201418

2014年為替相場見通し

  大國亨FP研究所 

為替相場概観

2013年末になり、100円を超えるドル円相場が定着しつつあるように見えます。また、米国は201312月にQE3の縮小を発表しましたが、相場への悪影響は大方の見方を覆して極めて小さく、米国の年末株価は高値を更新して引けました。

このような傾向は少なくとも2014年第1四半期は続くものと予想しています。その後も米国の衰退を確実に感じさせるような出来事が起こらない限り、同じような円安水準での展開がしばらく予想されます。

今年は経済的要因に加え、政治的要因(軍事的なものも含む)が為替相場にも大きな影響を持つものと思われます。政治的イベントの大きさと起こる順番によっては経済的な思惑をはるかに超えた波乱も予想されますので、注意が必要でしょう。

 

予想レンジ

ドル/                90円〜130

ユーロ/             110円〜160

 

 

 

Principal Global Indicators (http://www.principalglobalindicators.org/default.aspx)

 

歴史的類似

昨年の分析でも第1次世界大戦前との類似を指摘いたしましたが、本年度も同じような傾向が続いています。米国はTPPを通じて米国を中心としたブロック経済の確立を目指していますし、中国は領土問題(中国が領土紛争を起こしているのは対日本に限りません)を通じて周辺国家の囲い込みを進めているようです。とりあえず分裂の危機を脱したユーロ圏も、再度の経済的混乱は政治的危機に直結しますので、内向き志向は続くものと思われます。

その結果が簡単に第3次世界大戦に結びつくとは思いたくありませんが、紛争の危険度は2013年に比べると格段に上昇しているように思われます。

 

 

地域別ファクター/分析

日本

アベノミクスへの期待から日本経済にも明るい希望が見え始めたところですが、4月に予定される消費税引き上げは間違いなく景気減速効果があります。また、円安も一部の産業にとっては追い風でしょうが、国民全般に対しては輸入物価の高騰などネガティブな側面が目立ち始めています。追加の景気刺激策、第三の矢などが期待されますが、残念ながら実効性が期待される具体的な政策は提示されていません。

今後も“大胆な金融緩和” が続けられるのでしょうが、米国でもEU圏でも金融緩和そのものには大きな経済効果は期待できず、財政の悪化や悪性のインフレを引き起こしかねないとのコンセンサスが広がっており、各国は非常に慎重にではありますが金融緩和の縮小に向かっています。日本だけ金融緩和を続ける、というのは非現実的でしょう。いつ、どのような方法で方向転換が図られるかが注目されます。

政治的リスクとしては安倍政権の退陣が挙げられます。米国は戦略的に中国との関係を重視する方向へと舵を切っているものと思われます。日本の政治、行政、経済界は従来型の米国追随姿勢を続けようとするのでしょうが、肝心の米国が異なった方向を目指しています。残念ながら米国の方向転換に対応できているとは思えません。TPPなども含め、日本の政治・外交を戦略的に再構築する必要がある大転換期が近づいているように思われます。

 

総務省統計局 - 労働力調査(http://www.stat.go.jp/data/roudou/index.htm

 

 

1世帯当たり平均所得金額の年次推移

厚生労働省平成24年 国民生活基礎調査の概況http://www.mhlw.go.jp/toukei/saikin/hw/k-tyosa/k-tyosa12/index.html

 

中国

米国の意図的な覇権からの撤退による一国覇権主義から他国的覇権主義への過渡期的な動きが加速しているように思われます。まず、中国は周辺諸国へのプレゼンスを強めています。日本の報道からは米国は未だに日本を同盟国とみなしているかのような論調が目立ちますが、防空識別圏騒動のとき訪中したバイデン副大統領が何を言ったかを詳細に検討してみると、米国債の最大保有国である中国に対して非常に気を使っていることが分かります。ただし、実際に中国が米国債を売るようなことをした場合、米国はデフォルト宣言をする可能性が大(その場合、新通貨の制定、大幅なデノミネーションなどが伴うものと思います)です。これは米国にも中国にも好ましい事態であるとはいえません。米中間で直接的な戦闘(戦争)でも起こらない限り採れない政策ですので、可能性としては低いものと思います。

中国は経済政策の巧みな運用により一時的にバブルの崩壊を回避したように思えますが、一方で長期金利が上昇しているとの報道もあります。長期金利の上昇は突発的なバブルの崩壊を引き起こしかねないので避けたいところではありますが、かといって長期金利を無理に抑えればバブルは再燃してしまいます。綱渡りのような経済運営が必要ですが、残念ながら現在の経済政策にはそこまでピンポイントの運営は期待できません。本年度中にも大きな破綻が起きるかもしれません。

また、中国は共産党一党支配の矛盾があちらこちらで拡大しています。極端な貧富の差の拡大、周辺民族に対する圧政、経済優先による環境破壊など、一歩間違えれば革命的な混乱を引き起こす可能性があります。

また、周辺国家である北朝鮮情勢からも目が離せません。一部報道では北朝鮮は3月までに韓国への攻撃を開始すると伝えられています。中国には、北朝鮮に自制を促す、わざと放置する、などいくつかのオプションが考えられます。現在中国の北朝鮮に対するコントロールがうまく効かないといった分析も散見されます。であれば、勝手に攻撃を開始させ、しかる後に韓国や米国とともに事態の収拾、中国にとって好ましい衛星国家の樹立を図る、といったオプションも十分に検討されているはずです。このような解決策は国内治世にとっても有用なはずです。シナリオ通りうまく事が運ぶかどうかは賭けではありますが、中国の現政権にとっては十分に魅力的と映るものと思います。

 

米国

5年ぶりに失業率が7%台に低下したことなどから量的緩和の縮小を市場の混乱もなく実現した米国ですが、懸念材料もいくつかあります。株価などが上昇しているにもかかわらず家計収入の増加がみられないことから、米国経済が量的緩和を打ち切った後も持続可能な成長を続けることができるかどうかには疑問があります。従って、今後の量的緩和縮小のシナリオは確たるものとはなっていません。

また、現在多くの分析で取り上げられている国家の債務残高には州政府や地方政府の債務は含まれていません。また、将来的に負担しなくてはならない公的債務(将来の社会保障や福祉計画に必要とされる債務の不足額、米国ではメディケアやメディケイド、社会保障年金など)なども含まれていません。将来世代へのつけ回しがいつまでも可能であるとは限りません。現状では、昨年末にも話題になった債務上限の問題とは異なる米国政府の本当のデフォルトが起きる可能性は小さいと思われますが、将来的には問題になることが予想されます。

米国はイラク・アフガニスタンから撤兵し、シリアにも深入りしませんでした。今後、アジア地区でも同じようなスタンスの政策が実施されることが予想されています。これは、オバマあるいは民主党政権だから、ということではなく、もう少し大きな米国の意志が感じられます。従って、オバマあるいは民主党政権が共和党政権に替わったとしてもアジアにおける米国のプレゼンスは低下していくものと思われます。それに替わるアジアにおける覇権国家は中国、ということになりますが、その分析はアジア地区の国家の分析をご参照ください。

本年度に地球上のどこかで紛争が起きたとしても、それが米国本土で起こるとは思えません。従って紛争そのものは短期的なドル高要因であると思われますが、米国のプレゼンスの低下は長期的にはドルの下落要因になると思われます。

 

 

United States Unemployment Rate

 

Historical Data Chart

Trading Economicshttp://www.tradingeconomics.com/united-states/unemployment-rate

 

EU

今にも爆発するのではないかと思われていたギリシャ、イタリア、スペインといった国々の債務危機問題も、一応従容状態を保っている一方、ドイツを中心とした諸国が牽引車となって緩やかながらも景気が持ち直してきました。この傾向は2014年も続くものと思われます。また、EU圏は日米とは異なり、あまり大胆だ金融緩和は行われなかった、つまりユーロは乱発行されなかったことかも、為替の上ではユーロ高の要因となりました。2014年はこのユーロ高の影響が経済をけん引しいる諸国に影響が出てきそうです。また、EU域内の失業率は最新の統計である20139月でも12.2%に達しており、ここ12年は大きな減少が見込まれないと予想されています。このことは景気の回復が極めて局地的であり、家計支出を中心とした持続的な景気回復への道のりは遠いことを示しています。

Eurostat Unemployment 2013.png

Eurostat (http://epp.eurostat.ec.europa.eu/statistics_explained/index.php/Unemployment_statistics

 

政治的なリスクとしては、中東・アフリカ諸国への米国のプレゼンスの低下が挙げられます。伝統的に結びつきの強いアフリカ・中東地域での紛争はEU経済に大きな影響があります。米国がこれらの地域におけるプレゼンスを意識的に減少させているのとは対照的に、フランスを筆頭にシリアやマリといった紛争地帯に出兵しています。大きな海洋で外国と隔てられている米国とは異なり、EU諸国とこれらの地域は地続き、もしくは内海である地中海を隔てているだけですので、テロに対する脆弱性があります。

 

ロシア

2012年に復帰したプーチン大統領の強大な指導力のもと、強いロシアの復活を図ってきました。ただし、ここ12年はソチオリンピックを控え、極めて慎重にふるまって来たように思われます。しかし、ソチオリンピックを終えた後はプーチン大統領はフリーハンドを得ることができます。

プーチン大統領はすでにロシア経済発展の方向として東シベリア・極東方面の開発を重点的に行うと宣言しています。極東地域には日本、中国、韓国のいずれもが強い利害と関心を有しています。ロシアがどの国とどのような協力関係を築くかが注目されます。このニュースそのものが為替相場に大きな影響があるとは思いませんが、将来的な経済状況に大きな変化をもたらすでしょうし、長期的には注目すべき問題であるといえるでしょう。

また、ロシアは中東諸国と(元はソ連の共和国であった諸国を挟んでいる場合もありますが)地続きであるとも言えます。ソチ(中東地域からも極めて近い黒海沿岸に位置しています)オリンピックが無事終了すれば、再び実際の活動を開始すると思われます。とくに関係が深かったシリアで紛争が起きているだけに注意が必要でしょう。

 

その他地域

日本に影響が大きい国としては北朝鮮情勢が挙げられるでしょう。上記のとおり、韓国への軍事攻勢をかけるのではないか、などという報道まで出ています。これに対応する中国の姿勢などと絡め、注意が必要でしょう。

現在もあちこちで文字通り火の粉が上がっている中東地域にも注意が必要でしょう。数年前にはもてはやされた“アラブの春”も、実際には何も解決していないことが露わになってしまいました。いつどこで何が起こっても不思議ではないのが現在の中東地域です。

中南米地域も米国への影響という面からも注目されます。コロンビアやメキシコでは麻薬がらみの紛争が多発しています。日本ではほとんど報道されていませんが、Stratforのような情報分析会社のレポートでは頻繁に取り上げられています。それだけ関心が深いのでしょう。この地域での紛争が直接為替相場に影響するということは考えにくいですが、この地域における紛争は米国の内向き姿勢を強化することになるでしょう。

 

 

結論

ほぼ確実と思えるのは、第1四半期までの景気拡大の持続、現在の円安基調の継続ということでしょう。それ以降については上記のように政治的不透明性が極めて高く、実現性の高そうなシナリオが描けないのが現状です。