202011

原 真人『日本銀行「失敗の本質」』小学館新書

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

日本銀行「失敗の本質」 (小学館新書) [ 原 真人 ]
価格:924円(税込、送料無料) (2020/9/25時点)

本書で原さんは黒田日銀の迷走と無謀な戦争に突っ込み、国民に塗炭の苦しみを強いた先の大戦の日本軍のあり方を重ねています。「批判を許さない抑圧的な体質も、都合のいい事実やデータだけを用い、都合のいいことしか説明しない、させない、という大本営発表的な手法も、戦前や戦中に通じるもののように思える」「太平洋戦争の歴史と、アベノミクス・異次元緩和の経緯を並列して振り返ると、それぞれがたどった軌跡や組織としての行動パターンが驚くほど似通っている」としています。この体質は黒田日銀の特性というより安倍内閣の特質であるともいえると思います。前にご紹介した植草一秀さんの『国家はいつも嘘をつく』でも、「嘘と隠蔽と改竄と開き直りが安倍政治の基本作法である」と喝破されていました。それとも、日本人の特質なんでしょうか。

「(問)国債がこんなに激増して財政が破綻(はたん)する心配はないか。

(答)国債がたくさん増えても全部国民が消化する限り、少しも心配はないのです。国債は国家の借金、つまり国民全体の借金ですが、同時に国民がその貸し手でありますから、国が利子を支払ってもその金が国の外に出て行く訳ではなく国内で広く国民の懐に入っていくのです。(中略)従って相当多額の国債を発行しても、経済の基礎がゆらぐような心配は全然ないのであります」最近流行のMMT理論か何かの説明みたいですが、文体が古臭いですよね。実はこれ、「対米開戦前夜の194110月、大政翼賛会は全国の隣組に宣伝読本「戦費と国債」(42ページ)を150万部配った」中の一節なのだそうです。今と同じこと言ってるじゃん。大丈夫かいな。

本書には「日本軍と黒田日銀――重なる“迷走の奇跡”」というチャートが掲載されています。現在は太平洋戦争で言えば「沖縄戦」、その意味するところは「泥沼にはまり込んだ緩和の長期戦化」の段階だとされています。で、その先に待つのは「敗戦」。

「第2の敗戦」を避けるためにも、皆様も是非ご一読を。

 

 

デイヴィッド・ピリング 仲達志訳『幻想の経済成長』早川書房

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

幻想の経済成長 [ デイヴィッド・ピリング ]
価格:2310円(税込、送料無料) (2020/9/25時点)

著者のピリングさんは2002年から2008年までファイナンシャル・タイムズの東京支局長を務めた方なのだそうです。で、この時の経験が本書の執筆動機にも深く関わっているのだそうです。

2002年と言えば、日本はどっぷりと失われた20年の泥沼にはまっている頃のことです。日本は悲惨な状態にあるはずでした。が、ピリングさんの目に映ったのは「犯罪率は低く、公共サービスは高い効率性を誇り、国民は健康で長い平均寿命を享受」している日本でした。これが悲惨な状況か?って思ったんだそうです。この経験から、当時(現在)も経済状態を測る尺度として用いられているGDPが、経済、あるいは人間の営みの、実は極めて限られた側面しか表していないのではないか、という疑問を持ち、世界5大陸を取材、著わされたのが本書なのだそうです。

ピリングさんはGDPについて面白い譬えをしています。「GDPは定量化には便利なツールだが、品質評価にはまるで適さない。人間に譬えれば、テーブルマナーがなっていないのだ。何しろGDPにとっては、ディナーの席にナイフとフォークとスプーンを用意しようが、フォーク三本ですませようが、数の上では何の違いもありはしないのだから」ですって。確かにそうだわ。

そんな観点から見ると、日本は結構うまく行ってるじゃん、ってことなんでしょうか。

 

 

フィリップ・アシュケナージ、アンドレ・オルレアン、トマ・クトロ、アンリ・ステルディニアック 林昌宏訳西谷修解説『世界をダメにした経済学10の誤り』明石書店

2010年にフランスで出版された本書の元々の題名(フランス語の元々の題名は事情(どんな事情かは分かるだろ)により省略)は『茫然自失の経済学者たちのマニフェスト―――ヨーロッパの危機と債務 十の定説の誤りと、袋小路から抜け出すために話し合うべき二十二の措置』というものなのだそうです。

日本語の副題は『金融支配に立ち向かう22の処方箋』となっています。本書が出版された2010年と言えば、2008年のリーマンショックの影響が思い切り残っていた時代です。リーマンショックにより、金融支配の恐ろしさが白日の下にさらされた、はずなんですが、今現在でも金融資本は健在です。思いっきり。どうなってるんでしょう。そして、2010年の処方箋はいまだに有効なのでしょうか。

 

 

ヤニス・バルファキス 関美和訳『父が娘に語る 美しく、深く、壮大で、とんでもなくわかりやすい経済の話。』ダイヤモンド社

バルファキスさんは、アテネ生まれのギリシャ人ですが、「長年イギリス、オーストラリア、アメリカで経済学を教え、現在はアテネ大学で経済学教授を務めている」方だそうです。ですから、基本的な経歴は学者さん。ですが、「2015年、ギリシャの経済危機時に財務大臣を務め」た方です。経済学はもちろん詳しいのでしょうが、学者さんには珍しく実践(それもウルトラ厳しい外部環境の中で)が伴っています。その時、「EUから財政緊縮策を迫られるなか大幅な債務帳消しを主張」した方だそうです。で、短期間でクビになっちゃったとか。ところで、この時のギリシャの債務処理を巡ってはギリシャのみならずEU内のさまざまな政治的思惑が激突したようです。とにかく、いろいろあったみたいです。最近ドイツ銀行について、「ドイツ銀行、1.8万人削減 投資銀行部門を大幅縮小」(日経新聞)とか、芳しからざるニュースが取りざたされています。本書では触れられていませんが、その遠因はギリシャの債務処理、リーマンショックの債務処理、さらにはそれ以前からのビジネスにもあるとかないとか……。根が深そうですよ。

ところで、バルファキスさんって、(映画の『ハリー・ポッター』シリーズの)ヴォルデモートにそっくり……。関係ないけど。

 

 

202010

熊野 英生なぜ日本の会社は生産性が低いのか?』文春新書

デービット・アトキンソンさんが日本人の働き方の特徴として生産性の低さを指摘して久しいものがありますが、未だに改善されていないようです。熊野さんはその表れとして「ワンオペ」の増加を上げています。「本来、企業とは、大人数が協議することによって1人仕事よりも生産性を高めることを目的として作られたはずである。ここに大きな矛盾がある」、また、ワンオペには「組織における能力継承がうまくできないという、より深刻な問題もはらんでいる」と指摘しています。日本のモノづくりを支えてきた中小企業でも同様の状況でしょう。現状ではスキルもあり、未だ老齢化していない労働力があるので回っていますが、スキルの継承がなくては、いずれ破綻することは明らかです。

実際には組織、あるいはビジネスモデルを改革しなければいけないにもかかわらず、ひたすら個人の努力によって克服しようとする、いかにも日本的な構図が見え隠れします。熊野さんは「個人のオペレーションに過度に依存する図式は、太平洋戦争中の日本軍と二重写しになる」として、『失敗の本質―日本軍の組織論的研究からも引用しています。であるとすると、そうそう簡単に改善できないのも頷けるものがありますね。でも、それじゃダメじゃん。

政府も遅ればせながら「働き方改革」なんて言っていますが、本当は単なる個人の努力ではなく、経営全体の改革が求められているのです。で、そんなことを誰が実行できるのか、というとそれは企業の経営陣しかありません。効率の良い経営とはどんなものなのか、人も金も投入してやってみるしかないのです。でも、日本の経営者はそんなことはしません。だって、現在の企業の経営者って、バブル崩壊以後の逆風の中、ひたすら経費削減や設備投資削減でお金を浮かせることで企業の存続を図ってきたのです。つまり、やってきたのは経営じゃなくて管理。いまさら大胆に新事業に投資するなんてできないんです。ああ、日本の明日は暗い、のかな。

 

 

北野 唯我編著『トップ企業の人材育成力 ヒトは「育てる」のか「育つ」のか』さくら舎

この本は「人は“自然と育つ”ものだが、“狙って育てる”とそのスピードは加速する」というスタンスで書かれているそうです。

本書の中では様々な提案が行われています。第2章ではピープルアナリティックスというテクニックを使うことが提唱されています。が、提唱者を以てしても、ピープルアナリティックスは「あくまでもロジックであり、実際に導くことは簡単ではないということである」と認めざるを得ないようです。ご存知のように、AIは万能ではありませんし(AI vs.教科書が読めない子どもたち)、人事評価で重要な定性的評価、あるいは価値判断はなかなか難しいようです。なんたって、AIに教える側の人間だって定性的評価で万人が一致する評価なんてことは期待できませんからねえ。

北野さんはHRテクノロジーの会社で役員をしているそうですが、その経験から、「採用と人事が優れている会社は、事業も強い」と確信しているそうです。まあ、そうかもしれませんね。もっとも、業績がよく、事業がうまく行っている会社では人事に対する不満は少ないものですが、ひとたび業績が悪く、事業がうまく行かなくなると、人事や会社に対する不平不満があふれかえるものだ、ってのは私の拙い経験から導き出した結論ですが、皆さんはどう思われますか?

 

 

阿部 彩、鈴木 大介貧困を救えない国 日本PHP新書

「貧困とは単に低所得で貧しいことではなく、その生活に強い不安や苦痛を伴いつつ、そこから自力で抜け出すのも困難な状況」を意味するのだそうです。日本の相対的貧困率が高いとか、子供の貧困率が高いなどと言われていますが、その原因は「自己責任」であり、怠けているから勝手に貧乏になったんだ、なんて簡単に切り捨ててしまうことも多いようです。また、貧困家庭と言っても映像などで断片的に切り取られることにより、こんなもん持ってるんだから、貧乏とは言えないだろう、「いまの日本のどこに本当の貧困なんかあるのか」なんて言われてしまう場合もあるようです。ですから、第一章は『間違いだらけの「日本の貧困」』です。何が間違ってるか、は是非本書をお読みください。

本書には貧困の決定的解消策が書かれているわけではありません。が、貧困をそれぞれの視点からとらえてきた専門家の対談を通して、私たちもリアルな貧困についてイメージすることが可能になります。少子高齢化が進む日本において貧困の解消、格差の解消は喫緊の問題です。自分の周りのどこら辺にどんな問題があるのかを確かめる意味からも是非ご一読を。

 

 

植草 一秀国家はいつも嘘をつく --日本国民を欺く9のペテン』祥伝社新書

本書の冒頭で、植草さんは某首相の某事件に関する発言を引用しています。「私や妻が関係していたということになれば、それはもう、まさに私は、それはもう、間違いなく総理大臣も国会議員も辞めること言うことははっきりと申し上げておきたい」。で、その一年半後の自民党総裁選公開討論会では「私の妻や私の友人が関わってきたことでございますから、国民の皆様が、疑念を持つ、疑惑の気持ちを持たれるというのは当然のことなんだろうと、このように思っております」と言ったそうです。じゃ、責任取って辞めるのか、というと、そんなそぶりは全くありませんでした。『国家はいつも嘘をつく』のしょっぱなの例が首相発言ってのはいただけませんねえ。国のトップの発言が信じられないのですから、私たちとしては『国家はいつも嘘をつく』と思って備えておくしかないんですかね。でも、曲がりなりにもそのような政府とか国家を選んだのは私たちですからね。日本だって一応は民主主義国家なんですから。あ、それも嘘なのかな。

つい最近、小沢一郎さんが自民党の総裁選(安部さんの後任ですね)選びを皮肉って『批判は当たらない』をこれまで何百回も繰り返してきた嘘と言い訳の象徴的人物が自民党総裁の有力候補とのこと。ますますこの国の政治はおかしな方向に向かう」って言ってました。

あまり厚くはない本書ですが、通読するのに意外と時間がかかりました。だって、あまりにも頭にくる内容ばかりだったからです。ページを繰るたびに怒髪天。皆様も是非ご一読の上、頭に来てみてください。

 

20209月   

金子 勝平成経済 衰退の本質』岩波新書

後から振り返ってみると、平成という時代はバブルの崩壊から始まった「失われた30年」と重なる時代であった、と言えるかもしれません。本書でも指摘されている通り、この30年、様々なバブルがはじけてきました。1987年ブラックマンデー、1990年不動産バブルの崩壊、1997年東アジア通貨危機、2000年のITバブルの崩壊、2007年パリバショック、2008年リーマンショックなどなど。現状は中央銀行バブル(「出口のないネズミ講」って言ってます)。2度あることは3度ある、んでしょうか。

元号は平成から令和に変わりました。失われた40年になる可能性はあるのでしょうか。本書は著名なエコノミストでもある金子さんが「失われた30年」をひも解き、そこからの脱却の道筋を指し示すべく書かれたものです。

「いまや政府は平然と公文書や政府統計を改竄するようになり、森友・加計問題では、改竄を指示し、国会で偽証を繰り返した高級官僚が不起訴となり、高額な退職金を受け取る一方で、改竄を強いられた現場の近畿財務局職員は自殺に追い込まれた。閣僚が公職選挙法や政治資金規正法に違反しても、一切罪を問われることはない」

「政治だけではない。名だたる大手企業でもデータ改ざんや会計粉飾が当たり前になり、それが露見しても経営者は責任をとらない」こんな日本に誰がした、責任者出て来ーい。

金子さんはこのような日本をもたらしたのは(戦争責任を曖昧にしていった過程から生まれた)「戦後の「無責任の体系」」という言葉を使っています。これからご紹介する予定のオルバフさんの『暴走する日本軍兵士』では「無責任の体系」といった言葉は使われていませんが、日本では戦後どころか戦前・戦中、いや、明治維新の時代からこの「無責任の体系」が続いていたことが描かれていました。根が深いみたいですねえ。

 

 

デービッド・アトキンソン国運の分岐点』講談社+α新書

現在の日本が直面している問題は、以下の二つに集約されるそうです。

「先進国の中で唯一、経済成長していない」

「デフレからいつまでたっても脱却できない」

ま、そんなとこでしょう。

一時はジャパン・アズ・ナンバーワンになりかかったのですが、その後はダダ下がり。もはや日本は二流国。

で、その原因はというと、アトキンソンさんは人口の減少に求めています。日本は他の先進国とは比べ物にならないスピードで老齢化、人口減少社会に向かっているとされています。全体の人口はもちろん、生産年齢人口はさらに速いスピードで減少しています。経済学という学問は、ちょうど世界中で人口が増加している時代に確立されました。ですから人口減少社会に対する処方箋は持ち合わせていない、のだそうです。そう言われりゃ、その通りだわな。

アトキンソンさんは日本の生産性の向上を求めています。日本国政府もあれこれの対策を立ててはいるのですが、いずれも結果に結びついていません。それは、根本的な原因に手を付けていないからだ、としています。では、根本的原因とは何か。アトキンソンさんはずばり「規模が小さすぎる中小企業が多すぎる」ことに原因を求めています。

中小企業であれば、従来通りの効率の悪いシステムでも「やろうと思えばやれてしまう」のです。私だって、確定申告はエクセルで作った資料を基にして国税庁のサイトで申告書を作ってますからね。個人事業だとそれで充分。で、e-Taxなんて使わない。だって、マイナンバーカードにしろカードリーダーにしろ使うのはどっちにしても年に一回だもんね。いらないわ。マイナンバーカードもそうだけど、向かってる方向がズレてるんですよ。アトキンソンさんはそんな中小企業の淘汰を求めています。ってことは、私も廃業

アトキンソンさんが具体的にどのような処方箋を書いているかは是非お読みいただきたいと思います。私は、なかなか面白く読了いたしましたよ。

 

 

丸山俊一+NHK「欲望の資本主義」制作班『欲望の資本主義3 偽りの個人主義を越えて』東洋経済新報社

本書は本書評でも取り上げた『欲望の資本主義 ルールが変わる時』、『欲望の資本主義2 闇の力が目覚める時に続く第3弾です。

今回採り上げられているのはGAFAを批判する、「移植の起業家にして大学教授、スコット・ギャロウェイ」、ビットコインに続く仮想通貨の開発者チャールズ・ホスキンソン、ノーベル経済学賞受賞のジャン・ティロール、『サピエンス全史のユヴァル・ノア・ハラリ、若き哲学者マルクス・ガブリエルの5人です。ま、私がよく知らない方も混じっていますが、いずれも世界的知性だと評価されている方ばかりみたいです。

著作を読まれた方はご存知かもしれませんが、ギャロウェイさんは「グーグルは人々の神への、アップルはセックスへの、フェイスブックは愛への、アマゾンは消費への欲求にそれぞれ訴えかけている」と分析しています。なかなか言い得てますよね。

 

 

細野 裕二会計と犯罪 郵便不正から日産ゴーン事件まで』岩波書店

以前『粉飾決算vs会計基準』をご紹介した細野さんの新作です。

細野さんは「キャッツ株価操縦事件に絡み、有価証券虚偽記載罪で逮捕・起訴。一貫して容疑を否認し、無罪を主張するが、2010年、最高裁で上告棄却。懲役2年、執行猶予4年の刑が確定」したという方です。で、公認会計士の登録は抹消されちゃいました。今は「評論・執筆活動のかたわら、自身が開発したソフト「フロードシューター」により上場会社の財務諸表危険度分析を行っている」そうです(Fraud Shooter、粉飾発見器ですって)。出版界では「お縄系セレブ」っているジャンルの方だそうです。へえ。

ところで、元公認会計士という細野さんですが、本書を読む限り、かなりの経営感覚をお持ちの方のようです。元公認会計士にして、実際の経営にも詳しい、なんて人材はかなり稀なのではないでしょうか。繁盛するわけだ。

本書280ページのうち、200ページほどは厚労省の村木厚子局長が逮捕され、結局無罪となった郵便不正事件が取り上げられています。残りのうち40ページほどは、現時点では公判すら開かれていない日産自動車のカルロス・ゴーン事件が取り上げられています。私としては、この部分が最も刺激的で面白く思いました。細野さんは報じられた疑惑について細かく分析しています。本事件の弁護には郵便不正事件で無罪を勝ち取り、細野さんも高く評価している弘中淳一郎弁護士が就任しています。もし本件において無罪判決が出れば、郵政不正事件において解体寸前とされた特捜検察は本当に解体されてしまうのではないでしょうか。さて、公判がどのような展開になるのか注目されるはずでしたが、ゴーン被告は国外逃亡。どうなるんでしょうか。

 

 

20208月   

籠池 泰典+赤池 竜也国策不捜査 「森友事件」の全貌』文型春秋

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

国策不捜査 「森友事件」の全貌 [ 籠池 泰典 ]
価格:1870円(税込、送料無料) (2020/6/24時点)

森友事件により一躍時の人となった籠池さん。経営する幼稚園で園児たちに教育勅語を暗記させていたぐらいですから、基本的には安倍内閣の面々と共通する価値観を持っていたんだと思います。が、あの事件をきっかけに思いっきり安倍さんのことは嫌いになっちゃったみたいです。いろいろあって、「今のボクは、刑事事件の公判で、起訴内容についての認否も終えているため、もはや隠すものは何もない」ということで刊行されたようです。

本書にも検察のシナリオありきで被告人の言うことなんぞには耳も貸さない検察官が登場します。同じ検察官に関連して、2020年検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案が国会に提出され、すったもんだの末法案が引っ込められるという事件(検事長が大手マスコミとずぶずぶの接待賭けマージャンやってたとかね。あ、黒川さんの名前は本書にも登場していますよ)がありました。退官した元検事総長経験者なども意見書を提出、法案提出断念後には、良かった、検察の独立が守られた、国民の声が届いた、みたいな談話を残していました。しかし、国民からの批判が殺到したのは、独りよがりの正義感を振りかざし、冤罪事件は数知れず、起訴されたら99%有罪、恐怖の人質司法の総元締めである検察が、保身のためにはどんな記録も改竄・隠蔽するは、平気で嘘もつくような政権との、司法と行政府(ついでに立法府も)の結託が起きたら、それはいくらなんでもやばいんじゃないの、って思ったからなんじゃないですかね。折しも、森友事件において近畿財務局の自死を遂げられた職員の方の遺書が公表され大いに話題となりました、批判されているのは森友事件だけではありませんよ。現状の検察は国民からの信頼が厚いとは到底思えないんですがいかがなもんでしょうか。

裏表紙には森友小学校の敷地(まだ何も建っていません)をバックに安倍昭恵さんがにっこり微笑みながら籠池夫妻とポーズをとっている写真が掲載されています。皮肉ってよりはもはや当てこすりでしょう。

分からないことだらけの森友事件、今後何か展開はあるのでしょうか。

 

 

郷原 信郎『「深層」カルロス・ゴーンとの対話』小学館

20191231日の報道されたゴーン氏の「私は今、レバノンにいる」というニュースで、このニュースを知る誰もがひっくり返るほど驚いたものと思います。

著者の郷原さんもその一人で、ゴーン逮捕という検察の強引な手法を疑義を持った元検事です。で、この問題に関わる問題を明らかにしよう、ということからゴーン氏にインタビューを行い、逃亡劇直前の1227日にも実際にゴーン氏にインタビューしたそうです。そりゃビックリするわな。

この事件のあらましなどは本書をお読みいただきたいと思います。特に法律的側面は著者が郷原さんですので、信用のおける解説がなされています。

私がこの事件を振り返ってまず思ったことは、ゴーンさんを解任しても日産の業績もルノーの業績もちっとも良くなっていないじゃないか、ということです。日産の業績は、現在も低迷していますルノーもご同様です。ゴーンが悪いんだ、コロナショック(これはもちろんゴーン解任後の出来事)が、といろいろと要因はある訳ですが、丸1年以上経っていますからねえ。その間の20199月にはゴーンさんの後を継いだ西川さんも退任(事実上の解任でしょうか)されています。この会社のガバナンスは大丈夫かいな。

最近では経営統合も無期延期という報道も出ています。というか、経営統合などで経営資源を無駄遣いしていると、両社ともつぶれちゃうよ、ってことだと思います。そして最近は高級幹部の大脱走。私は、近い将来、日産と下手をするとルノー双方の名前が消え去ってしまうあるいは名前は残っても事実上の資産の切り売りになる可能性は低くはないと思います。さあ、どうなるのでしょうか。

もう一つは、人質司法の一翼を担っているとしか思えないマスコミの報道姿勢です。逮捕の一報の後、ゴーンさんを極悪人に仕立てるべく、様々なバッシング報道が流れましたが、その出どころはどこだったんでしょうか。そういえば、黒川検事長が接待賭け麻雀で辞任するなんて事件もありましたねえ。本書でも報道内容のフェイクぶりが明かされています。マスコミも被告人の推定無罪なんてまるで無視。ご立派ですねえ。

前著で籠池さんは「カルロス・ゴーンさんが東京地検特捜部に逮捕されたときは心から同情した」と書かれていました。で、寒いころでしたので、拘置所内でのつらさを実感として知っていた籠池さんはゴーンさんにユニクロのフリースを差し入れたそうです。へー。

今回の一連の事件により今後ゴーンさんが経済界の第一線に返り咲く可能性はなくなったと思います。そこまでしても逃亡したのはなぜなのか。どっかの国みたいなおよそ公平とは言えない司法がまかり通る国で裁判を迎える状況の中、金さえ積めば逃げられるチャンスがあったとしたら、私だったらそのチャンスにかけると思います。あなたならどうします?

 

 

西山 太吉記者と国家』岩波書店

西山さんは元毎日新聞記者。沖縄返還を巡る密約を、機密文書を明らかにすることによって明らかにしました。が、この事件は西山さんと女性外務官を巡るスキャンダラスな報道が行われ、密約の内容がどうのこうのというよりエロ報道が先行、日本政府も徹頭徹尾否認したことにより、密約に関しては結局うやむやになってしまいました。でも、2000年には米国でそれまで機密扱いであった公文書が公開され、密約があったことが明らかになりました。たとえ公開されていなかったとはいえ条約ですから日米双方のしかるべき権限のある人間が署名して成立しています。例え日本側にはそんな文書はない、と言っても、署名入りの条約が米国側から公開されているのですから、条約そのものがなかったことにはできません。でも、日本政府は知らぬ存ぜぬ。良い根性してるな。

日本の現状を鑑みるに、日本が米国と軍事共同体を形作る必然性はあるものと、私も思います。が、現在の日米軍事同盟は国民には何も知らせず、「相次ぐ密約、条約・協定案の虚偽表示、そして、ここ数年連続して起こっている公文書の偽造、改竄」によってもたらされたと西山さんは指摘しています。日本は同盟国というよりは植民地みたいなものですが、そんな報道はご法度。そして、この一連の流れを主導してきたのは、「墓ならぬ岸信介、佐藤栄作、安倍の長州一族であった」としています。この三人は一族も一族、血のつながった文字通りの一族です。

ところで、本書には西山さんのかつての盟友であり親友でもあった渡辺恒雄さんに関するエピソードが出てきます。1978年に最高裁判決が出たいわゆる外務省機密漏洩事件では弁護側の証人にまでなってくれたそうです。このころの渡辺さんは結構硬骨なジャーナリストとして描かれています。うーん、最近よく耳にする渡辺恒雄さんとは本当に同一人物なんでしょうか。

本書は装丁が結構レトロな感じに作られていますので昔出版された本のように見えますが、2019年に刊行された本です。ですから、最近の安倍政権についても多くが語られています。なるほどねえ。皆様もぜひご一読を。

 

 

佐々木 健一雪ぐ人 えん罪弁護士今村核NHK出版

本書は「今村核弁護士の足跡を負ったNHKのドキュメンタリー番組(『ブレイブ 勇敢なるもの』「冤罪弁護士」201611月放送)」を基にして書籍したものです。この番組は「アメリカ国際フィルム・ビデオ祭2017ドキュメンタリー部門シルバースクリーン商、第54回ギャラクシー賞選奨、第33ATP賞奨励賞」など数々の賞を受賞した作品です。

日本の刑事裁判の有罪率は99.9%ともいわれています。1000件に1件の割合となります。地裁の中には「何年も無罪判決が出ていない地裁もある」そうです。その中にあって、今村弁護士は実に14件もの無罪を勝ち取ってきた実績があるのだそうです。普通の弁護士だと刑事事件で無罪なんて、「一生に一件取れるかどうか」なんだそうです。なるほど、『ブレイブ 勇敢なるもの』なんて番組に取り上げられるわけです。

今村さんは、えん罪弁護を続けることの先には「“破滅”しかない」と言っています。キャリアとしてはカッコよく見える冤罪弁護士ですが、実際にえん罪弁護を続けることはとんでもなく手間、暇、コストのかかることなのだそうです。思いだけではなかなか続けられないようです。

なんだかんだ言って、司法界にも変革の波は押し寄せているみたいです。今後の司法界の動きは注視する必要がありそうです。

 

 

20207月  

藤井 聡MMTによる令和「新」経済論 現代貨幣理論の真実』晶文社

MMT理論は、「自国通貨建ての国債=借金なら、政府は破綻しない」、だから「無制限な政府支出の拡大が可能だ」といった紹介がされています。日本はEU諸国、あるいは米国に対して非常に財政赤字比率が大きいことが知られています。ですから、このMMT理論に対して、日本はもっと借金しろ、なんていうトンデモ理論だ、といった思い違いが横行している、というのが藤井さんの主張のようです。

藤井さんは財政理論としてのMMT理論とは「国債発行に基づく政府支出がインフレ率に影響するという事実を踏まえつつ、「税収」ではなく「インフレ率」に基づいて財政支出を調整すべきだという新たな財政規律を主張する経済理論」であるとしています。じゃんじゃん紙幣を刷っちゃえ、なんて言っているわけではなく、「インフレ率」で縛りをかけているんですね。

藤井さんは失われた20年だか30年だかと言われている日本にとって、デフレ脱却こそが日本に求められているものであり、「「適正なインフレ」を目指すMMTは「救世主」とすら言いうるものだ」と評価しています。

藤井さんはMMT理論を最大限に評価しているわけですが、本書を読んで私もなるほどと思うところが多々ありました。細かい議論は是非本書をお読みください。一国の財政規律は、子どもにお小遣いの範囲でなんとかしなさい、なんて言っているのとは違うんですよ。「「緊縮病」ともいえる、借金と財政破綻に過剰におびえる不安神経症を患っている」皆さんにはぜひお読みいただきたいものだと思います。

 

 

李栄薫編著反日種族主義 日韓危機の根源』文藝春秋

2019年に韓国で出版され、大きな論争を巻き起こししベストセラーになった本書(韓国語版)の邦訳です。内容についてはある程度ご存知のことと思いますが、本書評においては内容には深入りせず、皆様の判断にお任せしたいと思います。

その代わりに、本書の「はじめに」に書かれている李さんの言葉を紹介しておきましょう。「私たちは学問を職業とする研究者として、そのような国益優先主義に同意しかねます。国益のためと言って誤った主張に固執したり、擁護したりするのは、学問の世界では許されないことです。そのような姿勢は、結局は国益さえも大きく損ねる結果を招くでしょう」「間違っていたと判明したら、私たちはためらわずにミスを認め、直して行くつもりです」これは韓国人である李さんの言葉ですが、全く同じ言葉が日本人の言葉であっても、全く不思議ではないのでしょうか。

ところで、現在新型コロナの影響から世界各国で自粛ムードが高まっています。そして、このような不都合な事態が起きると必ずと言ってよいほど付随するのが大変不寛容な排外主義の動きです。韓国、日本に留まらず、ヨーロッパ、北米、つまり平たく言うと世界中で同様の動きが広まっています。ただ、そのような動きはコロナ騒動によって引き起こされたのではなく、もともとそのような下地があったから起きたのだと思います。

金持ち喧嘩せず、ではありますが、喧嘩をしないのは余裕がある時だけ。ちょっとでも苦しくなると、些細なことで喧嘩しちゃったりするんです。人類はちっとも進歩してないなあ。なんだかなあ、って感じですねえ。

 

 

蟹瀬 誠一ドナルド・トランプ 世界最強のダークサイドスキル 常軌を逸したアメリカ大統領の「現代マキャベリズム思考法」』プレジデント社

著者の蟹瀬さんはAPAFPといった外国の通信会社記者を務めた後、「TIME」誌の特派員などを経て日本のTVでもニュースキャスターとして活躍されたので、ご存知の方も多いと思います。

蟹瀬さんはトランプ大統領のことを「罪悪感の欠片もなく、まるで息をするように嘘が付ける。そんな稀代のほらふき男」なんて描写していますので、ま、トランプ・シンパではないことは明らかでしょう。

それはともかく、世界中の政治状況、政治家の言動を見るにつけ、特にトランプ政権がひどいとも思えないのはどうしてなんでしょうか。だって、多かれ少なかれ(いや、多かれ多かれ、かいな)自分の失敗は誤魔化し、他人の失敗はあげつらう、ってのがあらゆる業態におけるグローバル・スタンダードじゃないんですか。政治家だけじゃなく、マスコミだってそんなもん。そして、そんな政治家やマスコミを許容している選挙民にだって責任はありそうです。最近マスコミで日本人の民度は高い、なんて持ち上げられていますが、日本人の民度なんて、昔からこんなもんなんじゃないですか。もっとも、日本だけじゃなくて他も似たようなもんみたいですけど。良くホモ・サピエンスは何万年も生き残ってるな。

ところで、本書を読んでいる現在、米国では大統領選挙の真っただ中のはずでしたが、コロナ騒ぎで選挙は思いっきり盛り上がっていません。さて、選挙の行方は蟹瀬さんが期待するような方向に進むのでしょうか。

 

 

適菜 収「国賊論」KKベストセラーズ

適菜さんは安倍政権に関して、北朝鮮の外務省副局長の評価を紹介しています。

「安部は本当にどれ一つ不足がない完ぺきな馬鹿であり、二つとない稀代の政治小人だ。平壌は安部という品物をこのように評価する」

蟹瀬さんもトランプ政権をけちょんけちょんに言っていましたが、もっとすごい。適菜さんも「阿部には記憶力もモラルもない。善悪の区別がつかない人間に悪意は発生しない」なんて言ってます。ま、同意しますが。それにしても、政治家なんてどこでもこんなもん、なんでしょうか。

適菜さんはここ30年ほどの日本の政治の堕落の原因を1994年の小選挙区比例代表並立制の導入があるとしています。私も、この時の一連の政治改革は失敗であったと思います。

ところで、最近では人口に膾炙した経営理論にPDCA理論というものがあります。何かやる時にはちゃんと計画を立て(Plan)実行(Do)しなさい、そして実行後にちゃんとうまく行っているかどうか検証(Check)し、問題があれば是正措置を採りなさい(Act)というものです。本書評でも採り上げた『失敗の本質』などを見てもお分かりのように、どうも日本人はPDには熱心なのですが、CAは思いっきり不得意のようです。つまり、自分あるいは自分たちのやった(やっている)ことを客観的に評価することができないようです。ですから、一度走り出すと方向が変えられない。

現在の小選挙区比例代表並立制は政治的にははっきりと失敗だったのではないでしょうか。であれば、そんなもん止めちまう、って議論があってもおかしくないと思うのですが、そんな話は聞こえてこないですよね。私は止めちまった方が良いんじゃないかと思いますけどどうでしょうか。

適菜さんは現在の政治状況を「騙すバカと騙されるバカの自転車操業」とも表現しています。騙すバカも騙すバカですが、すぐに騙されちゃうバカ(私たちのことです)も少しは考えて行動しないと悲惨な結末が待っている気がします。取り返しがつかなくなる前に何とかしましょうよ。

 

 

20206 

成蹊大学法学部編教養としての政治学入門』ちくま新書

本書は新書には珍しく、複数の執筆者によって書かれています。その意図としては、大学の新入生、政治学の書学者、あるいは政治に興味を持った社会人などを対象として書かれています。ですが、成蹊大学って現首相がご卒業された大学ですよねえ。何か意味があるのでしょうか。

政治とは何か、を学ぶのが政治学なのでしょうが、本書には政治の定義として面白いことが書かれていました。少々長くなりますが、引用します。「政治学者バーナード・クリックがいうには、政治は、相異なる利害が共存する事実を受け入れるところではじめて生起する。特定のイデオロギーに基づく一体性を徹底し、それへの異論を唱える「KY(支配的な空気を読まない)」な人たちをことごとく排除するところでは、政治の出番はない。人々は多様な利害を抱え、複雑な相互関係を結ぶ。共存のための解を見出すのは容易なことではない。従って、政治はひたすら手間がかかる。だが、それを引き受けることこそが、野蛮から離れる叡智である」

うーん、野蛮から離れる叡智が微塵も感じられない政治が続いているような気がしますが、いかがでしょうか。

本書は政治学の初学者などに向けて書かれている、とのことですが、初学者にも及ばない私にはいささか難解な部分もありました。ただ、実例として内外の最近の政治状況が多く取り上げられており、興味を持って読ませる工夫は随所に凝らされていると思いました。政治にご興味のある方は是非ご一読を。 

 

岡崎 大輔なぜ、世界のエリートはどんなに忙しくても美術館に行くのか?SBクリエイティブ

本書における美術鑑賞方法は、例えば西洋、東洋における美術史を基にある作品を理解する、といったものではありません。あるいは、絵画などを見たとき、気のきいたセリフの一つも言えなくてはビジネスマン失格だ、なんて言っているのでもありません。

本書では紹介している絵画作品の鑑賞方法とは、ニューヨーク近代美術館(MoMAの愛称の方が有名でしょうか)によって開発されたVTSVisual Thinking Strategies)(開発当初はVTCVisual Thinking Curiculum)と呼ばれていたとか)という考え方が基になっているのだそうです。で、この考え方がビジネスにも応用できますよ、ということのようです。

VTSでは作品名とか作者とか、絵の横に掲げられているいわゆる解説などを使わず、「作品を見て自分が何を感じ、何を考えるか」を重視するのだそうです。それにより、「観察力、批判的思考力、言語能力」が鍛えられるのだそうです。それどころか、学生やこどもたちの学力を伸ばす効果まであるんだそうです。へえ。

どうやらVTSにおいて重要なのは、自分にはどう見えるのか、から出発して、なぜそんな風に思うのかなんてことまで考え、他人に説明するならどんな風に言えばよいか考え、さらには他の見方もあるんじゃないか、なんてことまで考えてみる、ということのようです。頭でっかちに、「この作品はゴッホがアルルにいる時代に描かれたもので云々」なんて考えることを要求しているわけではないようです。ですから、正しいかどうか、なんてことも問題になりません。

また、絵画はこのように思考を展開していくには都合がよい対象のようです。本書で取り上げられている例(絵画)は具象画がほとんどですし、また多くには人物が描かれています。これが抽象画、それも抽象度が高ければ高いほど思考を展開していくのが困難になることが予想されます。また、同じ芸術作品といっても、音楽などは相当高度な訓練、そして知識が無ければ、分析が進まないでしょう。なるほど、そう考えると多くの美術館に飾られている絵画作品というのは、素人でもいろいろと思いつくことがありそうです。

今度美術館に行くときには、VTSを試してみることにしましょう。

 

渡辺 順子世界のビジネスエリートが身につける 教養としてのワイン 』ダイヤモンド社

本書は、「ワインの知識は、ビジネスを円滑に進めるうえでの重要なツールであり、高い文化水準を備えるエリートであるかどうかの「踏み絵」としての役割も果たしている」という立場に立った本です。ビジネスマンの接待時に、お客様に合わせたワインをスマートに選べないようではビジネスマン失格だ、ってわけです。

だもんで、渡辺さんが「ニューヨーククリスティーズで働いていたときには、ゴールドマンサックス社からの依頼で、社員にワインのレクチャーをおこなった」こともあるんだそうです。でもそのときに最初にやったのは、「まず「最上級のワイン」とはどのようなものかを覚えてもらいました」んだそうです。そうか、ニューヨークのゴールドマンサックスに働いている超高給取りでも良いワインなんて知らないんだ。ま、そんなもんだろって。

でも、昔読んだ本の中で、ある酒飲みが嘆いていました。ワインなんて、若い時(下手すると子どもの時)から良いワインを飲めるような環境、つまりお金持ちの家にでも生まれない限り分かるようにはならない、なんて書いてありました。ってことは、今さら無理、ってことでしょう。ま、酒なんて楽しく飲めば良いんじゃないですかね。で、うんちくはほどほどにね。

  

小川 仁志世界のエリートが学んでいる教養としての哲学PHP文庫

21世紀は、グローバリゼーションやインターネットによって常識そのものが変わりつつあるため、何をするにしてもゼロからルールをつくったり、枠組みを考えたりする必要が生じています。だから自分の頭で考える能力が求められるのです」

ま、そうでしょう。でもねー、何も考えていないんじゃないか、って思われる面々が日本では社会の上層部にいっぱいいるような気がします。どーなってんだ。

本書は歴史ある哲学のあれこれを一気に紹介しようとしており、哲学史上において主要な哲学者とその著作とか有名なフレーズの紹介にも多くのページを割いています。が、いささか欲張りすぎちゃったのかもしれません。ビジネスや実際の思考において、哲学のこんな技法がこんな風に役立ちます、なんてことも書いてはあるのですが、いささか食い足りない。哲学なんだからそこは自分で考えろ、ってことかもしれませんが。

それはともかく、本書ではコンパクトに哲学のツールを紹介しています。それらをマスターすることにより、哲学の教養を身に着けることができるのだそうです。私もちっとは頑張ってみっか。

 

 

20205

加地 伸之マスコミ偽善者列伝 建て前を言いつのる人々』飛鳥新社

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

マスコミ偽善者列伝 建て前を言いつのる人々 [ 加地伸行 ]
価格:1527円(税込、送料無料) (2020/3/24時点)

本書では浜矩子、前川喜平、山口二郎、鳩山由紀夫、福島瑞穂、なんて面々が取り上げられ、加地さんが批判のペンを向けています。批判されている面々はいずれも最近では反安倍勢力の方々ですから、ま、どんな傾向の本かはお判りいただけるのではないでしょうか。

本書で加地さんは「実態調査に依れば、大卒者は長生き」という新聞記事を見て、「なんと荒っぽい議論ではなかろうか。もしそう主張するならば、大学がなかった時代では、長生きのひとがほとんどおらず、みな短命でした、ということになるのか。なんとかもやすみやすみ言えと言いたい」なんて書いていますが、そりゃ、文句をつける方向が間違ってますよ。引用先が明示されていませんが、元ネタはスイス統計局の発表か、ブラウン大学の研究あたりかと思います。いずれも同世代の人間との比較における研究です。同じような社会に生きている大卒者とそれ以外を比べるから統計的に意味があるのであって(そんな比較に意味があるのかといった批判はあると思いますが)、現代に生きる日本人大卒者と平安時代の人々(そりゃま、大卒者はいないんでしょう)の寿命を比べても、無意味。大卒であるかないかという条件より、社会的衛生・栄養条件などの方がより影響が大きいであろうと容易に想像されますからね。

それにしても、そんなに統計の取り方とか比較対象群の選び方とかってのは、一般的にはなじみがないものなんですかねえ。加地さんも「もっと勉強してから、ものを言え」って言ってるじゃないですか。なんとかってのは誰のことだ?

元々は雑誌か何かに掲載されていた文章(編集長は花田紀凱さんだそうです)のようですので、文章自体はほぼ4ページにまとめられています。飛ばし読みにはピッタリ。

 

 

適菜 収、森 功、山田厚史、別冊宝島編集部ほか『「アベ友」トンデモ列伝 「魔の3回生」から「御用作家」まで安倍政権に巣食う愉快な仲間たち宝島社

題名からして上記加地さんのほんとは反対側の主張をしていらっしゃる方が書いているのだな、と想像ができます。何しろ副題が「「魔の3回生」から「御用作家」まで安倍政権に巣食う「愉快な仲間たち」」ですからね、想像ってより100%確実だろ。

抱腹絶倒のエピソード(笑ってる場合じゃないだろ)がてんこ盛り。こちらも大笑いしながら電車の中とかでサクッと読むのが正解でしょうか。

 

 

北岡 敏明日本アホバカ勘違い列伝WAC

他人の悪口を書き連ねた本の第3弾です。自分に関係がない限り人の悪口って面白い、はずなんですが、3冊も続けて読むとさすがにゲンナリしました。悪口って、ネガティブなエネルギーが強いんですかね。

北岡さんは、是枝裕和監督に関する文章において、「しかし、明治以降の日本の歴史に対する無知は見逃すわけにはゆかない。明治・大正・昭和のわが先祖たちの艱難辛苦の歴史を足蹴にするような思想に対して、筆者は黙っているわけにはいかない」なんて書いてます。でもねえ、明治維新だってそれまでの江戸幕府を倒してできたものでしょう。その意味では否定しているわけです。が、明治以降の政府だってそれまでの文化、言語、人民などを基礎として受け継いでいます。受け継いでいるんだから、江戸時代のすべてが素晴らしかったと思わなくてはならない、というのは今一つ雑な議論だと思うんですがいかがでしょうか。

どうも、最近日本の伝統は、なんて枕詞で語る方々の多くは、明治から昭和20年まであたりが日本の伝統だ、なんて勘違いしている方が多いような気がします。なんか違うと思うんだけどなあ。

北岡さんにかかると某歌舞伎役者は市川ザリガニ呼ばわりされています。ま、他は推して知るべし、でしょう。

 

 

山本 太郎、取材・構成 雨宮処凛『僕にもできた!国会議員』筑摩書房

山本さんは2013年の参議院選挙で当選、2019年の参議院選挙では比例区から出馬、最多得票数の99万票以上を獲得しながらも落選しました。

私の地元の選挙区でしたので、選挙期間中にお見かけしたこともありましたよ。2013年の当選当時は無所属でしたので、あれこれ教えてくれる人がおらず、「「時間がない、議事堂へ走れ!」ってみんなで逆方向へ走っていた」ような状態だったそうです。当初はキワモノ扱いだった山本さんですが、最近では山本さんの国会質問はなんだかんだ言っても結構注目されていますし、政治活動も報道もされるようになりました。具体的成果は本書をお読みいただきたいと思いますが、大したもんではありませんか。

国会内の事例ではありませんが、最近いかにも山本さんらしい報道がありました。「山本太郎氏、日本母親連盟を支持者の面前でぶった斬り!ぶれてませんねえ、ご立派。

ところで、本書の中で小沢一郎さんがインタビューで、「「選挙が強い」というのは、政治家としても最大のことなんです。選挙を心配してちゃ何にも喋れない。選挙のためのパフォーマンスをするしかなくなっちゃう」とい言っています。うーん、考えさせられますねえ。

皆様も是非ご一読を。日本の政治家に対する認識が少しは改まるかもしれませんよ。



2020年4月

神山 典士知られざる北斎』幻冬舎

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

知られざる北斎 [ 神山典士 ]
価格:1540円(税込、送料無料) (2020/2/24時点)

私も最近、墨田区にできた「すみだ北斎美術館に行ってきました。展示も面白かったですし、建物も奇抜で素敵でしたよ。2019年は北斎170回忌。北斎は、日本はもちろん、海外でも大人気のようです。

北斎は90年という当時としては(ま、今でも)大変な長寿を全うしました。自分で調合したスペシャル・ドリンクを愛飲していたんですって。私も飲みたい……。晩年まで筆をとり続け、美人画、風景画、風俗画、なんでもござれの巨匠だったようです。風景画のシリーズ(富嶽三十六景とか)は良く知られていますので、なるほど北斎風だな、なんて思うのですが、美人画などは大変上手ではありますが、これが北斎だ、なんて解説にでも書いていない限り素人には誰の作だか分からないのではないでしょうか。

本書に紹介されている事例で面白いな、と思ったのは西洋社会に見られる「募集=コレクショニズム」、つまり、世界中の美術品だ何だをかき集め、それを自分たちの価値観によって体系化することによって世界を所有する、そして世界の頂点に立っていることを宣言しているんだ、なんてくだりです。まあ、中国歴代王朝も同じようなことをしてましたよね。取りつかれたようにコレクションを続ける方がいらっしゃいますが、あれは単なる所有欲がなせる業ではなく、支配欲が変な風に肥大しちゃってる、ってことなんでしょう。なるほど、思い当たる節がありますねえ。

本書には図録がほとんど収録されていませんので、私ごときでは本文中に出てくる作品のイメージを思い浮かべられない作品が多くありました。が、さすが北斎、ググると一発でたくさんの画像が見つかりました。人気を裏付けているようですね。

本書の題名から、北斎の知られざる生涯を記した本なのかな、と思い読んでみました。実は、北斎本人より、北斎没後から現在まで、北斎をめぐる周辺にあって現在の北斎ブームを引き起こすキーパーソンたちを描いた本でした。芸術論から町おこしまで。大変面白く読了いたしました。

本書でも言及されている林忠正については、原田マハさんが『たゆたえども沈まずという忘れられない小説を残しています。こちらも是非ご一読を。

 

 

朝井 まかて』新潮文庫

北斎の後は北斎の娘、お栄のお話です。上記『知られざる北斎』には、晩年小布施に一人で行った北斎が江戸に残してきたお栄のことをたいそう心配し、周りの勧めもあって小布施に呼び寄せることになりました。さぞかし美しい娘さんが現れるかと心待ちにしていた小布施の人々の前に現れたのはえらいおばあさん。皆はがっかりびっくりした、なんてエピソードが紹介されていました。北斎が大事にしていたことが伝わってきますね。

そんなお栄さんですが、北斎も「美人画にかけては娘にかなわない」なんて言っていたとも伝えられています。ただし、お栄の作と確認されているものの点数は少ないようですが、西洋の技法である明暗を際立たせた「吉原格子先図(本書の表紙になっています)なんて、なかなかに素敵です。

面白かった。皆様もぜひご一読を。

本書も図録が少ないのですが、随所に絵の題名が出てきます。こちらもググると一発でたくさんの画像が見つかりました。北斎のみならず、お栄さんの人気も裏付けているようですね。

 

 

中野 明流出した日本美術の至宝 なぜ国宝級の作品が海を渡ったのか』筑摩書房

江戸末期から明治、そして敗戦期にかけ、多くの芸術作品が日本から海外へ流出しました。ただし、不正な手段が用いられたわけではなく、日本では二束三文で売られていたものをゴッソリと買って持ち出されたものが多いようです。明治初期に吹き荒れた廃仏毀釈の中、現存していれば国宝とかになりそうな仏像なども薪扱いだったそうです。また、現在では珍重されている浮世絵も、「このような卑俗なものは、当館にはふさわしくあるません」なんて扱いだったようです。

で、目端の利く日本人は、内外価格差を利用して大もうけをしたようです。上記知られざる北斎にも登場した林忠正もばっちり登場します。また、当時明治政府に高額の給料で雇われていたお雇い外人も大いにコレクションしていたようです。

日本人は謙遜が美徳とされる国民性のためか、自国文化を低め、舶来文化をほめそやす場合が多く見られるようです。自国文化もガイジンに認められるとなぜか突然もてはやしたりします。何とも浅薄、な感じもします。ところで私、いわゆるカーキチなんですが、所有車はヨーロッパの車ばかりです。まず、自分から変えなきゃダメかね。

 

 

ウォルター・アイザックソン 土方奈美訳『レオナルド・ダ・ヴィンチ 上 』文藝春秋

万能の天才、レオナルド・ダ・ヴィンチの伝記です。

アイザックソンさんは伝記作家としてベンジャミン・フランクリン、スティーブ・ジョブズ、アルバート・アインシュタインなどを手掛けてきたそうです。この面子に鑑みるに、アイザックソンさんは天才的人物がお好きなようですね。

ということで、本書はレオナルドの残した自筆ノートをひも解くことによりレオナルドという天才の内面に迫ろうとした伝記のようです。

天才として名高いレオナルドですが、「レオナルドが二一世紀初頭に学生時代を送っていたら、気分の浮き沈みや注意欠陥障害をおさえる薬を飲まされていたかもしれない」とも書かれています。現代は天才が生きにくい時代なのでしょうか。

レオナルドの特定の分野に注目するのではなく、自筆ノートに注目することでレオナルドのたくさんある側面を関連付けて解き明かそうとした本書、手練れの伝記作家であるアイザックソンさんの筆力もあり、分厚いハードカバーではありますが、楽しく読了することができました。

20203

橋本 卓典捨てられる銀行3 未来の金融 「計測できない世界」を読む』講談社現代新書

1999年に誕生した「金融検査マニュアル」は廃止されることになったそうです。私はその施行時点で金融機関に在籍していましたので、大いに苦労した覚えがあります。でも、廃止と聞くといささか残念な気がしないでもありません。だって、職員は大変な思いをして対応したんですよ。

で、これからの金融機関の目指すべき方向として森金融庁長官は「「企業の事業性や将来性を見極めて取引する『事業性評価』」、「顧客との共通価値の創造」、「顧客本位のビジネスモデルの確立」」なんてことを求めるようになったのだそうです。以前の検査マニュアルが作られた時期にける最大の課題は、バブルの崩壊に伴う不良債権の処理でした。それが、不良債権の処理だけを優先しすぎるあまり“失われた20年”を引き起こしてしまったので、次の課題はこれですよ、ということなのかもしれません。でも、それなら以前の政策をきっちり再評価してからにしていただきたいものだと思いますねえ。

著者のインタビューに答えて森金融庁長官は「『来るべき日に備え、真に顧客に選ばれる銀行に変わらなければ大変なことになりますよ』と言ってあげているつもりなんだけど、なかなか当事者には分かってもらえない」なんて答えていたそうです。なんだか口では自立しなさい、なんて言ってる割には過干渉な毒親みたいだと思うんですが、皆さんはいかが思われますか。

大体当時の金融検査官の対応なんて、『半沢直樹』の世界そのままでしたよ。そりゃ、分かってもらえませんよね。かつての検査マニュアルにも今般発表された新方針にしても、表面的には素晴らしいことが書かれているのですが、お役人が運用した瞬間、硬直的、昔の軍隊みたいにな運用になるんですよね。責任者出てこーい古いか。

あと、最強とも呼ばれた森金融庁長官で思い出すのは「地銀の優等生」とかってほめちぎっていたスルガ銀行の問題ですかねえ。「かぼちゃの馬車」のビジネスモデルの事業性評価はどうだったんでしょうか、顧客との共通価値なんてあったんでしょうか、そして顧客本位だったんでしょうか。うーん、むかつく。橋本さんは金融庁がスルガ銀行のビジネスモデルの異常に気づけなかったのは問題の本質ではない、と言い切っていますが、他のところでは「スキャンダルは末端の原因以上に、予兆に気づけないトップの「目の節穴具合」こそ究明されなければならない」なんて書かれてます。目が節穴ってのはお前のことだぞ××××××。

ま、それはともかく、世界中で金融機関は逆風にさらされていることは確かです。昨今、法律の改正、さらにAIの進歩も加わり、従来の金融機関以外の業者が資金決済業務その他に進出するようになりました。銀行も対応しようとはしていますが、護送船団方式にどっぷりっと浸かってきた業界ですから、特に管理職のおっさんたちには対応が難しいようです。ではありますが、2020オリパラを控え、日本でも一気にキャッシュレス決済が普及する可能性もあります。勝負はここ数年。いやあ、見ものですな。

 

 

蔭山 克秀経済学の名著50冊が1冊でざっと学べるKADOKAWA

経済学の名著50冊を、ま、こんなもんです、なんて紹介してくれている本書、便利な世の中になったもんです。こんな本(というと失礼ですが)をチャチャッと読んだだけで経済学を勉強した気になっちゃうのもよろしくないでしょうが、だからってなにも知らずに知ったかぶりしているよりはましでしょう。ということで読んでみました。

いやあ、読んだことがあるのはほんの数冊でしたねえ。私、一応大学で経済学を学んだはずなんですが。

完全な年代順ではありませんが、作品が書かれた時代背景などもコンパクトにまとめられていますので、経済学がどのように発展してきたのか、そして 現在の課題がどんなものであるのか、なんてことも分かるのではないかと思います。

チャチャッと読んでチャチャッと学びましょう。

 

 

永野 健二経営者 日本経済生き残りをかけた闘い』新潮社

以前『バブルをご紹介した永野さんの第二作です。

本書で取り扱っているのは、戦中・戦後から現在に至るまでの、「経済史、経営史を考えるうえでこれだけは外せないと思う」経営者を取り上げています。多くは永野さんが日本経済新聞記者として直接取材をしている対象ですので、「私にしか書けないニュースが含まれている」と書いておられます。学術的論文ではありませんが、第一級の史料でもあると思われます。本書の方向性は、ビル・ゲイツだ、ジェフ・ベゾスだ、といった大成功した経営者の伝記というより、本書評でご紹介した『あの会社はこうして潰れたとか『巨大倒産 「絶対潰れない会社」を潰した社長たちの系譜に属する著作といってよいでしょう。ただし、取り上げられているのは最終的には失敗に終わった経営者ばかりではありません。

 

 

田中 靖浩『米軍式人を動かすマネジメント』日本経済新聞出版社

 

本書の帯には「PDCAよ、さらば、これからはOODAだ!」と書いてありますが、本書の解説で航空自衛隊幹部学校 航空研究センター運用研究室の伊藤大輔さんが書いている通り、「PDCAサイクルとOODAループは、対立する概念ではない。OODAは知的(心的)過程、すなわち知性(頭の中)の領域の活動である。PDCAは管理の方法、すなわち物理の領域での活動である。対立的に見えるのは、適応領域が違うからである」と書いてあります。うーん、これだけで書評が終わりそうな見事なまとめですね。

で、OODAってのは観察(Observation )、方向付け(Orientation)、決心(Decision)、実行(Action)の頭文字です。

そして、田中さんはPDCAについて、Plan(現状を踏まえない無理な計画)、Do(ウソつき、受け身体質を生むマイクロ・マネジメント)、Check(視野狭窄を生む短期的なチェック)、Action(十分に検証されないまま対前年対比の繰り返し)であるとしています。

私の書評でも繰り返している通り、私はPDCA理論を結構評価しています。そして、その中身はあったり前田のクラッカーだとも思っています。私の理解するPDCAとは、Plan(何かやる時にはちゃんと計画しなさい)、Do(で、きちんと実行)、そのあと、Check(うまく行っているかどうかちゃんと検証しなさい)、Act(何か問題があればちゃんと善後策を講じなさい)であると理解しています。田中さんの説明は、現状がこうなっちゃってるよ、ということなのかもしれませんが、そりゃそんな風にやっちゃったら、うまく行くわけがないわな。バカな応用をしているアホがいるからって、PDCAを否定してしまうのはちと行き過ぎのような気がしますがいかがでしょうか。

 

20202

百田 尚樹日本国紀』幻冬舎

[商品価格に関しましては、リンクが作成された時点と現時点で情報が変更されている場合がございます。]

日本国紀 [ 百田尚樹 ]
価格:1980円(税込、送料無料) (2019/12/24時点)

ご存知百田さんが日本の歴史を概観した本を出すということで、出版前にすでにベストセラーになっていた本書。私も予約して読んでみました。ですから第一刷です。あちこちでコピペだとか言われて刷を重ねるごとに黙って改訂されているとか噂のある本書ですが、どんなもんなんでしょうか。

内容に関する詮索はともかくとして、百田さんのスタンスはなんだかんだ言って日本褒めまくり、日本人は昔から素晴らしかった、です(太平洋戦争(百田さんは大東亜戦争の呼称が正当だとしています)当時の軍人への評価は、さすがの百田さんも我慢ならなかったのか、かなり厳しいものがありますが)。ではありますが、全体的にみて、ガッチガチの右翼が書いたトンデモ歴史書、って感じでもありません。文章としてはとても読みやすく書かれていますので、日本史の復習の代わりに読んでみても良いのではないでしょうか。特に学校では習わない戦後史の解説は、読んでみる価値があるのではないでしょうか。百田さんがお嫌いな方も、百田のヤロー、ふざけたこと言ってんじゃねえだろうな、なんて考えながら読むのも一興かもしれません。その上で日本をどうしよう、なんて考え、そして議論するべきではないでしょうか。

 

 

横山 和輝日本史で学ぶ経済学』東洋経済--

横山さんは名古屋市立大学大学院経済研究科准教授です。本書の題名から経済学史専攻かなとも思いましたが、そうではないようです。本書の内容も、歴史上の施策、政策などを、現代の経済学のタームを使って、改めてなぜ成功したのか、なぜ失敗したのか、なんてことを考察したものです。

お金なんてものが発明されたのは何千年も前のことですが、それがどのようなメカニズムで機能しているか、なんてことに注目されたのは割合と最近のことです。

それだけではなく、歴史の教科書では経済的な事象は割合サラッと書かれていて、深く分析されることは稀です。でも、この施策は成功したとか失敗したとかの結末は結構詳細に描かれていますし、歴史に興味がある方は良くご存知のことでしょう。ですから、経済学的な分析と歴史の顛末を有機的に結合できれば面白いのではないの、なんて発想で書かれたのだと思います。現代の経済の発展に伴って生じた問題だ、と思っても、類似例は歴史の中に見つかるようです。類似例が歴史の中に見つかるってことは、それに伴ってどんな弊害があったか、なんてことも分かるわけです。なるほどね、なかなか面白かったですよ。

 

 

田中 靖浩会計の世界史 イタリア、イギリス、アメリカ――500年の物語』日本経済新聞社

「簿記を勉強している人のほとんどは、簿記がイタリア発祥であることを教わらず、経理担当者は減価償却が鉄道会社から始まったことを知りません。公認会計士や税理士でもディスクロージャーの始まりに「JFK」のお父さん」がかかわっていることを知る人は少ないです」なんだそうです。イタリアの話は知っていましたが、それ以降は知らなかったな、確かに。歴史的展開を知れば、なぜそのような仕組みとかルールが生まれたのかが分かりやすくなるでしょう。専門家でもない私たちは、細かい仕分けの方法より、その背後にある原理原則を覚えておきましょう、ということでしょう。

ところで、本書には面白いエピソードが紹介されていましたのでご紹介しましょう。中世後期のヨーロッパでは、「数字」(アラビア数字)、「言葉」(ラテン語に代わる口語表現)、「時計」、「絵画の遠近法」、「音楽の五線譜」などの新しい知識が発明・紹介されたそうです。これらにより、「空間と時間のさまざまな計算ができるように」なったのだそうです。あらま、同じ時期だったんだ。ま、同じ時期には魔女狩りも最盛期だったとも書いてありますが。

以前『帳簿の世界史なんて本をご紹介したことがあります。その書評に私は「お隣のGDP世界第2位の大国も統計数値が全く信用できないと言われていますが、日本もそう負けていないんじゃないですかね」なんて書きました。最近の報道に鑑みると、確かに負けてないみたいですね。温故知新、何のためにディスクロージャーなんてシステムが存在するのか反省とともに本書を読んでみてはいかがでしょうか。

 

 

ナショナル ジオグラフィック別冊ナショナル ジオグラフィック日本版 2015年12月号 [雑誌]【電子書籍】』日経BPムック

聖母マリアは、聖書にその名が登場することは非常に少なく、具体的な事績が知られているわけではありません。ではありますが、聖母マリアの名は史上最も名を知られた女性であり、世界から敬愛を集めていますなぜなのでしょうか。

キリスト教徒でなくても、処女懐胎のエピソードなどは良く知られていると思います。

本書はムックであり、学術的な著作ではありません。ですから、本書には「世界で目撃された聖母」なんてページもあります。それによると、日本でも何件か聖母マリアの目撃報告があるんだそうです。へー。

 

 

20201

マイケル・ピルズベリー 野中香方子訳『China 2049 秘密裏に遂行される「世界覇権100年戦略」日経BP

著者のピルズベリーさんは「ハドソン研究所中国戦略センター所長。国務省顧問」で、「リチャード・ニクソンからバラク・オバマにいたる政権で対中国の防衛政策を担当」してきた方だそうです。で、中国の専門家として「中国は、わたしたちと同じような考え方の指導者が導いている。脆弱な中国を助けてやれば、中国はやがて民主的で平和的な大国となる。しかし中国は大国となっても、地域支配、ましてや世界支配を目論んだりしない」と固く信じていたのだそうですが、最近になってそれが間違っていたことに気が付いたのだそうです。え、今まで気づかなかったの?

アメリカの中国専門家は「中国語のメッセージを、自分の考えに合うように解釈しがちだ」「私自身…中国が民主化するという話を…信じていた。いや、信じたかったのだ」とピルズベリーさんも反省して書いています。でも、これって『失敗の本質などでも散々書かれてきた間違いの典型的パターンではありませんか。アメリカはこれまで歴史的に大々的な失敗を犯したことはないので気が付かなかったのでしょうか。

とはいえ、ピルズベリーさんも間違いを認め、軌道修正をしています。ちゃんとPDCAサイクルが回っていますね。そもそも反省なぞしないどこぞの国の専門家よりは大分マシか。

それはともかく、本書の題名『2049』の意味は、「過去100年に及ぶ屈辱に復習すべく、中国共産党100周年にあたる2049年までに、世界の経済・政治のリーダーの地位をアメリカから奪取する」という計画を象徴しているのだそうです。100年計画なんですって。で、このままだと中国は覇権国家になるであろう、というのがピルズベリーさんの見立てのようです。臥薪嘗胆。いや、とっても中国的な戦略ですね。

中国は覇権国一直線、ではあるのですが、それが確定的になるまでは、「いや、中国はまだまだ後進国ですから」なんてとぼけているのだそうです。何も謙遜しているのではなく、そんな野望があること悟らせないためなんですって。中国の統計ってのは相当いい加減だと思われています。が、どんな危機的な指標が出ても、なぜか大した事件は起きないんです。私の為替予測でも中国には様々な「致命的な」指標が出ており、危ないんじゃないの、なんて予測していますが、今のところ当たっていません。依然として中国国民をしっかりとグリップしている共産党政府の深謀遠慮に騙されているんでしょうか。

トランプ政権はそれまでの政権とは中国に対する政策の方向転換をしたように思えます。また、製造業における中国の優位(米国製の兵器にも中国製の部品を使わざるを得ない)に対抗する政策提言も国防総省から出されました。

最近も習近平主席は「党は法よりも大きい」なんて本音をポロリと漏らしたしたことがあるそうです。話せば分かる、なんて能天気に構えているととんでもないことになりかねません。日本人も相手を知る努力をしないといけませんね。

 

 

麻生川 静男本当に残酷な中国史 大著「資治通鑑」を読み解く』角川新書

上記『China 2049』において、「資治通鑑」という歴史書は毛沢東など政治家の座右の書であったにもかかわらず、軽んじてきた、とピルズベリーさんは書いています。「資治通鑑」は、「歴史を教訓とする国政の指南書」であり、「その書の核となるのは戦国時代の兵法だが、紀元前4000年まで遡る逸話や格言も収められている」のだそうです。作者として司馬光の名が有名ですが、「資治通鑑は司馬光をリーダーとする数十人の編纂チームが20年近くかけて書いた中国の歴史1500年の大ページェント」であり、その分量も330万文字、1万ページというとんでもない分量の大著だそうです。だもんで、ピルズベリーさんは英訳がない、と書いていますし、麻生川さんも日本現代語の全訳がない、と書いています。麻生川さんは、「足掛け数年かけて資治通鑑という名著を読み終えた」と書いています。数年……。ま、そんなもん私が読めるわけありませんので、解説本でちゃちゃっと済ましておくことにしましょう。

ところで、中国古典(「論語」とか「史記」、「三国志」なんか)は今でも人気があります(三国志なんてゲームにもなっています)。仁や徳を備えた為政者が治める世界、なんてのが強調される「論語」に対して、「資治通鑑」の世界は随分と異なります。ここについて麻生川さんは「現代の中国人は論語の時代と『類』が異なる」としています。『類』が違うというのは、「爬虫類」と「哺乳類」が異なるようなものを意味しているのだそうです。

いささが物騒な物言いですが、その意味するところは、「論語や三国志の時代の中国は漢民族の倫理が支配していた」のですが、その後異民族が流入、次第に力をつけていきました。その結果「中国の徳治や仁義という政治倫理が全く地に落ちてしまった。代わりに、詐術と武術が支配原理になった」のだそうです。そしてそのような行動原理は現在も続いている、ということなのです。身も蓋もない言い方ですが、頷けるものがあります。

本書は資治通鑑の解説本、というよりは麻生川さんが特徴的と思われるエピソード(取り上げられているのは残酷、贅沢、策略の三つ)を紹介する形になっています。これで充分なのかどうかは私には判断しかねますが、資治通鑑の入門編、あるいは『China 2049』の補完として読む分には大変興味深く読むことができました。

 

 

中路 啓太GHQ』文芸春秋

太平洋戦争に敗北した日本はGHQの進駐を受けます。占領側のGHQ(特にマッカーサーをはじめとする上層部)にはさまざまな思惑があったようですし、逆に日本側にも様々な思惑があったようです。占領に関わる国際法にハーグ陸戦条約というものがあり、その第43条において、「国の権力が事実上占領者の手に移った上は、占領者は絶対的な支障がない限り、占領地の現行法律を尊重して、なるべく公共の秩序及び生活を回復確保する為、施せる一切の手段を尽くさなければならない。」なんて条文もあるのですが、ジャイアンGHQはそんなもんは無視して大日本国憲法を改正しろと迫ってきます。GHQは憲法だけではなく大日本帝国を解体して民主主義国家『日本』を作るために、思いっきり日本のあれこれに手を突っ込んできましたからねえ。

ところで、本書の題名になっているGHQ。一般的には連合国最高司令官総司令部の略ですが、吉田茂は「違う。ゴー・ホーム・クイックリー(Go home quickly)だ。『さっさと帰れ』だよ」「総司令部が満足する憲法を早急に作っちまおうじゃないか。彼らはさっさとアメリカに帰ってもらおう。じっくりと時間をかけて良き国の体制を整えるのは、独立を回復してからだ」なんていうエピソードが描かれています。史実かどうか知りませんが。ですが、未だに日本はアメリカの植民地。帰ってくれなかったみたいですねえ。

本書はこのころのあれこれを基にして小説として再構成したものです。歴史小説、もしくはノン・フィクション小説、といったところでしょうか。読み物としても、とても面白かったですよ。

 

 

ジョン・ルイス・ギャディス 村井章子訳『大戦略論』早川書房

本書の題名『大戦略論』(英語では On Grand Strategy)はクラウゼヴィッツの『戦争論』(英語では On War)から採ったものらしいです。何しろ「はじめに」で本人が触れていますから。ま、その他にもOn 何とかって題名の文献はあるみたいですよ。

本はもちろんですが、論文の題名って結構大事なんです。一発でその論文の目指している方向性が分からないといけないからです。著者のギャディスさんはこの題名にすることで、本書はクラウゼヴィッツの系列に属した本なんだぞ、と啖呵を切っているわけです。ま、私のように説明してもらわなきゃ分からないぼんくらもいますので、ご丁寧に「はじめに」で強調したのでしょう。

本書では、大戦略、グランド・ストラテジーの意味を「無限になりうる願望と必ず有限の能力とを釣り合わせることを意味する」としています。なるほど。戦略がどうのこうのというより、人生訓みたいですね。ですから、本書の教える戦略は、何も国家とか軍隊だけが持つものでなく、私たち一人一人が持つべきであり、そして持っておくと役に立つもののようです。戦略ねえ。

本書は他の書評では「戦略論の新たな古典になる」なんて評されています。エピソードの多くは歴史的に有名な事例ばかりなのですが、そこから得られる大戦略に関する教訓が私には今ひとつ分かり難く思いました。大学の講義とセットで聞かなくては分かり難いのか、もしくは私がぼんくらなのかもしれませんが。

 

 

2019年度の書評はこちら