20204

神山 典士知られざる北斎』幻冬舎

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知られざる北斎 [ 神山典士 ]
価格:1540円(税込、送料無料) (2020/2/24時点)

私も最近、墨田区にできた「すみだ北斎美術館に行ってきました。展示も面白かったですし、建物も奇抜で素敵でしたよ。2019年は北斎170回忌。北斎は、日本はもちろん、海外でも大人気のようです。

北斎は90年という当時としては(ま、今でも)大変な長寿を全うしました。自分で調合したスペシャル・ドリンクを愛飲していたんですって。私も飲みたい……。晩年まで筆をとり続け、美人画、風景画、風俗画、なんでもござれの巨匠だったようです。風景画のシリーズ(富嶽三十六景とか)は良く知られていますので、なるほど北斎風だな、なんて思うのですが、美人画などは大変上手ではありますが、これが北斎だ、なんて解説にでも書いていない限り素人には誰の作だか分からないのではないでしょうか。

本書に紹介されている事例で面白いな、と思ったのは西洋社会に見られる「募集=コレクショニズム」、つまり、世界中の美術品だ何だをかき集め、それを自分たちの価値観によって体系化することによって世界を所有する、そして世界の頂点に立っていることを宣言しているんだ、なんてくだりです。まあ、中国歴代王朝も同じようなことをしてましたよね。取りつかれたようにコレクションを続ける方がいらっしゃいますが、あれは単なる所有欲がなせる業ではなく、支配欲が変な風に肥大しちゃってる、ってことなんでしょう。なるほど、思い当たる節がありますねえ。

本書には図録がほとんど収録されていませんので、私ごときでは本文中に出てくる作品のイメージを思い浮かべられない作品が多くありました。が、さすが北斎、ググると一発でたくさんの画像が見つかりました。人気を裏付けているようですね。

本書の題名から、北斎の知られざる生涯を記した本なのかな、と思い読んでみました。実は、北斎本人より、北斎没後から現在まで、北斎をめぐる周辺にあって現在の北斎ブームを引き起こすキーパーソンたちを描いた本でした。芸術論から町おこしまで。大変面白く読了いたしました。

本書でも言及されている林忠正については、原田マハさんが『たゆたえども沈まずという忘れられない小説を残しています。こちらも是非ご一読を。

 

 

朝井 まかて』新潮文庫

北斎の後は北斎の娘、お栄のお話です。上記『知られざる北斎』には、晩年小布施に一人で行った北斎が江戸に残してきたお栄のことをたいそう心配し、周りの勧めもあって小布施に呼び寄せることになりました。さぞかし美しい娘さんが現れるかと心待ちにしていた小布施の人々の前に現れたのはえらいおばあさん。皆はがっかりびっくりした、なんてエピソードが紹介されていました。北斎が大事にしていたことが伝わってきますね。

そんなお栄さんですが、北斎も「美人画にかけては娘にかなわない」なんて言っていたとも伝えられています。ただし、お栄の作と確認されているものの点数は少ないようですが、西洋の技法である明暗を際立たせた「吉原格子先図(本書の表紙になっています)なんて、なかなかに素敵です。

面白かった。皆様もぜひご一読を。

本書も図録が少ないのですが、随所に絵の題名が出てきます。こちらもググると一発でたくさんの画像が見つかりました。北斎のみならず、お栄さんの人気も裏付けているようですね。

 

 

中野 明流出した日本美術の至宝 なぜ国宝級の作品が海を渡ったのか』筑摩書房

江戸末期から明治、そして敗戦期にかけ、多くの芸術作品が日本から海外へ流出しました。ただし、不正な手段が用いられたわけではなく、日本では二束三文で売られていたものをゴッソリと買って持ち出されたものが多いようです。明治初期に吹き荒れた廃仏毀釈の中、現存していれば国宝とかになりそうな仏像なども薪扱いだったそうです。また、現在では珍重されている浮世絵も、「このような卑俗なものは、当館にはふさわしくあるません」なんて扱いだったようです。

で、目端の利く日本人は、内外価格差を利用して大もうけをしたようです。上記知られざる北斎にも登場した林忠正もばっちり登場します。また、当時明治政府に高額の給料で雇われていたお雇い外人も大いにコレクションしていたようです。

日本人は謙遜が美徳とされる国民性のためか、自国文化を低め、舶来文化をほめそやす場合が多く見られるようです。自国文化もガイジンに認められるとなぜか突然もてはやしたりします。何とも浅薄、な感じもします。ところで私、いわゆるカーキチなんですが、所有車はヨーロッパの車ばかりです。まず、自分から変えなきゃダメかね。

 

 

ウォルター・アイザックソン 土方奈美訳『レオナルド・ダ・ヴィンチ 上 』文藝春秋

万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの伝記です。

アイザックソンさんは伝記作家としてベンジャミン・フランクリン、スティーブ・ジョブズ、アルバート・アインシュタインなどを手掛けてきたそうです。この面子に鑑みるに、アイザックソンさんは天才的人物がお好きなようですね。

ということで、本書はレオナルドの残した自筆ノートをひも解くことによりレオナルドという天才の内面に迫ろうとした伝記のようです。

天才として名高いレオナルドですが、「レオナルドが二一世紀初頭に学生時代を送っていたら、気分の浮き沈みや注意欠陥障害をおさえる薬を飲まされていたかもしれない」とも書かれています。現代は天才が生きにくい時代なのでしょうか。

レオナルドの特定の分野に注目するのではなく、自筆ノートに注目することでレオナルドのたくさんある側面を関連付けて解き明かそうとした本書、手練れの伝記作家であるアイザックソンさんの筆力もあり、分厚いハードカバーではありますが、楽しく読了することができました。

20203

橋本 卓典捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む』講談社現代新書

1999年に誕生した「金融検査マニュアル」は廃止されることになったそうです。私はその施行時点で金融機関に在籍していましたので、大いに苦労した覚えがあります。でも、廃止と聞くといささか残念な気がしないでもありません。だって、職員は大変な思いをして対応したんですよ。

で、これからの金融機関の目指すべき方向として森金融庁長官は「「企業の事業性や将来性を見極めて取引する『事業性評価』」、「顧客との共通価値の創造」、「顧客本位のビジネスモデルの確立」」なんてことを求めるようになったのだそうです。以前の検査マニュアルが作られた時期にける最大の課題は、バブルの崩壊に伴う不良債権の処理でした。それが、不良債権の処理だけを優先しすぎるあまり“失われた20年”を引き起こしてしまったので、次の課題はこれですよ、ということなのかもしれません。でも、それなら以前の政策をきっちり再評価してからにしていただきたいものだと思いますねえ。

著者のインタビューに答えて森金融庁長官は「『来るべき日に備え、真に顧客に選ばれる銀行に変わらなければ大変なことになりますよ』と言ってあげているつもりなんだけど、なかなか当事者には分かってもらえない」なんて答えていたそうです。なんだか口では自立しなさい、なんて言ってる割には過干渉な毒親みたいだと思うんですが、皆さんはいかが思われますか。

大体当時の金融検査官の対応なんて、『半沢直樹』の世界そのままでしたよ。そりゃ、分かってもらえませんよね。かつての検査マニュアルにも今般発表された新方針にしても、表面的には素晴らしいことが書かれているのですが、お役人が運用した瞬間、硬直的、昔の軍隊みたいにな運用になるんですよね。責任者出てこーい古いか。

あと、最強とも呼ばれた森金融庁長官で思い出すのは「地銀の優等生」とかってほめちぎっていたスルガ銀行の問題ですかねえ。「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルの事業性評価はどうだったんでしょうか、顧客との共通価値なんてあったんでしょうか、そして顧客本位だったんでしょうか。うーん、むかつく。橋本さんは金融庁がスルガ銀行のビジネスモデルの異常に気づけなかったのは問題の本質ではない、と言い切っていますが、他のところでは「スキャンダルは末端の原因以上に、予兆に気づけないトップの「目の節穴具合」こそ究明されなければならない」なんて書かれてます。目が節穴ってのはお前のことだぞ××××××。

ま、それはともかく、世界中で金融機関は逆風にさらされていることは確かです。昨今、法律の改正、さらにAIの進歩も加わり、従来の金融機関以外の業者が資金決済業務その他に進出するようになりました。銀行も対応しようとはしていますが、護送船団方式にどっぷりっと浸かってきた業界ですから、特に管理職のおっさんたちには対応が難しいようです。ではありますが、2020オリパラを控え、日本でも一気にキャッシュレス決済が普及する可能性もあります。勝負はここ数年。いやあ、見ものですな。

 

 

蔭山 克秀経済学の名著50冊が1冊でざっと学べるKADOKAWA

経済学の名著50冊を、ま、こんなもんです、なんて紹介してくれている本書、便利な世の中になったもんです。こんな本(というと失礼ですが)をチャチャッと読んだだけで経済学を勉強した気になっちゃうのもよろしくないでしょうが、だからってなにも知らずに知ったかぶりしているよりはましでしょう。ということで読んでみました。

いやあ、読んだことがあるのはほんの数冊でしたねえ。私、一応大学で経済学を学んだはずなんですが。

完全な年代順ではありませんが、作品が書かれた時代背景などもコンパクトにまとめられていますので、経済学がどのように発展してきたのか、そして 現在の課題がどんなものであるのか、なんてことも分かるのではないかと思います。

チャチャッと読んでチャチャッと学びましょう。

 

 

永野 健二経営者 日本経済生き残りをかけた闘い』新潮社

以前『バブルをご紹介した永野さんの第二作です。

本書で取り扱っているのは、戦中・戦後から現在に至るまでの、「経済史、経営史を考えるうえでこれだけは外せないと思う」経営者を取り上げています。多くは永野さんが日本経済新聞記者として直接取材をしている対象ですので、「私にしか書けないニュースが含まれている」と書いておられます。学術的論文ではありませんが、第一級の史料でもあると思われます。本書の方向性は、ビル・ゲイツだ、ジェフ・ベゾスだ、といった大成功した経営者の伝記というより、本書評でご紹介した『あの会社はこうして潰れたとか『巨大倒産 「絶対潰れない会社」を潰した社長たちの系譜に属する著作といってよいでしょう。ただし、取り上げられているのは最終的には失敗に終わった経営者ばかりではありません。

 

 

田中 靖浩『米軍式人を動かすマネジメント』日本経済新聞出版社

 

本書の帯には「PDCAよ、さらば、これからはOODAだ!」と書いてありますが、本書の解説で航空自衛隊幹部学校 航空研究センター運用研究室の伊藤大輔さんが書いている通り、「PDCAサイクルとOODAループは、対立する概念ではない。OODAは知的(心的)過程、すなわち知性(頭の中)の領域の活動である。PDCAは管理の方法、すなわち物理の領域での活動である。対立的に見えるのは、適応領域が違うからである」と書いてあります。うーん、これだけで書評が終わりそうな見事なまとめですね。

で、OODAってのは観察(Observation )、方向付け(Orientation)、決心(Decision)、実行(Action)の頭文字です。

そして、田中さんはPDCAについて、Plan(現状を踏まえない無理な計画)、Do(ウソつき、受け身体質を生むマイクロ・マネジメント)、Check(視野狭窄を生む短期的なチェック)、Action(十分に検証されないまま対前年対比の繰り返し)であるとしています。

私の書評でも繰り返している通り、私はPDCA理論を結構評価しています。そして、その中身はあったり前田のクラッカーだとも思っています。私の理解するPDCAとは、Plan(何かやる時にはちゃんと計画しなさい)、Do(で、きちんと実行)、そのあと、Check(うまく行っているかどうかちゃんと検証しなさい)、Act(何か問題があればちゃんと善後策を講じなさい)であると理解しています。田中さんの説明は、現状がこうなっちゃってるよ、ということなのかもしれませんが、そりゃそんな風にやっちゃったら、うまく行くわけがないわな。バカな応用をしているアホがいるからって、PDCAを否定してしまうのはちと行き過ぎのような気がしますがいかがでしょうか。

 

20202

百田 尚樹日本国紀』幻冬舎

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日本国紀 [ 百田尚樹 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2019/12/24時点)

ご存知百田さんが日本の歴史を概観した本を出すということで、出版前にすでにベストセラーになっていた本書。私も予約して読んでみました。ですから第一刷です。あちこちでコピペだとか言われて刷を重ねるごとに黙って改訂されているとか噂のある本書ですが、どんなもんなんでしょうか。

内容に関する詮索はともかくとして、百田さんのスタンスはなんだかんだ言って日本褒めまくり、日本人は昔から素晴らしかった、です(太平洋戦争(百田さんは大東亜戦争の呼称が正当だとしています)当時の軍人への評価は、さすがの百田さんも我慢ならなかったのか、かなり厳しいものがありますが)。ではありますが、全体的にみて、ガッチガチの右翼が書いたトンデモ歴史書、って感じでもありません。文章としてはとても読みやすく書かれていますので、日本史の復習の代わりに読んでみても良いのではないでしょうか。特に学校では習わない戦後史の解説は、読んでみる価値があるのではないでしょうか。百田さんがお嫌いな方も、百田のヤロー、ふざけたこと言ってんじゃねえだろうな、なんて考えながら読むのも一興かもしれません。その上で日本をどうしよう、なんて考え、そして議論するべきではないでしょうか。

 

 

横山 和輝日本史で学ぶ経済学』東洋経済--

横山さんは名古屋市立大学大学院経済研究科准教授です。本書の題名から経済学史専攻かなとも思いましたが、そうではないようです。本書の内容も、歴史上の施策、政策などを、現代の経済学のタームを使って、改めてなぜ成功したのか、なぜ失敗したのか、なんてことを考察したものです。

お金なんてものが発明されたのは何千年も前のことですが、それがどのようなメカニズムで機能しているか、なんてことに注目されたのは割合と最近のことです。

それだけではなく、歴史の教科書では経済的な事象は割合サラッと書かれていて、深く分析されることは稀です。でも、この施策は成功したとか失敗したとかの結末は結構詳細に描かれていますし、歴史に興味がある方は良くご存知のことでしょう。ですから、経済学的な分析と歴史の顛末を有機的に結合できれば面白いのではないの、なんて発想で書かれたのだと思います。現代の経済の発展に伴って生じた問題だ、と思っても、類似例は歴史の中に見つかるようです。類似例が歴史の中に見つかるってことは、それに伴ってどんな弊害があったか、なんてことも分かるわけです。なるほどね、なかなか面白かったですよ。

 

 

田中 靖浩会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』日本経済新聞社

「簿記を勉強している人のほとんどは、簿記がイタリア発祥であることを教わらず、経理担当者は減価償却が鉄道会社から始まったことを知りません。公認会計士や税理士でもディスクロージャーの始まりに「JFK」のお父さん」がかかわっていることを知る人は少ないです」なんだそうです。イタリアの話は知っていましたが、それ以降は知らなかったな、確かに。歴史的展開を知れば、なぜそのような仕組みとかルールが生まれたのかが分かりやすくなるでしょう。専門家でもない私たちは、細かい仕分けの方法より、その背後にある原理原則を覚えておきましょう、ということでしょう。

ところで、本書には面白いエピソードが紹介されていましたのでご紹介しましょう。中世後期のヨーロッパでは、「数字」(アラビア数字)、「言葉」(ラテン語に代わる口語表現)、「時計」、「絵画の遠近法」、「音楽の五線譜」などの新しい知識が発明・紹介されたそうです。これらにより、「空間と時間のさまざまな計算ができるように」なったのだそうです。あらま、同じ時期だったんだ。ま、同じ時期には魔女狩りも最盛期だったとも書いてありますが。

以前『帳簿の世界史なんて本をご紹介したことがあります。その書評に私は「お隣のGDP世界第2位の大国も統計数値が全く信用できないと言われていますが、日本もそう負けていないんじゃないですかね」なんて書きました。最近の報道に鑑みると、確かに負けてないみたいですね。温故知新、何のためにディスクロージャーなんてシステムが存在するのか反省とともに本書を読んでみてはいかがでしょうか。

 

 

ナショナル ジオグラフィック別冊ナショナル ジオグラフィック日本版 2015年12月号 [雑誌]【電子書籍】』日経BPムック

聖母マリアは、聖書にその名が登場することは非常に少なく、具体的な事績が知られているわけではありません。ではありますが、聖母マリアの名は史上最も名を知られた女性であり、世界から敬愛を集めていますなぜなのでしょうか。

キリスト教徒でなくても、処女懐胎のエピソードなどは良く知られていると思います。

本書はムックであり、学術的な著作ではありません。ですから、本書には「世界で目撃された聖母」なんてページもあります。それによると、日本でも何件か聖母マリアの目撃報告があるんだそうです。へー。

 

 

20201

マイケル・ピルズベリー 野中香方子訳『China 2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」日経BP

著者のピルズベリーさんは「ハドソン研究所中国戦略センター所長。国務省顧問」で、「リチャード・ニクソンからバラク・オバマにいたる政権で対中国の防衛政策を担当」してきた方だそうです。で、中国の専門家として「中国は、わたしたちと同じような考え方の指導者が導いている。脆弱な中国を助けてやれば、中国はやがて民主的で平和的な大国となる。しかし中国は大国となっても、地域支配、ましてや世界支配を目論んだりしない」と固く信じていたのだそうですが、最近になってそれが間違っていたことに気が付いたのだそうです。え、今まで気づかなかったの?

アメリカの中国専門家は「中国語のメッセージを、自分の考えに合うように解釈しがちだ」「私自身…中国が民主化するという話を…信じていた。いや、信じたかったのだ」とピルズベリーさんも反省して書いています。でも、これって『失敗の本質などでも散々書かれてきた間違いの典型的パターンではありませんか。アメリカはこれまで歴史的に大々的な失敗を犯したことはないので気が付かなかったのでしょうか。

とはいえ、ピルズベリーさんも間違いを認め、軌道修正をしています。ちゃんとPDCAサイクルが回っていますね。そもそも反省なぞしないどこぞの国の専門家よりは大分マシか。

それはともかく、本書の題名『2049』の意味は、「過去100年に及ぶ屈辱に復習すべく、中国共産党100周年にあたる2049年までに、世界の経済・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」という計画を象徴しているのだそうです。100年計画なんですって。で、このままだと中国は覇権国家になるであろう、というのがピルズベリーさんの見立てのようです。臥薪嘗胆。いや、とっても中国的な戦略ですね。

中国は覇権国一直線、ではあるのですが、それが確定的になるまでは、「いや、中国はまだまだ後進国ですから」なんてとぼけているのだそうです。何も謙遜しているのではなく、そんな野望があること悟らせないためなんですって。中国の統計ってのは相当いい加減だと思われています。が、どんな危機的な指標が出ても、なぜか大した事件は起きないんです。私の為替予測でも中国には様々な「致命的な」指標が出ており、危ないんじゃないの、なんて予測していますが、今のところ当たっていません。依然として中国国民をしっかりとグリップしている共産党政府の深謀遠慮に騙されているんでしょうか。

トランプ政権はそれまでの政権とは中国に対する政策の方向転換をしたように思えます。また、製造業における中国の優位(米国製の兵器にも中国製の部品を使わざるを得ない)に対抗する政策提言も国防総省から出されました。

最近も習近平主席は「党は法よりも大きい」なんて本音をポロリと漏らしたしたことがあるそうです。話せば分かる、なんて能天気に構えているととんでもないことになりかねません。日本人も相手を知る努力をしないといけませんね。

 

 

麻生川 静男本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』角川新書

上記『China 2049』において、「資治通鑑」という歴史書は毛沢東など政治家の座右の書であったにもかかわらず、軽んじてきた、とピルズベリーさんは書いています。「資治通鑑」は、「歴史を教訓とする国政の指南書」であり、「その書の核となるのは戦国時代の兵法だが、紀元前4000年まで遡る逸話や格言も収められている」のだそうです。作者として司馬光の名が有名ですが、「資治通鑑は司馬光をリーダーとする数十人の編纂チームが20年近くかけて書いた中国の歴史1500年の大ページェント」であり、その分量も330万文字、1万ページというとんでもない分量の大著だそうです。だもんで、ピルズベリーさんは英訳がない、と書いていますし、麻生川さんも日本現代語の全訳がない、と書いています。麻生川さんは、「足掛け数年かけて資治通鑑という名著を読み終えた」と書いています。数年……。ま、そんなもん私が読めるわけありませんので、解説本でちゃちゃっと済ましておくことにしましょう。

ところで、中国古典(「論語」とか「史記」、「三国志」なんか)は今でも人気があります(三国志なんてゲームにもなっています)。仁や徳を備えた為政者が治める世界、なんてのが強調される「論語」に対して、「資治通鑑」の世界は随分と異なります。ここについて麻生川さんは「現代の中国人は論語の時代と『類』が異なる」としています。『類』が違うというのは、「爬虫類」と「哺乳類」が異なるようなものを意味しているのだそうです。

いささが物騒な物言いですが、その意味するところは、「論語や三国志の時代の中国は漢民族の倫理が支配していた」のですが、その後異民族が流入、次第に力をつけていきました。その結果「中国の徳治や仁義という政治倫理が全く地に落ちてしまった。代わりに、詐術と武術が支配原理になった」のだそうです。そしてそのような行動原理は現在も続いている、ということなのです。身も蓋もない言い方ですが、頷けるものがあります。

本書は資治通鑑の解説本、というよりは麻生川さんが特徴的と思われるエピソード(取り上げられているのは残酷、贅沢、策略の三つ)を紹介する形になっています。これで充分なのかどうかは私には判断しかねますが、資治通鑑の入門編、あるいは『China 2049』の補完として読む分には大変興味深く読むことができました。

 

 

中路 啓太GHQ』文芸春秋

太平洋戦争に敗北した日本はGHQの進駐を受けます。占領側のGHQ(特にマッカーサーをはじめとする上層部)にはさまざまな思惑があったようですし、逆に日本側にも様々な思惑があったようです。占領に関わる国際法にハーグ陸戦条約というものがあり、その第43条において、「国の権力が事実上占領者の手に移った上は、占領者は絶対的な支障がない限り、占領地の現行法律を尊重して、なるべく公共の秩序及び生活を回復確保する為、施せる一切の手段を尽くさなければならない。」なんて条文もあるのですが、ジャイアンGHQはそんなもんは無視して大日本国憲法を改正しろと迫ってきます。GHQは憲法だけではなく大日本帝国を解体して民主主義国家『日本』を作るために、思いっきり日本のあれこれに手を突っ込んできましたからねえ。

ところで、本書の題名になっているGHQ。一般的には連合国最高司令官総司令部の略ですが、吉田茂は「違う。ゴー・ホーム・クイックリー(Go home quickly)だ。『さっさと帰れ』だよ」「総司令部が満足する憲法を早急に作っちまおうじゃないか。彼らはさっさとアメリカに帰ってもらおう。じっくりと時間をかけて良き国の体制を整えるのは、独立を回復してからだ」なんていうエピソードが描かれています。史実かどうか知りませんが。ですが、未だに日本はアメリカの植民地。帰ってくれなかったみたいですねえ。

本書はこのころのあれこれを基にして小説として再構成したものです。歴史小説、もしくはノン・フィクション小説、といったところでしょうか。読み物としても、とても面白かったですよ。

 

 

ジョン・ルイス・ギャディス 村井章子訳『大戦略論』早川書房

本書の題名『大戦略論』(英語では On Grand Strategy)はクラウゼヴィッツの『戦争論』(英語では On War)から採ったものらしいです。何しろ「はじめに」で本人が触れていますから。ま、その他にもOn 何とかって題名の文献はあるみたいですよ。

本はもちろんですが、論文の題名って結構大事なんです。一発でその論文の目指している方向性が分からないといけないからです。著者のギャディスさんはこの題名にすることで、本書はクラウゼヴィッツの系列に属した本なんだぞ、と啖呵を切っているわけです。ま、私のように説明してもらわなきゃ分からないぼんくらもいますので、ご丁寧に「はじめに」で強調したのでしょう。

本書では、大戦略、グランド・ストラテジーの意味を「無限になりうる願望と必ず有限の能力とを釣り合わせることを意味する」としています。なるほど。戦略がどうのこうのというより、人生訓みたいですね。ですから、本書の教える戦略は、何も国家とか軍隊だけが持つものでなく、私たち一人一人が持つべきであり、そして持っておくと役に立つもののようです。戦略ねえ。

本書は他の書評では「戦略論の新たな古典になる」なんて評されています。エピソードの多くは歴史的に有名な事例ばかりなのですが、そこから得られる大戦略に関する教訓が私には今ひとつ分かり難く思いました。大学の講義とセットで聞かなくては分かり難いのか、もしくは私がぼんくらなのかもしれませんが。

 

 

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