり与太話であったようです。ノンキャリアの職員の方が自死に追い込まれたようですが、キャリアの方々は何を言われてもカエルの面になんとかで、結局皆さんご栄転されたようです。ま、上が上だから……。

とは言え、日本の官僚制度の根底に、民は由らしむべし,知らしむべからず、といった意識があるのは間違いのないところでしょう。本書にその経緯が詳しく書かれている通り、日本の官僚制はその基礎を明治時代の「天皇の官僚」であった時代のものをほとんどそのまま踏襲しています。戦後民主化後、何度かその改革が意図されたようですが、民主的な改革はほぼ進まなかったようです。お役人は既得権を自ら手放したりしませんからね。

菅首相も公文書の重要性は嫌というほど理解されていたようです。あ、新しい(『政治家の覚悟』)には書いてないのか。

本書は公文書管理に関して、法制を含め詳細に検討されている良書だと思います。が、読んで面白いかどうかの判断は皆さまにお任せします。だって、読了するのにに結構苦労しましたよ。

 

 

前川 喜平面従腹背』毎日新聞出版

Maekawa

上記 『官僚制と公文書』で語られていた忖度だ何だを組織の中にいた前川さんが書いちゃったのが本書。

本書の題名『面従腹背』については、前川さんと同じく元官僚の大学教授が、「前川は官僚のクズと口を極めて批判していました。この方は私なんぞが及びもつかない立派な人格者で、大きな権力に対しても正々堂々とものの言える素晴らしい力量の持ち主だったのだろうと推察いたします。私のような小物は及びもつきませんね。でも、私には前川さんの言うことの方がしっくりきます。

前川さんが本書で主張しているのは、「私が後輩である現役公務員に伝えたいのは、組織の論理に従って職務を遂行するときにおいても、自分が尊厳のある個人であること、思想、良心の自由を持つ個人であることを決して忘れてはならないということだ」「自由な精神を持つ独立した人間であってほしい、ということだ」にあるように思います。役人生活の中の仕事は、「やりたかった仕事ができた」「やりたかった仕事ができなかった」そして「やりたくなかった仕事をさせられた」の三種類だったそうです。どの政策がどれに該当するか、は本書をご参照ください。民間企業だって、ごく一部のハイパフォーマーがやっているキラキラした仕事ばかり任されるわけではありません。地味で目立たない仕事だってあるんです。そして、誰もやりたがらない仕事も。あったなあ……。

本書はある主義主張を主張するために書いた、というよりは「面従腹背の日々を思い出すままに書き連ねた」エッセイという趣が強いように思います。それでも、往時の出来事が具体的個人名と共に書かれています。いやあ、読み応えがありました。ぜひご一読を。

 

 

井上 寿一機密費外交 なぜ日中戦争は避けられなかったのか』講談社現代新書

現在でも内閣官房報償費(官房機密費)という使途の公表や領収書の提出が義務付けられていない予算があります。現在でもブラックボックスの中ですので、軍部の強かった戦前はさぞかし、と思ったら、意外にも記録がつけられていたのだそうです。ちゃんと管理していたみたいです。それが明らかになったのは、敗戦時に焼却処理するはずの外交機密費に関する文書が残っていたのだそうです。

特に満州事変の時期の記録が残されていたことから、この時期における日本はどのような政策をとったのか、また、結果として日中戦争が起きたわけですが、そのような事態を避けることはできたのか、などを井上さんは政治学者として検証しています。

で、外交機密費とは何に使われていたのか。長い期間の記録が残っているわけではなく、ごく一時期のもの、ではありますが、その時の記録によれば「機密費の半ば近くが接待費」であったそうです。最近も熱心にご接待外交を繰り返している政権がありますが、戦前の例に鑑みると、あまり効果はなかった、んじゃないですかね。

それはともかく、本書を読んで感じるのは、日本という国(あるいは国民)には戦術はあっても戦略がないのが致命的、という気がします。大きな戦略が定まっていないので、目の前の問題を解決するためにそれぞれの担当部局(各軍、省庁など)がそれぞれの判断に基づいて最善策を策定するのですが、それらの基本としてあるべき大きな戦略を欠き、しかも国内での内輪揉めも絡んでチグハグ。その結果が泥沼の日中戦争とそこから引き起こされた太平洋戦争。

類書と同じく、本書でも『失敗の本質と同様の結論が導かれるようです。

 

 

 

石井 暁自衛隊の闇組織 秘密情報部隊「別班」の正体』講談社現代新書

石井さんによれば、「陸上自衛隊の中には、『ベッパン』とか『チョウベツ』とかいう、総理も防衛大臣も知らない秘密情報組織があり、勝手に海外に拠点を作って、情報活動をしているらしい」ということなのだそうです。シビリアン・コントロールなんて糞くらえ、というわけですね。

まあ、軍隊がインテリジェンス組織を持っていても不思議はありません。ではありますが、軍隊のみに情報を独占させるのは危険です。ですから大体の国では軍隊とは別に情報組織を持ち、情報収集や分析を手掛けています。

まあ、日本国としては、情報機関は持っていないことになっています。内閣情報調査室だとか公安警察だとかはありますが、大々的に日本の情報機関ですと名乗っているわけではありません。

ところで、この『別班』というのは、超機密の活動なのだそうです。ですから、防衛大臣も総理大臣も与り知らないのだそうです。ですから、『別班』のもたらす機密情報は政府にはもたらされないのだそうです。じゃ、何のためにやってるの、ってことになると思うのですが、そこらへんについては詳らかに書かれていません。あまりにも誰も知らない、ということが強調されると、本当に誰も知らない、誰も知らないような情報元がもたらす情報は全く利用されない、ってことは税金の無駄遣いだ、バカヤロウ、ってことになりそうですが、いかがでしょうか。「日本が保持する「戦力」の最大タブー」って裏帯に書いてありますが、それほどのもんだろうか、ってのが本書を読んでの印象でした。

 

 

20211

橘 玲もっと言ってはいけない』新潮新書

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もっと言ってはいけない (新潮新書) [ 橘 玲 ]
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以前『言ってはいけないをご紹介した橘さんの新刊です。

本書によれば

@ 日本人のおよそ3分の1は日本語が読めない」

「A 日本人の3分の1以上が小学校34年生の数的思考力しかない」

「B パソコンを使った基本的な仕事ができる日本人は1割以下しかない」

「C 65歳以下の日本の労働力人口のうち3人に1人がそもそもパソコンを使えない」

んだそうです。えーっ、と思われるかもしれませんが、エビデンス付き。ですが、これでも「日本はOECDに加盟する先進諸国のなかで、ほぼすべての分野で1位なのだ」そうです。日本人もなかなかやるじゃないか、とも言えますが、日本人の民度がどーのこーのという割には大したことないな、という感じもします。

ひろゆき叩かれるから今まで黙っておいた「世の中の真実」』三笠書房

ご存知「2ちゃんねる」創始者のひろゆきさんです。日本の大学に在学中米国アーカンソー中央大学に留学されています。大学在学中から様々なサイトをオープンしてきたようですが、その中でも私のようなド素人でも知っている有名なサイトが「2ちゃんねる」とか「ニコニコ動画」みたいです。最近では英語圏最大と言われる匿名掲示板「4chan」の管理人もされているようです。

その経歴からも、同調圧力が強いと言われる日本人には珍しく個性が強く、それをしっかりと発信する方のようですね。そんなひろゆきさんが橘さんに続いて言っていけない「世の中の真実」を忖度やタブー抜きに書き下ろしてみたようです。なぜか。それは「意見を言ってくる人たちが、基本的な知識を持っていまいか、間違った知識を元に論理展開している」からだそうです。で、議論が成立しない。ところが、正しい知識のはずが、言ってはいけない真実だったみたいです。コロナ禍において屋形船なんかより満員電車の方がよっぽど危ないんじゃないの、なんてね。

何が書かれているかは本書をお読みください。きっと、なるほどそうだよな、って思うことが事例やデータとともに書かれていますよ。

 

波頭 亮論理的思考のコアスキル』ちくま新書

本書は「論理的思考力を実際に身に着けるための一冊」なんだそうです。ホンマかいな、ということで読んでみました。

本書では論理的思考力を構成する「コアスキル」として、「適切な言語化」「分ける・繋げる」「定量的判断」が挙げられ、それらを習得するためのプログラムが示してあります。

著者の波頭さんは東大経済学部からマッキンゼー、何年か後に独立して経営コンサルタント、という経歴の方だそうです。ネットニュースでお見かけしたことがありますが、まあ、頭がよさそうな方でしたね。本書を読んだ私的な印象は、私とは縁遠い世界のお話だな、というものでした。残念。

 

 

佐宗 邦威直感と論理をつなぐ思考法 VISION DRIVEN』ダイヤモンド社

本書の冒頭のエピソードに「他人モード」と「自分モード」という言葉が出てきます。現代の世界で重要視されるのはコミュニケーション力。TwitterInstagramを見ては「いいね!」を押す。自分が投稿するときだってなるべく多くの「いいね!」をもらうためにあれこれ工夫。これが「他人モード」。で、何をしたいのか、なんて根本的な問いかけはなし。これじゃあ新しい発想なんて生まれてきませんよね。

ということで佐宗さんが立ち上げたのが「BIOTOPE」という会社。「個人・組織が持つ「妄想」を掘り起こし、それを「ビジョン」に落とし込み、その「具現化」までをお手伝いする」お仕事なんだそうです。なんだかよく分からないけど面白そうですね。

ま、ビジネスの世界で妄想なんて言うと、「独りよがりの直観だ」とか「論理に裏付けられた戦略」が無きゃだめだ、とかなんとかかんとか言われちゃいます。ではありますが、昨今論理的に考えてできそうなことは片っ端から試されちゃってます。今必要なのはコツコツ一歩ずつ、ではなく、ホップ・ステップ・ジャンプ。ではありますが、最終的な形にまとめ上げられないと、単なる「空想家」に終わってしまいます。「単なる「空想家」で終わる人と、現実世界にもインパクトを与える「ビジョナリーな人」との間には、どんな違いがあるのでしょうか?」ということで、本書は「直観と論理をつなぐ思考法」とはどのようなものかを探って行きます。

本書は「従来型のロジカル・シンキングや戦略思考にはない、じわっと根っこから効いてくる「人生の漢方薬」的な効用」があるそうですよ。一つ試してみませんか?

 

 

坪田 信貴才能の正体』幻冬舎

著者の坪田さんはあの「ビリギャル」の坪田さんです。本書ではその坪田さんが「才能とはいったい何なのか」「才能とは、どう見つけて、どう伸ばしていけばいいのか」を解き明かしていきます。「才能は、誰にでもある」んだそうですよ。

思い返すと、陸上選手の為末さんが、恵まれた体で生まれて来るのが大前提だ、みたいなことを言ってたたかれましたねえ。私には為末さんの言っていることも大いに分かります。坪田さんも「世の中には「できないこと」がたくさんある以上、大人が子どもに、または目上の人が部下に言いがちな「やればできる」という言葉は嘘になる」と言っています。できないことだってあるんだって。でも「やれば伸びる」ってのは本当なんですって。このちょっとした違いが後々に影響するみたいですよ。

本書にも描かれている通り、「人は「結果」に合わせて「物語」にする」ものです。「ビリギャル」だって、受験に失敗していたら、そもそも小説(まして映画)にはならなかったでしょうからねえ。ただ、結果がそうだからと言って、「勉強をスタートした時点より、明らかに成長して」いるのですから、坪田さんはこう言っています。「うまく行かなかった子なんて、一人もいません」なるほど。有名大学に受かることが人生の最終目的ではありませんからね。

坪田さん、何しろ人を褒めるのがうまい、っていうか、その気にさせるのが上手なみたいです。どんなふうに褒めればその気になってくれるのか、なんてのは、ぜひ坪田先生の書かれた本書に倣ってみてください。

 

 

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